林業労働力の確保の促進に関する基本方針の変更について(厚生労働省・農林水産省)
2022年10月26日

 林業労働力の確保の促進に関する法律(平成8年法律第45号)第3条第3項の規定に基づき、林業労働力の確保の促進に関する基本方針の全部を令和4年10月5日付けで次のように変更したので、同条第5項の規定に基づき公表する。

  令和4年 10 月 26 日

農林水産大臣 野村 哲郎
厚生労働大臣 加藤 勝信

林業労働力の確保の促進に関する基本方針

はじめに

 「林業労働力の確保の促進に関する法律(平成8年法律第45号)」(以下「労確法」という。)の制定に伴い平成8年に策定した基本方針を平成22年に変更して以降、基本方針に基づく林業労働力の確保の促進に向けた取組等により、林業労働者の雇用管理の改善及び事業の合理化を促進する意欲及び能力を備えた認定事業主(労確法第5条に基づき都道府県の認定を受けた事業主)は増加傾向で推移し、平成22年の1,904者から令和2年には2,234者に増加した。また、通年雇用化や月給制の導入、社会保険等の加入も拡大するとともに、労働災害も減少傾向で推移し、雇用管理の改善が図られてきた。

 林業労働者の人材の確保・育成に関しては、平成15年度から開始した「緑の雇用」事業による取組により、平成22年度から令和3年度末までに1.1万人を超える新規就業者に対する林業に関する知識・技術の習得のための研修を実施し、平成22年の変更の柱であるキャリア形成については、約5千人の現場作業の要となる現場責任者等を育成してきた。また、平成25年度より開始した林業大学校等で学ぶ学生への給付金による支援により、令和2年度までに約1千人を林業への就業につなげてきた。さらに、平成24年度より開始した施業集約化を担う森林施業プランナーの育成支援により約2.5千人を育成してきた。これら人材の確保・育成に向けた取組に加え、路網の整備や高性能林業機械の導入等も進み、木材の国内生産量は、令和2年には平成22年の1.6倍に当たる31,149千㎥に増加するとともに、主間伐ともに生産性が向上(平成22年度:主伐5.00、間伐3.45、令和2年度:主伐6.67、間伐4.35(㎥/人日))し、林業労働者の所得の向上も図られてきた。

 一方、我が国の総人口は平成20年にピークを迎えて減少局面に転じ、令和2年1月には、日本人人口の減少幅(前年同月比)が初めて50万人を超えた。生産年齢人口も減少しており、人手不足や国内市場の縮小など社会経済の活力低下が懸念されている。

 このような中、林業労働者は減少傾向で推移し、特に造林作業を担う労働者の減少が顕著となった。その主な要因として経験や能力が反映されない林業労働者の所得の状況や、他産業と比べて極めて高い水準にある労働災害の発生状況が考えられる。全産業分野において人手不足の傾向が続いている中、これらの改善について、引き続き強力に進めていく必要がある。

 令和3年に入り、新型コロナウイルス感染症の世界的な蔓延を背景に世界的な木材需要の高まりや物流の混乱により、国内への製材品等の輸入量が減少し、木材価格は高騰し、国内の木材需要の高まりが見られる状況となった。加えて、ロシアによるウクライナ侵略を巡る情勢から、世界の木材需要が不安定な要素を有する中、より一層の国産材の安定供給・安定需要の確保に取り組むことを通じて、海外市場の影響を受けにくい木材需給構造を構築することが重要となっている。

 今後の林業労働力確保の施策展開に当たっては、前回の基本方針変更後のこうした成果や情勢変化等を十分に踏まえていく必要がある。

1 林業における経営及び雇用の動向に関する事項

 (1) 森林・林業を取り巻く情勢

 我が国においては、森林が国土の約7割を占めており、世界的に持続可能な森林経営についての関心が高まっている中で、森林・林業の役割に対する国民の期待が高まっている。

 国民が森林に期待する働きとしては、地球温暖化の防止への貢献、山崩れや洪水等の災害の防止、水源の涵(かん)養等多様なものがある。これらの機能を持続的に発揮させていくためには、将来にわたり、森林を適切に整備及び保全していくことが必要である。

