パネルディスカッション

パネリスト
宇田 優香、森本 泰弘、松浪 暁子
コーディネーター
池田 心豪
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)
パネリストの様子

池田 このパネルディスカッションでは、単に法律や制度に関することだけでなく、男性も女性もともに仕事と子育てを両立できる職場をどうやってつくっていくか、実際に現場で男性育休を運用している企業のお話を聞きながら理解を深めていきたいと思います。はじめに、企業の皆さまに、視聴者からいただいた質問にお答えいただきながら、この後のパネルの準備に入っていきたいと思います。

各社の男性育休の取り組みに対する質問

出産予定日の把握もスムーズに導入

まず、日本生命の宇田さんへの質問です。2021年度から新設した「男性育休+α」のフローのなかで、男性社員には、配偶者の出産予定日を3カ月前までに面談で報告してもらうことを組み込んでいますが、本人や所属長からの反対意見や、現場に理解されるまでの苦労はあったのでしょうか。

宇田 その点は、実は実務を担当されている皆さんが一番興味を持たれている部分です。出産予定日を報告してもらうことに対する反対意見が出てくることは、私たちも懸念していました。

当社は2013年から男性育休を導入し、とにかく取得を通じて組織風土を変えることを目的に取り組んでいました。次のフェーズに移ろうというタイミングで、法改正の動向もあったため、2021年6月から「男性育休+α」の運営を開始し、取得時期・日数等にも言及した取り組みを実施しています。これまでは、事前に社員の出産予定日を把握することがなかったので、出産後にその事実を確認すればよかったのですが、「男性育休+α」の選択制の部分で、社員が出産後8週以内に取得することを選択する場合は、人事部門でもいつ子どもが生まれるか、事前に把握しておく必要があります。私たちは年3回、所属長面談を実施していますので、男性社員についてはこのタイミングで家族の状況も含めて把握することで、マニュアルにも落とし込みました。

スタート時は、出産前の配偶者の状況というとやはりセンシティブな内容なので、反対もあるかと思ったのですが、実態としては、2013年から男性育休に取り組んでいたこともあってか、ほとんど異論は出ませんでした。取得対象者の社員はしっかり話してくれて、かつ配偶者の出産予定についても入力してくれています。また、出産後8週以内の取得が増加するなど変化も見られ、スムーズにスタートできていると感じています。

丁寧な事前準備で関係者との温度差を減らす

池田 次に、積水ハウスの森本さんに対する質問です。一緒に仕事を行う関連会社や外注先で、長期で育休取得ができるような同様の制度が導入されていない場合、そうした関連会社や外注先の方との温度差や、モチベーション等に影響はないのでしょうか。

森本 モチベーションが下がってしまう、温度差があるということは、程度の差はあれ確かにあると思います。当社は今、男性の育休取得対象者には全員育休を取ってもらう運用を進めていますが、取得前の社員にはあらかじめ、休業期間の情報の周知など、社内、社外、お客様に向けた事前準備を欠かさないようにすることを伝えています。休業の質を高めていくには関係者に迷惑をかけないようにすることが重要です。休むことを周知し、社内で業務が滞らないように代替要員を充てる、仕事のタイミングを前後にずらすなど、工夫しながら、業務を継続できるような形で準備を進めていく必要性を伝えています。

しかし、それがしっかりと伝わらないことで、関係先や外注先にご迷惑をおかけする事態は、社内でも多少出てきます。当事者本人も、休みなのに電話やメールに対応しないといけなくなる事態が散見されます。一方、事前準備をしっかりしていると、取引先からも、すばらしい制度ですね、羨ましいですねという話をもらうことがあります。また、私たちは住宅メーカーですので、お住まいを検討されているお客様からも、そういった企業に家を建ててもらいたいといった声をいただきます。こうした事前準備が、関係者とのモチベーションや温度差の解消につながると思います。

育休中の就労は取得社員との対話・調整を経て実施

池田 次に、コーソルの松浪さんに質問です。長期取得者が多くいるということですが、長期育児休業取得者の業務のカバー方法、代替要員の確保はどのようにされているのでしょうか。今日ご出席の3社のなかでは最も規模が小さいのですが、中小企業で同じような問題意識をお持ちの視聴者もいらっしゃると思いますので、教えていただきたいです。

松浪 当社はほぼ3~5人のチームで、仕事を請け負ったり派遣先に常駐したりしています。チーム内に短期の育休取得者がいる場合は、チームのみんなが少しずつカバーするというケースが多いです。一方で1カ月を超えるような長期間の取得者がいる場合は、1名減というのはチームのメンバーにとっても非常に負荷が大きいので、代替要員をほかのチームから用意する、新卒や第二新卒で採用したメンバーを配属して少しずつ仕事をスライドするといった形を、なるべく取るようにしたいと考えています。まだまだ難しいところは正直ありますが、計画を立てながら実施している状況です。

