パネルディスカッション

パネリスト
玄田 有史、櫛部 武俊、河野 久忠、古市 邦人
コーディネーター
小杉 礼子
フォーラム名
第104回労働政策フォーラム「「就職氷河期世代」の現在・過去・未来」(2019年7月25日)
シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)
シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)

小杉 パネルディスカッションでは、テーマに応じて、大きく三つのパートに分けて話していきたいと思います。最初のパートは「当事者側の課題をどう見ているか」。皆さんそれぞれの現場をお持ちですので、現場のなかで当事者の課題をどう見ているのか、特に、各世代の特徴があるのかどうかなどについて聞きたいと思います。次のパートでは、皆さん支援者ですので、「支援側の課題」をテーマにしたいと思います。例えば、こういった政策をもっとやってくれれば、もっと支援がしやすくなるとか、そういった意見も含めて、支援の側として、どう課題を感じていらっしゃるかお話しください。そして、最後のパートは「希望」について。この先、どこに希望を見出していったらよいか、お話しいただきたいと思います。河野さんからお願いします。

(1)当事者側の課題

本当に強いあきらめ感

河野 報告でもお話しましたが、やはり就職氷河期世代の現状に対するあきらめ感は本当に強いと思います。ずっと非正規で就労してきたり、途切れ途切れで就労してきた人たちはよく、「もう結婚できないし」とか、「子育てや子どもをつくるなんてもう無理」と言います。ただ、20代、30代であれば、まだいくらでも対応のしようはあると思います。これから生きていくための就労の道筋など、幅が広く情報提供することができます。

これが40代、50代になってくると、幅広い支援のなかで、年代別や本人の経験値によって有効な支援策は変わってきます。周りが本人の思いなどを酌んで支援の場づくりをしていけるかが重要です。

シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)

家族ですが、報告でも触れましたが、親だけではなく、兄弟に対する支援も重要になってきます。まず、どういうふうに当事者たちを発見していくか。親御さんがなかなか危機感を持てなかったり、周りのご家族もどこに相談したらいいのかわからないケースがあります。国を挙げてとまでは言いませんが、自治体でも力を入れて、どういう支援策があるのかを知らせたり、長期化の根っこの部分である家族の共依存関係に対する、具体的な支援策を伝えることが重要だと思います。

小杉 当事者のあきらめ感が非常に強いというお話ですが、古市さんの報告では、就労経験が比較的ある人と、かなり長い間なかった人に分けて支援しているとのことでした。河野さんは支援のなかで、こういった就労経験の差による違いというのは感じていますか。

経験値の差でも違い

河野 違いはあると思います。フリーターでも、人のなかに入っていって、いろいろな人の価値感に触れたり、褒められたり、嫌なことがあったり、いろいろな経験値があれば、考え方なども比較的柔軟になり、大人的な対応もできます。しかし、そういった経験値が全くないと、30歳、40歳になっても思春期的な感覚を引きずってしまいますし、見た目は年相応になっているのに、企業側が求めるような年相応の社会性が身に付いていない状況になります。

小杉 あきらめ感が強いのは、むしろ経験値の高い人ですか。

河野 どちらもですね。「もう今さら」という態度は、どちらも変わらないのです。ただ、ある程度経験がある人たちは、「もう今さら結婚は無理だし」とか、そういう具体的な次元で語っているのですが、全く社会的な経験がない人たちは、「今さら働けるわけがない」とか、「中途半端に物事をやってもしようがないから動かないほうがいい」といったあきらめ感の違いがあると思います。

将来への期待を持ちづらい中高年層

小杉 では、古市さん、どうでしょう。

古市 去年支援しているなかで、「絶望」という言葉をおっしゃる方がいました。それも今さら感という気持ちでしょうけど、強い現状への辛さが表れた言葉だと思いました。20代はキャリアアップの可能性がありますが、40代から未経験の仕事を始めても、給料がそこから上がるということもなかなかイメージしづらかったりする。僕はそういった方たちには、いかに「今より良くなるかも」という今後の人生への期待感を持ってもらうような枠組みをつくることが大事ではないかと思っています。

シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)

もちろん正社員になるための支援もするのですが、全ての人が正社員になれるというのは無理があるという前提も持ちながら支援しています。しかしながら、非正規雇用の仕事のなかには、生きがいややりがいが見出しづらく、キャリアアップが見込めない仕事も正直ある。そういう仕事に就かざるを得なくて、仕事で生きがいややりがいを感じられない方には、ライフワークで生きがいなどを担保してあげないと、幸せな人生が送れそうだという将来への期待感は持てない。

