研究報告2 若者の離職状況に関する分析

若者のキャリア形成に関わる諸問題は、若者自身や、家族、学校、企業、行政など様々なアクターが関わり合った結果として生じる現象です。私は、若者の雇用について主に企業側の視点から研究を進めてきましたので、本日は企業による雇用管理のあり方が若者の職場定着に及ぼす影響について、労働政策研究・研修機構(JILPT)が行いました「第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査」の結果をもとに、お話したいと思います(シート1)。

本調査は、若者が最終学歴の学校を卒業した後に初めて正社員として働いた会社等(以下「初めての正社員勤務先」)を離職する要因・背景と、離職後のキャリア形成の状況を把握する目的で行われたWebモニター調査です。高卒から大学院卒まで広く若者全般に調査を行ったのですが、本日は大学新卒就職者(4年制大学を卒業した月の翌月末までに正社員として就職した若者)に限定して分析した結果を報告します。また、回答者のなかから「初めての正社員勤務先」に就職した後3年以内に離職した人を30人選び出し、ヒアリング調査も行いました。ヒアリング調査の結果については、学歴を問わず得られた知見を広くご紹介いたします。なお本報告では、「初めての正社員勤務先」に就職後3年以内に離職した人を「3年以内離職者」、3年を超えて働いてから離職した人を「3年超離職者」、辞めずに正社員として働き続けている人を「勤続者」と呼びます。

大学卒業後、初めて正社員として勤務した会社等を3年以内に離職した若者たちは、その会社でどのような経験をしたのでしょうか。政府は2015年9月に、若者の雇用促進および能力発揮環境の整備を目指して「若者雇用促進法」を公布しました。同法に基づき今日に至るまで、「職場情報の積極的な提供」「ハローワークにおける求人不受理」「ユースエール認定制度」といった施策が進められてきました(シート2)。これらの施策は、若者の職場定着に問題を抱える求人企業に対して、「採用前に提供された情報(労働条件等)は正確であったか」「法令違反・倫理に反した行為が行われていなかったか」「若者の採用・育成に適した雇用管理が行われていたか」といった自省を促す内容になっています。そこで本報告では、これら三つのポイントから、「初めての正社員勤務先」における雇用管理のあり方は、大学新卒就職者の離職傾向にどのような影響を及ぼすのか、3年以内離職率(ある経験をした若者全体に占める、就職後3年以内に離職した若者の割合)を中心に紹介します。

①採用前に提供された情報(労働条件等)は正確であったか

離職した人の方が長い労働時間

はじめに、採用前に提供された情報の正確性が、若者の離職傾向におよぼす影響について見ていきます。若者雇用促進法では新卒者の募集を行う企業に対し、労働条件に加え、募集・採用状況、教育訓練、雇用管理状況など就労実態に関する情報についても正しく提供するよう義務づけました。しかし実際には、最も基本的な労働条件の情報ですら、正しく伝えられていなかった若者が大勢います。

まず、シート3を見てみると、週あたりの実労働時間の平均は、男女とも「初めての正社員勤務先」を辞めた人(離職者)の方が、勤め続けている人(勤続者)よりも約5時間長いことがわかります(離職者は離職直前の、勤続者は調査時点における労働時間を回答)。棒グラフを見ますと、勤続者の週実労働時間は、男性は40時間以上49時間未満、女性は40時間以上45時間未満に集中しているのに対し、3年以内離職者(黄)や3年超離職者(赤)は、全体として労働時間の長い方向へ分布が偏っています。長時間労働が若者の離職の一因であることは明らかです。

次に、シート4は、「初めての正社員勤務先」で適用されていた労働時間制度ごとに3年以内離職率を示したものです(離職者は離職直前、勤続者は調査時点に適用されていた労働時間制度を回答)。男女とも「交代制(シフト制など)」「裁量労働制・みなし労働時間制」「時間管理なし」といった労働時間制度で働いた場合、大幅に3年以内離職率が高くなることがわかります。

