公的機関における支援の取組1 中小企業等に対するデジタル推進人材の育成支援について
- 講演者
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- 宿谷 慶
- 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 公共職業訓練部 調査役
- フォーラム名
- 第141回労働政策フォーラム「企業におけるデジタル技術の活用と人材育成」(2025年12月24日-2026年1月8日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2026年3月号より転載(2026年2月25日 掲載)
高齢・障がい者、求職者、事業主に幅広いサービスを提供
私どもの組織の正式名称は長いので、英語名の頭文字を取って、JEED(Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons with Disabilities and Job Seekers)と呼ばれています。JEEDは、厚生労働省所管の独立行政法人で、「らしく、はたらく、ともに」というメッセージのもと、年齢や障がいの有無に関係なく、誰もが安心して働ける社会の実現を目指しています。高齢者、障がい者、求職者、事業主の皆さんに対して、雇用支援や職業訓練など、幅広いサービスを提供しています(シート1)。
JEEDの人材育成支援は、全国に設置された「生産性向上人材育成支援センター(生産性センター)」で実施しています。生産性センターは、全国のポリテクセンターやポリテクカレッジといった職業訓練施設に設置された相談窓口です。2017年度から事業を開始し、2025年度で9年目を迎えています(シート2)。
生産性センターでは企業の人材育成を総合的にサポート
多くの企業が抱えている課題として、「人手不足」「生産性向上」「デジタル化の遅れ」などがあげられますが、生産性センターでは、人材育成に関する相談から、課題に合わせた人材育成プランの提案、職業訓練の実施まで、企業の人材育成を総合的にサポートしています。このように、相談から訓練の実施まで一貫してサポートできることが生産性センターの強みであると考えています。
生産性訓練の中で生産管理やIT分野の業務改善を支援
生産性センターで実施している訓練は、2つあります。1つめは「在職者訓練」です。能力開発セミナーとも言います。製造業など「ものづくり分野」における技能・技術の向上を目指した訓練であり、JEEDの職業訓練指導員が担当しています。
2つめは「生産性向上支援訓練」です。略して生産性訓練と言います。こちらは製造業に限らず、すべての業種を対象にした訓練であり、民間教育機関に委託して実施しています。「生産・業務プロセスの改善」や「IT業務改善」など、どの企業でも必要なテーマが揃っています。
生産性センターは全国87カ所、全都道府県に設置されています。特に中小企業では研修計画を立てる余裕もない事業所も多いことから、JEEDの相談員が企業訪問し、課題を聞きながら訓練コースを提案するなど、プッシュ型でリスキリング支援を行っています(シート3)。
特徴はオーダーメイドコースの設定など
生産性訓練についてさらに説明します。生産性訓練の特徴は3つあります。1つめは、「企業の生産性向上に効果的な知識や技能の習得」です。生産管理など、あらゆる産業分野の生産性向上に効果的なカリキュラムを131コース用意しています。
2つめは「企業のニーズに合わせたオーダーメイドコースの設定が可能」です。自社の会議室を訓練会場にすることも可能ですし、日時や訓練時間も調整可能です。
3つめは「受講しやすい料金設定」です。受講料は1人あたり2,200円~6,600円です。さらに、条件を満たす場合には助成金を活用することができます。
受講した企業からは効率化や残業時間の削減につながったとの声も
生産性訓練を受講した企業の声を紹介します。愛知県の丸茂工業株式会社の例をみると、抱えていた課題として、営業提案の質を高めたいが、経験頼みで体系的な手法が不足しているとのことでした。この課題に対して、「提案型営業手法」というコースを受講していただきました。
訓練では、自社の強みを整理、営業先のニーズ分析、プロファイリングをふまえた提案手法をグループワークとロールプレイで習得していただきました。その結果、「営業スタイルに厚みが増し、顧客に応じた戦略的提案が可能になった」といった声や「社内報告資料も効率化した」という声をいただきました(シート4)。
愛媛県の株式会社中温の例をみると、抱えていた課題として、営業・製造部門間の情報共有不足により、生産計画の精度が低く、残業が常態化しているというものでした。この課題に対しては、「事故をなくす安全衛生活動」「オンラインプレゼン技術」など複数のコースを受講していただきました。
訓練では、部門横断でフローチャートを作成したり、カードゲームを通じて、業務優先度の違いを理解するなど、意思疎通の強化を図りました。その結果、「部門間連携が改善し、残業時間を大幅に削減することができた」といった声や「社員のモチベーションも向上し、職場全体の士気が高まった」という声をいただきました。
