パネルディスカッション

パネリスト
周 燕飛、白波瀬 佐和子、矢野 正枝、大西 連、植野 ルナ、赤石 千衣子
コーディネーター
濱口 桂一郎
フォーラム名
第115回労働政策フォーラム「新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方」(2021年6月25日-29日)
パネリストの様子

濱口 パネルディスカッションを始めます。新型コロナと女性雇用という問題について、キーワードになるのはおそらく、周さんが報告のなかで紹介した「She-cession(シーセッション)」という言葉ではないかと思います。今回がシーセッションだとすると、十数年前のリーマン・ショックは「He-cession(ヒーセッション)」であり、それを象徴したのが、当時のもやいの湯浅誠さんが中心になって行った「年越し派遣村」で、若者から中高年までの主に男性が、日比谷公園にどやどやと入っていくというイメージでした。

今回は、そういったまとまったイメージではないのですが、特に飲食サービス業などで働く不利な立場にある女性たちが、表から見えない形で不利益を被っている。この特定の業種の状況は世界共通かもしれませんが、同時に、日本の雇用のあり方や社会のあり方、男女の社会のあり方というものが、それを増幅させている面もあるのだろうと思います。

そこで本日のパネルディスカッションの進め方ですが、まず、「なぜこんな事態になってしまったのか」について話し合いたいと思います。各パネリストからすでに報告がありましたが、「ここに問題がある」と、あらためてそこを追究するような形でお話しいただければと思います。では、シーセッションという言葉を日本に持ち込んだ周さんからお願いします。

なぜ女性への打撃が大きかったのか

女性不況の現象は世界共通

 この言葉を初めて耳にする人もいると思いますので、もう1回シーセッションについて説明したいと思います。

昨年の4月~5月頃にコロナ禍が世界中に広がり、海外の研究者、経済学者を中心にシーセッションという言葉が出てきました。私はいち早くその言葉を日本に紹介しました。日本語に訳すと「女性不況」ということなのですが、今回の現象は日本だけではなく、ほかの国でも確認されている世界共通の現象というところがとても興味深い。コロナ禍が世界規模で起きていることが、その原因の1つですし、その起きる構造がどの国も似ているところもまた、興味深い点です。

その背景の1つには、今回、コロナの感染を抑制するために、各国が消費活動を自粛させるような措置を取り入れたことがあげられます。その結果、対人サービス型の産業が大きな打撃を受けました。濱口さんが指摘した飲食・宿泊サービスがその典型ですが、娯楽・生活サービスなども同様です。サービス産業には伝統的に、女性が多く働いています。そのため、女性に大きな被害をもたらしました。

学校の休業で就業を控える女性が出た

また、感染を抑制するため、多くの国は保育園、幼稚園、小中高校の休園・休校といった措置を取り入れ、日本では昨年、3カ月ほど一斉休園・休校が行われました。その間、家事と育児の負担が非常に増えました。本来であればその負担は、男性と女性が半々でわけ合えば女性に影響が偏ることはないのですが、実際には、日本も含め多くの国では家事や育児の負担の大部分は女性が担っています。それによって、コロナ禍のなかで自分から就業を控えざるを得ない女性が出てきたのです。

背景としては、もう1点あります。これは日本の特徴とも言えるのですが、女性の非正規雇用者の割合が高い。企業は不況になると雇用調整を行います。しかし、日本の企業はいきなり解雇や雇止めといった措置はあまり行いません。特に正規社員に対しては、なるべくそうした措置を避けるような動きをします。すると、非正規雇用のシフトを減らしたり、非正規雇用の契約を継続しないなどの措置から行われるようになり、しわ寄せが非正規のほうに向かいやすい。非正規雇用の割合の高い女性は、もろにその被害を受けることになります。

有償労働と無償労働の間の格差も表出

濱口 今、周さんが指摘したことのうち、特に後者の2点は、まさに、社会全体の男女のあり方と深く関わっていると思います。白波瀬さんの報告では雇用を少し超えたようなところまで含めてお話しいただきましたが、あらためてこうした観点から突っ込んでお話しいただければと思います。

白波瀬 周さんがお話しされたことは、根本的な論点が含まれています。リーマン・ショックは製造業を中心に男性に大きな影響が及んだのに対して、今回のコロナ禍ではどちらかというと女性に深刻な影響が及びました。コロナ禍は生活そのものを直撃したことがその影響の矛先が女性に向かったことと密接に関係していると思います。

さらに言うと、経済学でも検討されているところですが、無償労働と有償労働との間に格差の存在があります。日本では特に、有償労働と無償労働を担う役割配分が、男女というジェンダーで分断されている状況が戦後ずっと続いてきました。戦後70年以上経ったいまも、その状況は基本的に変わることがありませんでした。そのことが、今回のコロナ禍の深刻な問題をジェンダーによって分断する背景となったのだと思います。

女性は平均的に非正規雇用が多い。その代表がパートタイマーで、80年代の労働力不足を中高年の女性がパートとなって埋めてきました。

生活面への影響という点では、誰と一緒に暮らしているか、という要素も重要になります。母親である場合には、子どもの面倒があります。母子家庭である場合と、配偶者がいる女性の就労率について、内閣府「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」メンバーである経済学者の山口慎太郎・東京大学大学院教授が労働力調査の個票データを分析されたのですが、両者で少なからず就労行動の違いが確認されました。子どもが休校で家にいても、一家を支えなければならない母子家庭の女性は、仕事を辞める選択肢がないので、コロナ禍の一斉休校があった時も休業率は有配偶女性に比べて上昇することなく、失業率が上がっていました。

つまり、一家を支える男性世帯主がいて、女性は母親役割があり、妻役割があるという固定的な役割期待が、男女で大きく分断された労働市場の基盤としてあり、具体的な生活の過ごし方も規定してきました。このような高度経済成長期に培われた家族のあり方や女性役割に関連したジェンダー規範が、その後の長きにわたる経済停滞期を経ても、また、女性の高学歴化が進んでも、基本的に変わることがなかったという負の効果が、今回のコロナ禍で顕在化しました。