 また、我が国の森林の約4割を占める人工林の資源状況をみると、利用可能な森林資源が充実しつつあることから、国産材原木等の安定供給に対する木材産業等の期待の高まりに対して、林業がこれに的確に応え、木材利用による二酸化炭素の排出抑制、炭素貯蔵を通じ、地球環境や人類にとって極めて重要な課題であるパリ協定下における温室効果ガス排出削減目標の達成のみならず、森林の有する多面的機能の発揮を通じ、社会経済生活の向上とカーボンニュートラルに寄与する「グリーン成長」を実現していくことが重要である。

 このような状況において、近年、主伐面積は増加傾向にある一方で、再造林面積は3~4割程度にとどまっている。本格的な利用期を迎えた人工林については、引き続き適切な間伐や主伐後に必要な更新を図ることで、資源として循環利用を図りつつ、多様化する森林に対する国民のニーズを踏まえ、地域の実情に応じて、様々な生育段階や樹種から構成される森林がバランス良く配置された望ましい森林の姿に誘導することが必要である。

 (2) 事業主の現状と課題

 令和2年の農林業センサスによれば、素材生産量の約8割は受託又は立木買いにより行われており、その林業経営体数は約2,700で減少傾向にある。一方で、我が国の素材生産量及び再造林面積は増加していることから、1経営体当たりの素材生産量並びに植付け及び下刈りの面積は増加傾向にあり、また、1億円以上の受託収入のある経営体も増加するなど、事業規模の拡大が進んでいる。

 一方、受託又は立木買いにより素材生産を行った経営体の約4割は年間の素材生産量が1,000㎥未満、受託収入のあった経営体の約2割は受託収入が100万円未満であるなど、小規模・零細な経営体も存在している。

 このため、これらの事業主の経営の安定化、とりわけ事業量の安定的確保が必要であり、施業の集約化が不可欠となっている。

 こうした中、事業主が森林所有者へ施業の集約化や路網と高性能林業機械を組み合わせた低コスト作業システムの導入等の施業提案を行い、生産性の向上を図っている事例や、複数の事業主が連携して需要先に対して定期的に協議を行うことにより、販売単価の上昇につなげる事例も見られ、今後、こうした取組を更に広げていく必要がある。

 また、我が国の私有林の現状を踏まえると、森林所有者情報の把握や境界の明確化が不可欠であり、森林経営管理法(平成30年法律第35号)に基づく森林経営管理制度による森林の経営管理の集積等の取組の推進等により、これらの課題に早急に対応していく必要がある。

 事業主には、森林所有者の合意形成から森林経営計画の作成、伐採、再造林等の施業の実施に至る地域の森林管理の主体としての幅広い役割が期待される。

 (3) 林業労働者の雇用管理の現状と課題

 林業労働者の雇用管理の現状をみると、通年雇用化や月給制導入、社会保険等の加入割合は徐々に増加しているものの、林業労働の季節性や木材需要の変動、事業主の経営基盤の脆弱性から、季節労働者や日雇い労働者の割合も多く、雇用が安定していない状況も少なくない。

 また、林業労働者の年齢構成が平準化しつつある中で、経験や能力に応じた所得配分をしやすい状況であるものの、経験や年齢を重ねても他産業の同年代と比べて所得が低い状況にある。社会保険等への加入についても、雇用が臨時的、間断的であることなどから適用にならない場合もある。このため、他産業並みの所得の確保や雇用管理の改善が課題となっている。

 林業における労働災害は、高性能林業機械の導入や労働安全に対する意識の高まり等により長期的に減少傾向にあるが、全産業平均に比べると依然として極めて高い発生状況にあり、その改善は喫緊の課題である。労働者の安全と健康の確保は事業主の責務であり、労働安全対策の強化や快適な職場環境の形成を一層促進する必要がある。

 また、林業労働者に対して積極的に知識や技術、技能の習得による職業能力の向上を図る機会を与えている事業主は少ない状況であり、教育訓練の充実・強化に取り組むことが重要である。林業労働者に対して必要な教育訓練を行うことは、事業主の責務であり、林業労働者の職業生活を通じた職業の安定、所得の確保及び社会的・経済的地位の向上を図る観点からも重要である。また、次代を担う林業労働者への技能承継の観点からもその重要性、必要性は一層高まっている。

 教育訓練に当たっては、様々な現場や複数の作業内容にも対応できる林業労働者の多能工化の推進が必要である。多能工化は、急激な需給の変化にも柔軟な対応を可能とするほか、作業班等のチームワークの向上、生産性の向上等の効果をもたらし、ひいては事業の継続・拡大、林業労働者の所得の向上、再造林の推進にも資する重要な取組となる。

