パネルディスカッション

パネリスト
山口 賢司、松村 紘一、二宮 俊介、柴田 光章
コーディネーター
藤本 真
フォーラム名
第99回労働政策フォーラム「中小企業の人材確保・育成─人が定着して活躍する職場をめざして─」(2018年10月30日)

藤本 本日のフォーラムにお越しになった皆様は、人材不足という課題に取り組んでいる企業の方や、企業の取り組みをサポートしている方も多いかと思います。そこでパネルディスカッションでは、四つのポイントを立てて、それぞれのご報告者に、当事者としてのご認識や思いについて聞いていきたいと思います。一つは、人材不足への対策や生産性の改善に向けた取り組みを進めるようになったきっかけです。何をしようと考えたり、どういうことを変えようと思ったりしたのか。二つ目は、そうした取り組みはたやすく進むはずがないので、取り組みを進めていくうえで直面した課題について聞きたいと思います。三つ目は、取り組みを進めていって、「うまくいっているな」と手ごたえを感じた瞬間や場面はどんな時だったか。四つ目は、今後の取り組みについてどのように考えているかです。

グランディア芳泉の山口さんのご報告のなかで、生産性を上げていくために顧客が求めていない作業を削減するという話がありました。これは顧客が求めていない作業だな、と痛感したのはどういう場面だったのでしょうか。

論点1/取り組みを始めるきっかけ

チェックイン対応と夕食時間の設定を改革

山口 旅館は、お客様がチェックインした後は部屋に案内します。部屋では、仲居係が「まあ、お座りください」と言って、熱いお茶でもお出しする。そして、長々と館内説明を始めるわけです。「この時間ってお客様のニーズに対応しているのだろうか」と思い、試しに一回、こういうことをやってみました。

ラウンジに、例えば午後3時から6時ぐらいまでの時間帯にコーヒーなどの10種類ぐらいのいろいろなドリンクを置いて、好きなものを飲んでいただく。しかも、何回来ていただいてもいい。そのうえで、お客様が部屋でお茶のサービスをお求めであれば、喜んでサービスするようにします。結果は、90パーセント以上の人がラウンジのフリードリンクを利用し、チェックインの後はとにかく浴衣を着て風呂に入りたいというお客様が多かった。お茶をお出しすると15分ぐらいはかかりますから、おそらく満室の日であれば延べ時間でいうと10時間以上、かけることになる。新しいやり方を取り入れることによって発生した余力を、お客様のニーズにかなうサービスにしっかりと反映できるようになったのです。

それから、夕食時間は、入場時間を前半と後半に分ける2部制をとっていたのですが、2部に分けたことでピークの山をつくってしまっていたことに気づきました。そこで好きな時間に来ていただくというサービスに変えたら、お客様がいらっしゃる時間は意外と平準化することを発見し、むしろ以前よりもお客様のウエイティングの時間が大幅に減りました。この2点は非常に印象に残っている改革です。

退職願を持ってきた職員と膝を交えて議論

藤本 たまゆらの松村さんのご報告をお聞きしていて、働いていらっしゃる女性の声がかなり大きく取り組みに反映されたのではないかという印象を受けました。子育て支援の取り組みを2007年からどんどん具体化されていったわけですが、きっかけとなった出来事などはあったのでしょうか。

松村 私は建設業界に60歳までいましたので、たまゆらを設立して唖然としました。70パーセント以上の職員が女性で、しかも始めた当時は、比較的若い人たちが多かったので、事業2年目ぐらいから結婚したり、妊娠する職員が相次ぎました。報告のとおり、当時は子を保育園に入れられないケースも多く、「さてどうすればいいか」と、退職願を出してきた女性とひざを交えて話し合ったのが、三つの働き方をつくったきっかけです。現在、女性職員が71人いますが、そのうち17人がシングルマザーで、なかには30歳代で一人で5人の子を育てている職員もいますが、みなしっかりと働いています。

プレッシャーや不安を取り除くことが重要

藤本 大起産業では2015年から教育担当制度というメンター制度を導入したわけですが、その当時、早期離職する社員はどういう人が多かったのですか。あるいは、社内では早期離職の原因は何だと分析していたのでしょうか。