その一方で、ジェンダー不平等は、その程度は違っても世界で共通しています。北欧のようにジェンダー平等が進んでいるといわれても、不平等・格差が解消されたわけではありません。ただ、その程度が大きい日本にあっては、われわれ大人世代の責任は小さくないと思います。

正社員男性前提の制度・規範が社会変化に対応できず

濱口 われわれの責任というのは、おそらく男性である私も含めたみんなの責任なのですが、それを政府で担当しているのが、このフォーラムを共催している内閣府男女共同参画局ということになろうかと思います。矢野さんの目から見て、この状況はどのように映っていますか。

矢野 まず、なぜ女性にこれだけ大きな影響が及んだのかということについては、大きくは3点あると思います。1つは労働市場の構造です。新型コロナの影響が直撃した産業、具体的には宿泊・飲食などの対人型・接触型の産業において、女性の非正規雇用労働者の割合がもともと高かったということ。

それから、学校の一斉休校や外出自粛というコロナ下特有の措置によって、家事や育児等がさらに女性に集中し、男性も育児・家事参画時間は増えているものの、それ以上に女性の時間が増加しました。その背景には、固定的な性別役割分担意識といった構造的な長年の問題があります。

さらに、さまざまな制度がそもそも、個人の働き方の変化や家族の形態の多様化に対応できていなかったのではないかという問題意識が内閣府の研究会で共有されました。特に長時間労働の男性正社員と主婦を前提としたさまざまな制度や規範が、ひとり親や単身女性、非正規雇用労働者等が増加しているなかで、社会の変化に対応できなくなっている結果、女性に対して大きな影響が及んだのではないかと概観しています。

路上相談会でも女性が来るように

濱口 いま矢野さんがおっしゃたことは、男女共同参画局がこの20年ぐらい、繰り返しさまざまな調査報告のなかで指摘し続けてきたことなのですが、コロナ禍であらためて、その構造が本質的に変わっていないということが露呈してきたのではないか、といった感じもします。

大西さんはもやいの理事長をされていて、十数年前のリーマン・ショックのときにも活躍されました。ただ、そのときはシーセッションではなく、ヒーセッション的な形で注目されたわけです。この間、ずっと見てこられて、今回のコロナ禍で特に女性が苦しい立場に置かれているということについて、あらためてコメントをお願いします。

大西 リーマン・ショック後は、すごく相談が増えました。ただ、ほとんど30代~50代の単身男性で、製造業などで働いていた人がいわゆる派遣切りなどに遭って生活に困ったというような特定のパターンの相談が多かった。その後、2010年代の後半ごろに、貧困の広がりかもしれませんが、女性の相談がかなり増加してきました。

コロナ禍では、女性、それから男女問わず若い人からの相談が例年にないレベルで増加していると思っています。相談件数自体も例年より1.5倍~2倍近くにのぼっています。若年層からの相談の割合が3、4割を占めており、(路上ではない)通常の相談だけでみると女性は以前から3割程度でしたが、4割近くにまで増えています。

路上での相談会は毎週行っており、土曜日は食料品の配布と相談会を開催していますが、こういった相談会は外で行うものなので、通常は、女性はほとんどいないのですが、いま1割以上は女性です。住む場所がある人も来ます。相談者数は昨年4月に比べ約3倍に増えていますし、サービス業の人がとても多いのですが職種も本当に多様になっていると感じています。

支援現場で会う人には非正規労働で働いていた人が多く、そういった人たちからは、失業したり、収入が減少して、何か公的な支援や休業補償の仕組みが利用できないかとの問い合わせを受けることが多いのですが、コロナ以降では、さまざまな支援情報をメールなどオンライン上で伝えるだけで、自分で申請ができる人も結構います。情報を伝えるだけで、自分で必要な制度にアクセスできる人が増えているのは特徴的だと思っており、逆にいえば、それだけ力がある人が困窮しているのかもしれません。

一方、1年以上厳しい状況が続くなかで、なかなか生活再建が進まないという人が増えており、それがメンタルの悪化や、悪化の中長期化の原因になっているのかなと少し感じています。

シングルマザーの置かれた状況

もともとぎりぎりの生活をしている人が短期間で困窮

濱口 この10年少しの間に、目の当たりにされた日本社会のありようの変化について述べていただきました。報告では、植野さんにはセンターの活動を中心にお話しいただきましたが、横浜市の男女共同参画推進協会では『シングル女性の貧困』(明石書店 2017年)という報告も刊行されるなど、女性の貧困の問題をずっとみてこられました。あらためて、今回のコロナ禍での現状について、どのように感じているかをお話しいただければと思います。

植野 女性の雇用については、最初は正規雇用で入った人でもその後、非正規に引っ張られていくという構造があります。今50代ぐらいの女性は、初職は正社員で入社できた人が多いですが、結婚・出産で退職したあと再就職しようとしても、非正規雇用しかないのです。私どもが調査した40代の就職氷河期世代の人たちも、初職から非正規だったり、正規で入れたとしても、そこがブラックな企業でパワハラを受けるなどして、退職後はずっと非正規や派遣労働という人が多い。30代でも、正社員で入社しても出産を機にパート・アルバイトになっている人が結構います。周さんの指摘のとおり、非正規から先に雇用調整されるということがあって、今回のコロナでもその影響をとても強く受けていると思います。

私どもが相談を受けている人のなかで、生活困窮に陥っている人は、非正規雇用の単身者、ひとり親が多い。事例報告でも述べましたが、シングルマザーでずっと子どもを育ててきて、子どもが育った後、支援制度がないなか、コロナで職を失って困窮している人からの相談が入ってきています。こうした人たちは、もともと非正規雇用でぎりぎりの生活をしており、なかには非正規を掛け持ちする人もいますが、貯金がなくて毎月の収入で生活を回している人が多い。事例報告で紹介した就職氷河期世代のシングル女性に対する調査結果によると、非正規のシングル女性の約3割が、貯金が10万円以下でした。こうなると、収入が途絶えてしまうと、もう家賃も払えない状態になります。コロナが直撃して、困窮し、耐えられなくなるまでの期間はとても短いです。

