パネルディスカッション

パネリスト
重田 憲司、塚本 隆広、矢頭 慎太郎、山本 陽大
モデレーター
濱口 桂一郎
フォーラム名
第102回労働政策フォーラム「デジタルエコノミーの進展と働き方の変化」(2019年3月25日)

濱口 それでは、パネル・ディスカッションに入りたいと思います。開始前に、会場の皆様から多くのご質問をいただきました。それにお答えする時間をとる前に、当機構の山本研究員から、こちらの3社の方々に対するコメントや質問を述べていただきたいと思います。

山本 ドイツでは、例えば、企業・事業所に新たなテクノロジーを導入する場面でも、企業側と労働者側が共同で決定することになります。また、「労働4.0・白書」のなかでも、労・使がきちんと話し合って、win-winになるようなテクノロジーの活用の仕方が重要であるとの指摘がなされています。そこで、皆さんにお伺いしたいのは、職場に新しいテクノロジーを導入する際に、従業員サイドとどのようなコミュニケーションをとったのかという点です。

また、もう一つの質問に関連して、パーソルテンプスタッフの矢頭さんのご報告のなかで、新しいテクノロジーが職場にやってきたときに、これに対応し得る人材の育成と、そのような人材に対する処遇の問題に関心を持ちました。ドイツでは、労働者が企業外の職業訓練を受け、第四次産業革命に対応し得る新しいスキルを獲得した場合、処遇については、産業別の労働協約によって、このスキルを手に入れたことに対する新たな賃金が支払われることになります。産業別労働協約ですので、例えばダイムラーにいようとボッシュにいようと、同一のスキルに対しては、基本的には同じ賃金が払われるということになるわけです。

他方、我が国の場合、年功賃金・企業別協約ということもあり、第四次産業革命に対応し得るスキルを獲得したとしても、それが直ちに労働条件・処遇の向上につながるという保証はありません。矢頭さんの報告で、RPA開発でさらに難易度の高い開発の職に就くと処遇がアップするシステムになっているというお話があり、ドイツと比較しても興味深い点だと思いましたので、この処遇の点についても労・使の間でどのようなやりとりがあったのかお尋ねしたいと思います。

濱口 必ずしも労働組合のない企業もあるかと思いますが、もう少し広い意味で、経営側と労働側との間でどういった話し合いがあり、どんな問題があるのか、あるいは能力開発と賃金との絡みも含めてそれぞれコメントをいただければと思います。

現場ではパート社員も運用検討に参加

重田 レジ混雑予測システムの導入は、私のほうで発案し、稟議を通したのですが、実際に運用するのは全て現場レベルの店長であり、実はパート社員の人たちにも参加してもらってプロジェクトを進めました。やはり現場の納得がないと活用し切れないので、この仕組みを最初に入れたときには、実は3カ月ぐらいかかりましたが、現場レベルの運用については現場の人たちに決めてもらいました。

レジ混雑予測の数字は15分単位で数字が変わったりします。細かく言うと常に5分単位で最適化を続けるので、「一旦混むけれど、その後、混まない」や、「一旦混まないけれど、その後、混む」などという微妙な予測が数字で出てくる。そのときに現場がどう判断するかということについては、現場のパートさんたちの集まりの中でルール化していきました。

会社全体のレベルでは、チェッカーリーダー(チェックアウトの業務をサービスレベルも含めて管轄しているマネージャー職)が各店舗にいるのですが、この人たちに集まってもらい、その人たちの納得感を大前提にプロジェクトを進めました。進め方としては、まず課題を全部書き出して、分類していきました。

レジ混雑だけではなく、在庫コントロールも店舗内の業務にかかわってきます。在庫コントロールについては、今は需要予測に基づく発注に取り組んでいるのですが、システムの言うとおりにやるだけでは従業員は納得しません。どういう考えでこの仕組みが動いているのか、皆さん知りたがりますし、納得感によって、システムへの参加率がかなり変わってきます。同じ仕組みを入れても、A店、B店、C店とあったら、活用レベルの差は如実にあらわれてきます。最初からうまく回せる店もあれば、そうではない店も出てきます。納得感を持ってもらい、できるだけ平均点を上げることを目標設定して、プロジェクトを進めていくということになります。

