研究報告 時間外労働の上限規制への対応──運輸業の事例
- 講演者
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- 前浦 穂高
- 長野大学 地域経営学部 准教授/元 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
- フォーラム名
- 第145回労働政策フォーラム「物流における労働問題を考える─トラック業界の人手不足等を中心に─」(2026年5月22日-29日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2026年8・9月号より転載(2026年7月27日 掲載)
はじめに
今回の報告の内容は、2025年に私が執筆した労働政策レポートをもとにしています。まず、なぜこういった調査を行ったか、その問題意識を説明します。
2024年から時間外労働の上限規制が適用、改善基準告示も改正
2019年に、働き方改革関連法の一環で改正された労働基準法により、労働時間に関する規制が強化されました。自動車運転業務に従事する労働者に対しては、5年の猶予期間を経て、2024年4月から、時間外労働の上限規制が適用されることになりました。
また、これに伴い、改善基準告示も改正されました。改善基準告示では、例えば、休憩時間をどのくらい取る必要があるのか、休日や休息時間はどれくらいの時間が必要なのかなど、細かいルールが決められています。この報告のなかで、私が「労働時間規制」という言葉を使った時は、2019年に改正された労働基準法と改善基準告示も含めたものであると考えていただければと思います。
脳・心臓疾患の支給決定件数が比較的多い運輸業界
改善基準告示をめぐる議論は、審議会で検討されたわけですが、その際には、自動車運転業務に従事する労働者の働く現状が考慮されて議論が進められました。シート1の図1は、労災補償状況のうち、脳・心臓疾患の支給決定件数の推移を示しています。過労死はいろいろな病気によって引き起こされますが、そのうち脳・心臓疾患に関わる件数が図1に示されています。青い棒グラフが産業計の数値、オレンジ色の棒グラフが運輸業・郵便業の件数になりますが、運輸業・郵便業の支給決定件数、つまり過労死で亡くなるなどの件数は多いと言えます。
同じくシート1の図2は、有効求人倍率を示しています。有効求人倍率は、求職者1人に対してどのくらいの仕事があるかという数値で、数値が高いほど求人が多いということになります。実線の折れ線グラフが職業計の数値、いわゆる平均値で、点線の折れ線グラフが自動車運転業務に従事する職業の数値になります。2つの推移をみると、自動車運転業務に従事する労働者は職業計の2倍くらいの数値になっていることがわかります。つまり、それだけ自動車運転の業務に対しては求人が多い、言い方を変えれば、それだけ人が足りていないという状況になります。
なお、図1を再度みると、運輸業・郵便業の脳・心臓疾患の支給決定件数は、コロナ禍だった2020年から2023年ぐらいまでの時期とそれ以前の時期を比較しても、件数はあまり変わっていません。また、データを示していませんが、トラック運転者なども含む、道路貨物運送業は、業種別にみても常に支給決定件数が最も多いという状況が、コロナ前から続いています。
労働時間も全産業平均より長い状況に
シート2の図3は、平均労働時間の推移を、図4は、平均所定外労働時間の推移をそれぞれ示しています。いずれの図も、棒グラフは左側から「全産業」「大型トラック運転者」「中小型トラック運転者」「バス運転者」「タクシー運転者」となっていますが、自動車運転業務に従事する人たちの労働時間は長いことが見て取れます。
ここまでみると、自動車運転業務に従事する労働者が働く環境は、人が足りない、過労死が多い、労働時間が長いなど、あまり良くないということがわかります。労働時間規制を強化することは、労働者の健康や安全を守るためには意味がある一方で、こうした状況にあるなかで、労働時間規制を強化しつつ、現在のサービスを維持できるのかという懸念が生じます。これが、一般的に言われる物流の2024年問題につながっていくことになります。
今回の報告では、運輸業4社の事例調査結果から、実際に企業が時間外労働の上限規制適用に対して、どのような対応を行ったのか、また、労働組合との取り組みや適用後に生じた課題などをみていきたいと思います。
事例調査結果
事例調査対象はいずれも大企業で労働組合あり