 さらに、長期にわたり経営し得る権利等と規模を確保し、林業労働者の生活を支える所得の確保と労働環境の向上を図るため、伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」を実現することが重要である。

 (4) 林業労働力の動向

 我が国の林業労働力については、長期的に減少傾向にある中で、近年、利用可能な国内の森林資源の充実に伴う素材生産量の増加に対応して伐採等を担う林業労働者が増加に転じる一方で、再造林・保育を担う林業労働者は大きく減少しており、新たな局面を迎えている。

 新規就業者は「緑の雇用」事業開始以前と比べて増加傾向で推移し、平均年齢は若返り傾向にあるが、近年の有効求人倍率の高まりの中で、新規就業者数は漸減傾向にある。

 就業者の定着状況については、「緑の雇用」事業により就業した者の調査では、就業3年後は約7割と全産業平均と比べても高いものの、就業7年後以降は5割を下回る状況にある。

 林業における女性労働者は、林業の機械化の進展等に伴い、近年一定の割合で新規就業が見られるものの、他産業と比較すると少ない状況にある。

 これらについては、林業への就業において他産業に比べ安定的な雇用や所得が十分に確保されていない場合もあること、安全面や体力面での課題があることなどが影響していると考えられる。

 このような就業に当たっての課題や不安に対応して就業環境を改善し、就業への魅力の向上を図らなければ、林業労働力の減少が更に進行し、将来、森林の適切な管理を通じた地球温暖化の防止、国土の保全、水源の涵(かん)養等の公益的機能の発揮及び木材の安定供給を図っていく上で深刻な影響を及ぼすことが懸念される。

 また、短期雇用の労働力の減少により、造林・保育などの季節性のある労働需要や木材需要の変動への対応が以前より難しい構造となっていることも考えられる。

 このほか、再造林に不可欠な苗木の生産者の育成・確保も併せて図ることが必要である。

2 林業労働力の確保の促進に関する基本的な方向

 「グリーン成長」の実現に向け、主伐後の適切な更新を含め、将来にわたり森林を適切に整備・保全していくため、その担い手となる林業労働力の確保が重要である。その際、木材生産を担う労働者を確保するとともに、特に減少傾向にある再造林・保育を担う労働者の確保に向けた取組を強化することが必要である。

 林業労働力を確保していくためには、前提として、雇用関係の明確化、雇用の安定化、他産業並みの労働条件や労働安全の確保等雇用管理の改善に引き続き努めることが必要である。また、森林資源の成熟化や国民の求める多様な森づくりを背景に、林業労働者には生産性の向上等事業の合理化を図り、安定的な木材供給を支える生産管理能力の向上や「持続可能な森林経営」に関する高度な能力が求められることから、林業労働者が林業に定着し、必要な知識や技術、技能を習得、蓄積していくことが重要である。

 林業への新規就業や定着には、林業労働者が抱える将来の職業生活における不安を取り除き、満足のいく働きがいを持たせる必要がある。そのため、林業における働き方改革の推進や事業主等のコミュニケーションスキルの向上などの働きやすい職場環境を整備するほか、経験等に応じた多様なキャリア形成を支援し、経験年数、期待される役割や責任に応じて、知識・技術・技能、姿勢・態度、業績・成果等を客観的に評価する能力評価を導入し、林業労働者の社会的・経済的地位の向上による処遇改善につなげる取組を推進することが重要である。

 また、林業への新規就業や定着を促す上で、森林資源の循環利用による地域振興はもとより、地球温暖化の防止や国土の保全、水源の涵(かん)養等の公益的機能の発揮への貢献など、林業が果たす役割に対する理解の促進や林業の魅力の発信が重要である。

 雇用管理の改善、とりわけ他産業並みの所得の確保は、事業主の事業の合理化と密接に関連していることから、雇用管理の改善並びに事業量の安定的確保、高性能林業機械等の導入及び林道・森林作業道の整備等による事業の合理化を一体的かつ総合的に促進することが必要である。