池田 ちなみに、今度の改正法では、労使協定に基づいた休業中の就労が可能になるので、どのように運用したらいいか、問題意識を持つ視聴者もいらっしゃると思います。コーソルではすでに休業中の就労の事例があるということですが、そのお話も少しうかがえますでしょうか。

松浪 当社も基本的には、社員が全部休みたいと言ったら無理やり仕事をしてもらうようなことは前提として考えていないのですが、どうしても外せないミーティングがある、復職後を少しスムーズに進めたいので定例のミーティングには参加しておきたいというような本人からの希望があった場合には働けるようにしています。規模の小さい会社ですので、制度に落とし込んでいるということはなく、本人と会話をしながら無理のない範囲、配偶者の方に迷惑がかからない範囲で働いてもらっています。その部分はきちんと給料を支給し、それ以外のところは育児休業給付金でカバーするという形です。

ほかの休暇制度で代替せずに育児休業を取得するメリット

池田 それでは、議論の本題に入ります。事前のプレゼンでは、日本生命、積水ハウスの取り組みとして、男性社員が全員育休を取ることになっており、すでに実績もあるというお話がありました。一方、一般企業では、仕事を休めないから育休を取れないという人もいます。また、1、2週間程度であれば、育休ではなく年休でまかなえばいいのではないかと考える人も結構います。積水ハウスの制度でも、子どもが3歳になるまでの期間に1カ月分の休業を取得することになっているので、単純に1週間の休業を年2回、2年間で4回取れば、1カ月と数えられます。他の休暇・休業で休めている人にとって、育休ならではのメリットは何なのかという問題意識は、検討課題の1つとしてあがってきますので、パイオニアである皆さまからうかがいたいと思います。

また、コーソルでは平均取得日数が長めということでしたので、短い期間休みたい人と長い期間休みたい人で、取り方に違いがあるかどうかも教えてください。

目的を明確にして休むことがメリット

宇田 ご指摘のとおり、年休を1、2週間取得し、育児に充てることも可能な社員はいると思います。ただ、他の休業では代替できない育休のメリットというのは、育児のためという目的を定めた休業になることが一番大きいと思います。

当社が男性育休を始めたそもそものきっかけは、女性が多い会社のなかで、女性の働き方も含めて、仕事と家庭を両立する社員の働き方を理解してみんなで変革していこうという目的にありました。何のための休業なのかという意識をしっかり持って考え、休業の期間を過ごす。計画を立ててそれに伴う業務がどうなるか、どんな課題が出てくるのか。そういったことを考えるうえで、育休はメリットが大きいと思います。

森本 日本生命の宇田さんとほぼ同じ意見ですが、やはり目的の明確化というところですね。積水ハウスグループの場合は、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」というグローバルビジョンを明確に立てていて、「わが家」というのは、もちろんお客様のご自宅ということもありますが、積水ハウスの社員であれば会社や自分の家ということを示しています。幸せを提供するには、まず社員自身とその家族が幸せにならないといけないですし、育児休業はその手段の1つであるという認識です。よく、「うちの妻は専業主婦で役割分担はできているので休む必要はない」といった声も聞きますが、妻の就業状況がどうこうということではなくて、パパである男性が育児・家事に参画する、シェアしていくということに対して意義があり、それに対するメリットが育休にはあります。子どもの目線からしても、パパ・父親から育児を受ける権利は当然ありますので、それを勝手に放棄するのは違うと思います。

また、育児休業は働き方改革にもつながっています。属人的に業務を遂行している社員がまだ多くいるなかで、育休取得時にはその社員が抱える業務の棚卸しや手順書の作成、部下への引き継ぎなどが発生します。その機会を通じて、業務の属人化からの脱却や部下の育成につながっていくと思います。

年休で対応できない部分は育休を

松浪 お2人のお話を、本当にそうだなと、うなずきながら聞いていました。当社の場合も正直、数日から1カ月程度の短期間だと余っている年休で取得している社員はいます。しかし一方で、それ以上の休暇となると、年休だけではカバーできません。当社は最近では、育児のために2カ月、3カ月と長期の休暇を取得する社員が多く、その場合は育休を取得しています。お話を聞いていて、計画的に休むことの大切さや、業務をどう引き継いでいくのか、事前に計画を立ててしっかり社員にコミットしていくことが非常に大切だと思いました。

あと、ふと思ったのは、育休を取った後も育児は終わるわけではなく、お子さんの体調によってお休みを取らざるを得ない状況も出てきます。看病で休みを取る場合には年休での対応となりますので、そうしたことを考えると、育休を最初にまとめて取ることは意義があるのではないかと考えました。