採用前の情報と現実の労働条件との不一致は離職の原因に

このように、労働時間の長さや労働時間制度は、若者の職場定着に大変な影響力を持っています。したがって、労働時間に関する正確な情報を伝えたうえで若者を採用することが、求人企業がミスマッチによる離職を防ぐうえでの有効な取り組みといえます。

それでは、実際のところはどうなのでしょうか。シート5は、「労働時間の長さ」「給与の金額」「仕事内容」について、「採用前の情報と就職後3カ月間の現実とが一致しなかった」と答えた人の3年以内離職率を示すグラフです。三つの要素のうち「採用前の情報と現実とが一致しなかった」という事態が最も多く発生しているのは「労働時間の長さ」についてで、男性は932人中167人が、女性は633人中140人が経験しています。そして男女とも「労働時間の長さ」「給与の金額」「仕事内容」のいずれについても「一致しなかった」人の3年以内離職率は、男性全体・女性全体のそれと比べて明らかに高いことが示されています。

情報伝達に認識のズレがあるケースも

なぜこうした情報の不一致が生じるのでしょうか。3年以内離職者にヒアリング調査を行ったところ、会社が意図的に不正確な情報を伝えた事例も見られました。一方、企業は正しく伝えたつもりでも、若者に「聞いていた話と違う」と捉えられてしまう事例も見られました。その原因は以下の四つに整理できます。

第1に、若者と企業とで同じ言葉を異なる意味で使用する、「当たり前」と思っている事柄が異なるといった「認識ギャップ」が生じていた場合です。例えば、企業の事業内容は時代の流れに応じて変化していくものですが、若者はそれを「当たり前」とは認識していません。新規事業のために夜勤や土日出勤が制度化されたことに対して、就職時点での労働時間や休日の制度が在職中ずっと続くと思っていた若者が不満を抱いた事例がありました。

第2に、企業が口約束や過度なアピールで若者の期待値を上げ過ぎた場合です。ある留学経験を活かしたいと考えていた若者は、最終面接で「君なら海外事業部で活躍できる」と言われ、実際に海外事業部に配属されて実績も上げることができました。しかし間もなく、欠員が発生した国内事業部へと異動になります。企業としては総合職の若者に多様な経験を積んで育って欲しいという意図もあるでしょうし、欠員を補充しないわけにもいきません。しかし若者は「約束が違う」「便利な駒として扱われた」と感じていました。

第3に、理想と現実のギャップを埋められない場合です。特に高額商品を扱う企業では、会社説明会や採用選考などの際に、営業職志望の若者に倫理観や顧客志向、社会貢献意識の重要性を訴えます。若者は就職活動の過程でそれらを内面化していきますが、実際に営業職として配属されると、売上目標等を達成しなければなりません。時には顧客の利益よりもノルマ達成を優先しろと上司から叱責されることもあります。理想と現実のギャップに折り合いをつけることができず、幻滅して辞めていった事例が多数見られました。

最後に、若者の知識・経験不足に起因するディスコミュニケーションです。具体的には、雇用契約書の内容をよく確かめずに就職した若者や、わからないことを質問せず都合よく解釈して就職した若者が、都合の悪い現実に出会った場合に「採用前に得た情報と現実が違う」と回答していたケースが見られました。

②法令違反・倫理に反した行為が行われていなかったか

法令倫理違反がある職場で働く若者は3年以内離職率が高い

次に、職場における法令違反や倫理に反した行為が、若者の離職傾向に及ぼす影響について見ていきます。若者雇用促進法では、一定の労働関係法令違反があった事業所の新卒求人を一定期間ハローワークで受け付けない仕組みを創設しました。