今後必要だと思っているのは、店舗内で起きていることが常に「見える化」されている状態。店長という立場にいると、今、店の中で何がどう起きているのか、誰が何をやっているのかを常に把握したくなる。この「見える化」は、AIやIoTなどの技術を使えば可能になっていくと考えています。そうすることによって、働く人たちのほうから見ると、自分自身のスキルレベルもわかってきますし、上司との間でしっかり目標設定できるようになる。そうなると、今度は給与に反映する際にも納得感のある話ができると考えています。

濱口 現場の参加を意図的に組み込むような形で取り組まれたのですね。

重田 そうですね。

システム担当と管理職でプロジェクトを構成

濱口 それではフジモトHDの塚本様お願いします。

塚本 RPAの導入に向け、検討を進めていく上で、まずプロジェクトを組成しました。プロジェクトには、報告でも述べましたように、情報システム部員2人と現場から5人の社員が参加し、その5人は基本的には管理職に参加してもらいました。管理職なら、業務にも精通していますし、マネジメントもできる人たちです。まずは現場の社員自らがRPA活用を進めていかなければ、浸透していかないだろうと考え、管理者が率先して自分たちでロボットをつくっていくスタイルをとりました。

昨年11月から新しい専任組織のもとで、今はバックオフィス系の部署を対象にRPAの推進をしているのですが、約30人に開発担当として手を挙げてもらい、進めています。スキルアップについては、いろいろ課題があります。その分野を専攻した詳しい社員が、現場担当者のことを理解しないまま先行して作業してしまうこともあります。これからは指導員の育成、現場のボトムアップが大きな課題だと考えています。

濱口 それではパーソルテンプスタッフの矢頭様お願いします。

矢頭 現場とのコミュニケーションという点では、私たちは「キャラバン」と呼んでいるのですが、各部署に行脚して、「RPAというものがある」「こういった効果が得られる」「こういった成果も上がっている」と説明して回り、細かく現場のマネージャー層だけでなく社員も含めてコミュニケーションをとって進めています。

キャリアアップのお話がありましたが、実は初めからキャリアアップの制度をつくろうということで始めたわけではありません。スキルを身に付けてもらって、役割が変わったり、活躍の幅が広がった人たちには、きちっと処遇や待遇で報いなければいけないと考え、こういった取り組みを進めることになりました。

自動補充発注のシステムも活用

濱口 ありがとうございました。それではここから、3社の報告者の方々に適宜、質問を選んでいただいてお答えいただければと思います。まず、ベイシアの重田様からお願いいたします。

重田 皆さんRPAに非常に関心が高いので、当社について言いますと、実は当社でもRPAの導入は拡大中です。もともとクライアント型でスタートしましたが、やはり限界があり、数多くのロボットを使おうとするとやはりサーバー式にしておいた方がいいかなというのが使った実感です。

ご質問に「今後さらに導入を検討しているような仕組みやシステムはありますか」というものがありました。今一番、力を入れているのは、需要予測型の自動補充発注です。10年ぐらい前から、実は需要予測型の自動補充発注を使っているのですが、少しエンジンを見直して、様々なことに対応できるようにしようとしています。それは、賞味期限への対応を含めた最適な発注をどういうふうにしたらいいかということです。

賞味期限が長いものと短いもので、発注の設定は当然変わってくるのですが、発注単位、消費期限、売り場の陳列数量なども考慮する方がいい。商品部や本部が決めた棚割りを現場で簡単に崩してはいけないことになっているのですが、例えば、商品部のバイヤーが「もう100個陳列してくれ」と棚割りを書いてきて、もしそれがヒットしない商品だった場合、自動補充発注は正直ですから「20個でいいよ」と言ってくるわけです。しかし、現場の人はルールがあるので、残り80個、自動補充発注を修正して増やしましたというふうになってしまう。この点を、権限の問題も含め、今、変えていこうとしている最中です。