会社として休暇を取りやすい雰囲気を作っていく

池田 ちなみに、社員の皆さんの年休や他の休暇制度の取得率は100%でしょうか。

宇田 年休ですと、現状で70%程度です。コーソルの松浪さんが指摘されていたとおり、何かあったときに使うために残しておくことも必要ですので、残っている部分はそういったところに使えればいいのかなと思います。

森本 当社も、年休の取得率は半分くらいというところですが、理由を問わず取れるのが年休ですので、病気や家族のイベントなど内容にかかわらず取れる休暇は残しておきたいという社員も少なからずいます。それはそれで取ってもらい、育休制度は別に取得してしっかり休んでもらえればいいと思います。

松浪 当社も、年休についてはだいたい7割から8割くらいですね。特に入社初年度は年休付与が10日間なので、何かあったときのために残しておきたいという社員がいます。そこは本人たちの意思に任せている状況です。

池田 育休の推進には休みやすい雰囲気をつくることも重要だということがあらためてわかりました。また、何でもいいわけではなく、まず育児のために休むという目的を明確にすることで、社内でも合意が得やすくなり、その先もより休みやすい、女性が活躍しやすい雰囲気につながっていく。育休はそうした入り口になるのだという印象を持ちました。

育休のパタニティ・リーブとペアレンタル・リーブ両方での取得の状況と課題

次は、男性育休の取得時期についてお聞きできればと思います。海外ではだいたい、男性の育休をパタニティ・リーブとペアレンタル・リーブに分けています。切り分けは各国一律ではなく、制度的な区別がない国も当然ありますが、おおよそが今回日本で法改正の対象になった産後8週間までと、その後に女性が復職するタイミングの2本立てになっていることが一般的です。

実際に男性が育児休業を取得する場面では、ただ単に休むということではなくて、家庭で何をするために休むのかという部分が1つ大事なポイントになります。制度としてどう切り分けているかということよりも、パタニティ・リーブとペアレンタル・リーブで取得する目的が異なるので、どの時期に取得するかは重要になります。

実質的に男性が子育てに参加できるようにするため、パタニティ・リーブとペアレンタル・リーブの両方を取得できるようにするために、問題意識として持っていることがあればぜひうかがいたいと思います。

2人目の子どもの出産時や休業延長などで取得する場合も

松浪 当社の場合は、パタニティ・リーブの期間だけ、ペアレンタル・リーブの期間だけを取得する社員もいれば、両方の期間で取得する社員もいます。

どんなケースがあるのか考えてみましたが、1つは、上のお子さんがいるご家庭で、下のお子さんが生まれる際のパタニティ・リーブの期間に、生まれた赤ちゃんとお母さんが入院しているので、お父さんである社員が上のお子さんの面倒を見るためにその期間に集中的に取ることがあります。あとは、奥さまが里帰りで出産をされた後に戻られて、家族での新しい生活が始まるタイミング、期間的にはペアレンタル・リーブの期間に取るというケースもあります。本当にさまざまだなと思っています。

池田 ちなみに、職場結婚をされて、夫婦で育休を取られている社員はいらっしゃいますか。

松浪 はい。女性社員はお子さんが保育園に入るまでの1年間という長めの期間で取得して、男性社員は、ここで言うとおそらくパタニティ・リーブのほうだと思いますが、お子さんが生まれてから1、2カ月後に取得していたという事例があります。

育児・家事分担の見える化を徹底する

森本 当社の場合は、まず「家族ミーティングシート」というシートを使って、育休を取得する目的や、取得したい時期(一括取得、分割取得など)を確認しています。現状は育児・家事がどのような役割分担になっていて、育休中はどういった分担にしたいのか、育休が明けた後はどういった分担にしていくのかということを、計画時に家族とコミュニケーションを取って考えてもらうことは、非常に重要だと思っています。なあなあで育児・家事の役割分担が決まってしまうと不満の発生にもつながりかねません。仕事でいう業務の見える化と同じようなことになりますが、ここを経ないとしっかりした育休が取れないと思っています。

積水ハウスグループの場合は、お子さんが3歳になる誕生日の前日までに、最大4回まで取れますので、産後8週の期間までに取りたいという社員もいれば、奥さまが里帰りでの出産後に帰ってきてからゆっくり取るという社員もいます。もしくは、妻の育休明けに合わせて自分が取る、上のお子さんの幼稚園や学校のイベントに合わせて取るという場合もあります。ここをまず、家族ミーティングシートでしっかりと確認してもらいます。

さらに、2021年4月からは、産後8週の期間内に1日単位で、分割回数にかかわらず取れるような柔軟な制度として運用していますので、産後8週のタイミングになるべく取ってもらいたいという会社の思いを乗せながらも、取得者に自由に任せているところです。