二宮 メンター制度導入のきっかけは、採用において、ある変化が起きてきたからです。当社は航空機の組み立てをしているので、かつては、採用する学生はほぼ、航空機のことを専門的に学んできた人たちでした。それが最近は、学生の応募が少なくなるにつれて採用者数が予定人数に満たない状況も見られるようになり、一般的な高校生や大学生を積極的に採用しないと人員を確保できない状況にあります。

こうした採用の変化に伴って起こるようになったのが、一般の学生が早期に辞めてしまうということでした。航空機を専門的に学んだ学生というのは、夢を持って入ってきていますが、ただ求人情報を見て入ってきた一般の学生は、航空機を扱うというプレッシャーに負けてしまうのです。航空機では、自分の作業ミスが原因で何百もの人が事故で亡くなってしまうという可能性はゼロとは言えない。実際に退職者に理由を聞いたことがあるのですが、やはりプレッシャーだということでした。会社としてその不安を取り除くということが重要だということに気づき、メンター制度に取り組むようになりました。

藤本 一般の学生も採用し始めたのはいつ頃からですか。

二宮 ちょうど2010年です。

藤本 それまでは航空機を専門とする工業高校や専門学校などから採用していたのですか。

二宮 主に専門学校です。工業高校の学生さんはあまり採用していませんでした。

ミスマッチを曖昧にせず採用活動を見直し

藤本 三幸製菓の柴田さんのご報告では、新規学卒の採用における悩みに触れられてましたが、御社にとって最も痛切な悩みは何だったのでしょうか。それが採用活動を見直すきっかけになったのだと思うのですが。

柴田 当社は今1,200人いる会社ですが、人事を担当しているのは6人です。1人が二つ三つの仕事を持つのが当たり前で、また、幸か不幸か持っている県内工場三つが本社に近いところにあるので、工場に採用活動を担当する社員がいないのです。

ただし、近いといっても、工場間を移動すると車で往復2時間かかります。また、採用担当者が数年で異動してしまうこともある。一方、ミスマッチを曖昧にしたまま採用活動を進めてしまえば、頑張って広報して選考しても結局採用につながらないということもある。こうした状況が何年か続き、採用担当者の負担が年を追うごとに高まってきて、採用活動を見直すことになりました。

論点2/取り組みを進めるうえで直面した課題

目標を共有して定義にかなわない仕事の見える化を

藤本 では次に、取り組みを進めるなかで直面した課題について、各ご報告者にお伺いしたいと思います。グランディア芳泉が取り組んだことで最も印象に残ったのは、顧客満足を上げる方法として、①接客時間を増やす②できたての料理を提供する③個別にきめ細かい対応をする――といったことを挙げ、それによって取り組みの目標を社員と共有できたという点です。社員との目標の共有は非常に重要なことだと思うのですが、それができるようになるまでにどのようなご苦労がありましたか。

山口 当社にとっての品質とは何かを定義するのに、ものすごく時間をかけました。また、時間をかけないと議論の収拾がつかないだろうなとあらかじめ想定していました。ただ、定義が固まった後は、すぐに社員に納得してもらったと思います。

マルチタスクの導入も、しっかり品質の定義をしたおかげで、社員も納得しスムーズに取り組んでくれました。やはり、お客様に接客できる時間が増えたことが良かったのだと思っています。

藤本 時間はどのぐらいかけたのですか。

山口 4、5カ月くらいかけました。

藤本 社内での議論には、どのように社員の方を巻き込んでいったのですか。

山口 例えば、1カ月とか1週間のなかで、15分単位でどのような仕事をしたのかを全員に書いてもらい、三つの品質の定義にかなっていない仕事がどれだけあるかを実際見てみることにしました。すると、夕食では、午後6時からオープンするにもかかわらず、2時間や3時間も前から出勤してテーブルのレイアウトを作るなど事前準備に多くの時間をかけている。旅館というのは、宿泊されるお客様の数があらかじめわかってしまうころが他の飲食店とは異なるところです。わかってしまうとサービススタッフは早めに出勤して早めに準備してしまう傾向がある。やっている仕事を書くことによって、この三つにかなっていない仕事を随分やっているということが見えるようになりました。