 このような雇用管理の改善及び事業の合理化の一体的かつ総合的な推進に当たっては、都道府県知事が地域の実情に応じて指定する林業労働力確保支援センター(以下「支援センター」という。)が中心となり、地域の関係機関と連携して、認定事業主の指導を行うとともに、認定事業主に必要な情報提供、支援を実施する必要がある。また、認定事業主の雇用管理の改善及び事業の合理化を強化する観点から、国の補助事業等においてクロスコンプライアンスの取組を進めるなど効果的に支援措置を実施することが必要である。

 なお、林業労働力の確保の取組を一層推進する観点から、都道府県知事が事業主を認定するに当たっては、雇用管理の改善及び事業の合理化を図ろうとする事業主のほか、新たに造林等の事業を行う会社を興し、又は他業種から林業に参入するため林業労働者を雇用する事業主についても、一定の条件のもとで対象とするなど、弾力的に対応することが必要である。その他、地域の森林整備の担い手として、自伐型林業や特定地域づくり事業協同組合の枠組みの活用など、林業労働者の裾野の拡大につながる動きも見られ、こうした動きを促進する観点からも事業主への安全、技術、経営、雇用に関する指導等を適切に行う必要がある。

 また、近年の働き方に対する意識の変化や新型コロナウイルス感染症拡大による地方移住への関心の高まりが見られる中で、雇用の受け皿としての林業への期待が高まっており、その期待に応えることが求められている。

3 事業主が一体的に行う雇用管理の改善及び事業の合理化を促進するための措置並びに新たに林業に就業しようとする者の就業の円滑化のための措置に関する事項

 事業主が一体的に行う雇用管理の改善及び事業の合理化を促進するための措置並びに新たに林業に就業しようとする者の就業の円滑化のための措置の実施に当たっては、認定事業主を中心に支援センターの活動を通じて、雇用管理の改善及び事業の合理化を一体的に促進することが必要である。

 林業労働者に対する教育訓練の実施は、満足のいく働きがいを与え、林業への定着につながることから、各支援センター等が行う教育訓練制度、各種研修及びキャリアコンサルティングに対して支援していくことが必要である。また、雇用管理者及び事業主を対象とした雇用管理改善研修、事業の合理化に係る相談等への対応といった伴走支援の取組を支援センターが中心となって他の機関とも連携しつつ強化していくことが必要である。

 事業量の安定確保や機械化等による事業の合理化は、経営規模の脆弱な事業主個々の取組には限界があること、雇用管理の改善は複数の事業主で行う方が効果的な場合も多いことから、個々の事業主の取組に加え、複数の事業主による共同化、協業化等を通じた経営基盤と経営力の強化等のための取組を支援していくことが必要である。森林組合については、森林組合法の令和2年法律第35号による改正措置を活用した事業連携を促進し、経営基盤を強化する必要がある。

 (1) 事業主が一体的に行う雇用管理の改善及び事業の合理化を促進するための措置

  ア 雇用管理の改善を促進するための措置

   (ア) 雇用管理体制の充実

 事業所における雇用管理体制の確立を図るため、事業主を対象とした雇用管理研修やコンサルティング等を促進する。

 また、常時5人以上の林業労働者を雇用する事業所においては、雇用管理者の選任に努めるよう普及啓発を促進するとともに、選任された雇用管理者の資質の向上を図るための研修の受講を促進する。

   (イ) 雇用関係の明確化

 労働者の将来設計を可能にするには、労働者と明確な雇用契約を結び、直接雇用を進めることが必要であり、雇用関係の明確化に向けた取組を進めることが必要である。

 このため、雇入時に事業主の氏名又は名称、雇用期間等を記した雇入通知書の交付につき指導の徹底を図る。

 また、いわゆる「一人親方」との契約については、形式的に個人事業主であっても実態が雇用労働者である場合には、労働関係法令の適用があることについて、引き続き周知・啓発を図るとともに、是正に向けた指導の徹底を図るなど、関係機関との連携を図りながら効果的な対応を推進する。

   (ウ) 雇用の安定化

 林業労働者の雇用の安定化を図るためには、能力に応じた所得を確保するとともに、職業生活に対する不安を取り除き安心して働ける雇用環境へ改善することが必要である。

 このため、事業量の安定的確保と相まって、通年雇用化や月給制導入に努めるよう啓発を促進する。

   (エ) 労働条件の改善

 労働条件の改善に当たっては、相当程度の事業量の確保と高い生産性による収益性の向上のほか、キャリア形成の支援、多能工化の推進、能力評価の導入等を通じた、他産業並みの所得の確保が重要である。