表1より、調査対象企業とした運輸業のA社~D社についてみると(シート3)、まず、事業エリアは4社とも日本全国にわたっており、各地に荷物を運んでいます。従業員規模は記載のとおり、いずれも大企業で、表1には掲載していませんが、すべての企業に労働組合があります。主な事業は、A社、B社、D社がBtoB事業で、C社だけがBtoC事業となっています。主な分析対象は表1に記載のとおり、同じ運輸業でも、企業によって異なっています。
各社の事業の特徴について、さらに細かくみていくと、A社の主な顧客は中小企業です。そのため、収集先がそれだけ多くなり、かつ、日々荷物の量が変動することから、業務量の予測が困難という特徴があります。また、C社については、実施する事業のニーズの減少傾向が続いており、仕事量も減っている状況です。そしてD社は、C社の100%子会社ということで、D社もC社のニーズ減少の影響を受けているということになります。
荷下ろしする店舗数の削減や中継輸送を活用し、輸送ルートを見直す
まず、時間外労働の上限規制適用に対して、企業がどのような対応を行ったのかをみると、大きく4つの対応がみられました。
1つめは輸送ルートの見直しで、これはA社とB社で行われました。A社は、1つのルートのなかで荷下ろしする店舗数を削減しており、これによって、同じルートのなかで荷物を下ろす時間が削減されました。
B社では、中継輸送の活用が行われました。B社は、これまで長距離輸送をメインに荷物を運んでいましたが、輸送ルートの中継地点で自社や他社のドライバーと交代することで、長距離輸送を中距離輸送に転換し、1人のドライバーが運転する距離や時間数を減らしています。これによって、1日の拘束時間内(原則13時間を超えない範囲)で仕事を終えて営業所に戻れるようになりました。
システム等を活用したオペレーションの効率化を荷主に要求
2つめは、荷主への要求です。これは、A社・B社・D社で行われました。A社では、荷主にA社が開発したソフトを活用してもらい、パソコンで出荷依頼や出荷準備を円滑に行えるようにしました。
B社では、荷主にバースシステムの導入を要請しました。バースとは、荷物を下ろしたり引き受けたりする際にトラックが待機する場所を指します。B社はシステムを活用し、「この時間に来てもらいたい」など、あらかじめスケジュールを立てることで、荷物を待つ時間帯を削減しました。バースの稼働状況を可視化したことで、効率的なオペレーションを実現しています。
D社では、親会社C社に対して、ダイヤの見直しを提案しました。具体的な提案内容は、ダイヤを早くすることではなく、遅らせるものでしたが、C社はその提案を受け入れています。
ドライバー同士の応援体制や休憩場所の整備も実施
3つめは応援体制の整備です。これについては、C社が取り組みました。集配件数の多い住宅地や集配先間の距離がある山間部では、集配に時間がかかります。つまり、担当するエリアによって、集配にかかる時間の不均衡が生じていました。そこでC社は、ドライバーにアプリを活用してもらうことで、他のエリアのドライバーの状況を把握しやすくし、早く集配が終わったドライバーが集配に時間がかかっているエリアに応援に行けるようにしました。これにより、ドライバー全体の残業時間が削減され、残業時間の平準化が進みました。
4つめは休憩場所の整備です。これもC社の取り組みです。トラック運転者の連続運転時間は原則4時間を超えてはならず、4時間運転したら30分以上の休憩時間を確保しなければなりません。ドライバーが休憩を取るために1度営業所に戻ってくるのは効率が悪いことから、C社は集配エリア内に休憩所を確保し、ドライバーが休憩を取れるようにしました。すべてのドライバーが安全かつ安心して休憩が取れる環境の整備が行われています。
労働組合も労働時間規制の遵守に貢献
次に、各社の労働組合の取り組みについて、シート4の表2に示しました。どの会社も、労使で労働時間規制への対応が行われています。具体的には、労働組合が定期的に従業員の労働時間についてチェックを実施するなど、労働組合も労働時間規制の遵守に貢献していることがわかりました。
まれに天候不良や渋滞で連続運転時間が4時間を超過するケースも
次に、労働時間規制を守るにあたってどういった課題が生じたかということをみていきます。これは大きく2つに分けられます。
1つが、連続運転時間に関わる課題です。B社・C社・D社では、天候不良や道路渋滞などによって、もともと設定した運行計画を守れない事態が発生しました。例えば、B社では、ゴールデンウィークやお盆などの連休で道路渋滞が発生したことによって、サービスエリアで時間どおり休憩が取れない事態が発生しています。
