パネルディスカッション

パネリスト
周 燕飛、千年 よしみ、山本 直子、田中 宝紀、山野上 麻衣、松本 貴之
コーディネーター
山野 良一 沖縄大学 人文学部 福祉文化学科 教授
フォーラム名
第128回労働政策フォーラム「外国にルーツを持つ世帯の子育てと労働を考える」(2023年10月13日-19日)

事例紹介へのコメント

山野 今回のフォーラムは、研究者の方からアンケート調査や研究をもとにお話しいただき、また実践者の方からも現場の事例を聞くという、双方からの報告があるところが特徴的だと思っています。まず、事例紹介に対して、研究者の方々から、それぞれ少しコメントをいただければと思います。

魅力的な学びの場になっていることが素晴らしい

 支援現場の視点からの興味深いご報告、ありがとうございました。田中さんの報告ですが、YSCグローバル・スクールが外国人の家庭に対して利便性・有用性の高い教育支援を行っているところは印象深かったです。日本語教育だけではなく、勉強についていけない子どもへの学習支援も行っているなど、YSCは外国ルーツの子どもにとって魅力的な学びの場になっていることが素晴らしいと思います。そして、奨学金や助成金を活用して、経済的に困難な家庭に低料金のサービスを提供できたところも、事業をうまく運営できるポイントではないかと思います。

山野上さんの発表では、南米系の子どもや若者を取り巻く環境を丁寧に、系統的にまとめてくださいました。「定住者」資格で滞在する日系南米人は家族帯同が認められているので、自分の就労だけではなく子育てでも課題を抱えている人が多いことが印象的です。いわゆる「標準的で正しいとされる大人への道のり」ができない外国ルーツの児童がとても多く、通常のキャリア教育ではなかなか救えないという厳しい現状がよく伝わってきます。それぞれの状況に合わせてきめ細かな支援が必要というご指摘はごもっともだと思います。

横浜市は、外国人の生活満足度を70%に引き上げるという明確な政策目標を掲げ、さまざまな取り組みを行っており、親だけではなく子ども向けの支援や社会環境の整備など、全方位型の支援が非常に印象的で、自治体の取り組みとしては、素晴らしい成功事例だと思います。取り組み前後の外国人の満足度はどのくらい変化したのか、施策効果の検証も期待したいです。

高い育児スキルが求められる日本の子育て

日本では、親に高い育児スキルが求められます。「育児スキル」を英語でいうと「ペアレンティング・スキル」となりますが、宿題の指導から、進学の指南、子どもの栄養管理や健康管理まで、その範囲が多岐にわたります。外国人の方々が、学歴や言語の壁、経済的困難、慣れない環境といった多重のハンディを背負っているため、日本人の親のように「ペアレンティング・スキル」を発揮するのはとても難しい。それが原因で、学校を卒業して正社員として就職し、家庭を形成するという「標準的で正しいとされる大人への道のり」をたどれない外国ルーツ児童が多いのではないかと思います。

それには、2つの側面からの支援が求められます。まずは親のペアレンティング・スキルを向上させるような支援です。例えば外国人がよく訪れる場所に多文化コーディネーターを設置したり、外国語のできる育児専門家が家庭を1対1で支援する「ファミリーパートナーシップ」制度を設けたりすることが考えられます。もう1つは子どもに対する直接的な支援です。YSCグローバル・スクールや横浜の国際教室が、まさにそのような支援を行っています。公立高校などで進学指導員を設置するアメリカの取り組みも参考になります。親に進学や奨学金に関する知識がなくても、指導員がいれば、外国ルーツ家庭の生徒が高等教育によりアクセスしやすくなるかと思います。

以上の支援活動は、民間組織に頼りきりにならないための仕組みつくりが必要です。地域に根差したNPOなどの地道な草の根活動がもちろん重要ですが、やはり財源や規模の制約が大きく、より多くの外国ルーツ家庭に持続的かつ安定的に支援を届けるためには、公的支援制度を確立する必要があると思います。

