研究報告 フリーランサーの働き方

講演者
濱口 桂一郎
労働政策研究・研修機構 研究所長
フォーラム名
第112回労働政策フォーラム「フリーランサーの働き方」(2020年12月15日)

コロナ禍で注目されるフリーランス

今回のコロナ禍で、フリーランスが注目されています。2020年2月に子どもの学校休校に伴う「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」が設けられた時には、フリーランスで働く親はどうするのかという批判が集中しました。そこで厚生労働省は急遽フリーランス向けに「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応支援金」を新設しました。ただ、その額は雇用労働者向けの助成金の半額でした。しかし、考えてみると、そもそもフリーランスには雇用保険も雇用調整助成金もありません。また、事業者向けの「持続化給付金」はありますが、これは事業所得が前提になっています。改めてフリーランスという働き方に注目が集まっています。

フリーランス問題の経緯

フリーランスという問題の経緯は、実は大変古いものがあります。産業革命以前の前近代の職人は、作業方法が内部化されており、いちいち指揮命令を受けることはありませんでした。今で言うと雇用というよりも請負に近かったわけです。雇用の典型は、執事や女中といった家事労働者が中心でした。ところが、産業革命で、工場等で指揮命令に従う従属労働が一般化します。こういったなかで雇われる労働者というのは弱者であるとみなされて、それゆえ、労働法や社会保障といった保護が受けられるようになりました。これに対して、自営業者は弱者ではないとみなされたわけですが、実際には、法形式上は自営業者であるけれども、社会経済的な状況は雇用労働者よりも厳しい人々がいたわけです。

家内労働法と在宅ワーク

その典型が内職と呼ばれる家内労働者でした。これは工場等で行っている生産工程の一部が各家庭に委託されて、非常に低い工賃で加工するというものです。この家内労働者の多くは家庭補助的な労働力であって、経済構造の最底辺を成していました。実は、これへの対応として、今からちょうど半世紀前、1970年に家内労働法という法律ができ、業務ごとの最低工賃の設定や委託打ち切りの際の予告など、工賃支払い義務、安全衛生といったことが規定されることになりました。

しかし、この家内労働法の対象は物品の加工に限られていますので、半世紀前には200万人近くいたのですが、最近は10万人ちょっとといった水準まで激減しています。一方で、自宅で仕事をするという形態が減ったわけではない。ネットを介した在宅就業は実は拡大の一途を辿っています。厚生労働省は2000年に在宅ワークガイドラインを策定しましたし、2018年には自営型テレワークガイドラインを策定しています。

労働者性の判断基準

こうしたなか、そもそも自営業者ということになっている人たちのなかで、境界領域にいる人たちが「自分は本当は労働者なんだ」と主張するケースが出てきました。今から35年前の1985年、当時の労働省の労働基準法研究会が労働基準法の労働者の判断基準について報告を行っています。ここでは使用従属性、もう少し詳しく言いますと指揮監督下で労働しているとか、賃金を支払っている、あるいは、時間的・空間的な制約があるみたいなことをベースに、事業者性とか専属性といったことを加えて総合判断すると書かれています。

ただ、これは基本的には労働法の研究者による判例の整理なので、労働基準監督官の方々が監督現場で使うにはなかなか操作性が乏しいという感じもします。これについては最近、成長戦略会議や規制改革推進会議、成長戦略実行計画等で分かりやすく周知せよと言われているところです。

雇用類似就業への政策

一方、この問題は今、世界的にも大きく取り上げられています。第4次産業革命やSociety5.0といったことが進むなか、情報通信技術を活用した新たな就業形態が拡大しています。プラットフォーム経済、ギグ経済、クラウドワークといったバズワードがあるわけですが、日本でもこのコロナ禍で、ウーバー・イーツの自転車で配送している人がよく目につくようになりました。

少し前になりますが、2017年に策定された働き方改革実行計画で、非雇用型テレワークをはじめとする雇用類似の働き方について、法的保護の必要性を中長期的課題として検討すべきであるということが盛り込まれました。これを受け厚生労働省は、「雇用類似の働き方に関する検討会」、そして、その後「雇用類似の働き方論点整理検討会」を開催しました。検討会ではJILPTの調査研究結果なども示され、報告を取りまとめる寸前だったのですが、ちょうどそこで新型コロナウイルスが蔓延したわけです。

そのJILPTの調査結果では、雇用類似就業者を、発注者から仕事の委託を受け、主として個人で役務を提供し、その対象として報酬を得る者と定義しており、JILPTの試算でほぼ228万人います。そのうち事業者を直接の相手にする者は170万人というサイズです(シート)。

