事例紹介1マザーズハローワークの取組──東京労働局マザーズハローワーク・コーナーの支援

講演者
鈴木 玲子
厚生労働省 東京労働局 職業安定部職業安定課 職業紹介第二係長
フォーラム名
第125回労働政策フォーラム「女性の就業について考える─環境変化と支援のあり方を中心に─」(2023年2月15日-20日)

東京労働局マザーズハローワーク・コーナーの支援についてご説明し、女性の就業、環境の変化と支援という観点から事例を紹介します。

1. マザーズハローワークとは

マザーズハローワーク・コーナーは全国200カ所以上

マザーズハローワークは、仕事と子育ての両立をめざす方々へ、子ども連れでも利用しやすい環境できめ細やかな就職支援を行う国の施設です(シート1)。東京労働局のマザーズハローワーク東京をはじめ、2006年4月から全国12カ所に開設して、今年で17年目です。

そもそもハローワークが女性の就職支援のための施設を設置したのは、今から32年前の1991年です。レディース・ハローワークという愛称で渋谷駅の商業ビル内に設置されました。その後、1999年の改正男女雇用機会均等法の施行に伴い、両立支援ハローワークとして就職支援を行い、様々な世情の流れを受け、現在はマザーズハローワークが全国に21カ所、マザーズコーナーは185カ所、計200カ所以上の施設があります。

きめ細やかな「個別支援」に力点をおく

それぞれの利用者の状況やニーズに応じた個別支援に力を入れていることが特徴です。個別支援対象者の就職率は90%以上で、過去5年間で32万人が就職しています。様々な支援メニューは全て無償で、担当者制による個別支援、子ども連れでも安心な設備、子育てと両立しやすい求人の紹介、就職活動に役立つ各種セミナー等を開催しています。

2. 東京労働局マザーズハローワーク・コーナーの支援

担当者がマン・ツー・マンで対応

東京労働局では、マザーズハローワークが東京(渋谷)、日暮里、立川の3カ所、マザーズコーナーが7カ所あります。

支援は、担当者制で、マン・ツー・マンの個別支援に力を入れています。労働時間が調整しやすい、また会社が子育てに理解があるなど、子育てと仕事を両立しやすい求人をマザーズ求人として紹介しています。環境の大きな変化としては、オンライン職業相談の実施回数が増えました。地方自治体、関係団体と連携し、マザーズハローワーク東京、池袋のマザーズコーナーにおいて生理用品の配布も行っています。保育情報等も各地域の保育園入園の案内等、各種団体の協力で提供しており、スーツのレンタルを行っている施設もあります。

各種セミナーを開催しており、パソコンセミナーなどは非常に人気が高いです。受講中は託児ルームに子どもを預けられますし、子ども連れセミナーなども実施しています。また職業訓練についてもご案内しています。

利用者数はコロナ前にまだ及ばない状況

当局のマザーズハローワーク・コーナーの職業紹介状況をお伝えします(シート2)。グラフは、左から新規求職者数、就職件数、マザーズ求人数です。コロナ前の2018年度からの推移をみると、徐々に回復傾向にあるものの、一般の職業紹介状況と比較してマザーズハローワーク利用者の回復は遅れており、まだコロナ前の利用者数には及ばない状況です。

その理由について、現場の感覚から2点あげると、1つは、2022年度の夏以降、オミクロン株の影響により子どもの感染者数が急増し、保育園、小学校の学級閉鎖、学童クラブ閉鎖などが断続的に生じました。こうした状況で、お母さんたちの就職活動に対する不安要素が増加し、積極的な就職活動に踏み切れない方々が増えた傾向があると考えています。

もう1つは、求人についてです。求人数だけ見ると回復しているようにも見えますが、求人の詳細をみていくと、なかなか応募したい求人がない、希望に合う雇用形態や職種がまだ戻ってきていない状況にあると思います。また、極めて深刻なのはひとり親の方々の状況で、マザーズハローワーク・コーナーにおいても利用者の約15%はひとり親の方々です。

求職者の希望雇用形態はおよそ正社員が4、パート等が6の割合

次に、求職者の状況です。2022年度4月~12月の当局のマザーズハローワーク・コーナーの求職者の状況をみると、登録時の希望雇用形態は、正社員希望が42.2%、パート等が57.8%です(シート3)。一方、実際に就職した人の雇用形態は、正社員が21.1%、パート等で決まった人が78.9%でした。職種は事務職が多く、マザーズハローワークでは例年同様の傾向なのですが、2022年度に入り、コロナ対策の緩和もあり、飲食や宿泊業などサービス業の求人が増えています。サービス業に多くの方が就職している要因の1つであると推察しています。

続いて、求職者の属性です。年代をみると、フルタイムもパートタイムも圧倒的に30代、40代が多く、保育園に通う園児を持つお母さんももちろん多いのですが、約3分の1が小学生以上の子どもをもつ母親という状況です(シート4)。マザーズハローワークは、小さなお子さんをもつお母さんが利用するイメージとの声があるため、お子さんが小学生でも中学生でも高校生でも大学生でも、ぜひ利用してくださいとご案内しています。