本調査では、労働関係法令違反に加えて、社会一般の倫理に照らして不適切な行為にまで範囲を広げました。シート6は、「初めての正社員勤務先」で「業務の中で、法律や社会的倫理に反する行為が行われている」かを尋ね、「あてはまる」から「あてはまらない」までの5段階から選択してもらった結果です。男女とも概ね、「あてはまる」「ややあてはまる」と答えた人の方が「あてはまらない」「ややあてはまらない」と答えた人より3年以内離職率は高い傾向が見られます。

若者の離職を促す職場トラブル

では、具体的にどのような行為が若者の離職を促していたのでしょうか。

シート7は、「初めての正社員勤務先」で経験した職場トラブルの種類別に3年以内離職率を示したものです。男性では「残業代不払い」「一方的な労働条件の変更」「暴言、暴力、いじめ・嫌がらせ」といった経験をした人の3年以内の離職率は男性全体と比べて大幅に高くなっています。女性では、「一方的な労働条件の変更」「商品買取・諸経費自己負担の強要」「仕事が原因のけが・病気」「辞職を申し出ても辞めさせてもらえない」といった経験をした人の3年以内離職率は女性全体と比べて大幅に高くなっています。これらの職場トラブルは、若者の離職を引き起こす重要な要因と考えられます。

過度な成果主義はハラスメント行為発生の一因

なぜこうした職場トラブルが発生するのか、そしてなぜ放置されてしまうのか、「暴言、暴力、いじめ・嫌がらせ」といったハラスメント行為に焦点を絞り、ヒアリング調査から得られた知見をお話しします。若者に「初めての正社員勤務先」でハラスメント行為が発生した経緯を聞き取り整理した結果、ハラスメント行為が発生する職場の特徴を以下の3類型にわけることができました。

第1の類型は、個人間の競争が激しい成果主義の職場です。個人単位で評価がなされる職場では、上司や先輩にとって若者は「ライバル」「足手まとい」と捉えられるため、若者を管理する立場の上司や教育係であるはずの先輩が、ハラスメント行為の加害者になりがちです。本来は先輩から新卒者へ分配されるはずの顧客リストを与えず、新卒に新規開拓ばかりさせる事例や、若者が見つけた新規顧客を上司が横取りしてしまう事例、雑用ばかり押し付ける事例などが見られました。さらに、必要な情報を与えない、全社的イベントから排除するなどの組織ぐるみの行為により、短期的に業績を上げられなかった従業員が、自ら辞めるよう仕向けていた事例も見られました。

気づいていても対処しない会社も

第二の類型は、業務過多かつ人手不足の会社です。このタイプの職場では、ハラスメント行為そのものは「あってはならないこと」と認識はされていても、解決に向けた行動を起こさず放置される事例が多く見られました。

管理職が解決に向けて行動しない理由は様々です。ハラスメント行為の加害者がいわゆる「仕事のできる」人物である場合、注意することで離職でもされれば人手不足が深刻化してしまう。加害者の気性が荒く、自己主張が強いため対峙したくない。管理職自身が個人としての業績を上げるのに精いっぱいで部下の状況を把握できていない、といった事例が見られました。さらには、忙しさのあまり管理職がハラスメント行為の発生に気づかなかった事例もありました。

組織の中枢と現場とのかい離

第三の類型は、非公式なルールや慣習が横行している職場です。実はヒアリング調査で明らかになったハラスメント行為は、ほぼ全てが全体研修を終えて現場に配属されてからの出来事です。人事部門や経営者がどんなに立派な教育制度や雇用管理の仕組みを作っても、配属後に若者を実際に管理するのは現場の管理者なので、人事部門が想定したとおりに制度が運用されるとは限りません。例えば、公式には1年間行うはずの研修を、人手不足を理由に途中で打ち切り、現場に出すといった事例が見られました。

