パネルディスカッション
- パネリスト
- 水野 嘉郎、福田 隆行、小島 明子、北澤 隆雄、佐藤 光宏
- コーディネーター
- 小野 晶子
- フォーラム名
- 第133回労働政策フォーラム「シニアとフリーランスの新たな働き方の選択肢─労働者協同組合で事業を興す!─」(2024年6月14日-19日)
- ※所属・肩書きは開催当時のもの
- ビジネス・レーバー・トレンド 2024年10月号より転載(2024年9月25日 掲載)
小野 労働者協同組合(労協)はシニアやフリーランスの新たな働き方の選択肢として機能していくのではないかとの思いを持ちながら、パネルディスカッションを進めていきたいと思います。最初に、労協の立ち上げにあたって必要なことについて、水野室長からあらためて説明をお願いしたいと思います。
トピック1:労協の立ち上げについて
簡単に法人格取得(3人以上集まれば設立可能)
水野 労協の特色は、簡便に法人格が取得できるというところにあります。NPO法人だと、行政庁による許認可が必要になりますが、労協の場合には、法律の要件を満たし、登記をすれば法人格が取得できます。また、3人以上の発起人が揃えば設立が可能になります。
具体的な手続きを説明すると、発起人を3人以上集めたあと、定款、事業計画などの必要書面を作成します。通常、設立の登記に至るまでには行政庁に相談しますが、労協の場合は必要ありませんので、設立総会の準備や出資金の払い込みをし、最後に、設立の登記となります。
小野 北澤さんから、立ち上げにあたって気をつけなければいけないことや、どのような思いで立ち上げられたのか、教えてください。
働きがいのある仕事がしたいと思っているなかで情報を入手
北澤 きっかけは、70歳を過ぎてから求職活動をしていた時期で、働く以上は何か働きがいのあるような仕事があればいいなと思っていました。そのとき、労働者協同組合法が成立したという情報をもらい、新しい働き方というのを知り、地元のワーカーズコープに相談しました。
小野 年を取ると新しく友達や仲間を作るのが難しくなる。なかなか外の世界に出て行くまでにはハードルがあると思うのですが。
北澤 やっぱり行動するには勇気が必要です。勇気を出して動いてよかったと思います。ただ、3人の仲間でスタートしましたが、実は3人のうち残っているのは私だけです。友達や知り合いでは継続が難しいです。一定程度労協の理念を共有できる人が仲間に入ってくるということが非常に重要だと思います。
「労働者協同組合」という言葉を知らないので大変だった
小野 佐藤さんはいかがでしょうか。
佐藤 3人を集めるというのは結構大変なことで、「労働者協同組合」という言葉を誰も知らない状況の中で仲間を集めなければいけないので、話を聞いてくれそうな人に「こういうことをやろうと思っているけれども、一緒にやらない?」と声をかけるそのハードルは結構高かったです。
小野 小島さんにうかがいますが、ヒアリング調査では、どのような思いで労協を立ち上げた団体が多かったのですか。
小島 社会的課題を解決していきたいという思いで、もともと労協は知らなかったけれども、こういう法人格であれば、みんなが主体的にメンバーとして参加・運営できるのではないかと考え、立ち上げられた団体は多いと思います。一方で、もともとNPOや企業組合だったけれども、労協が法人格として認められたため、移行する団体もあります。
活動する中で労協の理念を共有していく
小野 労協が持つ理念をちゃんと理解して共有できるかどうかが重要ということですが、メンバー間での意識の共有を最初はどのようにされていたのでしょうか。北澤さんからお願いします。
北澤 上田地域応援隊をつくって約半年ぐらいは、月1回の話し合いをしてきました。みんなに理解してもらえる説明ができるようになったのは半年が過ぎてからで、そこからいろいろな活動を知り、目標ができたのはさらに1年ぐらい経ってからです。行動することによって次の目標がみえてきて、その積み重ねで今があります。人も同じで、行動、活動することによって新しい人との付き合いが生まれて、その人から新しいことを学んで、次の目標がみえてきました。
仕事をしながら理解が深まっていった
佐藤 最初に、言語化して設立趣意書などを作りますが、その段階で活動の理念を共有できていたということよりは、何か言葉にならない部分でとりあえずの信頼関係があるメンバーで始まり、一個一個の仕事をしながら、理解が少しずつ深まっているという気がします。
