研究報告 女性活躍への新たな道筋─就業中断女性の自己啓発に注目して─
- 講演者
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- 田上 皓大
- 労働政策研究・研修機構 研究員
- フォーラム名
- 第144回労働政策フォーラム「あらためて女性の働き方を考える─改正女性活躍推進法の施行に向けて─」(2026年2月19日-26日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2026年5月号より転載(2026年4月27日 掲載)
改正女性活躍推進法が4月から施行されようとしていますが、本日は少し別の角度から女性活躍を振り返り、どういった課題があるのかについて説明します。
女性の働き方の課題の一般的理解
今日も正規雇用として働き続ける女性は少ない
報告の前に、女性の働き方の一般的理解についておさらいしたいと思います。かつて、女性の半数は30代頃に無業化(専業主婦化)していたと言われていましたが、いろいろな研究の結果、そうした傾向は今日、おおむね解消されているということがわかっています。しかし、今日も正規雇用として働き続ける女性は少ないという問題も認識されています。出産や育児などを理由に、それまで勤めていた正規の仕事を退職し、非正規雇用として働く女性が多いという現状です。
そうした要因から、女性の勤続年数は平均的に短くなりがちです。さらに、管理職に就く女性の割合も少ないという課題も認識されています。つまり、一般的に、女性は企業における中核的な人材としてのキャリア形成を行うことに大きな障壁があると認識されています。
男女の働き方の違いが賃金格差にも表れ
このような男女の働き方の違いというのは、男女の賃金格差にも表れており、こういった背景から、女性の活躍推進が一層求められ、女性活躍推進法をはじめとしてさまざまな法律によって介入が行われています。
「女性活躍」の盲点と取り残されている「女性たち」
「女性活躍」の盲点
過剰に強調される数値目標の達成
本日お話ししたいのは、こうした女性活躍の盲点です。その盲点をみるうえで重要なのが、これまでの法政策や介入の中で取り残されている女性たちがいるのではないかという視点です。まず女性活躍の盲点について、この「活躍」という言葉がどのように世の中にイメージされているかという問題があります。多くの場合、そのイメージは管理職になることだと思います。
私は、女性管理職比率という数値目標の達成が過剰に強調されている面があるのではないかと認識しています。その背景には、「202030目標」と呼ばれる2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%にするという政府目標があります。これが2014年に閣議決定されて以降、この30%という目標が非常に世の中の関心を集めて議論されているわけです。
たしかに管理職になることは、職業生活の中での活躍のあり方の1つであると思います。しかし、ここで少し発想を変えてみて、他の活躍のあり方が考えられないのか、ということを考えてみたいと思います。
管理職比率は時に的外れな指標になる
なぜこれを考えることが重要かというと、理由は主に2つあります。1つめは、女性管理職比率は時に的外れな指標になるということです。2つめは、これが本日の報告の主なテーマになるわけですが、すべての人が管理職を目指すべきなのかも非常に議論すべき余地があると考えています。
まず女性管理職比率が的外れな指標になるという点についてですが、少し皆さんに考えていただきたいのは、女性管理職比率が50%であればよいのか、という点です。管理職に占める男女の比率が50%であると、男性の管理職と女性の管理職が半数ずついるということを意味します。そのうえで、管理職昇進を仮に仕事の中での活躍とみなすのであれば、女性にも男性と同程度の昇進の機会が確保されている必要がある。こういう考え方が男女雇用機会均等法(均等法)の考え方になります。
女性管理職比率は50%であればよいのか?