また、就業規則とは別に、支店や部署で決められている独自の暗黙のルールがハラスメントの源泉になっている事例もありました。最も多いのは、公式には業務が終われば帰宅してよいはずが、上司や先輩が「帰っていいよ」と声をかけない限り帰ってはいけないという慣習です。さらに、プライベートまで職場での上下関係が持ち込まれ、酒席でアルコール中毒になるほど飲まされた事例や、終業後や休日に無給で行事に強制参加させられた事例などが見られました。

③若者の採用・育成に適した雇用管理が行われていたか

若者が早期に辞める職場は従業員全体の定着が悪い

最後に、若者の採用・育成に関する雇用管理のあり方が、若者の離職傾向に及ぼす影響について見ていきます。若者雇用促進法では、若者の採用・育成に積極的で若者の雇用管理状況が優良な中小企業を「ユースエール認定企業」として認定する制度を創設しました。裏を返せば、それだけ雇用管理の改善が必要な企業が多数あるということです。

シート8は、「初めての正社員勤務先」の社風について適合度を5段階で答えてもらった結果を、「あてはまる」を5点、「あてはまらない」を1点と得点化し、各グループの平均点をレーダー図に示したものです。「助け合い(従業員同士がお互いに助け合って仕事をする)」「教育熱心(『会社全体で、積極的に従業員を育てていこう』という雰囲気がある)」「長期育成(『若いうちは失敗が多くても、将来的に会社の役に立てればいい』という雰囲気がある)」といった若者の育成環境にプラスの社風は、3年以内離職者(赤)の平均値が3年超離職者(黒)や勤続者(グレー)と比べて低い傾向が男女ともに見られます。対照的に、「短期大量離職(短期間に何人もの従業員が次々と辞めていく)」の得点は3年以内離職者で突出して高いのです。

すなわち、若者が早期に辞めてしまう職場は、若者に限らず従業員全体の離職傾向が高い。そうした人材流出の激しい職場には、従業員同士が競い合い、人を育てず、失敗を許さず短期的な成果を求めるといった、ギスギスした雰囲気があると推察されます。

若者を孤立させることは離職につながる

次に、若者たちが実際に受けた教育訓練の内容ごとに離職傾向を見ていきます。シート9は、若者が「初めての正社員勤務先」に就職した直後の3カ月間に経験した教育訓練の内容ごとに3年以内離職率を示したグラフです。

女性633人のうち約3分の1にあたる204人が「指示が曖昧なまま放置され、何をしたらよいのかわからない時期があった」と答えており、その人たちの3年以内離職率は35.8%と女性全体の値(28.8%)と比べて大変高い。同様に、男性932人のうち約2割にあたる193人は「先輩社員と同等の業務を、はじめからまかせられた」と答えており、その人たちの3年以内離職率も26.4%と、男性全体の値(20.3%)と比べて高い傾向が見られます。ジェンダーによって負の効果が現れやすいポイントがやや違うのですが、男女に共通するのは、若者を孤立させることは離職を招く要因になるということです。

教育訓練の必要性を認識していない職場

就業経験が足りないことが明らかな新卒者を採用しながら教育訓練をしないという状況は、なぜ発生してしまうのでしょうか。ヒアリング調査で「教育訓練に不満があった」と答えた若者の「初めての正社員勤務先」の特徴を、五つご紹介します。

第1に、会社全体あるいは配属された部署等が、そもそも教育訓練を必要と認識さえしていないケースです。新卒採用の経験が浅い会社や、中途採用者しか配属されてこなかった部署では「仕事は先輩の背中を見て覚えるものだ」という慣習が生まれやすい。また、学生時代に類似の業種や職種でアルバイト経験がある場合、即戦力になると判断されるケースもありました。前者の場合、自ら先輩に助言を求めるなど主体性を発揮できる若者であれば適応できるでしょうが、そういった若者だけを採用できると想定するのは無理があります。また後者の場合、アルバイトとしての就業経験では対応できない業務、例えば管理的な業務などは、やはり改めて教える必要があるかと思います。