非正規だったとしても、生活のゆとりや余裕はすごく大事だと思います。また、コミュニティというのがとても大事で、自分を承認してくれるような人や自分の居場所を感じられる場所、例えば地域のお祭りなども大事です。仕事のマッチングだけでは、その人は幸せになれないと思っています。働くことや生活をトータルで一緒に見直して、非正規だったとしても幸せに働けるモデルをつくっていくことが重要なのではないかと思っています。それで、当法人では「MODEL HOUSE」という住宅支援もやっているわけです。

小杉 仕事で今さら感が出てしまったら、仕事とは別のところで人生を充実していくことを求めると。

古市 そうですね。年下の部下や先輩と働いたり、やはり自分の置かれている立場を相対的に悲観的に見てしまいます。そういう職場でも戦える人はいいのですが、そうタフな人ばかりではないので、仕事の周りの部分のサポートをすることも大事なのではと思っています。

小杉 その辺が、多分20代、30代前半までの人の支援と違うところですか。

古市 自分の将来への期待感や、まだ取り戻せるという感覚がどれぐらいあるかというところで違いますね。自分は社会的に底の底だという感覚を持っていると、しんどいです。

雇用に怖いイメージも

小杉 では、櫛部さんお願いします。

シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)

櫛部 お題を与えられてから、この間の殺人などの事件について、やはり就職氷河期も影響しているのではないかと考えていました。この事件の裏に当事者のニーズを見切れず、ただの事件だという誤った認識がされれば、社会に処罰感情しか生まれず、真の希望は生まれないのではないかと思っています。

5年間、相談センターをやっていますが、ひきこもりと言われる人の場合、当初親からの相談で終始していました。最近は、本人からも「俺はひきこもりじゃないか」という電話や連絡が来たりするようになっています。

5年前と比べると、私たちのヒアリング能力も多少は向上したのだと思っています。5年前は、親から相談があっても、「ご本人に会えなかったら仕方ないよね」という調子で終わっていました。最近は、60歳の方が働きたいと相談に来たときに、その裏側にひきこもった子どもがいるということに気づくようになりました。

これまで福祉は、課題解決という発想で、マイナスをゼロにする考えでした。給付やサービスをする、それでおしまいとなる。しかし、生活保護を受けていても、1カ月誰ともしゃべったことがないという状態では、何も叶えられているわけではない。つながること自体が大事で、それが相談だということを、僕らもだんだん気づいてきました。

最近は50代の相談者が増えていますので、先ほどから出ている今さら感がある。みんな「今さら、今さら」と言うんです。また、「働きたくない」「稼ぐことが嫌だ」とも言っていないのですが、「雇用が嫌だ」と言う。雇用には怖いイメージがあると言っています。

最近も、24時間稼働の大手コンビニの惣菜をつくる会社で夜勤をずっとやっていた人が、パワハラを受けて5年前に退職しました。その後の5年間、親に内緒で夜勤と称して毎晩出かけていっていた、何をしていたかというと、車の中で寝ていた。5年間ですよ。

そういう事例もありましたので、やはり希望が持てないということはあるのではないかと思っていますし、また、「社会が何とかしてくれるとは思っていない」と言う人が多いので、そこをどう回復するかが課題なのではないかと思っています。

当事者の尊厳も大事にする

小杉 「あきらめ」とか「絶望」など、かなり厳しい状態が見えてきましたが、重要な問題は、やはり「孤立」ではないかと思います。コミュニティ、場合によっては趣味の世界など、そのような形でも社会とつながることが、壁を乗り越えるための一つの道みたいな感じでしょうか。

櫛部 そうですね。やはり、どうしても私たちはパターナリズム的な支援の考え方が強かった。札幌のホームレス支援をされていたある人から聞いた話です。この方は40歳代で、ホームレス支援協力団体である派遣会社で働いていました。もともと釧路の近くの出身だったのですが、あるとき社用車を運転して釧路に帰ってきてしまった。一時は警察騒ぎにもなったのですが、本人に聞いてみると、「合理的配慮」があって自分は人と同じに働いているのに、賃金が人より低く、それに対しものすごく不満だということでした。当事者の「尊厳」の問題がここにはあると思っています。

小杉 玄田先生、ここまでの話を聞いていかがですか。

シート1 氷河期世代支援モデル事業の結果(2018/4/1~2019/3/31)

