基調講演 女性活用「短時間正社員」の重要性

このたびは、労働関係図書優秀賞をいただきまして、非常に光栄です。私が女性労働の研究を始めたのは大学院生の時です。それから約40年間研究を続けてきたなかで、直近20年間の様々な調査をこの本にまとめました。本日はそのうち、短時間正社員について、全体との関わりでお話したいと思います。

ワーク・ライフ・バランスの充実が女性管理職の増加に

最初に、女性労働について取り上げる時は、日本の企業全体の雇用システムのなかで考えないといけません。日本の雇用システムと言うと、終身雇用や年功賃金の話をすることが多い。これは経済学では内部労働市場と言い、日本的な形式だと思われがちですが、長期間の雇用や、勤続年数とともに賃金が上がるシステムは、海外でも見られます。日本の雇用システムの真の特徴は、次の三つではないかと思っております。

一つ目は、ブルーカラーの仕事内容、処遇が多能工になっていること。知的熟練で、ヨーロッパのブルーカラーの労働者がしないような様々な仕事まで行う点が特徴です。

二つ目は、ホワイトカラーの昇進スピードの遅さ。ブルーカラーの人も昇進しますが、基本的にはホワイトカラーの人が課長、部長になるスピードが遅い。アメリカ、ヨーロッパでは大体課長になるのに8~10年かかりますが、日本は15~18年を要します。

三つ目は、今回のテーマにも関係しますが、女性管理職が少ないこと。その原因として、出産を機に退職する人が多いという特徴があります。

特に二つ目の昇進スピードに関しては、残念ながら海外の企業の昇進について詳しく調べることはできませんでした。しかし、日本国内で、昇進スピードが早い企業と遅い企業を比較すると、早い企業の方が女性管理職が多いことがわかりました。

これだけ見ると、早い昇進スピードにした方が良いのではないかという話になりますが、詳細に調べると、遅い昇進スピードの企業ほどワーク・ライフ・バランスを考え、育児休業など様々な施策を推進していることも明らかとなりました。こういった企業は、その分女性管理職も多くなっています。私は日本では、昇進システムを大きく変えるのではなく、ワーク・ライフ・バランスを進めていけば、女性管理職が増えるのではないかと思います。

パートやアルバイトのキャリアにも視点を

それでは、女性の継続就業について考えていきます。まず、シート1は、第1子の出産前後の就業状況を年代別に見たものです。出産後も育児休業を取得して就業する人の割合は2005~2009年までは19.5%でしたが、2010~2014年では28.3%に増えており、改善傾向にあります。しかし、継続就業する人の割合は育児休業利用あり、なしを合わせても約4割という状況で、依然として、有能な女性が辞めないといけない問題は解決していません。

女性が継続就業するうえでのポイントは、育児休業制度そのものではなく、制度の職場での運用方法に視点を置くことです。特に、育児休業を取得した人ではなく、残された人が職場でどのように対応しているかという代替要員問題を考える必要があります。また、育児休業から復帰しても、短時間勤務で仕事を継続する人が多いことも特徴です。これは、短時間正社員の問題として捉えるのが良いと思います。

そして、正社員以外の人のキャリアについても考える必要があります。ここまでの話は、主にフルタイム正社員に当てはまる話でしたが、2015年に行った雇用形態別人数の調査によると、女性の正社員は5割もおらず、多いのは正社員以外の雇用者でした。その内訳を見ると、全体1,980万人のうち、パート・アルバイトが合わせて1,365万人、そのうち7、8割は女性だということがわかりました。ここからもわかりますように、女性のキャリアについて考えるうえでは、単にフルタイム正社員だけではなく、パートタイマーなどのキャリアについても考える必要があります。

多様で柔軟に働ける仕組み作り

そもそも、パートタイマーがなぜ増えたのかというと、二つの要因が考えられます。一つ目は、特定の時間、時期に人手が必要となり、固定的な働き方となる正社員と棲み分けて、柔軟な働き方ができる人員を増やすことで起こるフレキシビリティ要因。二つ目は、正社員の人件費が高騰化したことで、安価で済む人員を増やすために生じた人件費要因です。もし人件費要因が割合として大きい場合、増加は今後も続くと思います。そうすると、パートタイマーを減らせと言っても、競争状況にある企業ではなかなか難しいでしょう。