シート 雇用類似の包含関係

雇用類似の働き方の者に関する試算結果

この調査では、取引先との間でどのようなトラブルがあったかということも聞いており、報酬の支払いが遅れた・期日に支払われなかった(18.7%)、仕事の内容範囲についてもめた(17.4%)、報酬が一方的に減額された(13.3%)、セクハラ・パワハラ等のいやがらせを受けた(2.9%)、といったようなことが挙がっています。求める公的な支援としても、打ち切られた場合の支援(19.6%)や最低限支払うべき報酬額の策定(16.7%)、仕事が原因で負傷・疾病した場合の支援(15.2%)といったことが挙げられています。

検討会では、方向性としては労働者性を拡張する、あるいは、中間的概念を創設するということも議論したのですが、「中間整理」ではそうではなく、自営業者のうち一定の保護が必要な人に保護の内容を考慮して別途必要な措置を講ずるのがいいのではないかという方向が示されました。具体的には、雇用類似の仕事を行う者の募集の際の条件明示を促す方策や、契約打ち切りの場合は予告を求めること、あるいは、報酬の支払確保の方策、最低報酬の設定の要否、安全衛生・危害防止に関する措置を定めることなどです。ただ、取りまとめには至りませんでした。

フリーランスガイドライン

実は、コロナ禍のなかにある2020年7月に、政府は「成長戦略実行計画」を策定しており、そのなかでこのフリーランスの環境整備として、実効性のあるガイドラインを策定すると予告しています。具体的には、フリーランスに適用される独占禁止法(とりわけ優越的地位の濫用)といわゆる下請法(下請代金支払遅延等防止法)の適用に関する考え方を整理するとしています。

ガイドラインの方向性としては、契約書面の交付、発注事業者による取引条件の一方的変更、支払い遅延・減額が優越的地位の濫用に当たることを明確化する、あるいは、仲介事業者との取引に対する独占禁止法の適用といったことを検討するとしています。併せて、先ほど触れた労働者性の判断基準の明確化や労災保険の特別加入の促進を行うことも書かれています。

労災保険の特別加入

この労災保険の特別加入については、今日は日本アニメーター・演出協会の方にも参加していただいているので少し触れたいのですが、この制度はもともと建設業の1人親方の方々に向けてつくられたものです。建設業の1人親方というのは、契約上は自営業者なのですが、実際には、建設現場で業務災害に遭うリスクが高いということで、終戦直後の1947年の通達で1人親方が任意組合をつくって、労災保険を擬制適用するという制度を設けました。1965年の労災保険法の改正により、建設業の1人親方や家内労働者についても、労災保険に自分で保険料を払って特別加入するという制度が設けられました。これをもう少し拡充しようではないかということで、2020年6月から労働政策審議会労災保険部会で特別加入制度の見直しの議論が始まりました。これまで、日本俳優連合、日本フリーランス協会、日本アニメーター・演出協会、日本柔道整復師会からヒアリングを行っており、「芸能従事者」「アニメーション制作従事者」「柔道整復師」の3職種を追加するという方向で議論しています。

小学校休業等対応支援金

最初にお話しした「小学校休業等対応助成金」の話に戻したいと思います。小学校が急遽休業することになり、子どもを抱えた労働者は大変だということで、この助成金が新設されました。1日当たり8,330円(後に1万5,000円になる)が支給されることになりました。ところが、子どもを抱えて働いているのはフリーランスでも同じではないかという批判を受けて、厚生労働省は急遽フリーランス向けにも「小学校休業等対応支援金」を新設しました。ただ、その金額が1日当たり4,100円(後に7,500円)で、雇用労働者のほぼ半分ということから低過ぎると批判されたわけです。

実はこの支援金の問題はその支給要件にあります。支給要領を見ると、①業務委託契約等に基づく業務遂行に対して報酬が支払われていること、②発注者が存在し、業務従事・業務遂行の態様、業務の場所・日時等について、当該発注者から一定の指定を受けていること、③報酬が時間を基礎として計算されるなど、業務遂行に要する時間や業務遂行の結果に個人差が少ないことを前提とした報酬形態となっていること――が支給要件になっています。

ところが、これは、労働者性の判断基準において労働者と判断する方向に用いられる要件となっています。つまり、労働者に近いフリーランスを支援対象とする仕組みになっているのです。