想像を絶するシングルマザーの厳しさ

濱口 植野さんが言われたシングル女性の問題は、昔はあまり注目されていませんでした。最近になって、植野さんの協会の調査などによって明らかになってきたと思うのですが、そういう意味からいうと、赤石さんがずっと取り組んでおられるシングルマザーの問題というのは、日本的な働き方、男女のあり方の隙間にこぼれ落ちた状態にあったことが何十年も前から指摘されていながら、長い間放置され、21世紀になってからいろいろな対策が講じられてきました。今回のコロナ禍のなかであらためて、シングルマザーがいかに不利益な立場に置かれていたかということが露呈してきたという感じもします。長くシングルマザーの問題を世に問うてこられた赤石さんの観点から一言お願いします。

赤石 ひとり親、シングルマザーの状況がコロナでどれだけ厳しくなったか。おそらく、皆さんの想像を絶していると思います。

事例で少し紹介しましたが、お米を送る取り組みの際のアンケートで、2日に1度、食事をしているお母さんがいました。このお母さんは、6歳と4歳とゼロ歳の子どものお母さんで、母乳をあげていたのです。母乳をあげて2日に1度の食事って信じられないのですが、それしか方法がなかった。何かの感染症にかかれば、みな餓死寸前になりかねないといった状況まで、3月の一斉休校から4、5月で簡単に追い込まれていたということが、社会にはみえていなかったのではないかなと思います。

もちろん、非正規雇用が多いことや、休業補償が届いていないこと、預貯金が少ないこともあります。そういうこともあるのですが、それに加えて、給食をやめた。生存保障であった給食をなくしたことによって、世帯にとって出費増となりました。ですので、その後の緊急事態宣言では、「もう学校は休校にしない」と私たちも声を上げました。

もう1つは、親がひとりであるわけですから、親が感染して入院することになったら、ケアする人がいなくなってしまいます。ケアの不足を恐れて、仕事を辞めざるを得なかった人もいました。

本当にあっという間に窮迫し、トイレでは水を流すのは1回ではしないとか、公園で飲み水を汲んでいるなどといったアンケート記述が1人からではなく、たくさんの人から寄せられる状況でした。

シングルマザー世帯の約1割は年収が貧困線の半分以下

濱口 赤石さんのお話は、同じようにシーセッションと言うと少し語弊があるかもしれませんが、休業や無業になる余裕のある女性と、その余裕すらない女性がいる、あるいは、学校が休校になって子どもの世話をしなければならなくなって困っている女性と、給食がなくなって困っている女性という、いわば同じシーセッションのなかで不利益な立場に置かれている女性のなかにも違いがあるということをリアルな形で示していただいたと思います。

シングルマザーの問題については、周さんも本まで書いているぐらい専門の立場ですので、ぜひ一言お願いします。

 私も10年以上前から、厚生労働省からの要請研究がきっかけでシングルマザーの調査研究を行ってきました。先ほど赤石さんが、たくさんの相談事例から、シングルマザーのなかには絶対的貧困に近い状態の人もいるということを説明してくださいました。

私はJILPTで「子育て世帯全国調査」を担当しました。2018年の調査によると、シングルマザー世帯の約1割は、可処分所得が貧困線の半分以下です。つまり、4人家族であれば月々10万円以下の収入で生活しているのです。その程度の収入だと、絶対的貧困に近い状態、つまりミニマムな衣食住を満たすのも精一杯の状態です。シングルマザー世帯は日本に120万いますので、約12万世帯はそういうぎりぎりの状態にいるのではないかと思います。

JILPTは昨年4月から計4回、コロナ禍が雇用に与える調査を行いましたが、その調査分析と、NHKとの共同調査の分析からもシングルマザーのデータを取り出してみました。それをみると、今回のコロナ禍で例えば雇用に大きな影響を受けているシングルマザーの約1割は、家賃を滞納したり水道料金が払えないなど、切羽詰まっている状態にありました。約1割は緊急に支援する必要があるということです。

今回、国はひとり親世帯に対して臨時給付金を2回にわたって支払いましたが、それだけでは足りません。なぜなら、シングルマザーの収入の約8割は自分の労働収入です。労働収入が減ったなかでは、給付金はすずめの涙にしかならないのです。根本的にはシングルマザーに対してきちんとした就業支援を行い、稼働所得が大幅に減らないような支援をしていくことが必要だと思います。

濱口 確かに2回、児童1人あたり一律5万円という給付は、すずめの涙かもしれませんが、ただ、シングルマザーに対する給付金が今回のコロナ禍で初めて出てきたという点では、意味は大きかったのかもしれません。これっきりということではなく、今後にどのようにつなげていくかということが課題になるかと思います。

エビデンスをもとに政策提言することが重要

赤石 表現はすごく難しいと思うのですが、濱口さんが、シングルマザー世帯が日本の社会のなかでの隙間にいるというような表現をされていました。しかし、私からみると、シングルマザー世帯は、ジェンダー構造そのものの不利が一番集約された場所にいると思っています。労働、社会のあり方、家族規範、それからジェンダー構造の集約の場にシングルマザーは置かれていると思っていますので、そこの不利が集中している場所にいるという把握のほうがいいのではないかなと思います。

政府が給付金を創設するときも、国や厚労省はデータを持っていないので、私どもの団体が駆けずり回って、調査結果を厚労省に提供しました。国会でも与野党全て説得して回って、初めて給付金が3回出ることになりました。本当に支援団体が必死になって動いた結果であるということをお伝えしたいと思います。

濱口 少し私の物の言い方がまずかったのかなと思うのですが、日本的な、家族を養う正社員に年功賃金が支払われ、そうでない人は扶養家族だから賃金はそれほど高くなくていいという社会のなかで、自らが子どもを扶養するシングルマザーというのは、最もその日本社会の枠組みからこぼれ落ちるという意味で隙間という言い方をしたのですが。言葉が少し適当でなかったのかなと思います。