活動するたびにネットワークが広がっていくというのはすごく実感していて、例えば、立ち上げのときに手続きが全然わからなかったので、ワーカーズ・コレクティブ連合会の人に助けてほしいと言ったら、いろいろな資料を送ってくれたりして、そこで1つ仲間ができました。過去に株式会社をつくったことがありますが、その時にはこういうことは起こりませんでした。やっぱり動いてみると、何か面白いことがどんどん起きてくるという感じがします。
小野 これから労協を立ち上げたいと思う方はどのようなところに相談すれば良いですか。
水野 どういう法人でどのようなルールになっているのかを知りたい方は、厚生労働省が「知りたい!労働者協同組合法」というホームページを作成しています。まずは、これをみていただくと、基礎的な知識が得られると思います。
ただ、具体的にどのように進めたらいいのかとお困りになられることもあると思います。その場合は、ワーカーズ・コレクティブやワーカーズコープ連合会といった当事者団体が、本当に真摯に相談に対応してくれます。また、お住まいの都道府県によっては、そういう相談を非常に熱心に行っていますので、ぜひアクセスしていただけるといいと思います。
トピック2:労協の特徴
小野 少し論点を替えますが、非営利で何か社会的事業を行うのであれば、NPOや企業組合などの法人形態もあると思います。そのなかであえて労協を選ぶという、労協だからこその組織的な特徴について、水野室長からあらためて説明をお願いします。
組合員は1人1個の議決権を保有できる
水野 労協と他の法人との違いを説明したいと思います。まず、実施できる事業が幅広いという点です。NPO法人では法律上、活動分野が20分野に限定されています。一方、労協では、法律の目的の中で持続可能で活力ある地域社会の実現に資する事業となっており、労働者派遣業を除けば、それ以外は全部できるというところが大きなポイントです。
また、目的という観点でいうと、例えば企業組合の場合は経営の合理化、合同会社の場合は営利追求という点で、持続可能で活力ある地域社会の実現を目的とする労協とは違います。さらに、労協の場合は1人1個の議決権ですが、株式会社の場合には出資比率に応じて議決権や経営権が変わってきます。こういった点が他の法人との大きい差異だと思います。
小野 福田弁護士の報告の中でも、メリットとして、労協は組合員と雇用契約を締結して働くため、フリーランスの人は社会保険の保護が受けられるという説明がありました。組合員の労働者性についてあらためて説明をお願いします。
労働者搾取の防止を図るため、必ず労働契約を締結しなくてはならない
福田 労協は、その事業に従事している組合員との間で労働契約を必ず締結しなければならないということが法律で定められています。これは、組合の名前を借りた労働者搾取の防止を図る趣旨から規定されているものです。この義務がありますので、組合の役員であったとしても、組合の事業に従事する場合には労働契約を締結しなければならないこととされています。
ただ、一部例外があり、代表理事、専務理事、監事とは労働契約を締結する必要はないとされています。必要はないということなので、締結してもかまいません。代表理事と専務理事は組合と委任契約を結んでいますので、使用者的な立場にありますし、監事は監査の独立性を担保するために、労働契約を締結する必要はないとされています。
これらの労働契約を締結した組合員全員には、労働関係法規が基本的にすべて適用されることになります。ですので、組合は最低賃金を払わないといけませんし、法定の労働時間も守らなければならないことになります。また、社会保険にも加入する必要があります。
このように、労働者協同組合法は、労協の組合員を労働者として位置づけています。そのため、例えば一部のNPO法人のように、ボランティアで活動を支えていくということは難しい仕組みになっています。
小野 フリーランスが本業だけれども、労協にいる時はその労協の労働者という形になるということですね。フリーランスの人が労協で働くメリットについて、実際にはどうだったのでしょうか。佐藤さんにおうかがいしたいと思います。
佐藤 フリーランスの自由なユニットだと、力のある者の集まりであって、仕事ができない人に居場所があるわけではないと思います。労協の場合は、そういうことがメンバー資格ではなく、優しさといいますか、居場所としては誰もがいられるような制度設計になっているのがいいところだと思います。
