研究成果報告 高齢者雇用の現状と課題:
第33回労働政策フォーラム

いくつになっても働ける社会の実現を目指して
—高齢者雇用の現在と今後—
(2008年6月2日)

藤井 宏一 JILPT統括研究員

1.継続雇用は企業の対応状況にバラツキ
―量的な面は進展、制度内容や雇用形態・雇用期間など条件面で課題―
(企業調査の結果より)

2006年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行されたが、企業では高年齢者の継続雇用についてどのような対策を行っているのか。JILPTでは、改正法の施行半年後の2006年10月、全国の従業員300人以上の民間企業を対象に、アンケート調査「高年齢者の継続雇用の実態に関する調査」を行った。

その結果、多くの企業で、定年年齢の引き上げよりも、定年到達後の再雇用制度を導入する形で60歳以上の雇用確保を図っていることがわかった。実際に継続雇用している人の割合は、60歳に到達した社員の7割、9割という企業もあれば、それより低い割合の企業もあり、かなりバラツキがある。継続雇用に関する希望を確認する年齢について尋ねると、7割が59歳時点と回答しており、60歳になる直前になって制度の説明をしたり希望の確認をとったりしている企業が多いことがわかった。

藤井 宏一統括研究員

継続雇用を希望する者全員に対して継続雇用制度を適用しているという企業は4分の1程度にとどまる。7割以上の企業で、対象者についての何らかの基準を設けていた。基準の内容は多くの場合、健康上の問題、働く意思・意欲があるか、出勤率・勤務態度、業績評価などとなっているが、中には「会社が特に必要と認めた者」などあまり明確でない基準も3割程度ある。継続雇用を希望した者を実際にどのくらい雇用しているかを見てみると、実は割合はかなり高い。「ほぼ全員」、「7~9割」を合わせて、希望者の7割以上を雇っているという企業は8割にのぼる。

ただ、雇用形態、勤務形態や雇用期間は、後述するように高年齢社員の希望と企業のニーズに差があるようだ。嘱託・契約社員で働いている割合が圧倒的に多く、正社員は1割程度にとどまっている。雇用契約期間も「1年」という企業が8割以上であった。一方、勤務形態はフルタイムが9割弱、仕事の内容も今までと同じような仕事をしているのが9割となっている。格付けに関しても、定年時の格付けを継続しているのは1割強に過ぎず、定年後は格付け制度の対象外としているところが6割となっている。

それでは賃金水準はどうなっているかというと、定年到達時の年収の6~7割という回答が4割、半分程度というところも2割と、かなり下がってしまう。ここでいう年収には年金なども含まれているため、賃金の水準はさらに下がる。

継続雇用者の賃金水準は、何を基準に決められているのか。定年時の賃金を基準に決めているという回答が半数近くあるが、片方で、高年齢雇用継続給付とか在職老齢年金といった公的給付の状況も加味しながら決めている。実際、年収に占める公的給付の割合について聞いた結果、2割以上との回答が多い。

こうした状況の中で、高年齢者の能力をどのように活かすかということが重要になる。50歳以上の高年齢者の雇用に関する課題は何かを聞いてみると、改正法の対応を改正前から準備していた企業と、改正後に対応している企業では、実施にあたっての困難さが違うようだ。「高年齢社員の担当する仕事を確保するのが難しい」、「管理職の扱いが難しい」、「継続雇用後の処遇の決定が難しい」、「高年齢社員を活用するノウハウの蓄積がない」などは、改正後に対応している企業で困難と感じている割合が高い。その一方で、「とくに課題はない」とする回答は、改正前から対応していた企業のが3割に対して、改正後に対応している企業では15%程度にとどまる。

50歳以上の高年齢社員の処遇に関して、役職定年制や体力・健康への配慮といったものは実施している割合が高い。高年齢社員に適した仕事の開発などは、実施している割合は非常に少ないものの問題意識はあるようで、検討中とするところが3割程度あった。

高年齢社員とその活用については、「能力や体力に個人差が大きい」と考える企業が多い一方、「高い技能・技術や豊富な知識を持っている」、「技能・技術・ノウハウの継承のため不可欠な存在である」と考える企業も多い。つまり、能力は買っているが、人によってバラツキが大きいため、対応できている企業とそうでない企業があるようだ。

2.「正社員を希望するが、現実は契約社員・嘱託、賃金も希望より下がる見通し」
(従業員調査の結果より)

それでは高年齢社員はどのように考えているのか。JILPTでは2007年2月、全国の従業員規模300人以上の民間企業5000社に勤務する57~59歳の正社員を対象に、アンケート調査「60歳以降の継続雇用と職業生活に関する調査」を実施した。

会社から継続雇用にあたって説明を聞いたのはいつか。59歳のときに最も多く説明を受けているようである。といっても、きちんと全部説明を受けていない。雇用契約期間や就業形態などの基本的な事項でさえ説明を受けた人は半数くらいで、仕事の内容、公的給付の受給見通し、企業年金の受給見通しなどに関しては3割、2割にとどまっている。