必要性は認識しているが教育できていない職場

第2に、教育の必要性は認識しているができていないケースです。教育できない理由はいくつかあります。

まず、先述のハラスメントが放置される職場と同様、業務過多かつ人手不足の職場では、若者の教育のために他の従業員が通常業務を離れることが難しい。上司も先輩も自分の業務をこなすのに精一杯で、若者にかまっていられないのです。

また、業務が切り分けられ、属人的に配分されるような職場では、他の人が何の業務をどのようにしているのかお互いに分からず、助け合うことも教えることも難しいという状況が生じていました。

さらに、業務のノウハウが言語化されていない職場では、先輩は教えたつもりでも若者には伝わっていない、という状況が生じていました。例えば、ある金融機関に営業職として採用された若者は、契約がうまくとれないことを先輩に相談したところ「とにかく訪問し続けることだ」「やってみるしかないよ」など、抽象的な言葉しか返ってこず、「何の役にも立たなかった」と振り返っていました。短期的成果を求められている若者に「経験を積むしかない」と伝えることは、不安や焦りを煽る行為でしかありません。

意図的に教育しない(ことを正当化する)職場

第3に、意図的に教育訓練をしない、さらには教育訓練をしないことを正当化しているケースです。こちらも、教育しない理由はいくつかの類型に分けられます。

まず、個人単位で評価される成果主義の職場では、先輩社員にとって若者を教育することは「敵に塩を送る」ようなものです。先述の「顧客リストを与えない」「手柄を横取りする」「雑用を押しつける」のように、あからさまなハラスメント行為がないとしても、就業経験がほとんどない新卒者に対して「何も教えない」ことは、消極的なハラスメント行為と言うこともできるのではないでしょうか。

また、一定数が辞めることを前提に必要な数より大幅に多く採用し、意図的に厳しい環境に置くことで、若者をふるいにかける事例も見られました。若者が教育訓練の不足を訴えても、「厳しい環境を経験することで鍛えられる」「下積期間はそういうものだ」と正当化する事例もありました。本当に教育的意図で厳しい環境に置くのであれば、どんな経験をどの程度積めばどのようなスキルが身に付くのか、検証したうえで計画的に行う必要がありますが、そうした事例は見られませんでした。

教育しているが内容が不適切な職場

第四に、教育訓練をしているけれど内容が適切ではないケースです。例えば、採用直後に1カ月間集合研修を実施したけれど、配属後に研修内容とは全く異なる業務を1人でするよう任された事例がありました。

また、1年間におよぶ体系的な研修制度を用意してあるにも関わらず、年度途中に欠員が発生した際に新卒者の研修を中断して現場に配属してしまう事例もありました。その若者は、まだ勉強中の身と思っていたところへ突然辞令が下り、前任者からの引き継ぎもろくにないまま営業の第一線に置かれてしまいました。結果として彼は離職するのですが、彼が辞めた後に補充されるのは、やはり翌年度の新卒就職者です。その人もまた、年度途中に研修を打ち切られて突然現場に配属されることになり、仕事がうまくできずに辞めてしまう。いわば「早期離職の連鎖」が発生している職場もありました。

共通するのは配属後の人事の関与が弱いこと

最後に、これら四つの類型全てに共通する特徴として、配属後の教育訓練に人事部門が関与しないことが挙げられます。若者の教育訓練に対する不満は、採用直後の人事部門が担当する集合研修の期間中にはあまり見られません。研修が終わり、各支店や部署へと配属されると、若者の教育訓練は現場の管理者に任されます。そのため、どの部署へ配属されるのか、誰が上司や教育係になるのかによって、同じ企業に勤めていても若者の教育環境には大きな違いが発生します。さらに、現場での教育訓練状況を人事部門が把握できていないということは、同じことが何度も繰り返されることにつながります。ヒアリング調査においても、「あの部署は新卒がすぐに辞める」「あの上司についた部下はすぐに辞める」といった噂が立っていた事例がいくつも見られました。

