事例報告3 ベルシステム24グループの職場環境改善に向けた取組──実効的なハラスメント対策

講演者
楠本 三夏
株式会社ベルシステム24ホールディングス 法務・コンプライアンス部 法務・コンプライアンス局 コンプライアンスグループ グループマネージャー
フォーラム名
第119回労働政策フォーラム「職場環境の改善─ハラスメント対策─」(2022年2月10日-17日)

当社は、コンタクトセンターを運営する拠点を首都圏や福岡など全国に37拠点(6月1日からは38拠点)、席数にすると1万8,000席を超える席を保有しています。

コールセンターというと電話対応での問い合わせ窓口やサポートセンターといったイメージが強いですが、そのほかにも幅広い業務を行っており、電話だけでなくeメールやチャット、SNSなど多様なチャネルからの問い合わせを受けることも多く、コールセンターからコンタクトセンターへと変化しています。人事や経理業務などのバックオフィス業務をアウトソーサーとして行うBPO業務など、領域は拡大しており、さらに最近は音声認識システムやAIによる自動化ツールも活用したコンタクトセンターのDX化・高度化にも力を入れ、業務をさらに進化させています。

当社では3万人超の従業員が勤務しており、多様な人材一人ひとりが楽しく、安心して働ける、人に優しい職場づくりを行動理念に、モバイルワーク制度や企業内保育所の開設など、多様な社員が安心して長期にわたり勤務できる職場を目指し、様々な取り組みを行っています。

コンプライアンス体制強化への取り組み

契約社員や派遣社員の目線で体制強化

コンプライアンス体制強化に向けた主な取り組みを説明します。2012年から、「行動規範の制定」、「ルールの整備」や「コンプライアンス意識向上のための啓蒙研修」などを行い、体制を強化しています。

コンプライアンス体制強化は、マクロ視点とミクロ視点に分けて考えています。マクロ視点では、現場の第一線で勤務している契約社員や派遣社員の目線にまで落とし込み、ルールづくりや研修を行いました。また、コンプライアンス制度の導入にあたり、近い将来、現場部門が自立して様々な課題を解決できる体制を目指しつつも、まずは私たちコンプライアンスグループが中心となって解決する体制を構築しました。そしてコーポレートガバナンスの強化を目的に内部統制を意識した制度を設計しました。

ミクロ視点では、多忙な従業員に配慮し、コンプライアンスと当社のビジネスを関係づけて啓蒙するなど、様々な工夫をしました。

体制強化の一環として、2017年に内部通報運用体制を強化しました。当時は公益通報者保護法にのっとった最低限の運用体制を敷いており、必ずしも実効的ではなく、また内部通報のことを知らなかったり、通報すると何か不利益を被るのではといった誤解を持つ社員も多くいました。

このため、通報窓口を強化し、主管部門を人事部門から法務へ移管するなど、多面的で重層的な制度利用の促進施策を行いました。具体的な啓蒙策としては、全従業員に内部通報窓口を記載したカードを配布したり、各拠点の現場にポスターを掲示したり、また、コンプライアンス研修時に「いつでも安心して通報してください」といったメッセージを発信しました。その結果、通報件数は徐々に増えていきました。また、通報内容のほとんどが、職場環境に起因したものや一部ハラスメントの疑いに関するものであることが分かりました。

取り組みの成果と新たな課題

ハラスメント未満の非コンプライアンス事案に対応するルールがなかった

運用自体は順調に進んでいたものの、新たな課題も出てきました。通報のほとんどがハラスメントや職場環境に関する訴えで、その大半がハラスメント未満のいわゆる非コンプライアンス事案でしたが、こういった事案に対応するルールがないため、公益通報者保護法にのっとった守秘義務遵守による対応となり、早めの対処ができませんでした。

また、これらの事案が法令やコンプライアンスに違反するものではないため、十分な後処理ができないまま対応を完了したケースもありました。しかし、パフォーマンスが低下する要因の一つにもなり得るため、むげにできない状況でした。内部通報制度を維持しつつ、これらを迅速かつ効果的に解決する仕組みの導入が急務でした。

ハラスメント規則を制定し、方針を明確に打ち出すことを義務づけ

そこで、ハラスメント規則を制定しました。規則は、安心安全で快適な職場環境を実現することを目標に、経営トップが率先してハラスメントが経営課題であることを認識し、方針を明確に打ち出すことを義務づけ、ハラスメントを生じさせない職場環境を実現するための行動指針を明記し、各部ごとの役割分担を明確化しました。またハラスメント窓口メンバーの精神的な負荷も考慮し、公平な目線で対応できるよう、担当者の心得も細かく記載しました。事案対応で悩んだ際は、この規則を教科書代わりに活用しています。

ハラスメント規則を制定したことにより、運用上の課題解決と、2020年4月のパワハラ防止法施行に先駆けた対応も可能になり、企業理念に沿ったコンプライアンス体制を強化することができました。

規則を作って終わりではなく、常に体制をアップデートしています。ポイントは3つあり、1つ目は運用の効率化、2つ目は社会情勢への対処、3つ目は窓口体制の強化の視点を常に持つようにしています。特に窓口体制の強化については、ハラスメント窓口メンバー全員がハラスメント相談員の資格を取得しました。また、さらに産業カウンセラーやアンガーマネジメントなどの資格も取得するなど、幅広いスキルを獲得しています。もともと現場にいた人員を拡充し、現場目線で対応することで体制の強化を図っています。

このフロー図(シート1)は、少々目線を広げて、内部統制の観点からハラスメント対応の役割分担を示したものです。ハラスメント相談デスクが中心になり、ハラスメントの訴えが発生している部署の担当者が主体となり、各部署がおのおのの役割を持ち、幅広い部門が協力し、事案を円滑に解決する体制をとっています。