働きがいを感じながら仕事ができる
小野 北澤さんが、地域で活動を展開していくうえで、労協を選んだ理由というのはどういうところでしょうか。
北澤 みんなで出資をして、話し合って、仕事をつくり働き、みんなで配分するというこの原則が全く新しい働き方だと感じました。私たちが選んだ仕事というのは困り事解決で、大きく利益を出すようなことはありませんが、働きがいを感じながら仕事ができる仕組みに魅力を感じました。この働き方がこれからの矛盾だらけの日本の社会を解決していくたった1つの道筋ではないかと私は強く感じています。
小野 優しさ、働きがいなど、この現代日本で働くのが苦しくなっているわれわれにとっては、少し働き方の原点に戻れるような組織なのかなと思います。水野さん、全体的にみて、どういう事業目的の組織が多いかとか、どういうところが労協に適しているといったことはありますか。
水野 シニア世代の新しい働き方、フリーランスの副業・兼業での働き方は労協の大きな特徴だと思います。
また、全国各地で少子高齢化の中で地域コミュニティーが弱体化しているという声をお聞きしますが、自治会や地域おこし協力隊の方々を中心に、地域の困り事解決のために仕事をしていきたいというニーズを労協は非常にくみ取っていると思います。
トピック3:労協の事業運営
小野 非営利法人の難しさというのは、労働者の賃金を払っていくだけの事業を、採算を考えて運営していくという点です。ここからは、労協の事業運営について、ガバナンス、お金の工面、意見反映などについてお話をうかがいたいと思います。
まず、ソルガム栽培を事業化された経緯について北澤さんにお話をうかがいます。
農協、市役所も巻き込んで連絡協議会を結成
北澤 地域の困り事を仕事にしようかということが見えてきたのは、地域包括支援センターとの付き合いが始まってからです。困り事を有料で仕事化するといっても、一気に売り上げが伸びるわけではありません。今は、提携が進みながら仕事も進んでくるという状況が見えてきました。
ただ、それをやっていただけでは、なかなか次が見えてこない。したがって、地域課題にワーカーズ上田地域応援隊で取り組んでいくことも、もう一方の活動として位置づけ、家庭菜園チームとソルガム栽培チームをやってきました。ソルガム栽培では、昨年1年間で約400キロ収穫がありました。それを今年、500グラムを1袋にして直売所に置いたところ、反響が大きく、最近はテレビでも取り上げてくれています。
この取り組みは、遊休農地の再生とソルガム栽培が活動の主体です。上田市には324ヘクタールもの遊休農地が放置されていて、この再生と活用が地域社会の課題となっています。これだけの大きいテーマを私どもで行っても、何の効果もありません。ですので、農協を説得し、市役所の農政課を訪問し、農地の再生とソルガム普及を呼びかけることを1年間やりました。その結果、今年ようやく、連絡協議会をつくって、地域の課題を市民の皆さんと一緒に取り組めるようになってきました。
今後は販売の見通しも立てながら、事業性を持たせていこうと進めています。今年は100万円の売り上げを目指しています。
決算書など事務作業の負担が大きい
小野 労協うえだの活動事例の動画は、厚生労働省のホームページで取り上げられていますので、ご参照いただければと思います。北澤さん、難しかったことや苦労したことについても教えてください。
北澤 立ち上げるまでは順調にきましたが、法人化されたので、当然ながら、権利・義務の関係で、税務署や市役所など、いろいろなところへの報告義務が生じます。決算書を作るということも当然の義務ですが、経理のほうがなかなかできなくて、急遽、会計士の友達に頼み込んで決算書を作ってもらいました。
立ち上げの前はそこまで考えていませんでしたが、いざ決算となるとクリアしなければいけない問題があり、それに力を注ぎました。私どもは今、連合会に加盟しています。1番の目的は、やっぱり仲間が辞めたときに考え方の共有をしなければいけないなということがあり、連合会に入ることによって、そういうことが学べるんじゃないかと考えたからです。また、今日まで至った経過の中に、連合会のほうからも決算に伴う指導をいただき、何とか乗り越えることができました。
労協のためのアプリが開発されれば