赤石 構造も含めて、こぼれているのではなく、位置づけられているのだと思います。

濱口 まさにおっしゃるとおりだと思います。今の点について、矢野さんからお願いします。

矢野 シングルマザーの支援の観点で1つ、データについてです。今回、シングルマザー調査プロジェクトの皆様にもヒアリングをしまして、最も早く深刻な影響が直撃したのがひとり親家庭ではないかとの認識に立ち、研究会でシングルマザーの状況を掘り下げて議論しました。

総務省の労働力調査の個票を取り寄せて、研究会メンバーの山口慎太郎先生のグループが分析されたのですが、例えば、一斉休校のもとで、夫と子どもがいる女性は、非労働力化=仕事をしない、という選択が見られた一方、シングルマザーについては明らかに失業率に大きな影響が出ており、仕事をしないという選択も難しいなかで非常に厳しい状況にさらされていることがエビデンスとして明らかになりました。

個票データの入手に時間を要しましたが、シングルマザーに焦点を当て、支援を強化すべきという緊急提言が出され、財政当局等とのやり取りのなかでもしっかりエビデンスを示すことができました。今後もデータをしっかり取り、エビデンスで説明していくということが政策立案の場面において重要だと考えています。

構造が変わらないと解決しないテーマもある

大西 赤石さんたちとは一緒に議員会館を回ったり、分野によっては一緒に行動することもあるので、今の話はもっともだなと思って聞いていました。もともと構造的に貧困になりやすい状況に、社会的に置かれているという前提は、おそらくとても大事な点だと思います。

最近では、女性の貧困や生理の貧困、ヤングケアラーなどといった新しい問題が発見され、言葉が生まれています。それに対して対策が打たれていくこと自体はとてもいいことだと思うのですが、一方で構造が変わらない解決しないテーマもあります。例えばネットカフェ難民というのは、最近はあまり言わなくなりましたが、今でも東京には約4,000人いると言われています。しかし、解決はしていません。

「貧困が多様化している」と私も言ってしまうので自戒しなければいけない部分もあるのですが、女性の問題では、非正規労働の問題やジェンダーの問題のほかに、DV(ドメスティック・バイオレンス)、虐待の問題なども解決されないまま、どんどん社会が進んで、より深刻化したり、見えづらくなっている面もある。コロナで表出したから目立っているようにみえて、実はベースはすごく深い問題で、構造としてどう変えていくのかということについて、政策、研究などいろいろなレベルで議論したほうがいいのかなと、今あらためて思いました。

濱口 大西さんや赤石さんのような、まさに現場から当事者の声として世の中に対して訴えかける声があってこそ、それに応える形でアカデミックな観点からの研究や調査があり、それがうまい具合に展開して政策にうまくつながっていくといいのですが、その間に何回もの難題があってなかなか進んでいかないと、おそらく大西さんにしろ、赤石さんにしろ、感じられることが多いのではないかと思います。ただ、こういう労働政策フォーラムのような場は、そういった声が世の中にきちんと伝わっていく1つの機会にもなるかと思っています。植野さん、この点について何かございますか。

仕事にしがみつかなければならない状況はまだ続く

植野 先ほど赤石さんが、シングルマザーがジェンダー構造の不利が集中してしまっているところだとおっしゃいました。非正規で働くシングル女性、特に中高年のシングル女性も同じようにジェンダー構造の不利がまさに集中しているところなのかなと思います。

男女共同参画センターでも、2000年代に入る頃までは、やはり女性の就労支援というと、再就職支援が中心になっていました。ただ、非正規で働き続けているシングル女性は、平日の就労支援講座には来られませんので、支援を受けられていない人たちがたくさんいることを感じていました。

セーフティーネットも男性稼ぎ主モデルでつくられているので、その制度のなかで結婚していない女性というのはとても不利な立場に置かれて、何の支援も受けられないということがあります。

濱口 植野さんが言いかけた政策的な観点はこの後まとめてまたお話をするとして、赤石さん、シングルマザーを中心とする問題について、まとめ的に何かお話はありますでしょうか。

赤石 今の状況をもう少しお伝えするということでもよろしいですか。

濱口 状況をもう少し伝えていただいても結構ですし、今後どのように取り組んでいくべきかというお話でも結構です。

赤石 わかりました。リーマン・ショックのときも、バブルの崩壊のときもそうだったと思いますが、経済的な縮小が起きると、おそらく不利な立場の人たちへの影響が最初に始まって、最後まで長期的に続くという傾向があると思っています。ですので、コロナ禍で経済が縮小し、特にサービス業や宿泊などの産業がうまくいかなくなって、そこでたくさん働いていた女性、特にシングルマザーへの影響というのは、長期化するだろうと思っています。

今、シングルマザーがどういう状況にあるかというと、例えば、2割とか3割、就労収入が減って、非正規なのでシフトに入れてもらえなかったり、残業が減ったり、副業がなくなったりしています。報告でのグラフで示したように、就労収入が12万5,000円以下の人が約50%います。子どもの体重減を心配しているお母さんは10%を超えていました。夏休み前から食べ物をかなり削っている状態が続いています。

こうした人たちに対して、転職して良い職業に就けるように応援すべきなのか、あるいはそういう仕事を紹介できるのか、職業訓練で良いものがあったらそれを紹介するのか、また、生き延びるために副業を支援するのか、本当にそこは迷うところです。

今の仕事にしがみついているしかない人たちが大量にいます。収入が減っているかもしれないが、ゼロになったらとても不安です。この人たちにどうやって食べていけるだけの支援をするのか。私は、副業支援や在宅就労支援というのは大嫌いだったのですが、今はそれを案内するしかないのかもしれないと思っています。報告の後半で紹介したITスキル支援にチャレンジする人がさらに増えていくのは良いことではあるのですが、全員ができるわけではなく、だとすれば細切れの仕事でも案内して生き延びていただくしかない。こうした状況があと1、2年続くだろうと思っています。