これ以外では、先ほど回答でもお話ししましたが、現場で誰がどんな作業をしているかということを見えるようにする取り組みはすでに始めています。例えば、店舗のバックヤード側に、オペレーションのダッシュボードを設置し、お客様の動向に関してはマーケティングのダッシュボードを表示して、店長だけでなく皆が見ることができる状態にしています。

これらができるようになれば、先ほども述べましたが、一人ひとりのスキルレベルを決めるということにもなってくる。同じ品出しでも、速い人、遅い人は当然います。どうやったら速くなるかは当然アドバイスできる。労働監視になるのでは、という声もあるでしょうが、自分自身がより上を目指したいとか、同じ働くのなら仕事の出来映えをよくしたいといった考えは皆、持っているのではないかと考えています。

ロボットを統制する部署を設置

塚本 たくさんのご質問をありがとうございます。「コンプライアンスやガバナンスの面の対応として、どういったことが考えられるのですか」という質問がありました。コンプライアンスについては、RPAはロボットですので、夜中に動かすとか、勝手に動くことができます。ですので、例えば、金を勝手に持ち出したり、データを夜に勝手に抜き出して、それをそのままメールに添付して送ったりといったこともできます。人が見ていない状況でロボットが動き出すことをコントロールするためには、やはり統制する部署が必要です。

導入のきっかけについての質問に対してですが、今回のRPAプロジェクトを昨年3月に立ち上げる前から、いかにIT、デジタルツールを使って、自分たちの業務を変えていけるかというプロジェクトを展開していました。そのなかで、RPAを使って社内的な業務の改善をしたらどうかという提案がありました。どちらかというとデジタル観点の改革でしたので、情報システムがプロジェクトを発起する形になりました。

「RPAを導入しやすい部署とそうでない部署がありますか」という質問に対しては、RPAは既にデータ化されているものをシステムに入力し直したり、ある内容をまたデータ化したりできるところに強みを感じています。ですので、そういう強みを生かせる部署だと思います。当社では昨年11月から、バックオフィス系の部署を中心にRPAの導入推進を進めています。

課題についてもお尋ねがありました。現場の個人に、自分で勉強してRPAでロボットをつくりなさいといっても、やはり個人のスキルレベルの差が出てきますので、スキルレベルをいかに同じようにボトムアップしていくかが大きな課題だと思っています。ロボット開発をする人のスキルのアップ、人材育成です。

派遣更新手続の処理などで活用

矢頭 いただいた質問のいくつかをピックアップしてお答えしたいと思います。一つ目は「具体的にどんな業務をロボットで対応しているのですか」というご質問です。大きいものは、派遣契約の延長・終了などの更新の手続系の処理です。また、グループのシェアードサービス会社では、企業への請求の処理や、スタッフに対しての給与計算などの業務で、一部、ロボットを導入しながら進めています。

「現場を巻き込むときに、どんなことを心がけて工夫してやっていますか」というご質問もいただきました。やはり当事者意識を持ってもらえるように、いかに現場とコミュニケーションをとっていくかが一番大事なところで、私たちが注意をしているところです。奇策があるわけではないので、根気強く、強い思いでやっています。

また、あえて全部私たちのほうでやり切ってしまわずに、一部のプロセスを現場に考えてもらったり、直接、手を動かしてフローを書いてもらったり、パターンを整理してもらったりすることで、当事者意識を持ってもらう工夫もしています。

課題についてですが、おかげさまで、私たちは順調にRPAの導入を進めていて、生産性の向上も進んできています。これを、ちゃんと組織に定着させ、根付かせていけるように、育成のサイクルを継続的に回せるようにすることや、スキルやノウハウをきちんと言語化して伝えていけるようにすることなどが、今後、取り組んでいかなければいけないテーマかなと思っています。

