研究報告1 外国人雇用のいま─人材開国への挑戦─

背景:「人材鎖国」から「人材開国」へ

統計をみると必ずしも門戸を閉ざしているわけではない

本日は、外国人雇用の現状と課題について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。日本は長い間、「人材鎖国」の国と言われており、今でも多くの欧米の学者は、日本は移民に門戸を閉ざしている国と思っているようです。しかし、最近の統計データや実態を見ると、必ずしもそうではないようです。今や日本に在留する外国人の総数は300万人を超え、身近に店舗やレストランで働く外国人労働者に接する機会が増えているかと思います。

OECD(経済協力開発機構)の集計では、2019年の日本の外国人口の流入者数は、OECD 35カ国中第4位の多さとなっています。厚生労働省の調査でも、日本で働く外国人労働者の数が大幅に増えています。外国人労働者数の推移をみると、2008年は48.6万人だったのが2022年には182.3万人に達し、15年で3.8倍になっています。

この外国人労働者の技術構成ですが、在留資格をもとに「技術労働」「単純労働」「不明」という3つのカテゴリに分けて集計したのがシート1になります。「技術労働」とは、専門技術分野の在留資格を指し、特定技能を含むものになっています。一方、「単純労働」は、主に技能実習や留学生などの資格外活動を指しています。「技術労働」は、実は「単純労働」に比べて割合が低く、「単純労働」の外国人の数が圧倒的に多くなっています。

技術労働が増えているが依然として大半は単純労働

ただ、2019年以降は、技術労働者の割合がやや増えているように見えます。これは、実は特定技能という新しい資格の創設が主な原因となっています。技能実習から特定技能に大量の移行が発生した結果、技術労働者の比率が上昇しています。

それでも2022年の時点では、技術労働の割合は26.3%に過ぎないので、外国人労働者の大半は単純労働という言い方は今も間違いではないと思います。そして、総務省の労働力調査によると、外国人労働者が全労働者に占める割合は右肩上がりに上昇しています。2008年には0.8%でしたが2022年には2.7%に達しています。

大幅増加の背景にあるのは深刻な労働力不足

一部の産業においては、例えばサービス業では、労働者の6.4%も外国人によって構成されています。このような外国人労働者の大幅な増加の背景には、深刻な労働力不足の問題があります。日本の人口は2050年の半ばには1億人を切ると言われています。すでにさまざまな職種で人手不足が深刻で、人手不足による倒産も多く報告されています。AIやロボット化での対応にも限りがあり、どうしても協力、協働する人間が必要となります。女性と高齢者の労働力率はずいぶん上がってきていて、外国人に期待が集中しやすい構造になっています。

1980年代ぐらいまでは「人材鎖国」で90年に大変化

日本では単純労働者も大量に受け入れるようになりましたが、それまでの歴史的経緯をみてみます。1980年代ぐらいまでは「人材鎖国」とも言うべき状態でした。大きな変化が起きたのが1990年です。合計特殊出生率が過去最低の1966年よりも下回った「1.57ショック」があり、日本の労働力不足の問題が表面化したのです。

さらに、バブル景気で労働力不足に拍車がかかりました。しかし当時はまだ、外国人材を受け入れる制度が整っておらず、最初に始まったのが「サイドドアからの受け入れ」です。サイドドアには大きく2つのルートがあります。1つ目は、「定住者」という在留資格を使って、南米から日系人を受け入れるルートです。もう1つは、中国や東南アジアの途上国から「技能実習」という在留資格で受け入れるルールです。

ただ、1990年に始まった定住者制度にはいくつかの限界があります。日系南米人の人数には限りがありますし、地理的な距離の制約や文化的なギャップ、言語的な壁もかなりあります。長い間、本人も政府も日系南米人は一時的な「デカセギ」として認識していました。実際、リーマンショックや東日本大震災の後は大量帰国が発生しています。ピーク時は30万人を超えていた日系南米人の労働者は、今や20万人ほどと言われています。

一方、1993年に始まった技能実習制度にも、多くの批判があります。例えば最長5年しか滞在できない、家族の帯同ができない、転職は不可、など厳しい条件が設けられていて、不法滞在の助長や低賃金、人権侵害、外国人使い捨てなどの批判を国際社会から受けています。途上国の若い人材に研修や技術供与するというのが表向きの理由ですが、実際は単純労働として多く働いてもらっている状態で、このサイドドアからの受け入れにも限界が見えて来ています。

2019年の特定技能制度創設でフロントドアから受け入れることに

そこで2019年に特定技能制度が創設され、正面から、つまり「フロントドア」から外国人を受け入れるように政策が変わってきています。特定技能1号の場合は最長5年滞在可能で、技能実習からの移行も可能になっています。2号ともなれば期間無制限で滞在できて家族帯同が認められます。うまくいけば、今後は外国人労働者の定住化がさらに進むと予測されます。

人材開国への備えができているのか

意識調査では受け入れ賛成が優勢

外国人が増えるなかで、日本国民はどこまで外国人の受け入れ準備ができているのか、意識調査の結果を見てみます。外国人労働者の受け入れ拡大について、読売新聞が2019年に、NHKが2020年に調査を行っています。いずれの調査も「賛成」が優勢で、大多数の国民はもう少し外国人材を受け入れてもいいと、冷静な態度をとっています。

しかし、自分自身の外国人との共存については、抵抗感を持つ人が多くなっています。例えば、NHK調査では、自分の住む地域での外国人の増加には「賛成」が57%、「反対」も38%となっています。頭では外国人はもっと入ったほうがいいと思いながら、外国人とどう接するのか不安を感じている日本人が多いことがわかります。