今後の支援のあり方

コロナ後を見据えた良い仕事に向けた就職支援を

濱口 お子さんの体重が減ったというような話は、雇用労働問題の研究では、なかなか耳に入らない貴重な話だと思います。制度や法律のありようといったものは、どうしても今までの社会のありようというものを前提につくられます。セーフティーネットのあり方もそうで、そのため、実はその枠組みにはまらないような人にとっては、セーフティーネットがなかなか使いにくい場合もあります。例えば貸付けや給付といった問題でもそうでしょうし、職業訓練でも訓練後に新たな段階に入っていくだけの状況があるのかといった課題もある。そういったさまざまな問題提起をしていただきました。

ここからは、3番目の論点として、「では、何をなすべきか」について議論したいと思います。制度のあり方も含めて、提言的なお話をしていただければと思います。周さんからお願いします。

 私はやはり、ポストコロナを見据えて、経済が回復した後に、いかに多くの女性が良い仕事に就けるかがとても重要だと思います。

今回のコロナで、女性の雇用問題の1つは仕事のクオリティーというところにあることが露呈されました。第2次安倍政権の間、女性の就業率はとても上がりましたが、女性は非正規雇用が多く、低スキルの仕事が多いという構造的な問題は全く変わっていません。それが今回、女性に偏った被害をもたらす構造的な原因の1つとなったことは、調査データや現場からの報告で明らかです。

今回のコロナ禍では、女性の非正規雇用が大幅に減少する一方、女性の正規雇用者数が増加しているというデータが労働力調査から出ています。なぜそういうことが起きたかというと、医療・福祉産業での労働力の確保があるのです。コロナ禍前は、これらの業界は労働力不足の問題に直面して、有効求人倍率が最高時には6倍ぐらいありました。コロナ禍を逆手に取って、人材を確保しようという動きが業界には出てきています。

しかし、本当に女性はこれらの業界で働きたいのかと言うと、必ずしも全員がそういうわけではない。一時的な避難先として、そこに就職している女性もいると思いますので、また景気が回復した後は、転職など動くことになると思います。コロナ禍後にどういった産業が伸びていくのかをきちんと見据えて、失業などした人たちに次の就職に備えた職業訓練を施して、より良い仕事に就けるための準備を政府にはサポートしてほしい。

シングルマザーに対しても、職業訓練、高等技能訓練促進費などの就業支援制度がありますが、必ずしも市場や、企業の需要を見据えたうえでの訓練であるとは限らなかったり、訓練を受けてもあまりコストパフォーマンスがよくないので、結局その分野で就職しなかったり、せっかく取った資格が活用できなかったことも多い。やはり出口をよく考えて、本人が本当にその仕事に就きたいのか、期待どおりの収入が得られるのかなども含めて職業カウンセリングをしっかりしたうえで、職業訓練を行うことが大事だと思います。

緊急対応と構造問題への対処を同時進行で

濱口 白波瀬さん、いかがでしょうか。

白波瀬 先ほど一巡目に発言できなかったので、少し母子家庭の話についてお話ししておきたいと思います。ポイントの1つは、母子世帯の現状についても、実態を把握する際の「目利き」が大切だと思います。実際、赤石さんや大西さんの現場の話を聞くと、マクロな観点からだけでは、なかなか実態が見えにくいと感じます。赤石さんは想像を絶するとおっしゃいましたが、われわれの想像力は極めて限定的で、それを超えた現実が実は脈々とある、という点は忘れてはいけないと思います。

待ったなしに策を講じ、手を差し伸べなくてはいけないのに、どうしてできないのかという緊急の課題があると同時に、マクロな観点からみんなが抱える共通のリスクという観点も忘れてはいけないと思います。なぜなら、限定的な当事者問題としてのみ対応すると、いつまでも別カテゴリーにとどまり、全体社会の問題として捉えられず、共感される範囲が限定されがちだからです。広く社会の問題として位置づけることがなければ、緊急性が高く、その対応として中長期的に構造的に変えていくべき課題として捉えられないことになり、これは望ましくありません。今のコロナ禍も特定層に特に深刻な影響が出ていると同時に、万人にとって共通するリスクであり、広く社会問題であることを忘れてはなりません。

例えば保健師は正社員率も非常に高く、女性割合も高いうえに、地域福祉を支えているのですが、女性のキャリアという観点から準専門職としての位置づけが強く、長い目で見たスキルの積み上げという点でより積極的に展開されるべきでしょう。今、ヨーロッパなどでは、コロナ後の復興に向けて「グリーンリカバリー」というように、エネルギー変換の問題も含めてどういう社会を目指すのかが就業創出政策と同時に議論されています。新たな雇用・労働をこれからの時代にどう関連させていくのか。また女性だけではなく、さまざまなマイノリティーの人たちも含めて、多様な就労に対する支援、環境を自覚的に整備していくことが、ポストコロナ時代の展開を考えるうえにも必要です。そうなると、やはりリーダーの役割は非常に重要になってくる。

また、私が座長を務めた内閣府の「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」が今回出した緊急提言の狙いの1つは、とにかくいち早く注目すべき深刻な問題がいま存在している事実を、明らかにすることでした。これは、内閣府男女共同参画局からの協力があってできたことです。

本研究会の報告では、社会的弱者に特化した、詳細な統計を国がきちんと収集し、政策評価のためにも公開、分析することも提言しています。例えば、アメリカのPSID(Panel Study of Income Dynamics)というパネル調査ができた背景には、アフリカン・アメリカンたちの貧困対策が喫緊の課題としてありました。日本では、母子家庭あるいは外国籍を持った人にウエイトをかけて、社会的弱者の問題をくみ上げながら政策議論できるようなデータ構築を真剣、かつ喫緊に考える時にあります。この度のことが一時的な注目だけに終わらせることなく次につなげていくことが極めて重要だと考えます。