コスト削減のためにも少人数でタスクを切り分け

濱口 皆さん、ありがとうございました。会場からのご質問では、企業レベルあるいは現場レベルでの問題対応や、課題などについてのお話が多かったと思います。次は、もう少し広く、会社全体の観点から、人員配置の仕方を変えていくというような話も中長期的な問題としてやはり出てくるいう感じもしますので、このあたりの問題意識について、それぞれにお尋ねしたいと思います。

重田 小売業は特に、欧米と比べても生産性が低いと言われます。私もアメリカを含む海外へ流通業の視察に行きますが、海外では一つの作業だけやっているという担当の従業員がたくさんいます。例えば、品出しは品出ししかしない。運ぶ人は運ぶことだけ。日本では、多くがマルチタスクです。

どちらが良いかというのは非常に難しい問題と思っています。過去に私自身が横串を刺して、単一作業を、部門を超えてさせたことがあります。うまくいった店舗と、うまくいかない店舗が出てきて、実際にはなかなか定着しませんでした。やはり、「あなたにはこの部門のこの売り場を全部お任せします」と言ったほうが、安心していられるのも事実です。ただ、組み合わせの問題だと思っていまして、会社として、お店をどういう店にしていくんだという方針が最初に来るのだと思います。

当社では、いい商品をできるだけお客様に安く買っていただこう、という方針があるので、現場のオペレーションコストはできるだけ下げたい。そうなると、より少人数での店舗運営がしたい。少人数になると、できるだけタスクは切って、一つひとつにおけるレベル感を充足させるスキルを持ってもらえればいい。フルタイマーでサポートしていくか、ショートタイマーでサポートしていくかは事情によって変わってくるとは思いますが、いずれにしても現場の納得感が、一番重視すべきところだと感じています。

効率化でできた時間を生かす考え方に

塚本 RPAを導入する目的のなかで、コスト削減ということはどうしても先行してしまう面があると思います。ただ、RPAの良さは、コストを削減するだけではなく、ロボットを新しいおもちゃと思ってもらえればいいと思うのですが、新しいおもちゃを与えられると社員は生き生きしながら、それを使って何とかしようと考えます。考えるツールを与えてあげる、機会を与えるということがとても大事だなと、今では思います。

コスト削減ということに対して、やはり社員側からするとマイナスに見てしまいます。しかし、ロボットと一緒になって仕事をしていくという考え方ができると、現場の意識も高まりますし、生産性も上がる。人材育成というテーマも後ろに隠れていて、効率的にやれば、新しいことにチャレンジする時間は自分が生み出せるという考え方も持てるようになりますし、現場のモチベーションもアップすると思います。

矢頭 デジタル化が進んでいったときに必要なスキルの棚卸しをすることや、そこに向けてどう新しいスキルを習得していくのかという点は、大きな課題になると考えています。ですので、私たちも、現場の人たちやそれにかかわる社員が、少しでもスキルを身に付け、うまく仕事のやり方を変われるようなことを意識しながらRPAの推進を進めています。

行政もデジタル化の促進を

濱口 ありがとうございました。次は、山本研究員の報告とも絡むのですが、それぞれの企業の皆様方から、今日のものも含め、今後の労働政策・労働法制のあり方について、ご要望やご意見などがございましたらお願いしたいと思います。

重田 最近は、もっと働きたいというパート社員の方もたくさんいます。そういった社員には、正社員への道も用意していますが、一方で、やはり扶養の枠の中で働きたいという声が非常に多い。社会保険の問題で、逆に、働く時間を減らしてくださいという人や、極端な話になると、時間給を上げないで結構ですという人もいます。このあたりの点はちょっと、考えていただけると非常にありがたいと思っています。

塚本 当社では、「笑顔あふれる生活づくり」をテーマに、ワーク・ライフ・バランスの実現を、今、目指そうとしています。そのなかで、RPAを進めるなかで、人事部が行う健康保険や住民税の申請業務においてもデジタル化を進めたいという話が上がっていますが、提出先によってフォーマットが異なっていたり、紙ベースの申請が多いのが現実です。ぜひ、生産性を上げていくためにも、申請書のフォーマットを統一してデジタル化を実現し、働き方改革にもつなげていただきたいと思います。