池田 ちなみに、取得の時期でいうと4回では足りなくなったという事例もあるのではないかと思いますが、そういった場合は年休などで対応しているのでしょうか。

森本 そうですね。制度は最大4回までなので、それを超えた部分については年休で対応してもらう形にしています。

池田 分割して取得する場合は、1回目は1回目のシートで、2回目以降は取得時に順次計画するという形なのでしょうか。

森本 当社の場合は、例えば4分割する場合は4分割目までと、取得する期間全てにおいて計画を立ててもらっています。しかし、そのとおりにいかないことも多いので、変更がある場合はシステムで取得予定期間を修正しています。また、分割と分割の間で転勤の話が出てくる可能性もゼロではなく、そうなると転勤先の業務の都合などもあるので、もう1度上長と面談し、取得のタイミングをすり合わせながら、必要に応じて取得期間を変えていくというような対応をしています。

池田 話し合いをしてニーズをしっかりと明らかにすることで、育休を取得することの必要性に対する職場の理解も得られるのではないかと思いました。

社員自身が家族の状況と照らして検討・実行

宇田 先ほど池田さんが指摘されていたように、産後8週までと、子どもが1歳に達するまでの両方の期間で取得を考えるきっかけをつくることが非常に大事ではないかと思っています。

当社は、「男性育休+α」運営を始めて、社員に、産後8週以内に取得するか、取得日数を連続10日以上とするか、育児参画デーを設定するか選択してもらう形にしました。置かれた状況を各人が考えて、奥さまの復帰に合わせて取得するのか、大変な産後8週の時に取得するのかなど、考えてほしいと思っています。

「男性育休+α」が始まる前の実績では、1歳までの取得が50%、2歳までの取得が50%で、そのうち産後8週以内に取得した割合は5%という状態でした。「男性育休+α」の運営を開始してからは、産後8週以内の取得実績が25%まで上がり、単純な数字では5倍になった形ですが、実数値として86人中21人が取得するまでになりました。また、産後8週以内の取得を希望する社員のうち、約2割が分割取得の希望を持っていることも分かったので、社員自身がどのように取得したいか、家族の状況と照らし合わせて考えてもらい、いろいろな取得方法を検討・実行していくということが、両方の期間で取得することを希望する社員にとっても有効ではないかと思っています。

池田 男性がただ育休を取るということではなくて、取得して何をするか、家族とどういった関係を構築しようとしているかというところを、会社としてもしっかり理解して、社内で浸透を図っていくことが大事であるとあらためて感じました。

男性社員の育休取得に対する女性社員の反応

男性育休の推進は、さまざまな分野に影響を与える可能性があります。例えば、育児・介護休業法が男女雇用機会均等政策の一環としてあるということでいうと、やはり女性との関係を再確認しておく必要があると思います。

まず、各社の男性育休に対する女性社員の受け止め方はどうなっているかをうかがいたいと思います。男性の家事・育児に関しては本人が結構やっていると思っていても、女性からみるとその程度かと思われたりします。また、女性のキャリアと男性のキャリアを考えた場合に、女性が長期間のブランクを経て復職している一方で、男性は1週間だけ取得したことで育休を取った気になっているのではないかという見方をする人もいると思います。ほかにも、育休明けで男性が残業続きとなったり、男性が主に仕事で女性が主に家庭というところが維持されていたりとなると、男女均等ではないのではないかという見方もあります。

今後の女性活躍を考えたときに、まず男性育休を入り口にして男性の働き方を見直すことが、女性の職域やキャリアパス、管理職登用の増加につながり、雇用機会均等に近づくのではないかと考えます。そうした面も含めて、女性社員はどう思っているかというところを教えてもらえればと思います。

男性社員の取得が両立する女性社員への理解へ

森本 女性社員の受け止め方は正直、賛否両論あります。性別関係なく家事・育児を行い、誰もが育児・家事に携わることが男女平等につながるという会社の姿勢に対して、評価するポジティブな考え方の女性社員も多くいます。

一方で、ネガティブな意見でいうと、コーソルの松浪さんも発言されていましたが、一時的に休むことが全てではなく、育休を取った後も育児は続いていくなかで、取ったことを自慢する男性社員もいて、それを見て嫌気が差す女性社員もいます。ただ、育児中の女性社員の気持ちを分かってくれる男性社員や上司が増えたという意見や、男性からも育児をしている女性の気持ちが心から分かるようになったという声も聞きますので、お互いの理解促進には役立っているのではないかと思います。

宇田 今、森本さんが賛否両論と言っていましたが、本当にそうだと思います。育休は育児の一部でしかないので、それで何の意味があるのかという声があるのは事実です。とは言いつつ、当社の場合は2013年度から男性育休に取り組んでいるので、男性が育休を取ることは当たり前だというような風土は根づいてきているのではないかと思っています。