また、内部通報規定とハラスメント規定との相関関係については、シート2のとおりです。それぞれが分離して運用しているわけではなく、関連づけて連動しながら運用しています。

派遣社員や業務委託先社員のほか、クライアントやベンダー社員への行為も対象

次に、当社グループにおけるハラスメントの範囲についてです。法令で体制整備を要求されているセクハラ、マタハラ、パワハラなどに加え、当社が独自に定義した広義なハラスメントについても規則に明記しました。当社で実際に起こったことを含めた幅広い事案を記載しています。広く嫌がらせ全般を定義し、派遣社員や業務委託先社員のほか、クライアントや協力会社の社員への行為も対象にし、相談対象者は当社グループに従事する者全般としています。

当社グループで定義するセクハラ、マタハラ、パワハラ以外のハラスメントの例は、具体的な内容を記載し、分かりやすいように工夫しています。

例えば、テクノロジーハラスメントでは、情報処理端末などを含むシステムに詳しい従業員がこれらに疎い従業員に対し、専門用語を使ってばかにするなどの嫌がらせをすることと明記し、理解しやすいよう工夫を凝らしています。ほかにも、いわゆるエアコンハラスメントやジェンダーハラスメントなどについて具体的に例示しています。

あわせて、管理者の通常の指導とパワハラとの線引きを明確化するため、パワハラに該当しない行為についても具体的な事例をあげています。

実際のハラスメント相談例は、管理者に挨拶しても無視された、管理者に業務上の質問をすると「そんなことも分からないの」ときつく言われた、「ちゃん」づけで呼ばれる、業務終了後の掃除を強制させられたなど、様々です。法令にあるようなハラスメント事案はほぼありません。

非コンプライアンス事案も指導・アフターケアで職場が明るく

相談受領から是正措置まで、実際に起こった事例を1件紹介します。

ある管理者が仕事をせずに人の悪口ばかり言っている、常に威圧的な言い方をする、学校のような仲間外しがあるなど、職場環境が悪化しているという旨の相談が、匿名の複数の従業員から入りました。

従業員複数へのヒアリング、行為者へのヒアリングを行い、調査結果としては相談の事実は確認できず、非コンプライアンス事案と判断しました。ただし、複数の従業員から同じ管理者に対しての不満、具体的には、言い方がきつかったり、挨拶しても無視されるときがあるなどの声を多く聞くことができ、従業員のモチベーションが低下し、離職も増加していることが判明しました。

是正措置として、管理者全員に対し、指導だけではなくアンガーマネジメントやコミュニケーション研修を実施しました。その結果、管理者の相手に配慮したコミュニケーションスキルが向上し、職場の人間関係が原因で退職する従業員が減少しました。それにより、職場の雰囲気が明るくなり、生産性も上昇しました。

ハラスメント相談窓口メンバーの対応時の心得

相談員へも精神的なケアやコミュニケーションを

ハラスメント事案対応のポイントをまとめると、ハラスメント相談デスク、また内部通報窓口の相談実績からも、重大なコンプライアンス事案や労務事案の発生は低いものの、応対するハラスメント相談窓口のメンバーは心構えを持って対応しています。

ハラスメントでもなくコンプライアンス事案でもなければ、割り切ってしまうこともできますが、そのような事案にも一件一件、丁寧に対応しています。最初は怒って電話をしてくる方もいますが、粘り強く相談者の話を聞く姿勢が重要で、対面もしくは電話などで話を聞くだけで、「すっきりした」と対応が終わることもあります。

また、相談者側へ調査結果や是正措置などを報告する際にも、「調査の結果、ハラスメントではなかった」だけではなく、そこは相談者側にも寄り添う工夫をしています。

相談員に対する精神的なケアについては、毎日の声かけなど、コミュニケーションを積極的に取るように心がけています。

従業員数1%の相談件数を達成

内部通報とハラスメント相談件数の推移は、シート3のとおりです。

比較的軽い職場環境に関する相談や人間関係などはハラスメント窓口へ、法令違反やコンプライアンス違反疑義事案は内部通報窓口へ、といったすみ分けができつつあります。これにより、職場環境改善による生産性の向上、離職抑止、コミュニケーションスキルの向上、現場力の向上といった職場への好影響があります。

また、2つの窓口を合わせると、東洋経済新報社が示している「風通しのよい職場の指標」とされる従業員数の1%にあたる相談件数を達成している状況です。

さらなる取り組みに向け、現状の課題としては、職場環境に影響を与える労務事案のさらなる抑止や、そもそも労務事案を発生させないための予防措置の充実、事案の早期解決による延焼抑止効果を高めることなどがあります。

これらの課題に対しては、コミュニケーションスキル強化を目的としたリテラシー強化の取り組みや、現場管理者などの協力体制の強化、産業カウンセラー業務との融合などを検討しています。

プロフィール

楠本 三夏(くすもと・みか)

株式会社ベルシステム24ホールディングス 法務・コンプライアンス部 法務・コンプライアンス局 コンプライアンスグループ グループマネージャー

2001年株式会社ベルシステム24入社。コンタクトセンターでのオペレーション勤務、拠点人事での採用・労務・教育の責任者を経て、2017年より株式会社ベルシステム24ホールディングスの法務・コンプライアンス部に所属。内部通報窓口の体制整備や運営、ハラスメントの防止や排除・ハラスメント事案が発生した場合の適切な対応を担保するための体制整備や運営、コンプライアンス教育など、ベルシステム24グループのコンプライアンス体制の維持強化業務に従事。2021年3月より現職。産業カウンセラー、アンガーマネジメントファシリテーターの資格保有。

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