事例紹介3 シニア雇用・雇用継続の取組み

講演者
割石 正紀
株式会社ベイシア 人事・総務法務事業部長
フォーラム名
第123回労働政策フォーラム「高齢者の雇用・就業について考える」(2022年12月7日-12日)

10年前に比べてシニア層の就業率が上昇

本日は、当社で実施しているシニア雇用・雇用継続の取り組みについて紹介します。会社概要ですが、従業員数1万6,978人のうち、正社員数が約1,500人、嘱託社員・パート社員・アルバイト社員は約1万5,000人と、全体の約9割が嘱託社員・パート社員・アルバイト社員によって支えられている会社です。グループの売上高は約1兆円を超え、小売業界では第7位に位置します。

ベイシアグループはグループ全体で人をとても大切にしています。グループ全体で社員だけでなく、そのご家族も含めて心身の健康をあらゆる角度からサポートし、人材の成長を促すことで健康経営にも取り組んでいます。

当社がなぜシニア層に向けた制度を導入したのか、背景を含めて説明します。まず、社会環境の変化です。10年前と比較してシニア層の就業率は上昇し、健康寿命・平均寿命は男女ともに上がっています。また、仕事をして収入がある人のほうが、生きがいを感じているというデータもあります。

非正規従業員の6割超が50歳以上で労働意欲も高い

次に、当社の状況を簡単に説明します。当社は非正規従業員に区分される約9割の嘱託社員・パート社員・アルバイト社員に支えられています。非正規従業員の年齢構成をみると、50歳以上が全体の6割以上を占めています。ベイシアで働くことを生きがいに感じて、年齢を重ねてもまだまだベイシアで働きたいという声が多くあります。

以上の社会環境の変化、従業員の要望など、自社の状況を踏まえて、ベイシアでは各種制度を導入・変更してきました。2006年の雇用継続年齢の引き上げ以降、無理なく働ける準パートという雇用区分の新設などを経て、パート社員の継続雇用年齢の延長や定年延長を行いました。また、2021年から店舗のデジタル化を進め労働環境を整備し、2022年7月からパート社員の継続雇用年齢を75歳に延長しました。

まず、2022年7月に変更した継続雇用制度の全体像を説明します。シートは、メイン職種であるパート社員を対象とした制度です。

従来パート社員は、定年が65歳、継続雇用は70歳まででした。新制度では継続雇用を5年延長し、75歳までとしました。契約条件は、本人と会社で話し合いのうえ、無理なく継続できる内容で締結しています。

家庭環境の変化や体力低下への懸念については、契約変更時、更新時になるべく不安を取り除けるよう、契約更新時の面談は店長のもと対応しています。そのうえで、会社としても70歳以降も無理なく働き続けることができる環境整備に力を入れてきました。

店舗のIT化などで働きやすい環境の整備を進める

環境の整備については、大きく2つの方向で対応しています。1つ目は、店舗の生産性向上に向け、デジタル推進本部を設立し、店舗のIT化を促進しました。これはシニアに限らず、全従業員が働きやすい環境を実現すべく対応しています。

マニュアルをペーパーレス化し、店舗設置のタブレットで動画や画像をメインに確認できるよう変更しています。また、店舗端末機器をスマートデバイスに変更し、1つの端末で分かりやすく操作ができるよう改善しています。画面の拡大や音声入力も可能です。価格変動の大きい青果については、電子値札を導入し、操作性や見やすさの向上を図っています。

2つ目は、実作業面の生産性の改善です。従来、売り場は個別に担当し、発注や品出し、売場管理を、責任を持って対応していました。しかし、売場や商品に対する愛着が高まる一方で、商品入庫日に休めない、担当がいないと商品の場所がわからない、などの負荷が発生していました。

現在は店舗在庫を本部で一括管理し、発注を自動化することにより、作業を共有化し個別業務を減らし、負荷を軽減しています。また、品出しがしやすい棚の導入で、重い商品を何度も取り出す必要がなくなりました。

継続雇用年齢を75歳までに延長し、約8割以上が継続を希望

このような対応を行い、2022年7月に継続雇用年齢を70歳から75歳までに延長しました。継続雇用延長から5カ月経ちましたが、約8割以上が継続雇用を希望し、契約締結しています。継続雇用後も原則1年ごとの契約更新ですが、家庭の環境変化や自身の体力低下による期間中の契約内容の変更も可能です。そのため、継続雇用時の契約条件の変更はほとんどありません。

また、当社では継続雇用のみでなく、60歳以上のシニア層を積極的に採用しています。2021年はコロナの影響で多少減少していますが、今年(2022年)は10月度までに221人が入社し、今後も積極的に採用していきたいと考えています。動画マニュアルの整備や店舗での教育体制も進み、入社後の定着率は現在9割以上です。

全社員に年一度のキャリア自己申告・リスキリング施策を実施

最後にキャリア申告制度、学び支援について紹介します。60歳以上を含む全社員に年に1回、自身の今後のキャリアを聞き取る自己申告制度を設けています。会社は申告されたキャリアの実現に向け、様々な支援を行います。その一環として、全社員対象のリスキリング施策を行っています。

グロービス学び放題の半額補助や、約240種類の通信教育を特別価格で受講できるチャレンジ制度を提供しています。チャレンジ制度の対象講座は一般受講から2割引で、さらに規定の期間内に講座を修了すると受講料の半額を会社で補助する制度で、パート社員からも多数の申し込みがあります。

今後も、従業員が生き生きと充実した人生を過ごせる、人生100年時代における小売業のモデルケースとなれるように取り組みを続けていきたいと思っています。

プロフィール

割石 正紀(わりいし・まさき)

株式会社ベイシア 人事・総務法務事業部長

新卒で大手小売に入社。在職中に中央大学大学院戦略経営研究科に進学しMBAを取得。その後、人材サービス企業の人事を経て、2022年5月より株式会社ベイシアの人事部長に就任。採用、育成、配置、評価、報酬、人事制度設計などの部署を統括。2022年10月からは人事に加えて、総務部、法務部も管掌する人事・総務法務事業部の事業部長として業務を執り行う。

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