プラスの要素としては、育休取得した男性の上司が、育児と両立する女性の部下の気持ちを分かるようになったことで、部下の生活を尊重したマネジメントをするようになり、女性社員のモチベーションが上がったという声を聞きました。それは組織にとってプラスに働いていると思っています。また、男性育休をはじめとした取り組みを、女性が働きやすい企業として社外から評価してもらえる機会も増えてきて、優秀な人材の確保にもつながっています。誰もが男性育休を当たり前に捉える状態を推進したいと思っています。

女性社員の配偶者の勤め先のスタンスにも影響される

松浪 感覚的な印象にはなりますが、当社のなかでは男性の育児休業は比較的好意的に受け取られていると思っています。当社は平均年齢が30代で、若い役職者が取っているケースも多く、そうすると部下の女性社員の気持ちが分かるようにもなるので、とてもいいことだと思います。

一方でジレンマといいますか、当社で働く女性社員が働きやすいかどうかは、その配偶者の方がどういった会社に勤められているかということにも結構影響されているという印象です。配偶者の会社で育児休業が取れる、早く帰って育児にコミットする文化があるということでなければ、結局当社の女性社員は会社でも家でも頑張らなければいけなくなるので、1社だけが頑張っても駄目だということはとても感じています。当社の男性社員が育休を取ることで、その配偶者が勤められている会社で活躍されることにつながりますし、当社の女性社員の配偶者の会社でもそうした流れになれば、当社の女性社員もより働きやすく、育児をしやすくなります。全体が頑張らなければいけないというのは非常に感じているところです。

一方で家事をしないことへの不満も

森本 制度に対する総合評価は、結構高く、取得者の配偶者・パートナーからも良かった、満足したという声をアンケート上でいただいています。

ただ自由記述では、心温まるエピソードも辛辣な指摘もいただきます。奥さまからの意見では、パパが育休を取ってくれてよかった、夫婦で育児の楽しさや大変さを共有できた、自分の職場復帰のタイミングで代わりに取得してくれたため就業復帰しやすかったなど、感謝の声もありました。逆に、奥さま自身が自分の時間が取れなかった、子どもとたくさん遊んでくれるのは嬉しいが家事をもっと手伝ってほしいという意見もありました。育児≒子どもと遊ぶことだと思っているパパも多く、おむつを替える、お風呂に入れるなども含めてですが、たいがい子どもと遊んでいて家事は全然しないというパターンもあります。また、育児で休暇を取っているのだから自分のことは優先しないでほしい、やるべきことを見据えて動いてほしいといった声もあります。こういった配偶者・パートナーの声は1冊のガイドブックにまとめて、取得する男性社員の皆さんにデータでダウンロードして見てもらっています。

男性社員が育児をタスク化して考えた事例も

宇田 7万人超の社員のうち女性が9割にのぼるので、全体の傾向として捉えることが非常に難しいのですが、社内で夫婦両方が取得している職員からは、会社がきちんと方向性を示してくれることで意識を持つ機会になっているといった声をもらっています。

あとは、1つの事例になりますが、最近育休を取った男性職員が、仕事と同じく育児をタスク化し、分解して考えてみたという報告をしてくれました。ミルクをあげるための事前準備や赤ちゃんが寝てから夜泣きで起きるまでの時間などを考えると、親は寝る間もないほどタスクに追われている状態で、これをパートナーである配偶者だけが担っているのはおかしいと思ったそうです。そうした事例なども社内で共有することで、男性自身もいろいろと考える機会が増えるといいと思います。

育休取得後の変化

育休取得後は男性社員も働き方に変化が

池田 ちなみに、同じ未就学のお子さんがいる男性と女性とで働き方が具体的に変わったということはありますか。

森本 育休を取って職場復帰する男性のなかには温度差があって、何も学ばずに戻ってくる人もいれば、かなり意識が変わったという人もいます。意識が変わった社員の姿を見て、周囲も変わっていく連鎖も起こっています。

好事例で言えば、育休を取ることによって妻の大変さを知り、心から感謝したという声があります。また、自分の1日は仕事で終わるのではなくて家に帰ってもやることがたくさんあり、今まで妻に任せて過ごしてきたことを顧みて、仕事を早めに切り上げて帰宅するといった声もあります。子どもをお風呂に入れる、寝かしつける、洗い物をするなど、やるべきことを明確に思い浮かべていれば、仕事も必然的に効率化していきます。ほかにも、保育園の送り迎えを夫婦で交代して担当したり、当社は時差出勤もできるので利用しながら育児・家事をシェアしたりと、行動が変容している社員もたくさんいます。