小野 事務作業を軽減するようなアプリなど、何か使われているものがあったら教えてください。
佐藤 本当はお金になる仕事をどんどんやりたいわけですが、給与計算や社会保険関係の手続きなど、それ以外のところに時間やコストをかけざるを得ない実態があります。
情報共有のためにアプリも試していますが、やっぱり企業向けに開発されているので、管理者と従業員のような形式の中でアプリが設計されていて、労協では「何であなただけが権限を持つの?」というような話にもなりかねないので、そういう意味では、労協のためのアプリが開発されるとわれわれの働き方も楽になるのかなと思います。
小野 バックオフィスを担うような労協はないのでしょうか。
水野 事務局ワーカーズという形態の労働者協同組合があり、これはワーカーズ・コレクティブの法人ですが、そういったところの事務局機能を担っています。事務作業を担う法人も当然、形態としてはあり、労協の連携の中でそういう事業展開をしていくことも十分あり得ると思います。
佐藤 単体の労協がすべて自前で何かやろうとすると非常に負担が大きいですし、足りない部分が絶対どの団体もあって、それを補い合うような仕組みにするには、もう少し労協が広がっていく必要があると思います。
融資は難しくても、経営ノウハウや人材の連携は図れる
小野 労協自体が広がっていくにはいろいろなサポートが必要になってくると思います。非営利法人が事業を行う時、融資してくれる金融機関が少ないということはよく聞いたりしますが、いかがでしょうか。
小島 金融機関が優先的に労協に融資するのは難しいと思いますが、地域の金融機関のネットワーク、経営のノウハウ、人材などは非常に豊富に有していると思うので、連携して活用できるのが重要だと考えます。地域の金融機関で実際に働かれている中高年の方の中にも、自分のセカンドキャリアについて悩んでいらっしゃる方はいっぱいいると思っていて、そういった方々が地元の労協で働くという選択肢が生まれると、緩いネットワークが強固なものになっていくのではないかと感じています。
金融機関との連携による労協の可能性
小野 実際に金融機関と労協が連携して取り組んでいる事例はありますか。
水野 例えば、城南信用金庫では、廃食油の回収を通じてバイオディーゼル燃料を製造する労協と連携し、取引先企業を紹介し、廃食油の回収先の開拓に協力しています。また、多摩信用金庫では、地域に明るい金融機関として、地域の労協が運営するマルシェへの新たな出店候補者を紹介しています。
トピック4:合意形成のあり方
小野 もう1つ重要な論点として、ミーティング、会議など合意形成をどう図っていくかということがあります。労協の意見反映の仕方は特徴的ですので、福田弁護士から説明していただいてもよろしいですか。
意見反映原則が定められている
福田 組合員の意見の反映について、法律がどのような規定をしているのかということを説明したいと思います。労働者協同組合法は意見反映原則というものを定めており、これは、事業を行うにあたって組合員の意見が適切に反映されることを言います。労働者協同組合の基本原理、3つの基本原理のうちの1つになります。
この趣旨を支える規定として、法律は、各組合員が1個の議決権と役員の選挙権を有することを定めています。株式会社は1株1議決権となっていますが、労協の場合は、何口出資したとしても議決権、選挙権は1つで、組合員の意見が反映されやすいような形になっています。
それから、意見反映原則を具体化した規定として、組合員の意見を反映させる方策に関する規定が、労働者協同組合の定款の絶対的記載事項とされています。また、理事がこの実施状況とその結果を通常総会に報告しないといけないということも定められています。
組合員の意見を反映させる方策として法律上どういうことが想定されているかというと、例えば会議で意見を集約するという場合には、その開催方法や開催の時期、最終的にどうやって意見を決めるのかといったことを定めなくてはなりません。それから、日常的に意見を集約するということであれば、例えば意見箱を置くとか、そういったことを定款上定めないといけないことになっています。
具体的にどうやって組合員の方々の意見を事業に反映させていくのかということについては、おそらくそれぞれの組合で工夫しているところだと思いますので、私もぜひ具体的なお話をうかがえればと思っています。
とにかく一緒の場にいれば何か可能になる