玄田 わかったことがあります。それは、3人とも氷河期世代は「特別な存在ではない」と言っていることです。つまり、氷河期世代だけが固有の特別な問題を抱えるという話は全然していないし、また、氷河期世代だからこういう支援をしているという話も全然出てこない。先ほど櫛部さんが「尊厳」と言ったように、一人ひとりをどう見ていくかということに尽きているということを、皆さんは言いたかったのだと思いました。

(2)支援側の課題

共通の課題は予算と人材育成

小杉 それでは、第2のパート、支援する側の課題や、どんな支援が、支援する側に必要か、そうしたことをお話しいただきたいと思います。

河野 支援する側として何が必要かと言ったら、皆さん一緒だと思いますが、お金だと思います。いろいろな委託業務をやっていますが、委託費の多くは人件費で終わってしまいますし、単年度契約で実施するような形態の事業になってしまうので、支援者も育ちにくいです。

また、次年度、事業がなくなってしまったら、その人たちの雇用をどうするのかという問題もあり、業務契約などの形でしか職員募集できなくなってしまう。スタッフにある程度力がついてきたら、転職してしまうこともありますし、以前は男性の寿退社も多かったです。

支援の面では、就労経験の場を提供してくれる企業の開拓が重要になってくると思います。ただ、そういった開拓ができる人材の育成はすぐにはできない。また、企業さんには何の謝礼も払えないので、ある程度心意気で対応してもらわなければいけない状況です。

困窮者の法律ができてからで言うと、福祉寄りの視点での支援が増えているのですが、氷河期世代やニート層の人たちは、自分たちはそういう支援の対象となる存在ではないと思っているので、「ひきこもり」なんて言葉を使ってもなかなか受け入れてはくれない。そういう意味では、地域若者サポートステーション(労働政策)などは入りやすい事業です。

玄田先生の言うように、支援を本気でやるのであれば、初期的には予算を思い切りかけて、企業と当事者にとってウィン・ウィンの関係ができ上がるような流れをつくっていかないとだめかなと思っています。

始まった医療との連携

小杉 サポステは、医療や福祉などとつながることが必要だと言われていますが。

河野 今、うちが展開している地域若者サポートステーションでは、医療との連携も始まっています。医療サイドのほうから、「治療の対象ではないが病院に来てしまって、その先、どうつないだらいいのか」というオファーが来たのがきっかけです。

医療機関系は、労働サイドの政策とどうつないでいいかが全くわからない。福祉のなかの支援だったら、医療のケースワーカーさんなどにつなげばいいとわかっているのですが、職業訓練校やハローワークなどをどう活用したらいいのかについては知らない。

そこで、まずは話し合いから始めて、地域での支援者のつながりを増やしていくようなことを実際に展開しています。

小杉 医療のほうからオファーが来るわけですね。

河野 こちらから医療機関の方に送っていったケースもあります。地域若者サポートステーションには医療が必要な人も利用しに来るので、それをつないでいくなかで、相互に連携が始まったと言ったほうが正しいかもしれません。

公的機関との連携も難しいです。保健所一つとっても、場所によって結構温度差があり、受け入れてもらえないケースもありますので、お互いを理解し合えるような説明の機会などは必要だと思っています。

小杉 最初におっしゃった、支援者が十分育つだけの余裕がないことが問題だという点ですが、河野さんの法人では支援を十数年やってきて、支援の体系ができているのではないかと思います。ノウハウは蓄積できているのですよね。

河野 そうですね。ただ、次に発展させるとなると、やはり人がいないといけない。今は雇用状況がよくなっている分、われわれの分野に入ってくる人はとても少なくなってきています。

小杉 支援の専門性が形つくられてきているけれども、それをきちんと伝えられるような支えがないということですね。

河野 若い世代が入ってきてくれなければいけないのですが、だんだんスタッフの世代が上にスライドしていってしまう状況です。今後は大学などとの連携も重要になってくると思います。

テクノロジーで働き方を多様化する

小杉 古市さん、お願いします。

古市 大阪で育て上げネットさんなど様々な団体と勉強会を立ち上げています。働き方を多様にするテクノロジーを使ってできることをもっと探求したいと思っています。

こう考えた経緯ですが、正社員化を目指すということをサポステのスタッフなどはやっていますが、正社員化するためには、若いこと、メンタルが安定していること、体力があること、コミュニケーション力があること──が求められます。企業は、部署間を異動しても適応できる人を採りたいという心理も働くと思うので、この業務以外は全くできませんという人は正社員として雇用しづらい。正社員化というのは、総合力が求められるので、就職というよりは就社なんです。