上司としても突然社員が出勤できなくなることはリスクでしかありませんので、回避するために業務シェアなどを考えることが増えていると思います。そういった意味では、特に男性の働き方というのは、変化していると感じます。

女性社員がフルタイムで復職できる状態をともに考える

池田 日本生命でも、男性の働き方が変わってきたなと感じることがあれば教えてください。

宇田 決まった時間内で物事を終わらせられるように、起こることを想定して働く、休業を取る前後でタスクを振り分けるといった動きが出ています。

一方で、少し違う視点にはなりますが、当社で未就学児を持つ女性社員がフルタイムで復帰している割合は約半数となっています。つまり残りの半数の方はフルタイムではない働き方なのですが、他方、男性社員はほぼ100%がフルタイムに戻っているのです。それは、一概に良いとも悪いとも言えないとは思いますが、なぜ女性社員がフルタイムで働けないのかというところを含めて、家族でしっかりカバーし合える状態を男性社員もより考えていけるといいと思います。かつ女性自身も、自分たちの働き方に対するサポートとしてどのようなものが必要か、さらに考えていければいいのかなと思いました。

女性がいつからフルタイムでの働き方にコミットするかが課題に

松浪 当社の女性社員は、時短勤務で戻ってくるケースが多いです。男性社員でも時短勤務をしている社員はいるにはいるのですが、比較的少数で、フルタイムで戻るというのが前提になっている気がします。

フルタイムに女性がいつアクセルを踏むのかということは結構問題になっていて、育児休業から復職して働くことは普通になってきたのですが、その後いつ、フルタイムで仕事にコミットしていくのか、どうしたら会社としても支援をしていけるのかを考えていく必要があると思います。本人のタイミングにもよりますが、会社としてはもちろん、仕事にかけてくれる時間が多ければ嬉しいというところもあるので、このバランスを取るのがなかなか難しいところです。

男性育休取得者が出たからというわけではないのですが、当社でも1つ前の中期経営計画から、育児や介護をしている社員にかかわらず休暇をしっかり取って、リフレッシュした気持ちで次の日の仕事に臨むことが望ましく、効率的な業務の遂行にもつながるということを、メッセージとして発信しました。それを受けて、効率的に働こう、業務を棚卸ししようといった雰囲気に社内が変わってきた印象があります。そうした風土がベースにあると、育児や介護があっても働き続けられる社員が増えるのではないかと思います。

自分自身の育休体験を踏まえてアドバイスを実施

池田 女性がどうしても短時間勤務で復職するとなると、管理職を目指す、あるいは管理職でなくても新しい仕事や男性が担っていたような仕事をやってみるといった部分で、男性と女性の差がなかなか埋まらないといった部分が出てくると思いますが、社内ではどうなっていますでしょうか。

宇田 女性社員は、ライフイベントがあっても長く働き続けられるという意識が大きく伸張してきました。私自身も出産経験があり、小学生の子どもがいますが、自分自身が育休を取得したときに何が課題だったかということを含めて、仕事と家庭を両立している社員に対しては具体的に話をするようにしています。男性の管理職も含めて、対話をしていくことができればプラスになってくるのではないかと思います。

男性育休の取得促進で女性の意識も変わる

森本 女性活躍が叫ばれて久しいですが、やはりネックになっているのは、女性に頑張れとちょっと言い過ぎている感じはありつつも、男性が家事・育児に参画していないので、どんどん女性がしんどくなっているという現状はあると思っています。男性育休の取得促進によって、男性を含め、誰もが家事・育児をするような社会になれば、もう1段、2段と女性活躍も進んでいくと思います。

女性も、そういった社会や会社のあり方を見て、自分のキャリアを伸ばす意識が芽生えるのではないでしょうか。そういう意味では、積水ハウスグループとしても、今取り組んでいる男性育休の取得促進が女性活躍の推進に貢献していくのではないかと思いますが、特に今はコロナの関係で、働き方とか、生き方自体が変わってきているので、因果関係は正直よく分からないです。

松浪 当社も、女性社員が4割ほどいるのですが、女性の管理職は20%くらいなので、女性社員の比率に対して管理職の比率が低いという状況です。設立からまだ18年の会社なので、設立した当初の創業メンバーの比率が男性のほうが高く、勤続年数でみれば男性管理職のほうが多いのはある程度仕方がないとは思っています。しかし一方で、ここから女性役職者を増やすようにしていかないといけない、とも感じています。今新卒で入社した社員は女性が非常に多く、女性社員が上に行けないというわけでは決してないですが、陰ながらのメッセージとして受け取られてしまうと、途中で何も言わずに諦めてしまう社員も出てきてしまうのではないかと思っています。