保護者が多くの授業料支払いに驚き

千年 普段なかなか聞くことのできないNPO法人の実践活動と地域の方の活動、行政の活動を具体的に聞くことができて、非常に勉強になりました。

田中さんのお話で、支援活動を公的な支援も受けずに授業料を保護者から払ってもらって運営していることには本当に驚きました。それでも子どもをYSCグローバル・スクールに通わせるというのは、子どもに勉強を続けてもらいたい、子ども自身も勉強したいと思うからで、こういうスクールが続くことが本当に望ましいと思いますし、そのためにも、公的な支援が使えないものかと感じました。

そのようなスクールでは学習面だけでなく、同じような立場の子が集まり、生活上で困ったことにヘルプが求められますし、自分の居場所があると感じられる。すごく貴重な場所で、そういう場所がもっと増えればいいと思います。田中さんがおっしゃっていた「アライ」になるというのはとても重要で、やはりそれを成り立たせるためにお金を持続的に得ていく面もとても重要だと感じました。

暗黙ルールの息苦しさが子どもにも

山野上さんのお話には、私も身につまされる思いで、いかに日本の社会が年齢軸で規定され、大人になるための正しいルートが暗黙にできているか、バランスをとる目を養う必要があると感じました。そして、その暗黙のルールの息苦しさは、日本人の子どもにも同様にあるのではと思いました。学校に入ったらもう暗黙ルールがあり、新卒一括採用のなかで、周りの空気を読み取る能力、そういう大人の働き方の暗黙のルールが昇進に影響する。それが会社を辞めづらく、辞めたら転職しづらくなる理由の1つかとも思いましたし、率直に外国の人にとっては不利に働くのではと感じました。

横浜市における在住外国人の松本さんのお話ですが、私も横浜市民で横浜国際交流協会のホームページを見ていて、とても進んでいるという印象を受けました。外国の方の生活、さまざまな側面、全てのライフイベントに沿って支援があり、それが多言語で書かれているうえに、優しい日本語もあり、本当に助かるのではないかなと思います。同時に、自治体によって外国人向けの支援策などの情報提供のレベルには、大きな格差があるとも感じました。

正しさに縛られて結果的に排除につながるとの見方に同感

山本 量的なデータの分析からのみでは分からないお話をおうかがいすることができて大変勉強になりました。研究報告の中で指摘したように、やはり外国から来た外国籍の労働者の方々は、パートタイム労働や早朝・夜間の勤務に就くことが多く、なかなか支援に結びつきづらいことはあると思います。やっと支援に結びついたとしても、自己責任の論理で逆に放置されてしまうケースもおそらくあると感じました。

山野上さんの報告の、過去の成功や標準、正しさに縛られすぎてしまい、そこに引き戻っていこうとすると、それが社会的な包摂を意図していたとしても、結果的に排除につながってしまうというお話はまさにそうだなと感じました。

私も東海地域で主に定住者の在留資格を持つ方々を対象に調査を行ってきましたが、90年代に日本に入ってきて、一生懸命工場でずっと働いて育てた子どもたちの世代が、もう社会に出ているという状況です。そういう方々にインタビューをしていると、親の世代が「もうこんな苦労はさせたくない」と、一生懸命お金をかけて勉強させて何とか大学に入れたいと頑張ってきた。しかしいい就職先はなく、結局、親と全く変わらない労働に就いて、手元には奨学金による多額の借金が残った。「結局は単純労働という結果が同じなのだとしたら、奨学金という借金を背負わないほうがよかったんじゃないか」と涙ながらに語る人もいました。

日本社会は人手が足りないところに都合よく人を呼んできて、今度は少子化の影響で大学生がいない時に外国ルーツの人たちを巻き込み、結果として残ったのは、外国ルーツの人々の貧困の再生産だったのか、と考えてしまいました。日本社会の標準や正しさ、就職活動など、過去の当たり前にあった制度にとらわれることなく、もっと多様な生き方や多様な人たちを見せていく、接してもらっていくことが重要なのだろうな、との感想を持って聞いていました。