サポステでは、正社員化のハードルをクリアするためのいろいろなサポートをするわけです。コミュニケーション力を上げるトレーニングや、メンタルの安定、1日働けるだけの体力をつける、病気を治す、などです。正社員を目指すと、一般的には、基準に満たないものを満たすためのサポートをする。

しかしこの間、サポステの総括コーディネーターが集まる会議があり、そこで話題となったのは、コミュニケーショントレーニングをしても、この方は大きく変わらないだろうなという方が増えてきたということです。トレーニングして就職という方程式は、全然時代に合っていない感じがするということをおっしゃる人もいました。

誤解を恐れず言うと、僕が目指していきたいのは、コミュニケーション力がないまま働いたり、メンタルが不安定なまま働いたり、体力がないまま働くということ。もっと言うと、病気のままでもいい。働けるか働けないかのゼロ・100ではなく、今の自分にできる分だけ働くという働き方をサポートしていきたいと思っています。

去年サポステに来られた方で、もともと専門職として働いていたのですが部署異動があって、業務が合わずメンタルを崩された方がいます。メンタルの状態は不安定で、月のうちに何日かすごくメンタルが落ちる日がある。それがいつ来るかわからないので、雇用されて、何時から何時に絶対行かなければいけないみたいな仕事になったら怖いから働けませんと言う。でも、8割の日は調子がいい。2割、いつ来るかわからないのが不安で働けない。ゼロか100かだとその方は働けないのですが、調子のいいときだけ働けるという働き方ができたら、社会参加できる。

様々な状況にあって正社員・フルタイムという働き方ができない方が、希望するなら自分にできる分だけでも働ける社会をつくっていければいいなと思っています。そしてそれは、新しいテクノロジーなどでできるようになっていると思っています。

例えば、Uber Eatsはすごく革命的だと思います。アプリを立ち上げて、現在の地点とお店と注文者の関係で、近い場所からのオーダーが来て、店に行って、商品をピックアップして、届ける。アプリを立ち上げたら、その瞬間から仕事が来る一方、もう疲れたと思ってアプリを閉じたら、もう仕事は来ない。こういうものを使って、小さい社会参画を支援していくスキルを支援者側が身に付けていかなければいけないと思っています。

ソーシャルアクションの住民化に希望

小杉 では、櫛部さん、お願いします。

櫛部 1975年ごろ、私が市役所に勤めたころは、「コミュニティディベロップメント」「コミュニティオーガニゼーション」「ソーシャルアクション」という考え方は福祉の教科書に載っていました。しかし、1980年ぐらいからだんだん消えていき、40年経った今日では、恐らくそういうことを覚えている人は少ないと思います。

最近、湯浅誠さんたちがこども食堂をやっていますが、僕らのところでも「おてら食堂」、「みはら・かがやき食堂」をやっており、250食ずつぐらい出しています。これは、住民がやってもいい。世代交流を含めて、住民がそういうことをやって、社会活動していくということがわりと認知されてきたという意味では、ソーシャルアクションが住民化するという意味で、希望を持てる兆候かなと思っています。

ある市で市民の意識調査をしたところ、生活保護というのは無差別、平等という原則を持っているのですが、回答した住民の半分は条件を付けろと回答したそうです。厳しい地域のなかの分断が起きている。さらに調査では、生活不安を誰に相談するか聞いたところ、家族、友人で、地域の隣の人に相談する人は2割ぐらいだったそうです。住民は近隣に期待を寄せていない状況があり、地域が壊れていることは、様々な課題や生きづらさを抱えている人たちにとって非常に大きな問題なのではないかと思っています。

小杉 櫛部さんのところは、中間的就労でむしろ地域のコミュニティをうまく使っていると私は思っていましたが。

櫛部 先ほどの話は、首都圏に近いある自治体の話です。僕らはわりと住民に露出しているので、比較的理解されていると思います。「ふき蕗団」というフキをつくる仕組みは、3月の施政方針演説で市長が「ここに希望がある」とおっしゃるまでになりました。頑張って行政や議会に理解をしてもらう努力は盛んにしていました。そういうことを担う中間的組織として、NPOを含めた新しい地域の担い手の育成もとても大事だと思っています。