女性活躍という言葉は、先程の森本さんのお話にもつながるのですが、なぜ女性ばかり頑張らせるのか、男性も頑張ってほしいと思ってしまうので、私自身はあまり好きではないのですが、やはり女性も働き続けられる、キャリアを構築していけることは大切です。その一環として、男性が育児休業を取る、家事に進出していくということは非常に大切なので、会社としてもそこを支援していければと思います。

池田 男性育休は少子化対策や、良好な家庭生活、女性のキャリアや働き方改革などにも結び付きますが、結局どこにつながっているかが曖昧になると、何を実現しようとしているのか分からないまま、ただ取得率だけが上がっていくという不可思議な状態に陥ります。これから男女雇用機会均等を考える時に、例えば今回の改正が具体的に何に結び付いているのかを確認しながら次の改正に向けた議論を進めないと、何となく取得率が上がるだけでは結局何にもならないのではないかという感想を持ちました。

分割取得による労務管理への影響と育休の有給化の必要性

続いて改正法について、実際、これで男性が育休を取りやすくなるのかどうか、感じていることをうかがえればと思います。特に、新制度の部分として分割取得できるという点が1つの目玉です。短い期間で柔軟に取得するというのは、先ほど触れたように、年休などで代替的に休暇を取って子育てに充てている人にとっては、育児という目的に沿った休暇であることが言いやすくなるという期待がある。一方で、短い期間に男性社員が再取得を続けて職場を何回も出たり入ったりすると、労務管理が非常に煩雑になるのではないかという懸念もあります。このあたりの素朴な実感を教えていただきたいです。

また、他の休暇・休業との代替といったときに、所得保障の問題はどうしても男性育休にはついて回ります。日本生命と積水ハウスでは育休を有給化しているということで、育休の有給化は必須なのかという点をうかがえればと思います。100%所得保障が良ければ年休のほうがいいのではないかという話にもなりますが、どうでしょうか。

労務管理の煩雑さはシステム化や業務の簡素化で対応

宇田 まず、分割取得によって育休を取りやすくなるかというところですが、「男性育休+α」運営で、前よりもさらに柔軟な取得が可能となり、実際に取得を希望する職員も増えてきているので、取りやすくなると思っています。

一方で、ご指摘のとおり、労務管理については煩雑化します。当社では、毎年約300人の取得者がいるのですが、その人たち全員が2回に分けて取得するとなったときに、1回で済んでいた労務管理が2回になると、計600回作業が発生することになります。その場合、今のままでは運用できないので、実務についても社内でできることは簡素化、システム化していくことで対応していかなければいけません。

有給が必須かどうかについては、育児に限らず介護などと両立して働くうえでも、休業保障をしていかなければならないことはたくさんあると思います。財源についても考えなければなりません。もちろん有給化できれば望ましいですが、難しい側面もあるなかで、できる限りのことをしていければと思います。

みんなで休むことにチャレンジする姿勢が重要

森本 当社の場合は、4分割で取得する社員が約6割、一括で取得する社員は1割程度と、4分割の社員が圧倒的に多くなっています。配偶者・パートナーの就業状況に合わせる人もいれば、職種によって1カ月丸々休んだり業務に合わせて出社のタイミングを調整したりと、状況はさまざまです。そのため、家庭の事情や会社・仕事の都合によって分割できるようにするというのは、ある程度取得のしやすさに貢献していると思います。

労務管理も、確かに煩雑になっていくのは間違いありません。当社では3年前から徐々にシステム化を進め、取得計画書の情報を勤怠システムでも自動的に連携しています。やはり、事前準備を自分が中心となって周りを巻き込みながらやっていけるかにかかっていると思いますね。

他の休暇・休業制度との代替関係を解消しうるかというところは、人によって取る、取らないではなく、みんなで休むことにチャレンジすることが大切です。それが経営戦略にもつながっていきますし、当社はそのために有給化した部分は給料を支給すると覚悟も決めてやっています。ただ、このやり方が100%正解とも思っていませんので、各企業のやり方に応じて、できることをやっていければいいのではないかと思います。

池田 最初に全部の取得期間の計画を立てておけば全部織り込めるという部分が、煩雑さの低下にもつながっているのですね。

森本 そうですね。それも含めて上長と面談しながら、取得のタイミングや、業務の引き継ぎについて、しっかり打ち合わせをしたうえで計画を立てていきます。あとは流れに乗れるかどうかというところだと思います。

中小企業向けの助成金なども活用して対策の検討を

松浪 お2人のお話を聞いていて、取得者本人からみたら分割制度があれば取得がしやすくなるのだろうなと思う一方で、私は手続きもしている側なので、とても大変だなと感じます。あとは、現場の代替要員については、何カ月も前から交代の要員を用意する必要があり、改正法上の2週間前に急に用意するのは難しいので、事前に計画を立ててもらうなど、仕組みを整えていかなければいけないと思います。また、当社はまだエクセルで管理しているので、人数も回数も増えた場合はシステム化を進めなければ厳しくなります。

