事例紹介2 ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援 相談支援現場からの実践報告──北の国のハローワークから
- 講演者
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- 奥村 英生
- 厚生労働省北海道労働局 北見公共職業安定所(ハローワーク北見)所長
- フォーラム名
- 第130回労働政策フォーラム「ガイダンスツールを活用した就職相談とキャリア支援─相談支援現場からの実践報告─」(2024年2月27日)
ハローワークは全国に500カ所以上設置されています。お仕事を探されている方、事業所の方にさまざまなサービスを無償で提供する、厚生労働省が運営する総合的雇用サービス機関です。利用者は在学中の方から、高齢者、障がいのある方や子育てとの両立などで悩みを持っている方などさまざまです。お一人お一人に真摯に向き合い、支援しています。
最初のステップで自己分析のお手伝い
ハローワーク利用者の多くは就職することを目標としているため、就職活動の進め方を、①自己分析・労働市場分析②条件決定③求人を探す④応募準備⑤応募──の5つのステップに分け、そのステップに応じたサービスを提供しています。
ステップ1の自己理解・労働市場分析では、お仕事探しを上手に進めるためにはまず自分自身を知ることが大切ですので、仕事選びなどで迷っている方には、自身の興味や関心、職業経験の振り返りなどの自己分析のお手伝いをしています。私どもは窓口で傾聴し、受容的な態度で共感的にお客様を理解することに努めていますが、自己理解が不足している場合でご自身のことを理解していただく必要があるときに、アセスメントツールを用いることがあります。
スタッフの多くはアセスメントツールの研修を受講
ハローワークのスタッフの多くはアセスメントツールの研修を受けています。興味や関心についてはVPI職業興味検査(職業興味尺度)やVRT(職業レディネス・テスト)のA検査(職業興味)、適性や能力についてはGATB(厚生労働省編一般職業適性検査)、あるいはキャリア・インサイトを用いて適職を考えるきっかけづくりをすることがあります。アセスメントツールは、お客様が希望したら使用するということではなく、使用すべき方なのかどうかを把握してから、正しい方法により活用するようにしています。
2018年のJILPTと日本キャリア教育学会の共催シンポジウム(問題提起「就職支援・キャリア教育における検査やツールの役割」)では、GATBなどの検査について、実施に時間がかかるので、なかなか使いづらいという指摘もありました。ただ、Gテスト(職業適性テスト)に関していえば、GATBなどに比べ、準備に取りかかる時間が大幅に短縮できるメリットを感じるところです。
GATBは、客観的かつ非常に正確な検査結果が得られるという大きな利点があります。その結果、ある意味、うそ偽りのない結果が出ます。そのため同シンポジウムでは、結果の取り扱いに慎重さが必要であるということが強調されています。受検者が望んでいない、芳しくない結果が出たときに、支援者としてフルに想像力を働かせ、受検者に共感し、配慮しながら結果を伝えたり対応したりする必要があると同シンポジウムの資料には記されています。まさにこのとおりで、私どもはこの記載されていることを十分に理解したうえでアセスメントツールを利用しています。
ケース1:20代女性のAさんでの活用の例
ハローワーク北見では、Gテストをこの1年間で27人ほどが利用しました。本日は2つの事例をお持ちしました。私はマネジメントをする側におりますので、お客様と直接相談をしていませんが、窓口スタッフと常に事例検討をしているなかで、今回の機会にぜひお伝えしたい2つを選びました。
ケース1は、20代女性のAさんで、やりたい仕事に就くために、専門学校入学のために上京しました。2年間学んだ後の就職活動では希望する仕事に就くことができず、少しでも関連する仕事に就きたくて、パートの仕事に就きました。働きながらやりたい仕事への応募は続けたのですが、残念ながら不調が続き、パートの収入だけでは生活できず、これ以上困難だと思って、親と相談のうえ、地元に戻られた方です。
今後、地元で正社員として自立したいと考えていますが、職業経験はそのパートのみで、高校以来の地元で「自分が何ができるかわからない」ということで、ハローワーク北見にお見えになりました。もう少し説明すると、その専門学校はデザイン系の仕事に就くための学校で、学んだことを生かすには職種が限定されてしまいます。就職活動が不調だったという点については、自己PRが苦手という自己分析ができていました。パートの職業経験を生かせればよいのですが、その仕事は希望していたデザインを商品化する会社の清掃で、仕事自体はデザインに関連するものではありません。
そこで、興味や関心だけではなく、自身ができる仕事の理解をする必要があることから、今回Gテストを利用することにしました。この方にはハローワークの中にあるパソコンで受けていただきました。とても緊張していた様子で、ベーシックの3つの検査(展開図で表された立体形を探し出す検査、文章を完成する検査、算数の応用問題を解く検査)では解答数が伸びませんでしたが、ベーシックで慣れてきたせいからか、続くアドバンスのほうでは、同じ図柄を見つけ出す検査で解答数と正答数がかなり伸びました(※注)。学んでいたデザインに関連する検査が高い点数になったことにご本人も手応えを感じられたようです。