医療・福祉産業の女性管理職比率は4割を超え政府目標をクリアしているが・・・
この点についてシート1で説明します。表をみると、まず、医療・福祉産業では女性管理職比率が4割を超えています。この数値だけをみると、非常に女性の管理職が多い産業というイメージを持ちますが、よくよく他の指標もみていくと、医療・福祉産業でも男性のほうが管理職により登用されやすく、より多くの昇進機会が確保されているというデータが出ています。
詳しく説明すると、表は、産業ごとに、一般労働者の男性の数と女性の数を示しています。これらがわかれば、産業ごとの一般労働者に占める女性の比率を算出することができます。同じように、管理職層である課長以上の職に就いている人の男性の数と女性の数から、産業ごとに課長以上での比率も計算することができます。
女性管理職比率は、この課長以上の職にある男性と女性の合計を分母にして、女性を分子にした比率です。表のとおり、産業ごとに女性の比率は大きく異なります。医療・福祉産業は約44%となっているので、政府目標である30%はすでにクリアしている産業となっています。もちろん、個々の企業によって状況は違いますが、産業としての平均でみれば非常に女性管理職が多いということになります。
登用割合でみると男性と変わらない産業は1つもない
ですが、医療・福祉産業は一般労働者に占める女性の比率も当然高い産業ですので、女性の管理職も必然的に多くなります。したがって、もともと女性が多いかどうかを少し調整してみる必要があります。それをみたものが一番右側の登用割合という指標です。
これは、男性・女性それぞれ、一般労働者の人数を分母として、課長以上の人数を分子にして割合をとったものです。すなわち、一般労働者のうち、課長以上の職に就いている者がどれぐらいの割合かを表した指標になっています。管理職昇進を活躍とみなすのであれば、女性にも男性と同程度の昇進の機会が確保されている必要があるため、この登用割合の男性と女性の値が一致しなければならないのです。
しかし、残念なことに、それが一致している産業は今のところありません。医療・福祉産業でも、男女比(女性の登用割合を1とする)は2.7倍という結果になっています。
すなわち、女性管理職比率が4割を超えている産業においても、実は男性のほうが2.7倍昇進機会を得ているという結果になっているわけです。詳しくみていくと、実は女性管理職比率は、状況によっては解釈が難しい指標であるということが理解いただけるのではないかと思います。
「女性活躍」の本来の意味:能力発揮を行うこと
均等法が抱えていた問題意識は、女性が職業生活で活躍できないということ
ここで、女性活躍の本来の意味を考えていきます。端的に言うと、それは「能力発揮を行う」ということです。
専門的には「職業生活」と言いますが、仕事をすることは生計の維持だけでなく、個人の自己実現のために重要だと考えられていますし、皆さんもそういう実感があると思います。そして、女性活躍の問題意識というのは、女性が職業生活で活躍できないということであり、この問題意識が1985年に制定された均等法が抱えているものになります。女性活躍推進法もこうした問題意識の文脈に位置づけられています。
均等法制定当時までは、採用や昇進などの仕組みが男女で異なることが当たり前であり、均等法はそういう雇用慣行を変えるためにできた法律です。均等法が目指したものは、「職業生活における自己実現の機会」の男女の均等・平等です。
個人の能力の発揮の方法として、管理職になる以外のことがあってもいい
この自己実現機会を確保するためには、男性も女性もあらゆる人が仕事を通じて個人の能力を発揮し、職業生活の充実とともに経済活動へ貢献することができるような環境の整備が重要になってきます。
したがって、個人の能力を発揮することの1つとして管理職になるということは当然あり得ますが、それ以外の活躍の仕方もあっていいのではないかということを考えていきたいと思います。
取り残されている「女性」たち:就業継続