小野 佐藤さん、いかがですか。
佐藤 あまり難しく考えないで、何かすごく議論を活発にたたかわせるだけが民主主義の議論ではなくて、ずっと黙っているんだけど、ぽそっと何か言ったことが決定打になったこともありますし、とにかく一緒の場にいるということができれば、何か可能なのではないかなと思っています。
北澤 みんなで話し合って進めるということは重要ですが、どうすればできるだろうかという、その知恵をみんなで出そうという雰囲気づくりを大切にしています。一方でタイミングが重要とも考えています。熱が上がっているときに話すと盛り上がりますが、熱が冷めちゃったら話が前に進みません。話し合いもしながら、かつ目標を次々と立てるべきだと思っています。
自分が主体的にかかわって解決していく働き方が労協
小野 組織運営をしていくにあたって、働くことに対する自分自身の考え方が変わってきたなど、何かそういうことがあったら教えてください。北澤さんはシルバー人材センターで働きながら、労協をされていて、二輪で働いているキャリアですが、その点についてもお話をうかがいたいです。
北澤 活動してみて強く思っているのは、自分の得意とする分野で活躍することがとても重要だということです。メンバーの中に電気工事士の資格を持っている人がいて、その資格を活かして始めたのが営繕活動になります。いろいろなキャリアを持っている皆さんが集まってきているからこそ、労協でいろいろなことができると思っています。
私自身も、今シルバー人材センターの仕事もしていますが、シルバー人材センターの働き方と労協の働き方は根本的に違うと思います。言われた内容をこなすという働き方がシルバー人材センターで、労協の場合は、言われた内容をこなすというより、自分が主体的にかかわって解決していく働き方です。いろいろな働き方があっていいと思いますが、労協の中で働くという選択肢もぜひ作っていきたいと思い、両方かかわっています。
佐藤 かつて個人事業主をやっていて、この不安定な中で子どもは育てられないなと思い、一旦休業して、会社に勤め始めたことがありました。給与もそれなりにもらえて良かったのですが、期待されるものも大きいから、自分がこれだけの成果を上げているというのを常に見せ続けなければいけないというのは非常にしんどいという思いがありました。
そういうふうに追われていくことで、家族のために会社に勤め始めたのに、家族のことはほったらかしになるということも起きてしまいました。でも、今、会社を辞めて労協を始めて、また不安定な身分になっているので、どっちが家族にとって幸せか僕にはわかりませんが、自分が納得する生き方をするしかないかなと思います。
トピック5:労協の可能性や課題
小野 労協は個人の生き方や働き方にも大きな影響を与えますし、社会にとっても労協が果たせる可能性や役割というのは非常に大きなものになっていると思います。今のこの人口減少下の日本において労協が何を担えるか、可能性と課題について、ご意見をいただきたいと思います。
1人で起業するよりはハードルは低い
小島 中高年の活躍の場の解決策の1つとして労協という可能性がありますが、普通に企業に勤めていた方が、急に会社を辞めて労協で働くというのは難しい面があると思います。ただ、3人集まって立ち上げるという点では、1人で起業するよりはハードルは下がるのではないかと思っています。
企業の目線でというと、副業・兼業が解禁できない企業もあると思います。
小野 フォーラムを視聴している企業の人事の方から、ちょうどこんな質問が届いています。「兼業・副業を緩和し、社会貢献事業をやろうと考えていますが、規定を変えるにあたって、どういうふうなポイントを押さえたらいいですか」。小島さん、回答をお願いできますか。
小島 最近、越境学習というアウェーとホームを行き来することによって従業員の人材育成につなげていくというプログラムを導入する企業も増えてきてはいますが、労協は、主体性や自分たちで仕事をおこすという特徴があると思いますので、副業・兼業の規定を変えなくても、労協でまず体験する機会をつくっていくということは、従業員の主体性や地域課題への意識を高めるという人材育成の視点から、意味があるのではないかと思います。
労働時間の通算に注意を
小野 労協で副業・兼業をするにあたって、法律上注意する点を教えてください。