D社では、雪が降ったことによって渋滞が発生し、連続運転時間が4時間を超えてしまうことがありました。ただし、これらは定期的に起こっているわけではなく、まれに発生するケースになります。
そもそも、天候不良は「予期しない事象」に該当すると考えられ、改善基準告示のなかでも、この事象に対応する時間は連続運転時間から除くことができると記されていますので、こうした事態は即座に問題になるとは言えないと考えられます。
また、休憩を取ろうと考えていたサービスエリアやパーキングエリアが満車で駐車できないということも発生しますが、このような事情により、やむを得ず連続運転時間が4時間を超える場合には、30分まで延長することができると改善基準告示に記載されています。そのため、その次のサービスエリアで休憩を取ることができます。
予期せぬ物量増加などで1日の拘束時間が超過することも
もう1つが、1日の拘束時間に関わる課題です。1日の拘束時間は先ほど述べたとおり、原則13時間を超えてはならないので、その時間内に仕事を終えなくてはならないのですが、A社では、物量が想定以上に増えたことで集荷に時間がかかり、最終的には運行計画全体に遅れが生じ、1日の拘束時間を超えることがありました。
また、B社では、繁忙期になって物量が増えると、どうしても1日の拘束時間を超えてしまうことがあるそうです。B社の繁忙期は夏の時期で、飲料水の出荷が増えることによって、拘束時間の超過が発生しました。
こうした問題に対して、各社はどういう対応をしているのでしょうか。A社は、これまでの経験から、課題が発生するルートがおおよそ把握できており、毎月行っている労使協議のなかで、その対応を検討しているということでした。B社も同様に、毎月開催する労使協議のなかで、ドライバーの労働時間を確認したり、課題があれば原因を探って対応策を検討したりしています。
シート5の表3では、ここまで説明してきたA社からD社で発生した課題とその原因を取り上げています。そして参考までに、バス会社やタクシー会社で発生した問題もまとめています。
協力会社には労働時間規制の遵守を要請、運賃単価の見直しにも対応
最後に、協力会社との関係についてみると、3つの特徴的な内容がありました。1つめは労働時間規制の遵守についてで、A社・B社・C社では、それぞれの協力会社に対し、無理な運行をさせないように配慮をしていました。また、D社では、地元の協力会社が参加する会議の中で、労働時間規制を遵守するよう要請していました。
2つめは価格転嫁への対応です。現在、さまざまなところで価格転嫁の必要性が叫ばれていますが、4社に価格転嫁(運賃単価の見直し)への対応について聞いてみたところ、いずれも協力会社からの運賃単価の見直しに応じていました。ただし、A社については、少し課題がみられます。A社は、協力会社からの運賃単価の見直しに対応する一方で、A社自身も、荷主に対して運賃の見直しを要請しています。しかし、A社の荷主の多くは中小企業であるため、運賃単価の値上げを要請しても、なかなか応じてもらえないという状況にあります。A社は大企業ですが、それでも価格転嫁の問題で苦労しているという現状があります。
協力会社からルートを返上されるケースも増加
そして3つめは、協力会社からのルート返上です。私は、これが最も深刻な問題ではないかと感じているのですが、ルート返上とは、協力会社に委託したルートが委託元企業(調査対象企業)に返上されることです。こうした動きは、労働時間規制の適用以前からみられ、廃業する協力会社や、人手不足でこれ以上輸送を担当できないという協力会社が、委託元企業に対して、業務の返還を求める事態が増えています。そして、労働時間規制の適用を受けて、そうしたケースが増えているようです。
こうした動きに対して、調査対象企業がどのような対応をしているかというと、委託元企業はそのルートを自社で担当したり、一時的に自社で担当しつつ、他に受けてくれる協力会社を探したりして、なんとか輸送ルートを維持しているのが現状です。このように、今の運輸業が提供するサービスを維持することが、なかなか難しくなっているという現状が、うかがえるのではないかと思います。
主な事実発見
労働時間規制の適用は企業の取り組みを促した側面も
事例調査結果から、主な事実発見をまとめると、「労働時間規制適用後に発生した課題と対応」「労働時間規制に伴う企業の対応」「労働組合による規制」「協力会社との関係」──の4つになります。