生産性訓練の受講者数は2017年度から約16倍に拡大
生産性訓練の受講者数は、2017年度の4,496人から2024年度には7万951人と約16倍に拡大しています(シート5)。中小企業割合も受講者ベースで約64%、企業数ベースで約78%を占めています。人手不足の深刻化に伴い、生産性向上の機運がますます高まってきていると考えられます。
2022年度からはDX対応コースも設置
さらに、生産性訓練では、2022年度からDX対応コースを設け、デジタル技術を活用したプロセスの改善や、デジタルを活用しやすい組織づくりに取り組めるような人材育成にも力を入れています(シート6)。
利用企業の声を紹介します。北海道の株式会社岡田建具製作所では、抱えていた課題として、事務部門の業務改善を進めたいが、RPA導入の具体的イメージが持てず、着手できないというものでした。この課題に対しては「RPA活用」というコースを受講していただきました。
パソコンを使った実習では、非効率業務の抽出方法やRPAの具体的活用法を学習するとともに、部署間で導入効果や課題を共有していただきました。その結果、「RPA導入のハードルが低下し、積極的な取り組みへの動機づけにつながった。総務だけでなく製造・営業のバックオフィス業務の効率化にも展開することになった」という声をいただきました。
群馬県の株式会社ビッドシステムでは、「顧客提案にDXを生かしたいが、概念が抽象的で自社の業務との関連が不明確」という課題を抱えていました。この課題に対して、「DXの推進」「DX人材育成の進め方」というコースを受講していただきました。
他社の事例や演習を通じ、DXの本質と顧客視点での活用方法を学習していただきました。その結果、「DXを多角的に理解し、顧客への提案力が強化した。社内での討論を通じて新しい発想を共有し、提案型営業への転換が進展した」という声をいただきました。
このDX対応コースも、受講者数が2022年度の7,975人から2024年度には1万6,609人へと約2倍に拡大しました(シート7)。
中小企業の受講割合も受講者ベースで約65%、企業数ベースでは約79%となっています。いきなりDXというよりは、業務プロセス改善の中で、DXの必要性が高まっているのではないかと考えています。
AI活用による画像認識システムの開発といったコースも
JEEDでは、そのほかにも職業訓練を実施しています。1つめが在職者訓練です。冒頭、生産性センターの訓練の1つとして紹介しましたが、こちらもDX対応コースを実施しています(シート8)。
一例ですが、「AI活用による画像認識システムの開発」というコースでは、機械学習に関するデータの設定や効果的な画像処理の手法を習得することができます。「ドローンを活用した建物劣化診断技術」というコースでは、ドローンに関する法律等を学び、ドローン技術と併せて、建物診断に必要な技能・知識を習得することができます。
2つめは離職者訓練です。離職者を対象とした標準6カ月の訓練では、各業界の基盤技術に加えて、DXやGXにつながる技術を活用できる人材を育成しています(シート9)。
例えば、生産システム技術科では、協働ロボットを使った自動化システムの構築などを行い、スマートエコシステム科では、太陽光発電システム・HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)の活用に関する技術を訓練に取り入れています。
3つめは、高度技能者養成訓練です。社会人や高校卒業者を対象とした2年または4年の訓練では、ロボット技術を活用した「生産ロボットシステムコース」を実施しています。機械・電気・電子情報の分野を横断的に学びながら、将来の生産技術や管理部門のリーダーを育成しています。
今後も中小企業等の課題に合わせた伴走型支援を実施
最後に、JEEDは厚生労働省所管の独立行政法人で、「らしく、はたらく、ともに」というメッセージのもと、誰もが安心して働ける社会の実現を目指しています。
また、JEEDでは、中小企業等の課題に合わせた「伴走型の人材育成支援」を実施しています。JEEDの訓練は実務に直結する訓練で、なかでもDX対応コースは年々拡大しており、中小企業での活用事例も増えています。
JEEDや生産性センターの詳しい内容、その他の活用事例は、ホームページからご覧になれます。今回の内容が、皆様の人材育成・DX推進のヒントとなりましたら幸いです。
プロフィール
宿谷 慶(しゅくや・けい)
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 公共職業訓練部 調査役
明治大学法学部卒業後、1997年、雇用促進事業団(現JEED)に入職。JEED本部と職業能力開発施設勤務を通じて、職業訓練の企画・立案や支援業務に長年従事。前職では富山職業能力開発促進センター所長を務める。現在は、中小企業等の生産性向上を目的とした職業訓練を中心に、企業の人材育成支援とデジタル技術活用の促進に取り組んでいる。