矢頭 人材業界にかかわっていて感じているのですが、人手不足と言われるなか、産業間、職種間での需給ミスマッチ・ギャップも見られ、構造的な課題もあると感じています。成長する産業や職種、今後ニーズが高いところに人がうまく流動できるような政策を打ち立てていただけると、民間業者としてもそこにコミットしていけると考えています。

商品データベースの共通化を

濱口 それではここで、山本研究員から、3社のお話を聞いて感じた点やドイツとの比較において言いたいことを述べてもらおうと思います。

山本 コメントといいますか、私からも一つ質問をさせてください。皆さんとしては、国や行政による、「こんなテクノロジーが今ありますよ」とか、「働き方について、新たな技術のこういった応用の仕方がありますよ」などといった情報提供のサポートは必要だと考えていらっしゃいますか。

というのは、ドイツはIndustrie4.0、第四次産業革命を目指しているのですが、中小企業ではあまりデジタル化が進んでいないといった現状があります。そこで、今、連邦政府が取り組んでいるのが、企業に補助金を出して、新しいテクノロジーを実験的に導入してもらって、働き方にどのようなメリットがあったか、その成果にかかる情報を政府にフィードバックしてもらう。そのうえで、政府がそれらの情報をその他の企業に向けて公表するというプログラムです。

日本でも、各企業いろいろなテクノロジー導入の取り組みをなさっていると思うのですが、それらの情報の政府レベルでの共有というのはなかなかなされていないのではないかと思います。この点、感想でも結構ですので、教えていただければ幸いです。

重田 商品のデータベースに関しては、ぜひ国を挙げて共通化を図るべきだと思いますし、それができれば生産性は相当変わるだろうと思います。もちろん業界団体のなかにはそういうことを推進しているところもあります。ただ、どうしてもスピード感があるとは言えない状況です。

無人レジの取り組みでも、例えば、コンビニエンス業界、ドラッグストア業界などと分かれてしまうのです。商品データベースに関しては、共通化されている部分もありますので、データベースを企業ごとに持つのではなく1つに集中させるということは十分あり得る話ではないかなとは思っています。

企業の協調領域と競争領域の整理を

塚本 先ほど商品DBのお話がありましたが、当社は卸売業をしていますので、在庫コントロールの重要性を認識しています。ですので、例えば商品タグのRFID(radio frequency identifier)など、企業間の協調領域と競争領域を行政がしっかりコントロールしていただけると、お互いの会社が競争しなければいけないことが明確になり、生産性向上にもつながるのではないかと思います。

矢頭 これも個人的意見ではあるのですが、テクノロジーの展開はかなりスピード感がありますので、政府や行政で集約するのではなく、民間から自発的な情報発信を活発化する、後押しされるような形のアプローチをしていただいたほうが、われわれとしても情報がとりやすくなるのではないかと感じています。

担当者を積極的に採用して内部で教育

濱口 ありがとうございました。若干まだ時間がありますので、3社の間でお互いに聞いてみたいとか、こんな問題もあるのではないかということがあれば、お話しいただければと思います。

重田 RPAを進めるに当たって、私どものグループでは、情報システムを理解しているSE(システムエンジニア)を1人、担当に置きました。そうすることによって、つくり方が統一できるのと、各担当部署の人たちが、プログラムをつくらなくてもよくなるからです。

グループ各社でRPAを横並びで進めているかというと、そうではなくて、まず1社で展開しています。そして、同じ進め方をグループ内に横展開しようとしています。現場の人だけでやろうとすると、現状の業務をそのまま置き換えるだけになりかねないので、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の考え方は当然、入れなければいけない。

私が所長を務めている流通技術研究所は、実はグループ各社のIT部員を一堂に集めた集合体です。人員をかなり増やしてきており、7、8年前までは50人ぐらいしかいなかったのですが、現在は200人ほどの体制となっています。ですので、ITにかかわって仕事を進めることができる人をどう育成していくかというのが大きな課題になっていくだろうと思っています。