早期離職は若者のキャリア形成にもマイナス

本日は、企業の雇用管理のあり方が若者の離職傾向にどのような影響をもたらすのか、大学新卒就職者のケースについて調査結果を報告しました。若者が3年以内に辞める職場には「採用前に正確な情報を伝えられていない」「法令違反や倫理に反する行為がある」「適切な教育訓練が行われていない」といった特徴がありました。そして、こうした状況が生じる背景には、採用から教育訓練、配属、業務配分や労働時間管理に至るまで、多様な領域でのマネジメントの問題がありました。

本日は、企業側の視点から若者の離職について考えました。採用活動や教育訓練には費用がかかります。せっかく採用した若者がすぐに辞めてしまうことは、企業にとって大きな損失です。一方、若者にとって離職は、必ずしもマイナスとは限りません。10代、20代は自分に合った仕事や働き方を見つける試行錯誤の時期でもあります。キャリアアップや、自分が望む働き方を実現するための離職・転職は応援するべきでしょう。しかし、不本意な離職は予防するべきと私は考えています。

あまりに早すぎる離職は若者のキャリア形成にマイナスとなります。シート10は、離職後1年間の就業状況を「初めての正社員勤務先」における勤続期間別に示した表です。勤続1年以内に辞めた若者がすぐさま正社員へ移行することは難しく、離職後1年間は正社員以外の労働者として働く傾向が見られます。その割合は男性で41.8%、女性で46.0%にのぼります。対照的に、男性では「初めての正社員勤務先」での勤続期間が長くなるほど、離職後1年以内に正社員へ移行しやすくなる傾向が見られます。このように、転職市場において評価されるだけの経験を積む前に辞めてしまうことは、若者のキャリア形成を不安定なものにしてしまいます。

若者の早期離職問題は全社的なマネジメントの問題

企業と若者の双方に損失をもたらす不本意な早期離職を予防するために、企業ができることは何でしょうか。まずは、本日の報告で示しました「3年以内離職率の高い職場の特徴」を、自社が備えていないか確認してください。そのうえで、若者雇用促進法が示唆する、採用活動時のコミュニケーションの見直し、法理遵守・コンプライアンス強化、教育訓練制度の充実などを進めていくことが重要だと思います。

その際には、経営者や人事部門と現場の従業員とで話し合い、会社全体で取り組んでもらいたいと思います。確かに、若者の職場定着の鍵を握るのは、上司や先輩社員といった若者と直に接する人です。しかし、個々の従業員がそれぞれ独自に考えて行動するのでは、これまでの「現場任せの教育訓練」と変わりません。経営者・人事部門と現場とが、採用選考から配属後の教育まで密にコミュニケーションをとり、ともに雇用管理の方針や制度を構築し運営する。そうすることで、現場で起きている様々な問題に気付くことができ、業務配分や人材配置の適正化、評価制度の見直し、ハラスメント行為の防止など、若者の離職の背景にあった問題点を改善することにもつながるのではないでしょうか。

プロフィール

岩脇 千裕(いわわき・ちひろ)

労働政策研究・研修機構 主任研究員

1976年生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程単位取得退学。株式会社リクルートワークス研究所客員研究員を経て、2006年労働政策研究・研修機構入所、2019年4月より現職。専門は教育社会学・労働社会学。主な研究成果として、『若年者の離職状況と離職後のキャリア形成Ⅱ(第2回若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)』(調査シリーズNo.191、2019年)、「新卒採用正社員の早期転職希望の背景」(『「個人化」される若者のキャリア』JILPT第3期プロジェクト研究シリーズNo.3 第4章、2017年)等が、最近の書籍として、「若者の就労と就労支援」(稲垣恭子・岩井八郎・佐藤卓己編著『社会と調査(教職教養講座第12巻)』第6章、2018年)等がある。

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