1980年頃になると、パートタイムをタイプ分けする議論が研究者の間では非常に多くなりました。そのうちの一つに、仕事内容やスキルを元に考案した、基幹型パートと補完型パートというタイプ分けがあります。これは、時間の経過とともに、単なる正社員の補助を行う補完型パートが減り、正社員と同等の業務を行う基幹型パートが増えるという説です。いきなり正社員と同等の仕事をしているのではなく、補助的な仕事から始めて、3年ほどかけてスキルアップして基幹型パートになるというのが特徴です。基幹型パートの割合は確定した数字を出すのが難しいですが、現状では少なくともパート全体の3割はいると思います。

日本の雇用システムは、これまでは拘束性が高い分処遇も高い正社員と、拘束性が低い分処遇も低く不安定なパートという二者択一の構造でしたが、今は第3の選択肢として、どちらでもない形が求められています。フルタイム正社員でも拘束性の少ない働き方を希望する層と、パートでも基幹的な役割を果たす層を、統一的な雇用保障や処遇で扱う仕組みを、日本の企業、あるいは社会全体でつくる必要があると思います。例えば、パートで入社後、時間的な制約が外れればフルタイム、または短時間勤務の正社員になったり、フルタイム正社員が育児や介護で一時的に短時間勤務をしたりといった方法です。男性もですが、特に女性の場合は時間的な制約を抱える人が多いので、このような仕組みができたら良いのではないかと思います。

短時間正社員への登用制度が重要

それでは、パートから正社員への転換は、スムーズにいくのでしょうか。まずパートからフルタイム正社員を希望する人は、2016年の調査では18.9%、そのうち女性は10.2%と非常に少ない。パートから正社員に転換する際、その会社にフルタイム正社員の制度しかない場合は、簡単に正社員登用はできないというのが現状です。

正社員以外の労働者から正社員へ登用する制度がある事業所は、2018年の労働経済動向調査では68%にのぼります。そのうち、実際に登用実績がある事業所は41%ですが、登用する制度がなくても登用実績がある事業所も含めると、50%の事業所に登用実績があることがわかりました。しかし、ここでの正社員以外の労働者には契約社員なども含まれるので、パートだけを取るとさらに少なくなります。また、ここでの正社員は恐らくフルタイム正社員を表していることから、50%のうち、パートから正社員へ登用された人はさらに少ないのではないかと思います。

次に、短時間正社員について見てみます。パートタイマーを対象に、残業や転勤がフルタイム正社員と同様の短時間正社員制度と、残業や転勤がほとんどない短時間正社員制度について、それぞれ希望する割合を調査したところ、前者を希望する人が17.1%であるのに対し、後者を希望する人は46.2%にのぼる結果となりました。

正社員になると言っても、特に小さい子どものいる女性は、育児など様々な事情を抱えていることから、短時間であれば働けるが、いきなりフルタイムで働くのは難しいという人が多い。だからこそ、短時間正社員への登用ができる制度を作ることが重要になってくると思います。

仕事のやりくりや制度の見直しが課題に

短時間正社員はタイプⅠ~Ⅲに分けられます。タイプⅠは、一時的に短時間勤務になった人で、例えば育児短時間勤務をし、子どもが3~6歳あたりになったら復帰するという場合。タイプⅡは、採用された段階から短時間正社員という場合。タイプⅢは、パートの人が短時間勤務のままでフルタイム正社員と同じ内容の仕事、責任、役割を負う場合です。

では、短時間正社員を導入した場合、どのような問題が生じるでしょうか。シート2、3では、人事責任者を対象に、仕事の進め方と処遇の面での短時間正社員の課題を聞いています。これを見ると、仕事の進め方に関しては、「職場の同僚に仕事の負担がかかる」や「仕事の都合に応じた人の配置が難しくなる」など、主に職場での仕事の振り分けに関する項目の割合が高くなっています。フルタイムの人と短時間勤務の人で同じ内容の仕事をすると、どのように仕事をやりくりするかが課題になると言えます。