継続雇用制度についての高年齢社員の希望・見通しは、会社側のニーズと大きなギャップがある。まず雇用形態については、希望としては今まで通り正社員として働きたいのに、現実に可能性が高いとみているのは契約社員・嘱託である。勤務形態はフルタイムを希望する者が最も多いが、実はフルタイム以外の柔軟な働き方も4割程度が希望している。しかし、フルタイム以外の働き方となる可能性があるとしているのは4分の1程度しかない。ただ、仕事の内容と場所については、従業員側も会社側も今までと同じ内容が多くなっている。

ここで問題なのは、賃金がかなり下がるということだ。従業員側では、定年前の年収の6~7割を確保したい人が非常に多い。ところが、現実には年収の6~7割、4~5割になるとみており、中には3割程度以下という人も10%いる。

高年齢社員がどんな労務管理を望みたいかを尋ねると、賃金を上げてほしいという回答が最も多い。これまで培った技能・技術・ノウハウを活かせるような継続雇用をしてほしいという声も多く、仕事内容にこだわりがあるようだ。また、希望者全委員が継続雇用されるようにしてほしいというニーズも高い。この辺のところが実現できるかどうかは、高年齢社員の就業意欲や転職志向にも影響するだろう。

定年後も仕事を続けたい人が4分の3いる一方で、もう働きたくない人が1割いる。働きたくない理由をみると、ボランティアなど社会活動に参加したい、健康がすぐれない、親などの介護があるといったものが多く、年金がもらえるからといった金銭的な理由は非常に少ない。いつまで働くかを聞くと、60歳代前半までという人は半分で、60歳代後半以降も働きたい人が4割と、かなり多い。60歳代後半以降の働き方をどう考えていくかが今後の課題ではないか。

3.研究からの示唆

高齢者の就業実態について、厚生労働省が1980~2004年にわたり長期的な調査(「高年齢者就業実態調査」)を行っている。この調査を用いて、就業に影響を与える要因はなにか、それがどう変わってきているかを分析した。まず、賃金率や年金額に対する就業率の弾力性を考えてみたい。高い賃金が得られることが見込まれれば働きたいと思う一方で、年金がもらえることが就業にマイナスに影響する。ただ、年金のマイナス効果は、80年ごろと比べるとマイナスの度合いが小さくなっている。これは在職老齢年金制度を含め、年金制度の見直しが図られてきていることを反映したものと思われる。定年退職制度の影響について考えてみると、定年経験による就業率へのマイナス効果が大きいという結果が出ている。しかし、このマイナス効果も以前に比べると小さくなってきている。定年後の再雇用制度などの導入により、定年後の雇用促進が進んできていることが背景にあるだろう。なお、健康であれば就業に参加したいとする傾向ははっきり出ている。加齢効果としては、60歳代後半になると就業率が低くなる。

この分析結果で意外だった点は、企業規模別にみた就業率である。55歳時に1000人以上の大規模企業・官公庁か99人以下の小規模企業にいた人のほうが、100~999人規模の中規模企業にいた人に比べて就業している割合が高かった。これは、中規模企業でうまく再就職できていないという見方もでき、今後調べる必要があるのではないかと思っている。

JILPTが団塊の世代を対象(本調査では昭和22~26年生まれを対象)に2006年10月に実施したアンケート調査「「団塊の世代」の就業と生活のビジョンに関する」調査からも、興味深い結果が出ている。まず、リストラがあったという会社に勤めている人は、60歳定年以降の就業希望も少なく、就業の可能性も低いとみていることがわかった。人事制度において従業員の意欲を阻害するようなものがあると、定年以降の就業希望も委縮してしまう。会社も心理面を含めた人事管理をしていく必要があるのではないか。もうひとつ、今までと同じような仕事をしたいという人は就業意欲も就業可能性も高いという結果が出ている。職務上の特性としても、スペシャリストとか職人タイプといった高い職務能力をもった人は、60歳以降も働けるとみている。つまり、これまでの経験・知識を活かせるような仕組みと、能力を培っていくような場が与えられることが大切なのではないか。また、法改正により就業意識に変化があった人やきちんと生活設計を立てている人、年金を受給している人は、60歳以降も働けると考えている人が多かった。このような結果から、60歳以前の働き方の状況が就業決定に大きく影響していることがわかる。つまり、生涯を見据えながら仕事のあり方を考えていくことが、60歳以降の就業促進に実はつながっているということが明らかになったといえる。

また、JILPTの別の調査で先にご報告した「従業員調査」を用いた分析からは、労働条件や働き方について、希望がかなわないと継続して働きたくないとする傾向も出ている。たとえば正社員以外の就業形態を希望していた、あるいはフルタイム以外の仕事を希望していたのに、希望がかなわない場合、現在の会社で継続して働きたいという希望が低くなっている。つまり、従業員自身の意識と要件が一致しないとかえって継続雇用のマイナスになってしまう可能性もあるということだ。高齢者の就業決定には、年金や定年制度などの制度要因の影響が大きいが、従業員自身の意識と就業能力も影響している。企業の人事労務管理のあり方も重要だ。たとえば、賃金・年収が大幅に低下する場合や賃金・年収以外の就業条件が希望と一致しない場合に継続雇用の希望に影響を及ぼすなど、継続雇用の質的側面に課題が残る。最後に、先ほども触れたように、60歳までにどのように働いてきたか、企業・労働者の双方がどのように対応してきたかということが高齢者の就業決定に影響を与えているだろう。

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