そうした問題意識の中で、取り残されている女性たちについてお話ししたいと思います。シート2は、就業継続女性の就業継続の変化を表すデータです。第1子を出産した女性を調査したもので、帯グラフの左側に第1子を出産した年を記載しています。この年ごとに第1子が1歳になったときの妻の就業パターンを色で分けて示しています。「正規の職員(育休あり)」「正規の職員(育休なし)」などといった項目があり、これをそれぞれ【妊娠前正規職員】【妊娠前パート・派遣】というカテゴリーに分けて示しています。
若い世代ほど出産後も正社員として就業継続している割合が高い
上段のグラフをみると、傾向としては青色の部分が増えて、赤色の部分が減っていることがわかると思います。これが意味しているのは、より近年に第1子を出産した女性で妊娠前に正社員だった人たちが、第1子が1歳になったときも正規雇用で勤めている人が増えているということです。
おおむね第1子を出産する女性の平均年齢はだいたい30歳前後です。そう考えていくと、この左側の年数から30歳を引いていくとその人が生まれた世代になります。例えば、1985年に子を産んでいる人たちは、30歳を引くと1950年代後半生まれの人たちになりますが、そうした人たちと比べて、2010年代後半に子を産んでいる人たちは明らかに、正社員としての就業継続の割合が違うことがわかると思います。「2015年~19年」に第1子を出産した女性の約75%は正規雇用で就業を継続していることがわかります。
下段のグラフは、妊娠前に非正規だった人たちです。出産後もパート・派遣の緑色の部分が少し増加していきますが、まだまだ無職の割合が多いです。こうした事実はありますが、少なくとも上側のグラフをみていく限り、若い世代の女性ほど女性活躍推進法が想定した就業継続を促して企業に定着させるというシナリオ通りに進んでいることがわかります。
就業中断を経験してしまった女性たちを活躍させるのはどうしたらよいか
ここで考えていただきたいのは、すでに就業中断を経験してしまった女性たちがどのようにして活躍すればよいのかという問題です。
その人たちが、赤色の無職の人たちです。例えば2000年代前半に第1子を出産した人のうちの約40%が、もともとは正社員で働いていましたが、第1子が1歳のときには無職になっています。当然この人たちも現在は労働市場で何らかの仕事をしていると思います。ほとんどの場合は非正規の仕事に就いていると想定されますが、この人たちがどのように活躍すればいいのかを考える必要があるわけです。
少し表現が悪いかもしれませんが、「取り残された」さまざまな理由があって就業継続できなかった女性たちの新たな活躍の道を探ることが重要なのではないかと考えています。
取り残されている「女性」たちの新たな活躍の道を探る
日本的雇用慣行と女性の働き方における課題
女性の働き方の課題は長期勤続を基本とする日本的雇用慣行に関連
ここで、もう少し女性の働き方の課題を深掘りしていきたいと思います。女性の働き方の困難さというのは、日本的雇用慣行と非常に関連していると言われています。日本の企業は、企業特殊的人的資本を重視しています。この企業特殊的人的資本というのは、長期雇用の前提のもとで、仕事をしながら能力を身につけるOJTを中心に、企業主導の能力開発を行うという特徴があります。
それによって企業にとって望ましい能力を身につけた人材を育成することを目標に掲げています。こうした目標のもとで、正社員の人事管理の特徴として、新卒採用、定年退職、長期雇用や年功賃金があると言われています。
端的に言うと、同一企業における長期勤続者(生え抜き人材)を育成したいと考えていて、従業員、労働者もこうしたキャリアを描くことが規範的に考えられていて、経済的メリットも大きいという現状があります。その反面、生え抜き社員に対しては、長時間労働を期待するなど企業からの労働の要請も重いというデメリットもあります。
それまでの女性は、結婚、出産、育児などのライフイベントによって就業中断する人が多く、この背景には、性別役割分業や仕事と生活のバランスが崩れるワークライフコンフリクトによる離職や転職がありました。一度就業中断をするということは、同一企業における長期勤続キャリアを形成するのが難しいということになります。したがって、それによる経済的メリットも享受しにくいことが、女性の多くが抱えていた問題であり、障壁です。
自律的・主体的能力開発への注目
女性活躍の鍵は自律的・主体的な能力開発?
