パネル討論──日独の働き方の比較

事例③ BASFジャパン版働き方改革──プロジェクトWIN: Workstyle INnovation

講演者
須田 修弘
BASFジャパン株式会社 代表取締役副社長
フォーラム名
第105回労働政策フォーラム「労働時間・働き方の日独比較」(2019年9月30日)

ワンカンパニーとして価値を最大化する

BASFはドイツに本社を置く総合化学会社で、「持続可能な将来のために、化学でいい関係をつくる」こと、つまり、化学の力で持続可能な社会、世界を支えていくことを企業目的としています。今日のテーマは日本とドイツの会社の比較ということなので、BASFの戦略方針と企業風土を紹介します。

BASFの戦略方針の一つに、「ワンカンパニーとして付加価値を創出」していくことがあります。ワンカンパニーとして、約12万人が働き、約8兆円の売上を通じて、お客様に提供できる価値を最大化することを企業戦略として持っています。こうした考え方を打ち出している企業は日本企業でも多くあると思いますが、BASFでは一旦、ビジョンや戦略を決めると、それをシステムやプロセスまで落とし込んで実現していくことが特徴の一つになります。

ワンカンパニーで動かすために、例えば企業のERP(Enterprise Resources Planning=統合基幹業務)システムはグローバルで統合されていますし、人事制度もジョブグレード制度、評価制度などが統一されています。このようにグローバルで統一して一つの企業として動かすといった考え方、そしてそれを仕組み、プロセス全てに落とし込むところが、BASFあるいはドイツ企業の特徴なのかもしれません。私自身、経理、財務の業務プロセスをアジア太平洋地域全体で統一することになった時には、ある日突然、従来日本で行ってきた業務がBASFマレーシアに移ってしまうという事態に直面したこともありました。

経営視点の働き方改革を推進

もう一つ、BASFは、製品や製造において数々のイノベーションを起こしてきました。人工合成アンモニアを世界で初めて工業生産した「ハーバー・ボッシュ法」もその一つです。また、業務プロセスのイノベーションも常に行っています。先述のマレーシアに業務移管をした後、各国で行っていた製造原価の計算もマレーシアに集約しました。原価計算さえも標準化して集中化する。業務プロセスにおいても、イノベーションを繰り返していくのがBASFの経営です。

それゆえに、私どもBASFジャパンの働き方改革の取り組みは、経営視点での働き方改革になります。当社では、ドイツ本社の働き方を反映してか、残業時間は元々世間一般より大分少なく、有給休暇の取得率も高い状況にありました。そのうえで、生産性を向上させ、社員一人ひとりの創造性を支援するような経営視点での働き方改革を推進していけば、結果として、法的視点あるいは働く人の視点での働き方改革が達成できると考えています。

社員が生産性高く働ける環境をマネジメントが整備

一旦、方向性を決めたら、器をつくり、仕組みをつくり、あとはそれをドライブするのがBASFのやり方です。生産性を上げて一人ひとりの創造性を支援するという方向性を決めたら、器をつくることになります(シート1)。今回、トップマネジメントが決定した器づくりの一つに東京本社の移転があり、それに伴って全席をフリーアドレスとし、社員一人ひとりがオフィス内で働く場所・席を選択できる「ABW(アクティビティベーストワークプレイス)」を導入しました。イノベーションを起こす新しい発想をするためには、雑談力が大切ですが、雑談の力を甘く見てしまっているのではないか、といった危機意識もありました。従って、新オフィスには、簡単にちょっと雑談ができるスペースと、静かな環境で集中するスペースなど、多様な執務環境を用意しました。

また、労働時間は決して無限ではありません。有限であることを上司や経営陣がよくよく認識して、そのなかで柔軟に、効率的に働くための人事制度を整備することが求められます。それがコアタイムなしのスーパーフレックスタイム制への移行やテレワークの導入ということです。

修正主義で進める働き方改革

こうした仕組みづくりの初期段階に、全社全部門を対象にアンケートを実施しました(シート2)。ここでわれわれが確認したことは、社員一人ひとりは生産性を上げたい、自己研鑽もしたい、イノベーティブな仕事もしたいと思っているのに対し、目の前のやるべきことで手一杯でなかなかそれができていないことがわかりました。その背景には、例えば、頻度の多い長時間の会議や、デジタライゼーションと言いながらデジタルツールを使い切れていないこと、社内情報がたくさんあり過ぎて、どうやって必要な情報に到達したらいいのかがわからないなどの現状がありました。そこで、当社ではこれらボトムアップの声に対するプロセス改善をフェーズ2と位置づけ、現在社員の代表メンバーが改善策の実行フェーズを進めています。

私は働き方改革は、経営陣が、こうした社員の声に向き合い、一つひとつをつぶさに潰していき、生産性と社員一人ひとりの創造力を支援することだと考えています。そして、これをドライブするために一番大切にしていることは、完璧主義を求めず「修正主義」でいくということです。まずやってみて、ちょっと違うと思ったら修正したり引っ込めたりする、それを社員と一緒にやっていくことが、当社の働き方改革です。

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