大きい地域での提携者

小杉 古市さん、これまでは地域の担い手の考え方が中心だったと思うのですが、それに対して、Uber Eatsなどは地域を離れたテクノロジーによるつながりと言えます。地域ではなくてテクノロジー、それとも、どちらもですか。

古市 どちらもだと思いますね。地域のなかでのコミュニケーションが合う人もいれば、オンライン上でのコミュニケーションが合う人もいます。その人が生きていく上でつながりやすい方法で周りとつながれば良いと思います。

小杉 河野さん、地域とのつながりというところでは前からやっていたのではないかと思いますが、どうですか。

河野 提携してくれるような事業者さんが地域にいてくれたことが一番、ひきこもり支援をしていて大きかったです。まだひきこもりという言葉もない時代に、そういう子たちの就労支援のお手伝いをすると言ってくれました。最初は障がいを持っている人なのではないかと言われましたが、そこにそういう若者が入っていって、「何だ、普通の子じゃないですか」という話になると、そこから輪が広がって、だんだん受け入れてくれて、地域の住民の方々も活動を理解してくれるようになりました。

小杉 玄田さん、どうぞ。

玄田 3人の支援者の話を聞いて、会場の皆さんはどうお感じになったでしょう。短い時間だったので、伝わり切れない部分もあったかもしれません。ただ、氷河期世代に限らず、支援で何が大事かということを、私なりに表現すると、月並みな表現ですが、それはやはり「自然体」なんだと思いました。いかに困難を抱えている人たちと自然体で接する人たちや機会を広げていけるか。そこに本質があるのではないかと思います。

アウトリーチでも、扉の向こうで2時間、自然体で相手の気を感じながら雑談をする力があるか。並大抵のことではないけれども、こうしてその人たちの困難を自然体で受け止められる人の輪を、社会全体に広げる工夫を今後の支援に必要とされているのだと思います。

(3)今後に向けての希望

地域・社会がより当事者性を

小杉 それでは、最後のパートの「希望」です。希望を語るような雰囲気をつくってくださり、玄田さん、ありがとうございました。希望について議論する前に、会場から事前に提出していただいた質問に答えていきたいと思います。

玄田 とても多くの大事な質問をいただきました。一つひとつには答えられないので、あわせて答える形になってしまいますが、言いたいのは、地域や社会がもう少し当事者性を持って関わっていかないと、多分この社会は持続できないのではないか、ということです。

身の周りにひきこもりもいない、氷河期世代で困っている人もいないみたいので、なかなかピンと来ないと言う人もいますが、この先20年、30年、いろいろな人とともに生きていかなければならないわけです。なかには、ひきこもりの人がいたり、氷河期世代の人たちが必ずいます。氷河期世代という問題が、一人ひとりが今後どう生きていくかを考えるためのきっかけづくりになることを「希望」しています。

活動の価値を重視

小杉 次に櫛部さん、質問への回答をお願いします。

櫛部 「中間的就労の課題」についてのお尋ねですが、「ふき蕗団」でフキをつくっていこうとしているのですが、活動の価値を高めて、ひきこもりの若者やいろいろな人たちがそのなかで活躍できる構図をつくりたいと思っています。得られるお金以上に活動の価値を重視しています。

今後は、生活力という問題は大きいと思っています。お互いに仲間をつくりながら、一人ひとりが生活のなかに強さを持っていければ、もう少し生きやすく、楽しいことが待っているのではないかと思っています。

古市 住宅のプロジェクトについての質問をもらいましたが、今後を考えたときの期待や希望みたいなことを言うと、日本はこれから人口が縮小していくので余るものが増えていきますが、余っているものをどう使っていくかに可能性が広がっていると思っています。

当法人が行っている住宅の支援のプロジェクトは、最寄り駅からのアクセスが悪く応募倍率が非常に低い府営住宅を活用しています。今回このプロジェクトを実現できたのは、大阪府の二つの部署(住宅と雇用)、その府営住宅がある四條畷市、公益財団法人日本財団という様々なセクターの間にうちが入って、様々な協力を得ることができたからです。 府営住宅が余っていても、通常。単身の若者が入ることは一般的でないとされています。そのため、「公営住宅の目的外使用」などの許可を得て、若者が単身で入居できる形にしていただきました。複数の部署が横断・連携しなければ、できないプロジェクトでした。