 また、労働者の心身の健康の保持はもとより、ワーク・ライフ・バランスの推進や若年者等の入職及び定着の促進の観点から、ハラスメント防止対策の徹底、労働時間や休日数等の労働条件の改善が重要である。

 このため、事業主に対する雇用管理情報の提供、啓発に努め、林業における働き方改革の推進や週休制の導入等を促進する。

 その際、就業規則の作成義務がない小規模の事業所でも、事業主と労働者が共同してルールを作成し共有することが有効であることから、就業規則の作成を促進する。

 また、法令で定められた社会保険等への加入のほか、林業退職金共済制度等の中小企業退職金共済制度への加入など福利厚生の充実等を促進することとし、一人親方に対しても労災保険特別加入制度や林業退職金共済制度への加入について周知・啓発を図るなど、労働条件の改善が図られるよう一層の啓発・指導を推進する。

 さらに、政府調達の対象企業の賃上げを促す取組を行うなど、林業労働者の処遇改善を促進する。

   (オ) 労働安全の確保

 全産業平均と比べ極めて高い労働災害の発生状況を改善するため、労働安全衛生関係法令や「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」等に基づく遵守事項の徹底を図ることが重要であり、近年の労働災害の発生状況を踏まえた、経験や年齢に応じた安全作業に資する研修や安全意識の啓発を促進し、労働災害の発生頻度が高い小規模な事業主等の安全対策を強化する。

 あわせて、伐倒技術の向上につながる技能検定制度の導入、労働安全に資する装備・装置等の普及の取組を促進するとともに、高性能林業機械の導入等による振動機械の操作時間の短縮や労働強度の軽減等を図る。また、遠隔操作・自動操作機械の開発、携帯電話が通じない森林内であっても労働災害発生時に即時の救助要請が可能となる通信手段の活用により緊急時の連絡体制の確保を図る。

 また、熱中症の予防や蜂刺され災害の防止等の取組を推進するとともに、林道等整備によるアクセスの改善、休憩施設の整備等による労働負荷の軽減及び職場環境の改善を図り、快適な職場環境の形成を促進する。

   (カ) 募集・採用の改善

 求人に当たっては、的確な求人条件の設定等による効果的な募集活動の実施に努めるとともに、求職者へのアピール度を高めるため、支援センターによる委託募集の活用及び合同求人説明会への参加を促進する。なお、必要な労働者の確保を達成するためには、効果的な募集活動と他の雇用管理の改善を併せて行うことが重要である。

   (キ) 教育訓練の充実

 日常の業務を通じて必要な知識や技術、技能を身につけさせる教育訓練(OJT)及び日常の業務から離れて講義を受ける等により必要な知識や技術、技能を身につけさせる教育訓練(OFF-JT)の計画的な実施に努めるよう啓発を促進する。なお、このような措置を講じるに際しても、個別の事業主のみではカリキュラムの策定等ノウハウの面で困難な場合もあることから、支援センター等によりカリキュラムの策定や共同教育訓練の実施、習得された知識や技術、技能の習熟度合いに関する相談及び指導を行うことが重要である。

 また、近年の高性能林業機械の普及による作業システムの変化やICT等の新たな技術の進展、労働安全衛生関係法令の見直し、自然環境に配慮した施業への対応など、林業労働者に求められる知識や技能も変化しており、就業後一定の経験を有する熟練した林業労働者に対する学び直しの機会の充実を図ることも重要である。

 その他、林業大学校等において林業への就業を目指す学生等への支援等により段階的かつ体系的な人材育成の取組を推進する。

   (ク) 女性労働者等の活躍・定着の促進

 女性の活躍推進は林業現場に多様な価値観や創意工夫をもたらし、林業全体の活力につながると考えられることから、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号)を踏まえた一般事業主行動計画策定や「えるぼし認定」等の取組を促進する。

 また、多様な人材が林業への入職を選択し、働き続けられるよう、就業者と就業に関心を有する者との交流機会の創出、作業方法や安全対策の配慮、トイレや更衣室の整備、ハラスメント防止対策の徹底等による職場環境の改善を促進するとともに、それぞれが目指すワーク・ライフ・バランスを後押しできるような就労環境の整備を促進する。