1つめの、労働時間規制の適用後に発生した課題と対応についてです。まず、連続運転時間に関わる課題はB社・C社・D社でみられましたが、これらは道路渋滞や天候不良によるもので、発生することはまれであり、深刻な問題にはなっていないと言えます。また、1日の拘束時間に関わる課題はA社・B社でみられましたが、総じて言えるのは、そもそも物量の増加によって、計画どおりに運行ができないことがあるということが、1日の拘束時間に関わる問題の根幹にあります。こうした問題への対応については、A社は課題が発生したルートを特定して労使で対応を検討し、B社は毎月の労使協議を通じて原因を探り、対応策を検討していました。
2つめの、労働時間規制適用に伴う企業の対応については、輸送ルートの見直し、荷主への要求、応援体制の整備、休憩所の整備といった取り組みが行われていました。労働時間規制の適用は、企業のこうした取り組みを促した側面があると言えます。
運輸業では、労働組合は労働時間規制に対する規制力が弱いという課題も
3つめの、労働組合による規制については、労働組合が定期的に職場の労働時間を確認したり、課題が発生すれば、労使でその対応を検討したりしていることがわかりました。労働組合の規制は一定程度効いており、労働時間規制の遵守に労働組合が貢献していると考えられます。
ただし、労働組合による規制だけですべて問題がなくなるわけではありません。この調査からは、労働組合は労働時間規制の遵守に貢献はしているものの、労働時間規制に対する規制力が弱いという課題が明らかになっています。調査対象企業に限って言えば、労使で締結するいわゆる「36協定(サブロク協定)」で定める労働時間数が、労働時間規制の上限に近い水準で設定されていました。つまり、上限いっぱいの水準で「36協定」の労働時間数が決められていることになります。
労働組合は基本的に労働時間を減らすように取り組みますが、運輸業の事例に限って言えば、そうした規制が弱いことが特徴としてあげられます。問題は、なぜそういったことになっているかということです。私が調査を通じて考えたことですが、1つは、運輸業は人手不足や業務の変動によって、計画通りの運行ができない可能性があり、そうした事態に対応するために、上限いっぱいの労働時間を設定することが考えられます。もう1つは労働条件に関わる話ですが、一定の賃金水準を確保するには、やはり長時間労働をせざるを得ないという事情も働いて、なかなか労働組合としても、労働時間を減らす方向に取り組みづらいという事情があるのではないかと考えられます。
運賃単価の見直しは荷主だけでなく顧客にも理解を促す
4つめは、協力会社との関係についてです。運輸業は下請け構造になっているため、調査をする前段では、下請企業に該当する協力会社は、厳しい状況に置かれているのではないかと考えていました。しかし、今回の調査をした限りでは、調査対象企業は協力会社に対して無理な運行をさせないように配慮したり、運賃単価の見直しに応じていました。これは良いことなのですが、なぜこうした対応を取るのかと考えると、事業を継続的に行うには、やはり協力会社の存在が不可欠であり、委託元企業の立場からすれば、そうした会社を守る必要があるということが考えられます。
ただし、一方で、今回、調査対象企業はすべて大企業でしたが、A社のように、荷主に対して運賃単価の見直しを要請しても、なかなか応じてもらえないという問題もみられました。大企業であっても、協力会社と荷主との間で板挟みにあうという、なかなか辛い状況に置かれていることが明らかになりました。
運賃単価の見直しは、自社だけでは解決できない側面があります。荷主だけでなく、顧客に対しても、他人事でなく当事者意識を持ってもらう必要性もあります。そのため、荷主と顧客にも理解を促して、両者を交えた議論を行う必要性があると考えられます。
含意
職業別での課題への対応が必要に
最後に、含意として、「労働時間規制を遵守する際に発生した課題」「労働時間規制の効果と課題」「労働時間規制を遵守するうえでの障害」「労働組合の貢献と課題」──の4つをあげます。
1つめの労働時間規制を遵守する際に生じた課題についてですが、調査対象企業4社をみる限り、各社は労働時間規制を守ろうと取り組んではいるものの、それぞれ課題がみられました。シート5の表3に記載しましたが、同じ運輸業でも、バス運転者やタクシー運転者でみられた課題とは異なっており、職業別に対応する必要性が出てくるのではないかと考えられます。
労働時間規制の適用によって労働負荷が強まった側面も
2つめの労働時間規制の効果と課題については、運輸業では企業の対応も含め、さまざまな見直しが行われ、労働時間規制適用後には一部の企業を除いて、自動車運転業務に従事する労働者の労働条件は改善されました。これは、労働時間規制の適用による効果と言えます。