福田 まず、労協の組合員になると、当然、労働契約を結ばないといけません。就業規則上、副業・兼業が禁止されていると、それは就業規則違反になってしまうので、副業・兼業を認めるような就業規則に変える必要があると思います。現状においても副業・兼業を禁止している企業もまだ多数ありますが、一律禁止とするのではなくて、許可制のような取り扱いにすることが望ましいと思います。
具体的な就業規則の中身については、厚生労働省がモデル就業規則を出しています。その中で副業・兼業の規定も入っていますので、そちらを参照いただきたいと思います。
それから、もう一点が労働時間の関係です。副業・兼業として労協で働く場合には、本業の労働時間と副業の労働時間を通算する必要があります。例えば本業がフルタイム勤務で、本業の所定労働時間が1日8時間で週40時間と規定されている場合には、労協で副業をすると、その労働が全部法定外労働時間になってしまいます。そうすると、すべての労働について割増賃金を払う必要があるので、労協としては非常に費用負担が大きくなってしまうというところは気をつけなければなりません。
小野 企業側から見たときと労協側から見たときではまた、少しやりようが違ってきますが、企業側のほうでは、労働時間管理が1つのハードルになってくるだろうと思っています。越境学習のための休暇といった制度を創設して、活動するときにはそういう休暇を取ってもらったり、ボランティア休暇をうまく活用できていないケースもありますので、そういった制度とうまく組み合わせて、実質的に副業・兼業で、労協で働くことも実現していけばいいなと思っているところです。社会において労協が1つの大きな器になり得る可能性が出てきているのではないかと今日のパネルディスカッションで感じたところです。
行政の自治会への委託事業への参入も検討
小野 最後に、それぞれから労協の可能性、課題、PRしたいことなどについてコメントをいただいて、パネルディスカッションを終わりたいと思います。
北澤 今後の事業展開について、私たちは事業性の柱を3つ立てようと思っています。1つ目は、困り事の仕事をしていくということ。2つ目は農産物の販売で事業をしていくこと。3つ目は、行政が自治会に委託している事業を労協での仕事として受託していくことです。自治会も人材不足で、このままでは成果の出せる活動はできません。むしろもっと主体的に活動しなければならない時代になっていますから、柱のもう1つにしたいと思っています。
佐藤 私は専門学校の教員をしていたとき、学生を就職させたものの、長く続かなくて辞めてしまうということがありました。だから、労協が1つの選択肢としてこの社会に存在するようになるということは、若い人たちにもう1つ選択肢を与えることになると思います。個人的に、何か次の世代に残せるものに取り組んでいきたいと思っていますので、ぜひ興味のある方は一緒に取り組んでいきましょう。
小島 企業に勤めている方が労協を急に設立するというのは非常にハードルが高い一方、協同労働という働き方を学ぶと、企業で働くうえでも役に立つところがあると思っています。私は日本総合研究所に勤務していますが、パートナーの団体様と一緒に、企業に勤めている方が協同労働の場を体験できるように共創の場づくりに向けて取り組んでいます。関心のある方がいらっしゃいましたら、お気軽にお問い合わせいただければと思います。
自分らしく働く場をつくれる可能性を秘めている
福田 労協で働くということは、組織に属しながら、しかも主体的に働くことができるという、非常に魅力的な働き方だとあらためて感じました。これまで様々な原因で働きづらさを感じていた方々が自分らしく働く場をつくれる可能性を秘めていると思います。法律の面では、労働者協同組合法は施行後5年を経過したところで必要な措置を講ずるということが附則で書かれていて、これから様々な組合が設立されて、議論が積み重なっていくなかで、制度自体もより良いものになっていくと期待しています。
水野 労働者協同組合法の施行から1年半で、100近い法人が設立されています。日本では労協の認知はまだまだ進んでいませんが、世界に目を向けると、例えばスペインのモンドラゴンでは、グローバル企業と同じように、総事業高が約1兆9,000億円、総労働者数約7万人という大規模な組織もあり、非常にポピュラーな働き方です。厚生労働省としても、この労協を新たな働き方の選択肢としてしっかり提示できるように全力で取り組みたいと思っています。