行政も民間も横のつながりを

小杉 櫛部さんに戻らせていただき、地域資源の開発といえば、まさに櫛部さんがやっておられたことですね。

櫛部 そうですね。今日は報告しなかったのですが、役所だけでなく、民間も縦割りなんです。介護は介護、障害者は障害者、困窮は困窮などと分かれてしまっていて、会議をやると、メンバーは違うのだけれど、同じようなことをやっている。これではつながりができないよなというケースがすごくありました。

「おてら食堂」や「みはら・かがやく食堂」では、地域の人と一緒に実行委員会みたいなものをつくって、持続可能な内容を話し合いました。全体として緩いのですが、つながっている感じがある。個別支援から出発するのですが、人とのつながりやいろいろな団体とのつながりも少し意識して行っています。

小杉 櫛部さんは、その縦割りを壊してきたと私は思うのですが。

櫛部 役場や行政は、基本的に縦でないと仕事をしないんですよ。まず、これはどちらの仕事かと分けることから始まるから。やはり横につなぐ意味でのマネジメントが十分になかったり、住民の意見を聞く場面がなかったり、地域のことをよく知らない実態があるので、われわれがこういう取り組みを自治体、行政にお返しをして、理解してもらったり、議会に説明したりしています。

小杉 古市さんみたいに行政に割って入っていって声を上げてくれることが、行政の縦割りを破るためには大事だということですね。では河野さんお願いします。

タイプを見定めて支援を

河野 質問では、当事者、家族に厳しい感じなのではないかという意見をいただきました。また、積極的なアプローチとしては、どういう手段が必要なのかという質問をいただきました。

私はひきこもりが悪で、早く叩き出したほうがいいと言っているわけではなく、先ほどお話ししたような親子の依存関係ができ上がってしまうと、家族だけでは脱出しにくい状態になってしまう。

入口としては、まずは保護者が何かしら行動を起こすためのきっかけをつくらないと、本人にも情報が届きません。ですので、保護者に対して具体的にどういう支援があるのかを情報提供することが必要です。

本人が動けないのであれば、アウトリーチ、訪問支援をしていく。訪問支援も、かなり時間をかけて、緩やかに保護者の理解も得ながら入り口をつくってご自宅に入っていって、本当に扉の前で1、2時間、一方的にお話しするような機会も多いんです。

全く反応がないというような状態を半年、1年と続けながら、親御さんの気持ちも立て直していきながら、本人に期待、希望の持てる情報を伝えていき、適切な支援につないでいく。

今までとにかくまずかったのは、支援者の多くが待っていいタイプと、そうではないタイプを分けずに、いつまで待ったらいいのか、具体的なプランもないまま無条件で待ちましょうとなっていたことです。

最初に本人の状況を見て、仮に何らか精神的な病気が潜んでいるのであれば、早めに医療機関につながないともっと状態が悪くなってしまうこともあります。早期発見で早期対応ができるのであれば、ひきこもりという言葉はどうでもよく、一番問題なのは孤立状態で、そうなると本人だけでなく家族も孤立状態になっていることに気づいていない場合がある。まずは、そこに気づいてもらうような機会が重要だと思って、先ほどはそういうお話をしました。

小杉 これからの支援の希望については、何かありますか。

河野 本当に働き方はいろいろあると思います。農業や林業の担い手は、今、人材不足です。農の担い手事業など、農水省も予算を組んでいたりします。ただ、それをしっかりコーディネートしていくような仕組みが全然でき上がっていないので、そういうのを地域に根付かせられるような支援機関や支援人材を育成していく必要があると思います。

就職氷河期世代は伸びしろ世代

玄田 3人のお話を聞いて、キーワードは、「循環」と「組み合わせ」だとも思いました。今日、たくさん魅力的なマップ(図)を見せていただきましたが、こういう孤立の問題を解きほぐすには、いろいろな好循環をつくることと、いろいろなもの同士を組み合わせると、意外とおもしろい価値が生まれるということを感じていただければ、いろいろなヒントが得られるのではないかと思っています。

小杉 最後に私から一言だけ言わせてもらうと、私は、この「就職氷河期世代」の人たちを伸びしろ世代だと思っています。タイミングや何かの問題で、チャンスが十分なかった人たちで、実は、伸びしろというのがあるのではないか。絶望、確かにそういう面も持っていますけれども、一方で、環境を整えることで変われる可能性も高くなる。そのためには、本人が意欲や希望を持たなければならないので、改めて伸びしろがあるということを強調したいなと思いました。短い時間でしたけれども、これでパネルディスカッションを終わります。ありがとうございました。