一方で、労働時間規制が適用されることによって、今までと同じ仕事を担当していても、労働時間を削減しなくてはならなくなりました。ここまで触れませんでしたが、企業によっては、労働負荷が強まった側面も出ました。また、今まで4時間あれば目的地に到着できた距離の場合、4時間を少しでも超えそうになると、30分以上の休憩を取らざるを得なくなり、業務全体の効率が損なわれるという問題も指摘されています。
また、ルート返上の問題もあります。この課題は、A社・B社・D社で見られましたが、業務を委託する地元の協力会社からさまざまな事情で、委託している業務を返上したいという申し出が出ていました。こうした申し出は2024年4月前後から増加しているそうで、今後も深刻化してくる可能性があります。
現状の構造を解決するため人手不足と長時間労働の解消が求められる
3つめは、労働時間規制を遵守するうえでの障害についてです。他の産業でも、人手不足の課題が指摘されていますが、運輸業はこれまでの労働条件等の問題により、人手不足の状況が続いています。そしてそれが、長時間労働という環境を生み出してきたことが指摘されてきました。そうした悪循環が完全に解決されているわけではないため、こうした構造が労働時間規制を遵守するうえで障害になっていると考えられます。
こうした課題を解決するために、どういった対応策があるのかというと、まず人手不足と長時間労働の解消が求められます。そのためには、より良い労働条件、もっと言えば魅力的な賃金水準を確保する必要があります。どの産業も人手不足を抱えているため、賃上げに取り組んでいるわけですが、その場合、他産業との賃金格差を少しでも縮めるために、運輸業は他産業に比べて、より一層の賃上げを行う必要があります。ただし、その賃上げを一気に行うのは難しく、企業だけで解決するのは難しいでしょう。
そこで、私が考えたのは、自動車運転者を対象とした処遇改善事業を行うことです。他産業で言えば、看護師や保育士・幼稚園教諭、介護施設で働く介護職員などの職業については、政府が処遇改善事業を実施し、給与の補填をしているのですが、そうした事業を自動車運転者に対しても実施してみるのはどうかということです。もう1つは、荷主さんや顧客に理解を求めて、適正な運賃単価や料金に引き上げるということも必要だと考えます。
業界全体で労働時間改善に取り組む
4つめの労働組合の貢献と課題については、労働組合が企業とともに労働時間規制の遵守に取り組んでおり、そうした意味では、労働組合は必要な存在だと言えるわけですが、一方で、労働組合の組織率は低下傾向にあり、労働組合に加入している労働者はどんどん減っているというのが現状です。そのため、別の方法を考える必要があります。
対応の1つは、業界全体で取り組むことです。運輸業は下請け構造になっているため、自社だけで労働時間を決定するのは難しいところがあります。そのため、業界全体として取り組む必要があります。その際には、サービスを提供する会社だけではなく、荷主や顧客を巻き込んだ取り組みが有効だと考えられます。
中小企業や協力会社への調査を実施していく必要性も
今回の報告のベースとなった調査全体に関わる課題を2点述べます。1つは、協力会社や中小企業の調査の必要性です。運輸業が下請け構造であることをふまえると、当然のことながら、協力会社や中小企業であるほど問題を抱えていると考えられます。しかし、そうした企業の調査を実施できていません。今後、協力会社や中小企業を対象に、調査を実施していく必要があると考えています。
もう1つは、調査を2024年中に実施した関係で、2024年の年間の労働時間のデータなどの情報を基に分析を行っておりません。今後、このテーマで調査を実施する際には、上記のデータを含めた分析を行う必要があると考えています。
プロフィール
前浦 穂高(まえうら・ほだか)
長野大学 地域経営学部 准教授/元 労働政策研究・研修機構 副主任研究員
東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。立教大学経済学部助教を経て、2009年JILPTに入職。2026年4月より長野大学地域経営学部准教授。専攻は、人的資源管理論、労使関係論。主なテーマは、エッセンシャルワーカーの人的資源管理や労使関係。特に、公共性の高い産業を中心に研究を行っている。最近の業績には、『コロナ禍の教訓をいかに生かすか―医療従事者の働き方の変化から考える』(2023年、ぎょうせい)、『運輸業・郵便業における需要変動と労使関係』(2024年、資料シリーズNo.279、土屋直樹氏と青木宏之氏との共著)、『時間外労働の上限規制への対応―自動車運転の業務に従事する労働者を対象に―』(2025年、労働政策レポートNo.15)等がある。