外国人受け入れへの態度は、他国に比べ積極的なのか、保守的なのかを「第7回世界価値観調査」で比較することができます。「外国人の受け入れ人数を厳しく制限すべき」と回答した日本人は全体の52.3%で、アメリカは41.7%、イギリスは28.7%などとなっています。日本国民は外国人をもっと受け入れるべきだと考えながらも、英米諸国の国民より慎重なスタンスを持っていることがわかります。

多くの優遇政策は専門的人材に対するもの

外国人の受け入れに対して、国の制度が整備されているかも問題です。国の第9次雇用対策基本計画では、専門技術的人材は「積極的に受け入れ」、その他単純労働は「慎重に対応」というスタンスを示しています。実際に多くの優遇政策は専門的人材に対するものになっています。例えば、高度外国人材のポイント制や、留学生が卒業後の就職活動のためのビザが最長1年間延長されるなどの制度があります。

もっとも、外国人がよりスムーズに日本社会に溶け込むための社会統合政策が、過去10~20年の間に大きく進んできたと言えます。具体的には、特定技能で入ってくる外国人への支援体制の義務化や、日本語教育の取り組み、共生社会の実現に向けた意識の醸成など、さまざまな政策が打ち出されています。

あまり進まなかったのは、影響を受けた日本人へのサポートと補償制度です。今のところ目立った政策はありません。影響を受けた日本人は、主に学び直しや転職支援、雇用奨励金など、既存の制度の活用で対応するのが現状になっています。

外国人労働者が単純労働に偏在?! ─実態と原因─

単純労働に集中するのは国と個人の相互選択の結果

このように、国は、専門的技術的人材に入ってほしいというスタンスですが、実態は単純労働が多くなっているのが現状です。所得の分布を見ても、日本人に比べ外国人の低収入者の割合が高く、特に男性でその差が大きくなっています。

では、なぜ外国人労働者が単純労働に集中してしまうのか。これは日本政府と外国人労働者、つまり国と個人の相互選択の結果と考えられます。国はできれば技術労働者を優先的に入国させたいという「ポジティブセレクション」をしています。一方、個人は「ネガティブセレクション」をしています。外国人労働者の送り出し国はだいたい日本よりも所得不平等度の高い国々です。労働経済学のロイモデルによれば、そのような状況では移民の「ネガティブセレクション」が起きます。つまり、日本への移住や就労を希望する者は、ホワイトカラーよりもブルーカラー、熟練労働よりも単純労働に偏ってしまいます。

国と個人が相反する方向で選択していますが、現状では、国の選別段階で外国人労働者の技術構成を逆転させることは難しい。さらに企業側にも単純労働力への強い需要があるので、どうしても単純労働者に偏在した技術構成につながりやすくなってしまいます。

「永住」か「(日本を)去る」か

子どもがいたり、業務内容が単純な人などが定住を希望

法務省の「在留外国人に関する基礎調査2021」では、約6割の外国人労働者が日本での永住を希望しています。シート2は、「定住」希望の確率推計の結果です。同居中の子どもがいる、日本で大学や専門学校に通った経歴がある、配偶者が日本人、そういった属性を持つ人が、日本での定住を希望する確率が高いのです。特に興味深いのは、学歴の低い人、そして業務内容が単純である人ほど定住希望が高くなっています。先ほど説明したロイモデルの仮説と一致した結果です。

人材開国へ向けての課題

専門人材にどう残ってもらうかなどが課題に

「人材開国」の進み方について、各国が模索し続けています。日本よりも先に大胆な「人材開国」の実験を進めたアジアの富裕国として、韓国や台湾、シンガポールがあります。これらの国では、早々にフロントドアから外国人労働者の受け入れ制度を設けたり、外国人の働ける業種を増やしたり、滞在可能期間を伸ばしたりして、さまざまな取り組みが行われています。

日本のこれからの「人材開国」に伴い予想される課題を3つ挙げます。

1つ目は、外国専門人材の定着の問題です。外国専門人材にとって日本の労働市場の魅力度は必ずしも高くありません。実際、高賃金等の労働条件よりも、留学や国際結婚、子育てがきっかけとなって滞日することが多いのです。そのため、日本での就職を希望する留学生と企業のマッチング支援、結婚や子育て不安の解消こそが、外国専門人材の日本定住につながる条件かと思います。

2つ目は、外国人労働者が単純労働に偏り、しかも単純労働者ほど定住・永住を希望するという点です。外国人家庭の人的資本や収入、貯蓄が総じて少ないことが予想され、失業や貧困、低年金に陥る場合の備えが必要になると思います。

3つ目は、特定技能制度の拡充等によって、外国人労働者の家族帯同が今後増えると思われる点です。小中高校などでの日本語教育の充実や外国人生徒の進学・就職問題への対処がより一層求められることでしょう。

プロフィール

周 燕飛(しゅう・えんび)

日本女子大学 人間社会学部 教授

労働政策研究・研修機構主任研究員などを経て、2021年より現職。大阪大学国際公共政策博士。労働経済学、社会保障論専攻。2007年度から女性の就業問題に取り組み、主な著書に『貧困専業主婦』(新潮社、2019年)、『母子世帯のワーク・ライフと経済的自立』(第38回労働関係図書優秀賞、JILPT研究双書、2014年)、『子育て世帯の社会保障』(共著、東京大学出版会、2005年)。

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