持続化給付金と税法上の労働者性

一方、給付という観点から見ると、経済産業省サイドで2020年5月から「持続化給付金」が支給されています。要件は、売上が前年比で50%以上減少していることで、給付額は法人が200万円、個人が100万円です。当然、フリーランスも個人に該当するはずなのですが、当初、支給要件となっている売上は、税務署の確定申告で事業収入として計上したものとなっていました。しかし、フリーランスの方々はどうも、多くは税務署の指導に従って事業所得ではなく給与所得や雑所得として申告してきた方が多いようなのです。そうすると対象外になってしまうということで、国会でも問題に上がり、6月末から給与所得、雑所得として申告してきた方も申請可能になりました。税法上の労働者性との齟齬が露呈することになりました。

フリーランスの失業給付の問題

小学校休業等対応助成金というのは、ごく限られた事態においてフリーランスにも雇用労働者と同じ休業補償をするということになっているのですが、では、失業補償はないのでしょうか。雇用契約の場合であれば休業になり、なければ失業ということになるのですが、フリーランスの場合、休業か失業かを法的に明確に区別し難い。しかし実際は、その経済的従属性からすると休業あるいは失業のリスクは現実にあるわけです。

今こういったプラットフォーム経済、ギグ経済が世界的に広がるなかで、世界的にこの問題は大きな議論になっており、例えば、欧州連合(EU)は2019年11月に「労働者及び自営業者の社会保障アクセス勧告」を採択し、失業給付を含む6分野について自営業者にも適用することを求めています。韓国も2020年5月、全国民雇用保険を目指し、当面一部の個人事業者にも雇用保険を拡大するということを表明しています。日本にはまだ動きはありませんが、どうするのでしょうか。

フリーランスの職業紹介の問題

そして、労働市場政策としては職業紹介の問題もあります。これは今、取り残されている問題となっているのですが、今から10年前に当時の厚生労働省の「個人請負型就業者に関する検討会」の報告書は、ガイドライン案のなかで、この職業紹介の問題についても議論すべきではないかということを提起していました。ただ、そのままになっています。

一方、求職情報も実は問題です。最近、求職者の個人情報や本人も知らないような個人に関する情報が企業間でやり取りされるということがありました。労働者であれば職業安定法に基づく個人情報保護指針の対象になりますが、フリーランスはそうなりません。もちろん一般的な個人情報保護法に基づく個人情報取扱業者にはなるわけですが、これをどう考えるかというのはやはり大きな問題ではないかという感じがします。

フリーランスの労働組合・団体交渉

そして、最近でも、10年前でも、あまり正面からきちんと議論されていないのがフリーランスの労働組合や団体交渉の問題です。ただ、2011年に労使関係法研究会が労組法上の労働者性の判断基準について議論しており、こちらで提示された判断基準は、労働基準法上の労働者とは少し違って、事業組織への組み入れ、具体的には業務遂行に不可欠・枢要な労働力として組織内に確保されているか、あるいは、契約内容が一方的・定型的に決定されているか、報酬が労務対価性があるかといったことが基本になっています。

この考え方からすると、労基法上は労働者でないフリーランスでも労働組合を結成して団体交渉することは可能ですし、実際、プロ野球選手会というのは労基法上は労働者でありませんが、労働組合と認められており、過去に、球団の再編時にストライキを行って注目されたこともあります。一方、労災保険の特別適用の対象になる日本俳優連合は労働組合ではなく、中小企業協同組合法上の協同組合となっています。

最近はウーバーイーツユニオンという労働組合が、注目されています。アニメーターもフリーランスという働き方が多いのですが、今日はアニメーターの労働組合も参加されているので、こういった問題についてもディスカッションしていきたいと思っています。

プロフィール

濱口 桂一郎(はまぐち・けいいちろう)

労働政策研究・研修機構 研究所長

1983年労働省入省。労政行政、労働基準行政、職業安定行政等に携わる。欧州連合日本政府代表部一等書記官、衆議院次席調査員、東京大学客員教授、政策研究大学院大学教授等を経て、2008年8月労働政策研究・研修機構労使関係・労使コミュニケーション部門統括研究員、2017年4月から現職。著書に『新しい労働社会』(岩波新書, 2009年)、『日本の雇用と労働法』(日経文庫, 2011年)、『若者と労働』(中公新書ラクレ, 2013年)、『日本の雇用と中高年』(ちくま新書, 2014年)、『日本の労働法政策』(労働政策研究・研修機構, 2018年)などがある。

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