   (ケ) 高年齢労働者の活躍の促進

 技能の継承を円滑に進めるためにも、高度な熟練労働者である高年齢者の活躍が不可欠である。

 このため、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)における定年の引上げや継続雇用制度導入等による65歳までの高年齢者雇用確保措置の義務化及び70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務化を踏まえ、これらの制度が適正に運用されるよう周知指導等を行う。

 高年齢労働者の特性や健康、体力等に対応した就労環境の整備を図るため、作業方法の見直し、適正な配置、柔軟な勤務形態、安全衛生対策等の適切な雇用管理が行われるよう、啓発・指導を推進する。

   (コ) 林業分野における障害者雇用の促進

 林業分野における障害者の雇用は、障害者の生きがいの創出や就労機会の拡大、社会参画の実現につながるものであり、造林作業のほか山林種苗生産などの分野での取組が見られる。林業分野においても、事業主による仕事の切り出しの工夫や適切な合理的配慮の提供等、障害者雇用に係る必要事項に関して、周知・啓発を促進し、障害者雇用の一層の推進を図る。特に、林業分野においては、安全面や体力面等の課題や懸念があることから、障害特性等を踏まえた適切な業務配置、作業方法の見直し、柔軟な勤務形態、安全衛生対策等について、事業主の責任として適正な雇用管理を行う。

   (サ) その他の雇用管理の改善

 事業主による雇用管理の改善の取組を促進する観点から、支援センターによる認定事業主の雇用管理改善の状況の定期的な点検、林業における働き方改革の推進に向けた適切な助言・指導等の取組を促進する。

 また、請負事業が多い林業においては、安全対策の実施や社会保険等への適正な加入など労働安全衛生関係法令等の遵守に不可欠な経費をはじめとする労務関係諸経費の確保、原材料やエネルギーのコスト上昇分の適切な価格転嫁、適切な工期の設定等を推進する。

 特に、予定価格の適切な設定、施工時期等の平準化、林業労働者への適正な賃金支払い、労働時間の短縮等の労働条件の改善に資する事業の発注を推進する。

  イ 事業の合理化を促進するための措置

   (ア) 事業量の安定的確保

 事業主が事業の合理化を進めるためには、事業量の安定的確保を図ることが必要である。しかしながら、我が国の私有林の小規模・零細な所有規模では、個々の森林所有者等が単独で効率的な施業を実施することは困難であるため、施業の集約化を推進することが必要である。

 このため、施業意欲が低下している森林所有者等に対し施業の方針や事業を実施した場合の収支を明らかにしたデータなどを提示しつつ、事業主が積極的に森林施業の実施を働きかけ、収益や生産性に配慮した効率的な施業を実施することができる森林施業プランナー等の人材の育成を促進する。さらに森林経営管理制度による経営管理実施権の設定を活用する等、事業主は長期的視点をもって経営力の強化に取り組む。

 また、国有林野事業は、事業主の経営の安定化及び林業労働者の雇用の安定化に資する観点から、計画的、安定的な事業の発注及び樹木採取権制度の推進に努める。

 なお、事業量の安定的確保に当たっては、その前提として、林業労働力の確保の促進に関する法律とともに、林業経営基盤の強化等の促進のための資金の融通に関する暫定措置法(昭和54年法律第51号)及び木材の安定供給の確保に関する特別措置法(平成8年法律第47号)に基づき、川上から川下に至る安定的な木材の供給体制を構築するとともに、木材の需要拡大を図り、林業・木材産業の活性化に努める。

   (イ) 生産性の向上

 生産性の向上を図るためには、高性能林業機械等の導入による森林施業の機械化が不可欠である。また、高性能林業機械等の導入は、労働強度の軽減や労働安全衛生の確保、さらには林業への若者や女性の参画にも資するものである。

 このため、リース・レンタル体制の整備等も含めて高性能林業機械等の導入を図るとともに、我が国の地形、経営規模等に一層適応した高性能林業機械の開発及び改良を促進する。また、地域に適した作業システムの普及定着、林道等の生産基盤の整備等を促進するとともに、作業システムの整備に必要な人材の育成に向けた取組や日報の活用による作業システムの改善を推進する。