そうしたなかで、取り残されている女性たちの活躍の道にどういうアイデアが重要なのかを考えていきたいのですが、私のアイデアとして、自律的・主体的な能力開発に着目することが有効なのではないかと考えています。
近年、労働者の自律的・主体的な能力開発というのが政策的に支援されています。この能力開発というのは、簡単に言うと自己啓発です。会社や職場の指示によらず、仕事に関連する教育訓練を行うということですが、例えばマーケティング担当者が商品レコメンドに関する新しいスキルを習得しようとして、AIや機械学習に関する講義やセミナーをオンラインで受講するといったことが考えられます。
近年は急速的で広範囲な社会経済の変化が起きています。これに対応するためには、OJT中心の企業主導の能力開発以外にも力を入れる必要があると言われており、そうした労働者が主体的に行う訓練として自己啓発への注目が高まっています。
そこで、どのような人が自己啓発に意欲的なのかということです。仮説として考えられるのは、こうした能力開発によるキャリア形成が評価されるようになってきているのか、もしくは、そういう土壌ができていくと、女性が就業中断によって失った損失をリカバリーできるのではないかということです。
そもそも女性は、長期勤続を前提とする社会だったからこそ、就業中断が不利に働いてしまいました。もちろん就業中断をなくすことは非常に重要ですが、一度就業を中断してしまった人たちをどのようにまたキャリアに戻していくか考えていくときに、能力開発を重視することが重要なのではないかということです。
取り残されている「女性」たち:L字カーブ①
就業中断が不利に働くというのは、就業継続を前提とした活躍のあり方が想定されているのではないだろうか、ということを考えていきます。例えば管理職昇進というのは、当然この就業継続を前提とした活躍のあり方になります。
関連するデータを提示します。取り残されている女性たちとして、L字カーブの問題がしばしばあげられます。シート3は、生まれた年代を色で分け、性別および年齢別の有業率と正規雇用率をグラフに示したものです。
女性では、若い世代ほど年齢に伴う正規雇用率の減少が抑制される
注目していただきたいのは、右側の下の女性の正規雇用率になります。若い世代ほど年齢に伴って、正規雇用率の減少の程度が抑制されていることがわかります。かつての女性の正規雇用率は、1回上がって、なだらかになって、少しフラットになった後、また下がるという傾向がありましたが、20代後半から30代前半にかけての減少の程度が少し抑制されていることがわかると思います。その結果、この30代前半や後半あたりでの正規雇用率が少し立ち上がっているという傾向がみてとれると思います。
これは、先ほど説明した若い世代ほど就業継続がうまくいっているというデータと一致しています。就業継続がうまくいくということは、この20代後半から30代前半で正規雇用として働き続ける人が増えているということになりますので、この青色のラインはそうした傾向を示しています。
より注目していただきたいのは、この青と緑の中間ぐらいの色のところです。だいたい70年代生まれになるわけですが、この世代の人たちは、一度減少した正規雇用率が中高年にかけて増加しています。
取り残されている「女性」たち:L字カーブ②
30代後半以降に正規雇用として再就職や転職する人が増加
さらにみていくと、この赤色で囲ったグラフを数値にしたものがシート4になります。
まず、赤色の部分をみると、若い世代ほど20代前半の正規雇用率が低下しています。次に、青色の部分をみると、若い世代ほど20代後半から30代前半の正規雇用率が大きく増加しています。
最後に緑色をみると、1963年~77年生まれの世代では30代後半以降で正規雇用率が上昇していることが観察されます。おそらく30代後半以降に正規雇用として再就職、転職もしくは正規転換をする人が増えていると思われます。数値で言うと、30代後半の正規雇用率がこの世代は一番低いのですが、そこから50代前半ぐらいにかけて約4ポイントは増加しているということになります。
これが意味しているのは、一度就業中断をしてしまうと正規雇用率が減少しますが、それが持ち上がっているということは、やはり再就職や転職する人が増えてきているということになるわけです。
性・年齢・出生コーホート・就業状態別自己啓発実施率
女性活躍としては、新たに正社員として働く人たちをどのように活躍させていくのかを当然考える必要があるわけですが、本日の議論としては、そうした人々の活躍のあり方として、自己啓発が有効なのではないかというアイデアになっています。
シート5は、性・年齢・出生コーホート・就業状態別に自己啓発の実施率を示したものになっています。各グラフのタイトルの左側が出生コーホート、生まれた年で、右側が就業状態です。これを、男性を青色、女性を赤色で示し、年齢別に示しています。
1963年~1977年世代の女性の自己啓発実施率は男性よりも高い
これは自己啓発実施率ですので、自己啓発をしている人が何人いるかを示しています。注目していただきたいのは、この赤色の部分の、「1963年~1977年」世代です。この人たちは30代以降から50代にかけての自己啓発実施率が男性より高いです。
その他の世代でも、現在正規雇用である場合は女性のほうが自己啓発を非常に多く行っています。ここに注目していくことが重要なのではないかということです。言い換えると、この中高年期の自己啓発実施率の高さに注目した活躍のあり方を考えていくということが、政策的には重要だと言えます。
誰が自己啓発に積極的なのか?