また、処遇に関しては、「賃金や退職金など、処遇が複雑になる」や「目標設定の仕方や評価基準の見直しが生じる」など、現行の職場の制度の見直しに関する項目を挙げる割合が高くなっています。今まではフルタイムを前提として給与やボーナスを決めていましたが、短時間勤務の人もいる場合、フルタイム人材の活用を基準とした制度だけでは対応できず、新たな基準を作る手間が課題になると言えます。

企業内でも分かれる評価

ここで、二つの調査結果について紹介します。まず、2003年に発表した「短時間正社員の可能性についての調査報告書」では、非常に早くから育児等による短時間勤務を導入していた、百貨店や電機産業といった業種での事例を詳しく調査しました。

当時のフルタイム正社員と短時間正社員との共通点や相違点、目標設定方法、評価方法、導入後の効果などを聞いています。ここでは、当初フルタイムでは働けないから辞めるという女性が多かったのですが、短時間勤務制度を導入したことにより、継続して勤務する女性が増加し、人材の定着率も上昇しました。その一方で、百貨店では夕方の時間帯に来場客が増えるので、接客機会や人員配置のやりくりが大変になったり、百貨店ではパート、電機産業では派遣社員が多く、様々な雇用形態の社員の管理が複雑化したりといった問題があることがわかりました。

次に、「21世紀生活ビジョン研究会」において、2006年に電機連合で実施した調査では、短時間勤務に関しての質問を多く取り入れ、企業(各企業本社の人事部門の責任者)の他に、制度利用者やその上司にあたる管理職にも現状を聞きました。まず、短時間勤務制度利用者に対してどのような評価を行っているか、管理職と企業に聞いたところ、管理職は時間当たりの成果で評価し、トータルの時間数が短いことは考えないとする割合が高くなりました。その一方、企業は残業など時間の融通が利かないことや、仕事量が減少することをマイナスに評価する割合が相対的に多く、企業と管理職のつけた評価は必ずしも一致していないことが明らかになりました。短時間勤務中の処遇についても、企業と管理職でコミュニケーションが取れていないという結果が出ました。

また、育児休業後にフルタイムで復帰した社員と、短時間勤務で復帰した社員について、管理職の行った評価結果が、全社員における評価結果の平均値と比較して高いか、低いかについても調べました。当初は、フルタイムで復帰した社員の方が良い評価になる割合が高いのではないかと考えていましたが、結果としては、フルタイムで復帰した場合でも短時間勤務で復帰した場合でも、ほぼ同じ割合となりました。むしろ、短時間勤務で復帰した人の方が、評価が少し高くなる結果が表れており、処遇だけでなく、評価もされていることがわかりました。

短時間勤務の延長がキャリアにも影響

この調査では、電機産業において、育児短時間勤務の期間が長くなってきたことも明らかになりました。最初は子どもが3歳になるまでが対象期間だったのですが、現在は小学校に入るまで、あるいは制度を延長して小学校低学年から高学年、中学校に入るまで短時間勤務を続けられる企業もあります。

最初のターゲットは前述したタイプⅠで、子どもが小学校入学前まで成長したらフルタイムで復帰することを前提としていたのですが、子どもが2人や3人いる場合、一番下の子どもの対象期間が終わるまで、短時間勤務でも認められる企業が多くなりました。そのため、実質上タイプⅡの人が増えてきました。この場合、例えば、育児短時間勤務に移行して4時間勤務の正社員となれば、ずっと4時間勤務が続くことになります。

それでは、実質上タイプⅡとなった人のその後のキャリアはどうなるのか。気になってヒアリングを行ったところ、最終的には短時間勤務を続けていく人が多かったです。短時間正社員という形でも、タイプⅢのようにパートから短時間正社員に移る形であれば良いのですが、タイプⅠからタイプⅡへ地滑り的に続けている場合は、本格的なキャリア形成が難しいということが課題として出てきました。

基幹型パートや短時間正社員には様々な課題があります。しかし、この制度を導入することで、有能な女性人材が継続して働ける道を作ることができます。また、基幹型パートや短時間正社員の働き方に周りの社員が協力することで、企業全体の生産性向上やモチベーションアップにもつながると考えています。

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