経験を生かして今は自発的な取り組みも

私も実は大学が横浜市の緑区にあり、横浜市は日本の中でも最も古くから多文化共生に取り組んできた自治体の1つで、たくさんの地域の方々が活動していると思います。緑区で、とても興味深いと思っているのは、最近、インドやインドネシアの方々が増えており、90年代にブラジルから来た方々のときと同じように、公営住宅に住んでいます。私はずっとブラジル人が集住する公営団地で調査してきたのですが、そこで見られる事例は、やはり90年代と違うものがあると感じています。

90年代は本当に経験もなく手探り状態で、知識もない支援者と被支援者が、何とか頑張ってみんなでやっていたという状況でした。今は、90年代に子どもだった世代の人たちがその頃に経験した多文化共生から様々な知識を持っていて、私たちで何かやろうという自発的な取り組みがあります。

支援者・被支援者という固定的な関係性ではなく、子育てをしている私達と、外国にルーツを持つけれどもいろんな知識がある人たち、もう定年退職して時間はあるけれどスマホの使い方などを助けてほしい人など、様々なニーズを持った人たちが集まってお互いに助け合っていて、とても理想的な姿だと思っています。多様な生き方や、いろいろな役割を感じてもらえる場を提供するのも大切で、日本人との、もっと多様な形での交流が必要ではないかと感じました。

研究報告へのコメント

山野 今度は、実践者の方々から、研究報告へのコメントをいただきたいと思います。

これまでは外国ルーツを持つ人の実態を明らかにするのが困難

田中 研究報告での資料と動画を見て、非常にありがたいデータをまとめていただいたと思いました。これまでなかなか外国にルーツを持つ人たちの実態を明らかにすることは難しかったですし、外国ルーツの人が経済的に困難な状況に陥りやすいことは、現場では理解されていても、実際は詳細なデータを得られなかったこともあったので、支援するうえでの基盤となる数値としても、多く活用させていただきたいと思います。

外国ルーツの人にかかわる支援や取り組みを始めたいという声も各分野で増えていますが、接点を持つことが難しいという課題も聞くので、居場所に関するデータは、アウトリーチ先の絞り込みなどの実践の中で、とても有効だと感じました。

言葉の壁など調査にかかるフィルターをクリアできるか

難しいことですが、言葉の壁の問題など、調査にかかるフィルターをクリアできるといいなと思っています。さらに今後、親子関係にかかわる部分など、夜働いている親御さんとお子さんのコミュニケーション量が少ないというデータもありましたが、時間がないからなのか、そもそも共通する言葉を持てていないのか、なども明らかになってくるといいと思いました。

また、すでに集住地域で少し蓄積があるのかもしれませんが、かつて海外にルーツを持つ子どもとして日本で過ごして成長した人、例えばダブルリミテッドの状態だった人が、その後、どのような人生をたどっているのか。言語的な支援の有無や環境の違いで、人生のキャリアにどういった異なりが出ているのか。何が足りていて、何が足りていないのかを明らかにするためにも、後追いの調査ができれば、より現場での実践に生きてくるのかなと感じました。

山野 ありがとうございます。田中さん、先ほど千年さんから「公的な支援は使えないものか」との質問がありましたので、横浜市の報告とつながるかもしれませんが、公的な支援について何かコメントはありますか。

田中 実は最近、自治体からの委託を受けて、その自治体に住んでいるお子さんが学習をする時に、自治体がYSCの受講料分を負担する事例が、特にオンラインでの日本語教育のプログラムで進んでおり、公的な資金が流れてきやすくなってきています。少しずつ、子どもの日本語教育に対する公的資金が出て来やすい状況は生まれていると認識しています。

貴重な試みだが子どもの姿・状況が想像しづらい

山野上 「子どもの生活実態調査」を用いての報告でしたが、全体的にデータがないなかで、出発点としては貴重な試みであることは間違いないのですが、なかなか具体的な子どもたちの姿や置かれた状況が、この調査結果だけでは想像がつきにくいという感想を抱きました。