「女性、有配偶、転職経験正規」の中高年で高かった自己啓発の実施率
そこで私の研究の中では、まず誰が自己啓発に積極的なのかというのを明らかにしたいと考えて、別のデータを使って自己啓発の実施率というのを計算してみました(シート6)。男性と女性を配偶状態で分け、就業状態として「初職継続正規」「転職経験正規」「現職非正規」という区分にしました。「初職継続正規」は初職に正規雇用として入職し、現在も継続している人々。「転職経験正規」は転職の経験があり、現在正規雇用として就業している人々。「現職非正規」は転職経験の有無は問いませんが、現在非正規雇用として就業している人々です。
注目していただきたいのは、「女性、有配偶」パネルの赤色のライン(転職経験正規)です。45歳より前の年齢と比べて、45歳より上の年齢の人のほうが、自己啓発実施率が高いことを示しています。カテゴリーでみると「女性、有配偶、転職経験正規」は中高年のほうが自己啓発の実施率が高いということです。
就業中断女性の自己啓発の高さ
条件を統制しても中高年期の自己啓発実施率の高さを確認
シート7は、就業中断女性の自己啓発の高さをみています。これが何によって生じているのかいろいろな条件が考えられますが、条件を一定にしても、分析の結果、「女性、有配偶、転職経験正規」における中高年期の自己啓発実施率の高さが観察されました。
条件としては、例えば転職を望んでいる人のほうが自己啓発を実施したいという傾向があると思いますし、職業や産業によっても自己啓発しなければいけないといった職業環境があると思いますが、これらの条件を一定にしても、自己啓発実施率が中高年期に高まるのかどうかを確認しました。注目していただきたいのは、左側の「女性・有配偶」のグラフになります。先ほどと同様に、この赤色のラインが年齢によって右肩上がりになっていくのがわかります。
これが意味しているのは、「女性、有配偶、転職経験正規」、つまり何らかの理由で就業中断を経験したけれども、現在正規雇用で働いている人々は、40代前半くらいまでは自己啓発の実施率が低いけれども、45歳以降から急激に高まっていくということです。反対に、「初職継続正規」は年齢とともに逆U字カーブを描いていて、若いときにぐっと高まりますが、中高年期にはそれほど高まらないという結果が出ています。
主な知見と議論
自律的・主体的な能力開発の意欲はキャリア形成の重要な時期で高まる
今までみてきたように、就業中断女性、すなわち「女性、有配偶、転職経験正規」というのは、中高年期に自己啓発の実施率が高まるということがわかりました。1つの仮説として、子どもの巣立ちという現象があります。中高年期になると、子どもが大学生ぐらいになり、子育てというケア役割の負担も減っていきます。このケア役割の喪失が新たな社会的役割の獲得に向かわせるということです。
もう1つの仮説として私は、この自律的・主体的な能力開発の意欲がキャリア形成の初期段階において高まると考えています。もしくは、そのキャリア形成において重要な時期で高まるのではないかということです。「女性、有配偶、転職経験正規」は、20代から30代で結婚・出産・育児による就業中断を経験していることが多いのではないかと考えています。
子どもがいる間というのは、就業中断をせざるを得ない状況で、ケア役割というのを中心的に行っていたけれども、子どもがある程度大きくなって育児期を終わっていくような中高年期から本格的なキャリア形成が始まるケースもあるのではないかと思います。そうしたキャリア形成を始めようとする重要な段階で、自己啓発の意欲が高まるのではないかということが考えられます。