 さらに、事業量の変動への対応や業務負担の平準化等に資する、造林・保育・伐採等の複数の異なる作業や工程に対応できる多能工化を推進する。

   (ウ) 「新しい林業」の実現に向けた対応

 伐採から再造林・保育に至る収支のプラス転換を可能とする「新しい林業」を実現するため、エリートツリー等の植栽、伐採と造林の一貫作業等の新たな造林技術に関する知識を持つ造林手や、レーザ測量・GNSS等を活用した高度な森林資源情報等の把握・活用、ICTを活用した生産流通管理等の効率化といったスマート林業等の技術の活用に必要な知識や技術、技能を持つデジタル人材の育成を推進する。また、相当程度の事業量及び高い生産性・収益性を有することで、地域における他産業並みの所得の確保及び労働環境を確保し、「長期にわたる持続的な経営」を実現できる事業主の育成を推進する。

 さらに、林業作業の省力化・軽労化、労働安全の確保につながる遠隔操作・自動操作機械等の開発・普及を推進する。

   (エ) 林業労働者のキャリアに応じた技能の向上

 林業労働者の育成・確保に重要な役割を果たしている「緑の雇用」事業等により、新規就業者に森林の多面的機能や森林の整備・保全の重要性等を理解させるとともに、安全な作業方法が習得できるよう、林業就業に必要な基本的な知識や技術、技能の習得に関する研修を促進する。

 また、一定程度の経験を有する林業労働者を対象に、現場管理責任者への教育訓練として、作業システム、森林作業道等の作設、生産管理等の生産性の向上や現場作業の安全管理に必要な知識や技術、技能のほか、新規就業者への指導能力の向上を図る。

 さらに、複数の現場管理責任者を統括する者への教育訓練として、複数の現場間や関係者との調整による生産性・安全性の向上等に必要な知識や技術、技能の習得を促進する。

 これら現場技能に関する教育訓練のほか、事業量の確保等による事業の合理化を図るため、森林施業の集約化等を担う森林施業プランナーや木材の有利販売等を担う森林経営プランナーの育成を促進する。

 このような段階的かつ体系的な教育訓練を通じ、林業労働者のキャリアに応じた知識や技術、技能の向上を図り、事業の合理化と能力に応じた所得の確保を促進する。

 「緑の雇用」事業等の研修を修了した者の登録制度や森林施業プランナー等の認定及び技能検定制度による技能士の取得については、林業労働者自らの目標になるとともに、事業主にとっては林業労働者の能力評価にも資することから、事業主が待遇の改善等と一体的に取り組めるよう、着実な運用・導入に努める。また、林業労働者の職業能力が広く社会一般において適正に評価されるよう、その仕組みの活用等を図ることにより、職業能力の見える化を推進する。

 (2) 新たに林業に就業しようとする者の就業の円滑化のための措置

 事業主等への支援として、新たに林業に就業しようとする者等に、研修、移転等の就業準備に要する資金である林業就業促進資金を貸し付けるとともに、林業及び林業労働についての啓発、雇用情報の提供体制の整備、支援センターが行う委託募集の効果的活用、就業に必要な林業技術等に関する研修の実施等の就業に至るまでの一連の支援措置を促進する。

 また、就業希望者を確実な就業や定着につなげるため、「緑の雇用」事業等による就業希望者へのガイダンスや現場訪問先との連絡調整、トライアル雇用等の取組を推進するとともに、地方公共団体が行う住宅、教育及び医療等への支援に関する情報の提供を促進するなど、定住への取組との連携を図る。

4 その他林業労働力の確保の促進に関する重要事項

 (1) 林業労働力の確保の促進に関する基本計画策定における関係者の意見の聴取

 都道府県知事は、林業労働力の確保の促進に関する基本計画を策定するに当たり、地域の林業労働力の状況及び問題点に的確に対処するため、地域の林業や林業労働に関する各方面の関係者からの意見を聴取するよう努める。

 (2) 支援センターの業務運営

 支援センターの業務の運営に当たっては、その円滑な運営が図られるとともに、事業主に対する指導等の支援が効果的に実施できるよう、国、都道府県はもとより、市町村、森林組合等の関係機関の連携強化を図る。

 また、都道府県知事が支援センターを指定するに当たっては、流域管理システムの推進及び利用者の利便性の確保の観点から、効果的な事業運営が確保できるよう配慮する。

 (3) 林業研究グループや教育機関等による支援の促進

 林業経営を担うべき人材を育成・確保するため、林業事業体の経営者や地域のリーダーとなり得る森林所有者等で組織する林業研究グループ等が、森林・林業関係学科の高校生や大学生、新規参入者等に対して行う就業体験・林業経営指導、地域社会への定着促進活動及び地域の事業主に対して行う交流活動等への支援を推進する。また、高度な林業技術を有する大学をはじめとする教育機関等が事業主や林業労働者に対して行う学習機会の提供や現地での指導等への支援を通じて、技術の一層の高度化を促進する。