千年さんからは、今回、調査票の日本語が読めない人たちが回答できていないため、外国ルーツの世帯の生活困難状況が過小評価されている可能性が説明されていました。外国ルーツのなかでも、「両親とも外国籍」の世帯比率が実際よりも低いようにみられるため、世帯に日本語が読める大人がいない家族の状況は、あまり捉えられていないと考えたほうがよいのではないかという印象をもちました。ただし、多言語であれば回答が得られるかといえばそうとも言えないので、先行事例を踏まえたり、質的調査を組み合わせたりして検討する必要があるかと思いました。

山本さんのご報告からは、子どもの「遊ぶ権利」の不平等、あるいは「子どもをケアする時間の貧困」など、子どもの貧困研究の蓄積を活かした問題関心や分析の視点を感じます。これは、「子どもの生活実態調査」という枠組みに則って分析したことの1つの成果だろうと思います。ただ、その意義が若干伝わりづらかったのは、少しもったいないと思いました。

とはいえ、今日のフォーラムを含め、この数年間のさまざまな動きをみていて、「やっとスタートラインに立つことができた」と思っています。移民の子ども・若者に焦点化した研究や実践と、社会のなかで不利な状況に置かれる子ども・若者全体をめぐる研究や実践は、いずれも日本では蓄積が浅く、これまであまりつながってきませんでした。これからも、実践や調査・研究の方向性や方法について「今後のために議論を積み上げていく」機会をたくさん持てるとよいと思いました。

受け入れに賛成だが共存に抵抗とのデータに業務経験から同感

松本 周さんの報告ですが、外国人材の受け入れはおおむね賛成の意見が多く、その一方で、共存に抵抗がある人が多いというデータについては、私自身4年間この業務を担当していて、市民からも意見が寄せられるなか、そうだなと実感するところがありました。

また、これまでの外国人材の受け入れのフェーズについて、歴史を追って解説いただきましたが、先日、ある企業にヒアリングに行ったところ、特定技能の2号に移行したいという従業員はいるけれども、認定試験のハードルがかなり高く、為替の影響もあって帰国してしまった、というお話がありました。その企業は高比率で外国人の方を雇用しており、今後の人材確保をとても不安視していました。特定技能については「5年間34万人」という受け入れ上限が設定されているところですが、こうした状況を鑑みるに、自治体の担当者として、この方針がどこまで続いていくのかとあらためて思いながら、お話をうかがっていたところです。

子どもの有無や進学の意向など調査の掘り下げを考えたい

千年さんのご報告では、日頃業務の中で漠然と感じていることがデータではっきりと出ていて、非常に勉強になりました。横浜市の外国人意識調査の中で、お子さんがいるかどうか、保護者の方の高校進学の意向、求めている支援制度などについて設問を設けているところですが、本日の議論も踏まえて今後の調査にあたっても考えていきたいと思っています。

なお、2019年度の調査において、求める支援制度として横浜市で一番多かったのは、子どもの居場所づくりで29.4%でした。また、その「居場所」というのがどういった場を指すのかの詳細を掘り下げていく必要があるというのは、田中さんと同意見です。

山本さんの報告については、就労と親子間会話や孤独感の関係について、興味深いデータとして拝見しました。外国籍や外国につながる子どもをメインターゲットとしたフリースペースの取り組みは、国際交流ラウンジなどでも一部行っていますが、「なかなか浸透していない」とか、「開いてはみたけど対象者が来ない」という状況があると市民団体の方から報告を受けています。山本さんの報告のデータや分析などを、今後の支援に役立てていくことができればと感じながらうかがっていました。

横浜市の外国人意識調査の話に戻りますが、2019年度の調査では76.2%が横浜に住み続けたいと回答しています。交通の便がよいからなどの理由が多いのですが、今後の調査で、なぜ横浜が選ばれるのか、在住し続けるためには何が必要なのか、もう少し困りごとの分類や、相談できる相手の存在も含めて、分析なり調査なりを進めていく必要があると感じました。また、日本人側の意識調査についても、今は市民意識調査の中で、「国籍をはじめ、文化の違いや多様性を認め合う風土がある状態が望ましい街の姿だと思うか」という設問が1問だけあるのですが、お話を聞いて、もう少し広がりをもたせられるといいかと個人的には思いました。