※編集部注:本フォーラム開催時点では、Gテストはベーシックの3つの検査(A:展開図で表された立体形を探し出す検査、B:文章を完成する検査、C:算数の応用問題を解く検査)と、アドバンスの2つの検査(D:文字・数字の違いを見つける検査、E:同じ図柄を見つけ出す検査)で構成されていたが、2024年度からはベーシックの3つの検査(S:展開図で表された立体形を探し出す検査、V:文章を完成する検査、N:算数の応用問題を解く検査)と、アドバンスの3つの検査(Q:文字・数字の違いを見つける検査、P:同じ図柄を見つけ出す検査、K:見本と同じ位置に点を動かす検査)で構成。
結果として表示された職業グループの第1位がSV(対人サービス)で、これはAさんにとってかなり意外だったようです。また、B検査とD検査の正答率が100%なことから、この方は慎重な方ではないかということがうかがえました。
本人には、社会に出てから人との関わりが少しずつ増えていくと、やがて対人業務も少しずつうまくなっていくかもしれない、だから可能性としてはありますよというような話をしたうえで、職業グループとして2位だったTC(技能・テクニック)、3位のMN(加工・製作)についてはひょっとすると受け入れやすいかもしれないということで、TCに関連した職業検索で出てきた求人を勧めてみたところ、ご本人も検討してみたいということになりました。
しかし、今回の結果でSVが出たことはAさんにとってインパクトが大きかったようで、相談を進めるうちに、次第に対人業務を伴う仕事に興味を持ち始めました。きっと、自分の可能性を限定してはいけない、フタをしてはいけないという気持ちが芽生えてきたのだと思います。そして、いくつか応募した後に、営業職の求人に応募してみたいという話になり、営業とあわせてホームページやウェブデザイン作成の仕事の比重が高い、デザインを学んだことが生かせることが含まれる仕事を紹介したところです。
面接の結果は不調に終わったのですが、来談当初を考えると、Aさんの成長や変化を感じました。最終的にAさんは受付や電話対応のある医療事務の仕事に就職することになり、違う地域での勤務でしたが、親から離れて生活することを選びました。Gテストをきっかけに、自分のできること、自分の可能性が広いことを認識したことで、自己肯定感が高まり、就職に結びついた事例でした。
ケース2:10代の高校生Bさんでの活用の例
ケース2は、10代のBさんで、卒業を翌年に控えた高校生です。通常、高校生の就職は学校の進路指導部が関わりますが、学校での支援を希望しませんでした。もともと進学希望でしたが3年生で進路変更し、就職希望となりました。進学してからやりたい仕事はシステムエンジニアで、進学先でプログラミングを学んでから就職したいと思っていましたが、高校卒でその仕事に就くのは無理かと不安を持っており、まずは自己理解を深めて、高校生向けの求人を検討する必要があったので、できることの把握のためにGテストを用いることとしました。
学校でインターネットでの授業があったので、パソコン操作、キータッチがとても速く、B検査ではあと一息の46問の解答でした。Gテストでは、高校生でテスト慣れしていたせいかどんどん解答していき、スタッフから見てもとても楽しそうに受検していたようです。結果として、EG(エンジニアリング)、TCが上位グループとなり、本人もとても納得され、受検後の相談では、面談当初と違って話が滑らかになりました。新規の高卒でシステムエンジニアに従事するのは難しいと思っていたのですが、高卒向けの東京勤務の求人がありました。当然、育成前提の求人ですし、Bさんも東京勤務が可能でしたので、諦めていた夢が手に届くところにあると知って目が輝いたそうです。
固定的な解釈をしないように注意を払う
GATBにしても、Gテストにしても、ある意味うそ偽りのない結果が出るので、希望している仕事に適性がないという結果が出る場合もあります。例えば、GATBでは加算評価段階があって、この加算により、本来の検査結果とあわせて、訓練、努力をすれば上がるであろう能力をふまえて解釈を伝えることができましたが、Gテストではそのような加算がないということで、苦慮するスタッフもいます。そもそもGATBとGテストでは、深町先生がおっしゃったとおり、基準値と換算表が全く違いますので、GATBの換算表を使った解釈はGテストではできません。ウェブシステムゆえ、加算することができないという限定もありますので、だからこそ、固定的な解釈はしないように注意しなければならないと思っています。
客観的で非常に正確な検査結果が得られる職業適性検査とGテストを用いた支援は、引き続き現場から求められるツールであると思っています。Gテストは利用者自らが簡便に使用できるツールであり、結果の精度が高いということで有益な自己理解ツールである一方、自身が求める方向性と違う場合、職業例示などから選職の方向性を限定するなどのおそれもあります。支援者としては、検査結果によって相談者をより深く理解し、そのうえで寄り添った支援ができるよう研さんする必要があると考えています。
プロフィール
奥村 英生(おくむら・ひでき)
厚生労働省北海道労働局 北見公共職業安定所(ハローワーク北見)所長
1982年4月労働省(当時)入省。職業安定行政に奉職し、以降北海道内のハローワークや北海道労働局など17か所で勤務。キャリア形成支援に関しては2007年から4年間、ジョブカード制度や基金訓練制度(当時)による求職者支援に従事。他に若年者・新規学校卒業者業務、子育て両立支援業務など職業相談全般に従事。2017年以降はマネジメント業務の傍ら後進の育成業務にも従事する。1級キャリアコンサルティング技能士、国家資格キャリアコンサルタント。
(2024年6月25日 掲載)