有給化については、本人のメリットは非常に大きいかもしれませんが、一方で、日本生命の宇田さんも発言されていたとおり、財源の問題もありますし、育児だけ有給化すればいいというわけでもないと思っています。中小企業では難しい面もありますが、中小企業向けの助成金などもあるのでうまく活用して補填するなど対策を考えていければいいと思います。優先順位を経営側も判断しながら見極めていくしかないでしょう。

システム化できていない部分ではアナログな管理方法も残存

池田 日本生命や積水ハウスでは、管理は電子システムでされているのでしょうか。

宇田 半分くらいはエクセルでの管理が残っているので、松浪さんのご指摘が合致する部分もあります。

森本 当社では、家族ミーティングシートや取得計画書は印刷した書類を家に持って帰ってもらい、パートナーに内容を見せて、パートナーの署名をもらったうえで上長の押印をもらうことを徹底しているので、一部アナログなところがあります。しかし、それをシステムでスキャン登録してしまえば、勤怠管理との連携などはボタン1つでできるので、アナログでやるべきところとシステムでまかなえるところを見極めて、改良しているところです。

池田 現場の上長と当事者との話し合いに人事として介入することはありますか。

森本 現場にある程度お任せしています。というのも、人数が多いので、打ち合わせに介入してどうこうするというよりは、現場でのコミュニケーションを大切にしてもらい、現場で解決すべきところは解決してもらっています。

松浪 給付金の対応など、一部外部の社労士にお任せしていますが、社員からの書類の受け取りなどは管理部で担当しているので、そういったところの手続きはどうしても紙ベースのものが多く、比較的煩雑になると思っています。けれども、まだ当社の規模であればぎりぎりできるかなという気持ちです。ただ、当社も拡大していきたいと思っているので、そうなってくるとシステム化など工夫はより必要になってきます。

今後の問題意識

池田 最後に、各社の皆さんの今後の問題意識を聞きたいと思います。今までの各社のお話を聞いて感じたことは、男性育休は会社が足並みをそろえて取得できる環境をつくるという取り組みが1歩目に必要となること。しかし、そこにとどまるのではなく、社員が配偶者の復職支援など会社から見えにくい部分をどのように表明し、会社と対話をしながら自分のニーズに沿った育休を取れるようにしていくか、そうした状況に向かって今後どのように取り組みを実施していくかが重要ということです。各社がまさにそうした取り組みをされていましたが、これから男性育休のより多様なニーズに対応していくために注意していきたいこと、課題として考えていることをうかがいたいと思います。

男女にかかわらず誰もが仕事と育児を両立して活躍できる社会を目指す

森本 仕事を潤滑に回すための工夫に注視して休業の質を高めていくことは必要です。また、当社は復帰後の育児にも活用できる早帰りや時短勤務などの制度もありますが、今は育児休業一本でやっているような節は否めません。もっと自由に、もっと多様性のある休みの取り方や家事・育児のやり方があるはずなので、そこをどんどん広げながら、誰もが家事・育児に参画して、男性・女性にかかわらず活躍できるような会社にしていくことを目指し、いろいろと試行錯誤していきたいと思います。

制度に落とし込みすぎずに個々人のニーズに沿って対応する

松浪 システム化、効率化しなければいけないと思うところが多々ある一方で、当社の規模ですと、やはり1対1、顔が見えるところがポイントだと思うので、制度にまで落とし込み過ぎずに、個々人のベストソリューションを話し合いながら決めていければと考えます。男性が育休を取ることが少しずつ当たり前となってきたので、その雰囲気をキープするためにも、面談などで話せる雰囲気を維持していくことが必要と捉えています。

女性社員への働きかけも推進

宇田 「男性育休+α」運営により男性社員自身がしっかりと考えて、各々に合った選択を行い、育休の質もさらに1段上げていきたいです。女性活躍も推進しましたが、その一方で、女性のキャリアアップはまだ足りない部分があるので、男性育休の取り組みだけでなく、女性社員への働きかけも推進していきたい。そして、男性職員とその家族のワークライフ、幸せについて私たちもしっかりとサポートをしていきながら、男女ともに働きがいのある会社にして、お客様にとって長く信頼され続ける会社でありたいと思っています。

池田 これから改正法が施行されて、男性育休に本格的に取り組まれる企業も多いと思いますが、今日の3社の取り組みを通じて私が再認識したのは、コミュニケーションが大事だということです。休むことが目的ではなくて子育てをすること、それに対する社内の合意をどうつくっていくか、そのことが、多様な社員のニーズの把握につながり、男女がともに仕事と家庭を両立しやすい職場づくりにつながっていくと思いました。