国籍情報はないが分析比較できるのはメリット

山野 研究報告を行った3人を代表して山本さんから、データ分析をする中で感じたことなど、コメントをいただければと思います。

山本 移民や外国にルーツのある方々の分析をするうえで、国籍、せめて出身国や日本に来た時期は、絶対的に必要な情報だと思います。どの国から来たかによって、編入先が異なってくるので、分析にあたって具体的な国籍がないのは、本当に私たちも頭を抱えた部分でもあります。

それでも、今回利用しているデータは、他の研究チームと同じデータで、全く同じデータを使って分析比較できるのは、とてもメリットが大きいと思います。日本の状況は解像度の低いものですらほとんどない状況ですので、せめて外国籍である外国にルーツがある子どもの状況を、粗い解像度であっても提示していく。でも具体的な国籍さえわかればもう少しわかることがある、と社会に発信していくことも必要だろうと、いわば苦渋の判断での研究報告でした。

今行われている子どもの生活実態調査で、国籍も聞いていない自治体がほとんどですので、せめてそれだけでも調査項目に加えていただきたいと考えています。大規模な調査の中で、全員が日本人という前提で進めてしまうところが問題の本質なのだろうと考えています。

家族帯同への支援や制度

山野 外国人労働者の需要は本当に高くなってきており、今後増加することは間違いありません。そこで、「家族帯同」がキーワードになってくると思います。次のテーマ、どんな支援や制度が必要になるか、子どもたちや家族が生きやすくなる、暮らしやすい地域になるためにはどうしたらいいか、検討したいと思います。

今までの議論の中でも、貧困の再生産、セカンドドアといったキーワードが出てきました。90年代から外国人の方々が入ってきて、子どもたちがもう2世3世になっていますが、かなり貧困状況が続いているとも言われています。一方で、ペアレンティング・スキルや包摂のあり方についての話もありました。コメントをいただきたいと思います。

その前に学校を含めた受け皿の構築を

田中 バーター的には家族帯同をあまり進めないでほしいというのが、今の時点の支援者としての個人の感想です。全く受け入れ態勢が整っていない。あるいはコロナ禍を経て、逆に劣化、悪化している部分もある。自治体からはお金が出始めているとお伝えしましたが、自治体が予算を取っても支援の担い手が不在で、全然目途がついてないのです。集住地域でもニーズが急増した場合に、誰がその支援を担えるのか、目途が立たないうえでは、正直、まだ待ってほしいと思います。

まず家族帯同にあたってすべきは、外国人学校も含めて新しい受け皿の構築も視野に整備することです。加えて、外国ルーツの子どもや生活者など、当事者性のある方々にいかに支援に携わっていただくかが重要と思いますが、その在留資格上、活動がしづらい状況もあるのかなと思います。労働者の付属物としてしか日本国内で滞在できないような状況の人たちをどう扱っていくのか、新たに受け入れを進めるうえで考えるべき観点だと思っています。

実態はハードルが高く、特定技能2号はまだ少ない

 私の報告では、2019年に特定技能という新しい在留資格の創設によって、日本の外国人政策が第3のフェーズに入ったと述べました。つまり日本政府は「フロントドアからの外国人の受け入れ」に舵を切ったとまとめてはいますが、実態は、政治と行政との間の温度差があるように感じます。政治側は、家族帯同が認められる特定技能2号をもっと増やして5年で特定技能外国人34万人を受け入れる目標を立てています。しかし法務省のホームページでは、2022年12月時点ではまだ特定技能2号は全国で8人です。1号から2号への転換は、労働者側と企業側の双方にニーズがあるものの、ハードルがあまりにも高くてなかなか認められていません。