 (4)地域課題に対応した林業への新規参入・起業の促進等による多様な担い手の確保

 近年の地域における林業労働力の確保は、従来の事業主による労働力の確保に加え、製材工場や木材市場等による林業への新規参入や林業事業体で一定の経験を持つ林業労働者による起業のほか、地域の林業経営の担い手の一つとして注目される自伐型林業や特定地域づくり事業協同組合の枠組みを活用した取組、地域間の連携等による林業労働力の確保の動きが見られる。

 これらの動きは、再造林の推進等の地域課題、また、林業労働者の裾野の拡大によって事業量の変動にも対応した林業労働力の確保や地域林業の活性化につながるものであり、林業労働者の雇用環境や職業能力開発、安全と健康の確保等に配慮しつつ、地域における課題に対応した多様な担い手の確保に向けた取組を促進する。

 (5) 建設業等異業種との連携促進

 森林組合、素材生産業者等の事業主と建設業等の事業主が連携しながら、林業の生産基盤である路網整備、建設工事における木材利用、地域材を活用した住宅づくりや脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律(平成22年法律第36号)を踏まえた都市等における木材利用も含め、用途開拓や需要拡大等の取組を進めることは、事業量の確保や雇用の創出につながることから、地域の林業と建設業等異業種とが連携した取組を、労働者の職業能力開発、安全と健康の確保等に配慮しつつ、積極的に推進する。

 (6) 山村地域の活性化及び定住条件の整備

 多様な就業機会の確保を通じた山村地域の活性化を図るため、基幹的産業である林業・木材産業の振興、木質バイオマス、きのこ、木炭、薪、竹、漆等の特用林産物、広葉樹、ジビエなどの地域資源を活用した産業の育成、加えて、健康・観光・教育など様々な分野で森林空間を活用する森林サービス産業の推進等に努める。

 また、新規参入者等の山村地域への定着を図るため、山村地域における定住条件の整備、特に、林業における魅力ある職場づくりに加えて居住環境の整備に努める。

 (7) 森林・林業や山村に対する国民の理解の促進

 森林に対する国民の関心が高まりを見せている中、各地で森林の整備・保全活動を行う団体が増加している。このような取組の促進を通じて森林資源の循環利用、森林の整備・保全活動についての国民の理解の向上に努める。

 また、広報活動、学校教育等あらゆる機会を通じ、森林・林業や山村が国民生活の維持向上に果たしている多面的な役割及びこれらの役割を支えている林業労働の重要性、林業の魅力について国民の関心及び理解を深める。

 特に、山村地域は、森林等の豊富な自然、美しい景観、都市部にない伝統・文化やコミュニティ機能など特有の魅力を有しており、国民の価値観・ライフスタイルの多様化に応える観点からも、情報発信を推進し、山村と都市との交流や山村への定住の促進の強化に努める。

 その他、森林・林業や山村に対する理解を深める観点から、山村地域やその住民と継続的に関わる「関係人口」を拡大させていくことも効果的である。

 (8) 外国人材の適正な受入れ

 技術移転を通じた開発途上国への国際協力を目的とした技能実習制度に基づく技能実習生等の林業分野で働く外国人労働者は、他産業に比較して少ない状況にあるが、現在、業界団体において、技能実習2号移行対象職種追加に向けた取組が行われている。

 技能実習生の受入れに当たっては、労働力の需給の調整の手段として行われてはならず、技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護が図られるよう、技能実習生を受け入れる事業主(実習実施者)が外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)及び労働基準法(昭和22年法律第49号)等の関係法令を遵守するとともに、適正な雇用契約、就業環境整備を行うよう、外国人技能実習機構等の関係機関と連携して周知、指導を徹底する。

 また、特定技能制度の活用については、雇用管理改善や事業の合理化による生産性の向上や国内人材の確保を引き続き強力に推進し、国内人材の処遇の改善状況や労働安全面の改善状況、受入れの要件となる関係法令の遵守等を踏まえて検討する。