通年採用の募集をしており、たくさん人を採りたいのですが、正直、今、人が集まらなくなっています。それで4年前からは、流通技術研究所専門としての新卒採用を始めています。時間はかかるでしょうが、頑張って教育して、内製化していきたいと思っています。

情報システム技術を学んで現場に戻ってもらう

塚本 RPAをやはり進めるうえで、情報システム部員だけだと技術が先行してしまい、やらなくてもいいものまでつくってしまう。より効果の高い、生産性の高いものをつくっていくためには、現場にSEを配置するだけではなく、現場の人間が情報システムに入ってきて、情報システムの技術を学んで戻っていく環境も大切なのかなと改めて感じます。

矢頭 私たちは、業務のBPRや、業務を改善・改革していく上で、RPAがたまたま一つのツールとなったという考え方をしていますので、業務を可視化したり、仕組み化をすることをコアな価値としています。人材育成をしていく上でも、そのコアな価値を最上位に位置づけた上でのRPA開発スキルの向上ということで進めていますので、2社さんとはアプローチの仕方が少し違うのかもしれないと思いました。

将来はバーチャル企業との協業の可能性も

濱口 ありがとうございました。やはりそれぞれ、日本的な組織のあり方や職場のあり方を反映した形で、デジタル化を進めている姿が浮かび上がってきたのかなという感じがしています。それでは山本研究員から、ドイツを主軸に置きながら、日本との比較で見て、最後にコメントをいただければと思います。

山本 今回、3社の取り組みを伺って、濱口さんもおっしゃったように、基本的には日本の伝統的な雇用システム、人材育成、組織のあり方は維持しつつ、その枠組みの中で、うまくデジタル化にアダプトしているなという印象を受けました。

一方、私の今日の研究報告は、現場のリアルな話に比べると、若干ファンタジーが入っているところもあったのかなという気がしています。しかし、もっとファンタジーな未来予想も実はあります。例えば、ドイツでされている議論として、従来は、バリューチェーンというのは一つの大規模な企業やグループの中で完結する場合が多かったわけですが、テレワークやクラウドワークのような働き方が進んでいくと、仕事のプロセスというのは、小規模の様々な企業がプロジェクト単位でその都度集まって、終わったら解散するといった形で進んでゆくことも考えられます。さらには、3Dプリンターなどの技術も進んでいますから、従来型の物理的な職場や事業所というものが、もはや不要になってくる可能性もあります。

実は、私の研究報告で最初に紹介した「働き方の未来2035」という報告書も、この点を未来における一つの可能性として指摘しているのですが、これは、従来の労働法制からすると、かなり大きなインパクトだと思います。というのは、物理的に多くの労働者が存在する事業所を規制するのが、従来の労働法の規制の伝統的なあり方だったからです。例えば、労働基準法という法律は、その典型といってよいでしょう。しかし、バーチャルの世界で、小規模の企業がプロジェクト単位で結び付いて仕事を進めるということになると、今後は何を単位として労働法の規制対象とするのかといった問題が生じ得ることになります。現段階ではファンタジーなのかもしれませんが、こういった雇用社会の変化も将来はあり得るということを想定しながら、私としては引き続き研究を進めていきたいと思っています。

濱口 ありがとうございます。今日は、ややマクロな話と、現場レベルのミクロな話の両極的な内容が含まれていたと感じられたかもしれません。ただ、第四次産業革命などという話は、まさにそこに特色があるのではないかと思っています。

1980年代、ME革命が話題になり、90年代にはIT革命が話題になったのですが、そこでもわりとマクロの話とミクロな話が、共通の認識を持って議論されていました。今日のAIなどのデジタル技術を巡っても、社会的に広がりのある話として進められているのは、そこに特徴が表れているからと言うことができるでしょう。長い時間おつき合いいただきましてありがとうございました。