やはり日本人はまだ外国人の急増を受け入れる心の準備ができていないことが背景にあります。日本国民の半数以上は、外国人受け入れ人数を厳しく制限すべきだと考えているという世界価値観調査の結果も出ています。支援現場では十分な支援体制ができていない状態で、家族帯同が認められる特定技能2号がなだれ込んだら対応できないという現場の声が、行政側の保守的なスタンスにつながったのではないかと思います。

外国人の単純労働者が家族帯同で多く入ってくれば、さまざまな問題が生じることが予想されます。例えば、社会保障制度へのフリーライドが起きる可能性はありますし、移民2世の教育問題も深刻化する可能性があります。これらの起こり得る問題を事前に予想して、先手を打って対応策を用意する時間が必要だとの考え方です。

しかしながら、外国人労働者の奪い合い合戦がすでに始まっているなかで、仮に2号のハードルを引き下げても、円安や国内の賃金低下が進んでいる日本に、外国人が本当に大挙して来てくれるかどうか、私は少し疑問を感じます。

地方自治体、市民団体が協働して最適解を考えるべき

山野上 特定技能2号への移行が今後どれぐらい進んでいくのか、正直よくわからないという印象です。これまで移民の家族が日本にいなかったわけではないので、これから増えるという話よりも、現状を把握し、すでに日本で暮らす人びとにとってのよりよい社会のあり方をまずは考えながら、統合的に考えていくということが重要だと思います。

「家族帯同」が進む場合の制度や施策については、移民研究の蓄積を踏まえるならば、制度の思惑どおりには進まないと考えるほうが、自然だと思います。人口減少が進む地方に移民が定着し、家族での生活が始まるならば、家族の出産、子育て、子どもの教育など新しい課題に対応していく必要が出てきますが、産業構造・人口構造や地域の歴史などが違うため、「先進事例」と同じように取り組むことは難しいと考えられます。

地方自治体や市民活動団体が孤立して模索するのではなく、日本のなかで地域を類型化するような分析的な視点で、協働しながら、最適解を考えていけるようになるのが理想的だと思います。

もう1つ、周さんのご報告のなかで、労働力は欲しいが、家族の帯同は制限すべきであるとする意見が多いという世論調査結果の紹介がありました。これがどういう理由でそうなっているのか、その理由を知ることも重要だろうと思いました。なんとなく怖いという程度のイメージなのか、それとも社会保障費や教育費の負担を気にしているのか。松本さんからも市民意識調査のお話がありましたが、対応策を検討するため、マジョリティ側の意識の把握が重要なのではないかと思いました。

受け入れ方向ならその体制整備を早急に進めるべき

千年 特定技能などで今後、外国人労働者の家族帯同が増えるのかどうか、本当にこれはどう動くかまだ読めない気がしています。

やはり政府は全体として、技能実習の本音の部分を少しずつ認めていく方向に変えているのかなという印象は受けています。そうであるならば、そういう方向性を国が示すべきであり、そういう方向に進むのであれば、やはり現場の受け入れ体制整備を、早急に進めなければならないと思います。保育園・幼稚園の入園手続きや、どの段階の学校を終わってからくるのか、基礎教育が終わってくるのか、それとも日本で受験しなければならないのかなど、そういうことが前もってわかれば、受け入れる側ももう少し準備ができるであろうし、来る家族の人たちももう少し助かるという気がします。

在留資格について、さきほど田中さんもおっしゃっていましたが、いつまでも家族滞在だと制限ができて学校にも行けないし、正規の職にも就けない。独立した就業なども自由な、定住者やその世帯主など、親の在留資格に依存しない在留資格に切り替えるシステムも必要だと考えています。

呼び寄せる家族に対しても、できれば早い段階で日本語教育を行ったほうが、日本の社会のためにも、家族や配偶者や子どもさんたちのためにもなると考えています。

いまのフェーズがいつまで続くか、不安の払拭を

松本 家族帯同に対してどういう支援制度が検討されるべきかという国の方針がまずどうなるのかが、日本人、今いる外国人、またこれから来ようとしている外国人のいずれにとっても、大変重要な問題だと思っています。