求人が増えたのは圧倒的にパートタイム

次に、マザーズ求人の状況です。マザーズ求人は増えていますが、圧倒的にパートタイムの求人が増えています(シート5)。コロナ前には、4割程度がフルタイムという時期もありました。また、職種は、パートタイムの半分以上が飲食や宿泊業などのサービス業という状況です。フルタイムとパートタイムで大きく異なるのは専門的・技術的職業です。フルタイムは社会福祉の専門的職業の割合が高く、保育士、ケアワーカー、ケアマネジャーなど、いわゆる人手不足産業と言われる求人が多く含まれています。

マザーズハローワークの利用は、求職申込みから職業相談、求人企業への紹介、応募、そして採用というのが一般的な流れですが、もちろん、「ちょっと応募書類を見てほしい」「まずセミナーだけ参加してみたい」など、興味があるところから自由にご利用いただくことが可能です。

3. オンラインとアウトリーチの取り組み

就職件数の16%がオンラインを活用しての決定

続いて、オンラインとアウトリーチについて説明します。まずはオンラインの取扱状況です。2022年4月~12月の東京労働局の3つのマザーズハローワークの合計をみると、全体的に増えており、就職件数全体の16%がオンラインを活用して就職が決定している状況です(シート6)。

オンラインの活用については大きく2つの利用者層があり、1つはオンラインに比較的慣れていて積極的な層です。マザーズハローワークにどんな設備が整っていても、「そこに行くまでが大変なんだ」という声もあるなか、最近では、一度も来所せず、オンラインだけで個別支援を受けて就職に至った方々も増えています。もう1つの層は、そもそも自宅にパソコンやオンラインが使える環境がない方々です。今後、長期的にご本人の生活やキャリアを考えたとき、会社でオンラインを使う機会もあると思うので、マザーズハローワークの窓口でオンラインの操作方法等を説明したり、スマホを使いながら一緒に試してみるといった支援も進めています。相談の方法として、オンラインも対面も、利用者が選択できることが重要だと考えています。

マザーズハローワークまで足を運ぶことが難しい方々がいらっしゃるなかで、アウトリーチの支援を強化していきたいと考えています。地方自治体、関係団体に協力いただきながら、お母さんたちにマザーズハローワークに来てもらうのではなくて、マザーズハローワークが動くということで、2022年度から取り組みを強化しています。

4. おしごと探しのサポート事例

オンラインで応募書類添削や面接指導を実施して無事に採用

仕事探しのサポート事例について、3つのケースを簡単にご紹介します。

1つ目は、保育園に通う2歳と小学生6歳の2人のお子さんがいる30代の方のケースです。2歳の子の保育園が急に決定し、来所したのが4月で、6月までに就職しなければならないという状況でした。さらに、上の6歳の子が小学校低学年で帰りが早く、なかなかハローワークに来ることが難しいため、オンラインでの職業相談が有効的でした。利用者からも、「子どもが大きくなったら動きやすくなると思ったけれど、コロナ禍では逆だった」「保育園のほうがまだ遅くまで預かってくれる」という切実な状況のご相談があるなか、オンラインで応募書類の添削や面接指導を実施して、採用が決まりました。

2つ目の事例は、医療業界に在職中の40代、お子さん5歳のケースです。臨床検査技師として在職中でしたが、コロナの影響で残業が多く、体力的にも厳しいと悩まれて退職を決意されました。この方は退職してしまうと保育園を出ていかなくてはならないという状況にあり、働きながら仕事を探されていました。マザーズハローワークの利用者の約2割程度は在職中の方です。別の在職中の方のケースでも、急に面接が決まったため、昼休みにオンラインで面接練習したいという希望もありました。こちらも正社員で事務職に採用が決定しました。

社内ポジションの切り替え時にキャリアを意識

3つ目の事例は、飲食業から事務職へ転職した40代、お子さん2人のケースです。レストランのホールでアルバイトをされていましたが、勤務ぶりを評価され、ホールの責任者への打診があり、それをきっかけに今後の働き方についてあらためて深く考えたという事例です。結果として転職を決意されたので、一見、評価されたのにもったいないのではと思ってしまうのですが、意外とこういったケースはあります。働いているときにはそれほど長期的な視点で仕事と向き合っていなくても、いざ切り替えのタイミングで自分のキャリアを意識するきっかけになったのではないかと思います。この方は事務の経験があるものの10年以上ブランクがあり、ひたすら自信がないとおっしゃっていましたが、過去の経験を振り返りながら少しずつ自己肯定感を上げて、ウェブ面接に向けて準備を行い、正社員に決まりました。

最後に、参考資料を紹介します。当局でもYouTubeを配信しており、「東京ハローワークチャンネル」や、女性の利用率が高いInstagramなども開設しております。随時、イベント情報や各施設からの担当者のメッセージなども配信していますので、ぜひご活用ください。

プロフィール

鈴木 玲子(すずき・れいこ)

厚生労働省 東京労働局 職業安定部職業安定課 職業紹介第二係長

東京労働局において、マザーズハローワーク事業(子育てと仕事の両立支援)、人材確保対策推進事業(医療・介護・保育・建設・警備・運輸分野)、ふるさとハローワーク事業等を担当。都内ハローワークにおいて、職業相談・職業紹介、求人者支援、雇用指導官、事業所部門統括、厚生労働省職業安定局首席職業指導官室中央職業指導官等を経験。筑波大学大学院人間総合科学研究群修士課程、法政大学経済学部卒。国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士。

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