デジタルスキルの向上に向けた訓練も重要

濱口 研究会報告は、実にいろいろなことがきちんと書かれています。矢野さん、コメントはありますか。

矢野 研究会は経済学、社会学、医療、ジェンダー等幅広い分野の専門家による白熱した議論が進みました。報告書では、コロナの影響も含めて産業構造が変化していくなかで、同一企業内で雇用維持を図るだけでなく、デジタル・グリーン成長分野や、福祉などの人材不足分野へのシフトを進めていくことの重要性も指摘されています。そして職業訓練を充実していく。情報通信業では、コロナ下でもほぼ一貫して女性の正規雇用労働者は増加しており、デジタル人材のニーズも高く、デジタルスキルの向上に向けた訓練は非常に重要です。ひとり親に対しても、緊急的な支援も重要ですが、中長期的な自立につながる支援という観点から職業訓練関係の支援をしっかり強化していくことが必要です。このほかにも家事・育児介護など幅広い視点が盛り込まれています。是非、男女局のHPで内容や議論をフォローいただければと思います。

個人にきちんと支援する仕組みを

濱口 大西さんはむしろ、ぎりぎりのところの人々を目の当たりにして、セーフティーネットのあり方についていろいろと言いたいことがあるのかなと思いますので、ぜひよろしくお願いします。

大西 今回のコロナ禍でもさまざまな支援策がありますが、個人に対する支援は脆弱だと思います。何があったかを思い返すと、マスクを世帯に2枚配ってもらったことと、定額給付金などで、個人にきちんと支援するということはできないのかなと思ったりします。

この間の政策は、雇用調整助成金や持続化給付金、休業補償など、雇用を守ることに大きなウエイトが置かれています。それ自体は確かに重要だと思いますが、一方で、個人がいざ失業したときにどんな支援が受けられるのかというと、もちろん失業給付や給付付き職業訓練はあるものの、実際に多く使われているのは特例貸付けです。お金を借りている人が延べ220万人以上いて、総額は1兆円に上っています。

もちろん返還免除の規定などはありますが、生活再建してしまうと返さなければいけない貧困の罠のようなものがあります。住民税非課税状態なら200万円借りても免除されるのですが、例えば月収15万円でも稼ぐようになったら、毎月1万円ずつ返さなければならず、140万円借りた場合は10年以上返し続けるわけです。そういう形のセーフティーネットの脆弱さがあります。

なぜそういった政策しかなかったかというと、ずっと短期の失業を想定しているからです。3カ月、6カ月程度で労働市場に戻れるという前提でセーフティーネットを組んできたところがある。リーマン・ショックのときにも同じようなことが議論されました。しかし、景気がよくなると、「20万円でも稼げれば何とかなる」といって、こういった問題は消えてしまうのですが、構造として脆弱な状態に置かれていることはいまも変わっていません。中長期の支援をどうするのか、月収20万円で非正規で働くことを支援が要らない状態と捉えていいのか、ということについて、もう一度考える必要があると思います。

もう1点だけ述べると、われわれは、基本的に生活保護は権利だと考えています。ただ、権利として利用できると法律にも書かれていながら、まだまだスティグマ(汚名)のイメージが強く、できれば利用したくないということを現場ではよく聞きます。政策はあるのに使われないような社会的な風潮があることは、とても不幸です。厚労省も要件を緩和していて、実質的には以前より利用しやすくなっているはずなのですが、実際にはあまり進んでいません。制度をつくって終わりではなく、使いやすい仕組みに変えていくことも、とても重要です。

困窮ぎりぎりまで相談しに来ない

濱口 世界的に見ると、実はもう20年ぐらい前から、欧米でいわゆるワークフェアが流行っており、日本にそれが入ってきました。ワークフェア自体はおそらく、欧米の言わば福祉漬けのような状況を前提とする、ある意味合理的な話だったと思うのですが、日本は昔からワークフェアだったところにワークフェアを持ってきたようなところがあり、大西さんらの現場の目から見ると、もともと厳しいなか頑張っているのに、そこをまた叩くのか、といったような印象があるのかもしれません。そういう意味で、政策のあり方として、もう少しきめの細やかさが必要なのではないかというご指摘だったのかと思います。植野さん、いかがですか。

植野 センターでも、相談事業や支援事業を行っていますが、女性がどれぐらい困ったら相談するのか、また誰に相談しているのか、などと思いながら活動しています。おこめ券を配る事業は一人暮らしの女性が対象だったのですが、困り事を書いてもらうと「1日1.5食にしています」や「食べる量を減らしています」といったような記述がかなりありました。おこめ券を受け取った人たちは、まだどこにも相談していないという人が多かったと思います。

これは支援者から聞いた話なのですが、困窮して支援団体にたどり着いた人が、貯金が底をついても、まだしばらく相談しないで、その後もかなりしのいでいたと。「どうしていたの?」と聞いたら、身の回りのものを売っていたと。本とか服とか、高級なものではなく、本当に生活に必要なものを売ってしのいでいて、それでも困窮したので相談に行ったというようなケースを聞きました。そこまでして自助努力をしなければいけないのかと思いました。

なかなか相談しないのは、若い世代が多いと思っています。「相談先がわからない」「自分に当てはまる制度なんてないと思う」といった声もかなりありましたので、おこめ券と一緒に、支援先の紹介の情報も一緒に入れたわけです。ぜひ、そういう人たちが支援にたどり着いて、転職や職種転換に向けたキャリアカウンセリングや、職業訓練を活用してほしいと思っています。

支援にたどり着く入り口がよくわからないという声は、現場ではよく聞きますので、入り口のわかりやすさとか、広報に工夫の余地があるのではないかと思います。もっとプッシュ型で広報していくべきです。

キャリアチェンジについては、デジタル人材の育成などに向け、地域女性活躍推進交付金などがありますが、センターの立場からすると、数カ月の職業訓練でキャリアチェンジが本当にできるのかちょっとわからないというか、私たちも出口が示せないという課題があります。