これを支持しているのが、反対に「初職継続正規」です。つまり正社員として就業継続している場合は、40代以前の自己啓発の実施率が高いという結果が出ています。そうしたことから、政策的手段としてイノベーションと女性の関連を考えるのが重要なのではないかと考えています。
政策的示唆:イノベーションと女性
就業中断女性に生え抜き人材と異なる役割を与えることが大事
若いときに社会的に望ましいキャリア、すなわち「同一企業における長期勤続(生え抜き人材)」のキャリアを歩めなかった就業中断女性は決して少なくないわけです。しかし、彼女たちは、中高年期の自律的・主体的能力開発に非常に積極的であるというデータが出ています。
こうしたことから、就業中断が不利にならない活躍のあり方のヒントを探ることができるわけです。すなわち、自律的・主体的能力開発を中心とするキャリア形成が実は重要ではないかというふうに考えられます。そのためには生え抜き人材と異なる役割期待を、こうした就業中断を経験した人々に与えていくことが重要です。
その具体的な例として、新しい技術や知識が必要となる領域、例えばデジタル技術など、こうした領域に学習意欲の高い人々を積極的に登用していくということが重要だと思います。そうすることで就業中断を経験してしまった人々も、その就業中断が不利にならない形で新たなキャリアをつくることができるわけです。
さらに、こうしたことのためには、中途採用市場において、能力開発意欲などのポテンシャル、自己啓発の意欲、実施率を評価していく仕組みというのも非常に重要ではないかと言えます。
能力発揮を推進するためのポジティブ・アクション
能力開発推進に重要となる「ポジティブ・アクション」
本日の報告から、活躍のあり方はいろいろ考えられるのではないかと思います。ただ、いずれの場合でも、この能力開発を推進していくために重要なのが、「ポジティブ・アクション」という考えです。
機会均等や両立支援は、政策的にも、企業の制度的にも近年かなり充実してきています。しかし、実質的な男女の平等、具体的な賃金格差、そういった指標になると、男女の平等の達成にはまだ遠いという現状があります。こうした実質的な男女平等を確保するために必要なのが、ポジティブ・アクション(積極的是正措置)です。これは社会構造的な理由によって生じている格差を解消し、実質的な平等を確保するために必要な施策と定義されています。
重要なところは、実質的な平等を積極的に確保するために何かしなければいけないという考えになります。クオータ制や目標値設定方式、さまざまな支援や研修というものがありますが、実は女性活躍推進法は、目標値設定方式に基づくポジティブ・アクションを促しています。
すなわち、人々の多様な個性というのが、いま重要になってきていますが、こうした個性を前提に、さまざまな活躍のあり方を想定するということです。就業継続し続けている人の活躍のあり方、もしくは就業中断をしてしまった人の活躍のあり方は当然違うことから、さまざまな活躍のあり方を想定し、女性の能力発揮を積極的に促進していくということが重要だと思います。そのうえで、改正女性活躍推進法が4月に施行されますが、新しい視点を考えていくことが非常に重要だと思います。
プロフィール
田上 皓大(たがみ・こうた)
労働政策研究・研修機構 研究員
専攻は産業社会学と社会階層論。主なテーマは、男女間賃金格差や、中高年期女性の就業キャリア、女性の健康課題と働き方など、雇用機会均等分野を中心とする女性労働政策に関する調査研究を行っている。最近の業績として、『母子世帯の階層的分断の実相と趨勢─経済的自立と子どものウェルビーイングの課題─』労働政策研究報告書No.234(2025年)、「就業中断女性の女性活躍への道筋─中高年期の女性の自律的・主体的な能力開発意欲に注目して(PDF:515KB)」(日本労働研究雑誌No.760、2023年)など。