このフェーズがどこまでいつまで続くのか、外国人、日本人だけでなく、地方自治体に対してもですが、国がそうした不安感を何らかの形で取り除いていく必要があると思います。

横浜市では国に対しても要望行動をしていますが、まず外国人の受け入れに関する基本法などの法制度をしっかりつくっていただく必要があり、また、基本法に基づき自治体が行う事業に対して、国からの財政的な支援をお願いしたいと要望しています。

在住外国人の方は住民の一部であるという考え方のもと、何か困ったことが発生すれば、自治体の中で手当てをしていくというのが現状かと思っています。ただ、手当てをするためには財源的な措置が当然必要になってくると考えています。国の総合的対応策や法務省で作っているロードマップなど、もう少し長期的な視点で方針を示すことができれば、多文化共生、外国人受け入れの環境整備に取り組んでいる当事者へのメッセージになると思っています。

個別の問題では、やはり住まいの問題はかなり大きいと現場でも感じており、いわゆる住宅セーフティーネット法の省令の中でも外国人は住居確保要配慮者という位置づけですが、実際にどこまで手当てできているのかという問題があります。労働者本人だけであれば、勤務先が用意する寮などで表面的には解決するかもしれませんが、そこに家族が入ってくれば、当然新たな形での住居の手当てが必要になるので、何らかの形で解決していく必要があると思います。

また、日本語教育をどういう方向に舵を切るかということも自治体の立場からは課題と感じています。現状難民対象に実施されている日本語教育などを、もう少し間口を広げて統合プログラムとして実践をしていく必要性が出てくるかもしれないと感じています。また、地域レベルの取り組みでいえば、ご家族を地域コミュニティの中にいかに取り込んでいかれるか、自治体や市民団体が連携してもっと強力に取り組んでいく必要があると感じています。

ルーツや母語も大切にできるような仕組みも一緒に検討を

山本 特定技能については、皆さんご指摘のように、受け入れ態勢がほとんど整っていないままではいけないと思います。議論は進んでいますが、日本語教育の問題だけでなく、その人たちのルーツや母語も大切にできるような仕組みが一緒に検討されるといいと考えています。

山野先生から、多様な子どもが生きやすく暮らしやすい地域とはというお話もありましたが、やはり「居場所」を考えていかなくてはいけないと思います。定住者の受け入れを始めてから30年以上が経ち、試行錯誤をもう30年以上続けているわけで、そこから学べることも大変多い。

研究報告でも掲載しましたが、外国にルーツのある子どもたちがいるのは、ゲームセンターや公園、図書館などの場所がとても多い。そういうことを考えた時に、YSCグローバルのようなきちんとした支援ができる居場所ではなくとも、本当に単純な意味での「居場所」を企業や行政が用意するということだけでも支援になるのではと考えています。

山野上さんの報告でも地域のお話がありました。マジョリティの論理から離れることができて、生活空間に近くて、制度にとらわれないような場所というところで地域が挙げられていましたが、そういった場所をどれだけつくって広げていくことができるかを考えたときに、例えば図書館職員に対して外国にルーツを持つ方々に対する背景・知識などを教育するなど、つながるための学べる環境をつくることも、これから考えていくべき制度・取り組みの1つかと考えました。

一部の子どもに不利が集中してしまう構造から目を逸らさない

山野上 多様な子どもの生きやすい社会を考えるにあたっては、2つの視点が重要だと思います。1つは、一部の子どもに不利が集中してしまう構造から目を逸らさずに、必要な支援を社会としてどう提供していくかを考える。もう1つは、かわいそうな子どもを「人並みに」育てるという発想に対して、その「人並み」が何であるのか、押しつけではないかを考えて、子どもの声を聞くことも大切だということです。

子どもの場合、子どもだから語ることばをもたない、だから大人が何でも決めて、導いてあげなければいけないと思われがちです。移民の子どもや若者の場合はなおさらそうです。しかし、子どもが子どもなりの考えやニーズをもたないということではありません。移民の場合は特に、親の声も価値がないものと見なされていたり、日本語ができないことだけで「語ることばをもたない」と思われてしまいがちです。あなたの声を聞きたいのだ、聞いていると思わせてくれるような関係性を作れるかどうかが、新たにコミュニケーションを始められるかどうかを分ける。地域をつくるということは、関係性をつくることだと思います。