セーフティーネットに関しては、特に住宅の支援が不足していると思います。いまシングルマザーの居住貧困が注目されていますが、同じように現役世代で低所得の単身者の居住がかなり貧困になっていて、単身者向けの公営住宅が用意されていなかったり、応募し続けているのに入れないという声も多く聞きます。女性は特にセキュリティ水準の高い、安全性の高いところに住もうとしますので、収入が少ないなかで家賃負担が重くなります。就労から得られる収入以外の居住支援といったサポートも、必要になってくると思っています。

健康へのダメージからの回復も心配

濱口 赤石さん、いかがでしょうか。

赤石 コロナで生活苦が続いていると健康被害も起こってきていて、私どもが就労支援している人のなかでも、お子さんには何とかして食べさせようとして、自分は1年以上おかゆをすすっていたり、炭水化物のみの食事をしていたところ、血糖値がすごく上がってしまい糖尿病予備軍となり、就職が決まりそうになったのに今度は健康のほうが心配だというような声を聞きました。周さんがおっしゃるような絶対的な貧困にさらされた人たちは拡大しており、どれだけ健康状態にダメージを受け、戻っていくだけの体力、気力を持てるのかを考えると、暗たんたる気持ちになります。

セーフティーネットについては、最後のセーフティーネットとして生活保護がきちんと機能するということはとても大事だと思いつつ、明日食べるものもないというような人たちに、相談のなかで「生活保護を申請してみない?」と聞いたときにどういう反応が返ってくるのかを考えると、やはり簡単に相談者に勧めることはできません。その一言を言ったがために、「2度とあなたのところには相談しません」というような反応が返ってくるのが現状です。

緊急小口資金の特例貸付けなどと一緒に、「もしかして生活保護を受けるというようなことも考えてみたことあるかな」くらいの言い方からでないと、拒否されたときに関係性すら失われてしまう可能性があり、相談員も非常に言い方に苦慮しながら伝えている状況があります。皆さん誇りを持っていますので、生活保護と聞いた途端に、何か傷つけられてしまったと感じる。本当に悲しい状況ですが、この10年、20年でこういった社会意識が生まれてしまいました。これは蓄積されたものなので、すぐに変えることはやはりできない。残念なことだと思っています。

最後に、私は報告のなかでIT人材の育成事業について紹介しましたが、産業構造が変わってきているなかで、何とかしてデジタル化に乗り遅れず、シングルマザーが就労収入を得ていく道としてITスキル支援をしたいと昨年の早い時期から思い、この事業を企画して、実行しました。

結果は説明したとおりですが、資格を取得して転職できた人もいますし、資格取得の途上にある人もいます。この枠組みのスクールは、改善させながら繰り返しやりたいと思っています。課題として、やはりIT人材といったときに、どうしても企業は若い人を採りたいという傾向があることがあげられます。しかしよくよく聞いてみると、コミュニケーション力なども必要だそうですので、多くの企業がOJTで仕事をするチャンスを提供してくださると、より多くの人が就職できると思います。

また、シングルマザーにも、子どもを育てながら何とか在宅でリモートワークをできるスキルを身に付けたいという気持ちが高まっています。私どもの説明会にも、15人の会場の説明会に280人が参加しました。チャンスがあればやりたいと思っていた人が、SMFという身近な団体がやってくれているのだったら行ってみようかと思ってくれたのだと思います。厚労省も、半年以上のスクールでも高等職業訓練促進給付金が出るように制度改善してくれました。出口にあたる企業も、シングルの女性も含めて、働く間口をもう少し広げていくことが、これからの世の中では大事だと思います。

濱口 いろいろな意味で生活保護に対する拒否感は非常に強く、どう対応していくかはなかなか難しい問題です。ただ、リーマン・ショック以降、そこの隙間を埋めるために第2のセーフティーネットが雇用の面でも、福祉の面でもつくられてきています。ですが、それがきめ細かくは届いていないという面も確かにあるのだなと感じました。

参加者からの質問への回答

訓練だけでなく就職までのマッチングも

濱口 ここからは、各報告者に寄せられた質問に答えていただければと思います。周さんからお願いします。

 私は、職業訓練についての質問をいただきました。「職業訓練については定員だけではなく、対象資格や給付の拡充をしているということですが、それに加えてさらなる対策は何が必要でしょうか」という質問です。

これは私の研究課題でもあります。日本はほかの国に比べると、実は公的職業訓練制度は充実しているほうだと思います。問題は、充実しているにもかかわらず、制度があることを知らない、あるいは利用していてもその制度を利用して受けた訓練を自分のキャリアに活かせていない、ということが結構あることです。

方向性は間違ってなく、制度はすばらしいものがあるのですが、より使いやすく、より役に立つように、細部まで細心の注意を払って制度設計していくことがこれからの課題だと思います。職業訓練では、現場でどのような人材が必要とされ、どういう人材が今足りないのかという、しっかりした調査が必要です。ただ、単に調査するだけではやはり限界があります。

そこで、企業、政府と研究者、あるいは大学などが連携して、知恵を絞る。地域ごとに産業構造も違いますし、必要とする人材も違いますので、有能な地域のリーダーをみつけて、そのキーパーソンを中心につなぐ。また、訓練を提供する側は提供して終わりではなく、提供側と需要側をちゃんとマッチングするような工夫が政策的には必要ではないかと思います。

白波瀬 「ジェンダー格差がこんなにあるのか」とのコメントをいただきました。ジェンダー格差は100年も未完の課題であると、毎年ジェンダーギャップ指数を発表している世界経済フォーラムでも指摘しており、世界に共通する問題ではあります。しかし、約150カ国あるうちの120位であることの問題から目を背けるわけにはいきません。そこで今回のコロナ禍で1つわかったことは、国を超えた連携がいかに必要であるかということです。ひとり親の厳しい状況も各国、共通していますので、互いの事例を共有し各国特有の問題を解決すべく、外圧を有効活用するのも重要です。また、研究会でも指摘されたことなのですが、地域によって状況が大きく異なることがあります。特に地方ではジェンダー格差への認識は極めて低く、その問題を提起すること自体タブーというか、声を上げにくい状況があります。