まとめのコメント

山野 では、最後に、皆さんから少しずつコメントをいただけますでしょうか。

全ての施策に海外ルーツが存在しているという前提を共有すべき

田中 全ての施策のあらゆるところに、海外ルーツの方や子どもたちが存在しているという前提を、社会がどう共有できるのかが大事だと思います。外国人労働者の受け入れには、政治と企業の声が大きすぎると感じています。企業の責任はどう具体化されていくのかも含めて、まだまだ抜け落ちている視点が大きいと思うので、思い切って一度、全体的な議論をすべきタイミングではないかと思っています。

 外国人と日本人が共に暮らしやすい社会を目指して、多文化共生と社会統合という2本の柱でコミュニティ作りが必要だと思います。多文化共生だけでは、フランスのような社会の分断となる恐れがありますし、社会統合ばかりを強調すると、差別や人権の問題につながりやすい。寛大な社会保障制度を維持するためにも一定規模の人口を保つ必要がある一方、国民の間に助け合うという強い連帯感がなければ、社会保障制度自体は成り立たない。この2本の柱のどちらも欠けてはいけないように思います。

いまやっと議論のスタートラインに

山野上 今日のような議論は、いまやっとスタートラインに立ったところだと思っています。これからも、いろいろな立場のみなさんと一緒に考え、行動していければと思っています。

千年 子どもの実態調査のデータに関するご指摘がありましたが、あの調査はあの調査なりにとても良い点があり、子どもから見たその親の状況をつかめる。ひとり親の場合でも外国ルーツかどうかや、子どもと一緒にどの程度の時間を過ごしているか、会話があるのか、といった点も把握できる大きなメリットがありますので、より深めて実態を表せるような結果を出していきたいと思います。

松本 今日の議論も踏まえ、これから横浜で多文化共生や外国人材の受入環境整備をどのように進めていくかをあらためて見つめ直す機会になりました。横浜は外国人の人口が多く、人材の厚みがあるというメリットもあります。他方で、例えば、地方都市だと大企業の工場があって、一定程度国籍や在留資格などが均質化されたボリューム層がいて、そこに対応する政策をとるということになりますが、横浜の場合は市の中でも地域によって特性が様々で複雑な部分があり、地域ごとの取り組みが求められています。引き続き、皆さんとも様々な側面で議論を深めていく機会を持つことができればと思っています。

様々な視点をもった関係者で議論を

山本 最も議論が必要な分野であるのに、なかなか議論や検討が進んでいないと思っています。立場によって、全然見え方が違ってくるテーマであるため、今後の進め方を議論するには、企業、現場、質的な分野と量的な分野両方の研究者など、様々な視点の人が集まって議論していかなければいけないと考えています。今後、私たちの研究チームでもまた新たに調査の計画を立て、より有効性の高い調査を進めていきたいと思っています。

山野 本当にこの領域は、今まで調査も検討もほとんどなかったと思います。外国人を受け入れるにあたっては、労働、日本語だけでなく、家族を含めて全体的にどう支援していくか、今日はあまり話が出なかったのですが、公的支援の中で学校という部分も考えていかないといけないと思っています。議論は尽きないですが、これで終わります。皆さまありがとうございました。

プロフィール

山野 良一(やまの・りょういち)

沖縄大学 人文学部 福祉文化学科 教授

神奈川県児童相談所児童福祉司を経て、現職。ソーシャルワーク修士(米国ワシントン大学)。「なくそう!子どもの貧困」全国ネットワーク世話人。専門は、児童福祉、子どもの貧困。著書に『子どもに貧困を押しつける国・日本』(光文社新書)、編著書に『外国人の子ども白書』(明石書店)、『復帰50年沖縄子ども白書』(かもがわ出版)などがある。

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