職業訓練についての質問もいただきました。若年層の中長期的なことまで考えると、やはり訓練を受けてきたことに対する評価制度が大事になると思います。ひとり親、結婚している人、いない人といろいろな人がいますので、例えば男女で同じ基準軸で評価するというのではなく、それぞれに人生の送り方が違うので単線的な基準軸だけで検討される問題があります。少し休んでまた働き始めたという人もいますし、職業訓練を外部機関で受けてきた人たちもいますので、評価軸を意識的にたくさんつくることによって、育てる風土をぜひつくっていく必要があると思います。

学業が終わって出口となる就職についてですが、大学進学率は男女間で縮まってはいるのですが、専攻内容が違います。自分のキャリアに対する準備も、発想も男女で違っていてとても限られています。進路が男女で縦割りである一方、キャリアについての情報へのアクセスも共有されずに暗黙裡の異なる役割期待があります。その一方、契約内容に関する質問をすると、女性のほうが「私、どんな契約しているのか知らないわ」と答える人がまだまだ多い。女性自身も新たなチャンスを切り開く気概をもつことも必要です。要するに、小中高から教育を複線的に設計し、これまでの前例に縛られない自分の生き方をしっかり選択できる社会を創っていくべきだと思います。

政府は女性を中心に位置づけた支援方針を策定

矢野 「内閣府としてコロナの影響をどのように受け止めて、今後どう取り組もうとしているのか」という御質問をいただいています。2021年6月16日に政府において「女性活躍・男女共同参画の重点方針2021」を決定しました。重点方針では、「コロナの対策の中心に女性を」と明記し、雇用・労働面の支援、ひとり親に対する職業訓練の支援や、困難・不安を抱える女性への支援といったことを一丁目一番地に位置づけて対策を進めていくこととしています。

今日の議論でも、支援の現場で感じられていることや課題について貴重な指摘をいただきましたので、引き続き議論を進め、関係省庁と連携して対応を進めていきたいと思います。また、構造的な問題については、腰を据えて取り組んでいく必要があり、男女共同参画会議などの場でも議論を進めていくこととしておりますので、引き続きフォローいただければと思います。

大西 貸付けの話についての質問だけお答えします。給付ではなく、貸付けとしたことについて、1兆円規模で延べ200万人以上の方が借りているというのは、焦げつきもあるでしょうし、返済に困る人が出るということを考えると、よくない政策をしたなと率直に思います。

1兆円というとすごい金額ですが、1人当たりにすると、借りる人は最大で200万円借りていることになる。コロナ後に、例えば月収40万円、50万円稼げるのであれば、それぐらいは返せるだろうと考えることもできますが、手取りで20万円前後の人が生活再建すると考えると、月1万円ずつ10年間以上かけて返す。それはコロナで失業した人が負う負債としてはあまりにも大き過ぎるのではないかと思います。

すでにこれだけ貸しているので、政策の変更や免除をどう広げるのかといったことは、公平の観点からも大きな課題になると思います。こういう貸付制度がこれだけ広がってしまった背景には、生活保護への忌避感ということも当然ある。また、特に低所得者に対する支援が脆弱であったということもあります。

全体的にみると、いま日本社会は生きづらいのではないかと思います。女性もそうですし、若い人もそうですし、将来に不安を感じる人が残念ながらとても増えている。どう生きやすくできるのか。いろいろな給付がある、教育にお金がかからない、子育てにお金がかからないなど、いろいろな機会が均等に得られる社会的な方向性を、ある程度みんなで共有して議論する仕組みが大事だと思います。変えられることから変えていかないと、どんどん間に合わなくなるのではないかと危機感を感じています。

繰り返しになりますが、困っているときにお金を借りなければいけないというセーフティーネットの考え方自体が、貧困な発想から生まれているということを最後にお伝えして終わりたいと思います。

植野 「相談の解決にどう導いているのか紹介してほしい」という質問にお答えします。今回の1月から始めたコロナ禍の相談は、どちらかというと、まずそこで受け止めて、どういった支援先があるか、どういった相談先があるかをリファーしていくような機能を持たせたもので、具体的に解決まで一緒に伴走していくようなものではありません。ただ、センターのなかに相談事業がもともとありますので、そちらも紹介しています。

今日は女性の就労のサポートについて話してきましたが、いろいろな制度からこぼれ落ちてしまっている層がとても多いということを現実として認識していきたいですし、今日は話題にはなりませんでしたが、結婚している女性の家族のケア責任やDVの増加といった問題もあります。男女共同参画センターが就労支援機関や企業などさまざまな機関と連携して、今後も多面的で総合的な支援を進めていきたいと思っています。

生活保護世帯も車が持てるように

濱口 赤石さんからも、追加されることはありますか。

赤石 生活保護については、やはり地方で自動車を持っていると、今もなかなか生活保護が受けられないという大きなハードルがあります。コロナ禍でこうした点を緩和する通知などは出ているのですが、実際には現場では難しい状況です。子育て世帯などは、保育園への送り迎えや通勤、買物に車が必要です。日本の社会では、大都市圏以外は車社会ですので、この点ももう変わるかなと思っていたのですが、2、3年足踏みしている状況で、ぜひ改善が望まれます。

ひとり親のなかには、自分の生活が苦しいのは自己責任であり、感染拡大によって就労が脅かされているからだと思ってはいけない、と思っている人がたくさんいます。だから、「あなたのせいではないんだよ」「助けがあるんだよ」「助けを求めてほしいんだよ」ということをどうやって伝えられるのかが課題だと思っています。SMFは民間団体なので、お米を送ることも割と簡単にできています。民間団体もあらゆる知恵を絞るので、行政もできる範囲で精いっぱいのことをやっていただきたいと思っています。

濱口 非常に示唆に富むフォーラムでした。今日のフォーラムは通常のフォーラムに比べ、労使団体に限らず、地方自治体、NGO、マスコミからの参加者が多く、パネリストから出たお話を広めていただき、世の中の事態が少しでも解決する方向に向かえばと考えているところです。長い時間、熱心に議論に参加いただき、ありがとうございました。