藤本 山口さんのご報告資料のなかで、マルチタスクとともに「作業の整流化」も、取り組み内容に記載があったのですが、作業の整流化とはどういうことを意味しているのですか。

山口 例えば、われわれはレストランではお皿を洗う食器洗浄業務と、お客様への接客は完全に別の業務だという認識でいたのですが、それを一連の流れに集約したのです。今までのやり方では、お客様が食べ終わって下膳をした後、皿はバックヤードにたまっていて、洗浄を待っている。一度にまとめて洗浄するからたまるので、細かく皿を下げることによって整流化させて、しかも食事フロアの人がそのまま洗浄もやってしまう。

藤本 つまり、仕事の流れをつくって無駄な時間をつくらないということですね。

山口 旅館の調理人は、食器の収納や洗浄にまで気を配りません。収納しづらかったり、洗いづらかったとしても、自分の好きなお皿を使う。整流化を行うことで、部署が異なる職員がお互いに仕事の流れの意識を共有化できたのはすごく良かったと思っています。

申請期間のない働き方の変更

藤本 たまゆらの取り組みでは、正規社員、短時間正社員、非正規社員の三つの雇用形態の間で、互いを行き来できることが画期的だと思うのですが、この取り組みについていくつか質問があります。一つは、雇用形態の変更を希望する際に、変更前の一定時点までに申請するよう、従業員の方々に要請をしていますか。雇用形態の変更までにはある程度の期間がないと、スムーズに現場の人員計画が回らないのではないかと思いましたので。もう一つの質問は、社員間で不公平感やあつれきのようなものが生じないのかという点です。

松村 申請に期限は設けていません。各施設では勤務表を担当者がつくっていますが、本人がその勤務表を見ながら、変更する場合には勤務表の切り替えに合わせて働き方を変えるというような具合です。

藤本 各施設で、施設長と職員が調整して、そこで支障がなければそのまま移行するという形ですね。

松村 そうです。ただし、変更と同時に契約書をつくり交わしますから、結構その事務は大変です。

二つ目の質問の、パートなど非正規社員を選んでいる人に対して正社員の人が不公平感を抱くかということですが、当社の社員はやはり正社員であることに一番誇りを持っており、やりがいを持っていると思います。ですから、短時間正社員や非正規社員は、なんとか早くフルタイムに戻りたいと努力しています。賃金に関する不公平感については、それぞれが自分なりに納得をしてやっていることですので、あまり不公平だという声は上がってきていません。

藤本 たまゆらの取り組みは、子育て中の女性社員の働き方の支援をメインとしているように見えますが、一方で、たまゆらの職員の年齢構成を見ると60代、50代以上が4割ぐらいを占めており、夜勤に就いている職員は50代や60代が多いというように高齢社員をうまく活用している事例とも捉えることができます。60歳以上の職員はどのような雇用形態で働いているのですか。また、高齢の社員からは働き方についてどのような要望がありますか。

松村 夜勤などの変則勤務をする職員の90パーセント以上は正社員で、当社ではパートや派遣社員には夜勤の仕事はさせません。夜勤は昼間の状態をきちんと理解していないとできませんから。夜勤をやる正社員の中には65歳という定年を過ぎた人もいます。

現場の理解と教育側社員の納得感がポイント

藤本 大起産業の二宮さんは、メンター制度を導入する時のポイントとして、現場の理解と教育する側の社員の納得感を指摘されました。最初からそれがポイントだと分かっていたのですか、あるいは、制度を進めていくなかでポイントがわかった瞬間があったのでしょうか。

二宮 皆さんも経験があると思うのですが、制度やルールをつくって運用したけれど、結局何も変わらなかったということがあるかと思います。当社もそういった経験が以前からありました。それで、このやり方でいいのか、という地点まで戻ることにしました。

以前の考え方では、総務がメンター制度の形をつくって、それを現場に通達で展開するやり方でした。そこで、やり方を変えて、納得感を感じてもらうために全事業所を担当が巡って制度の説明してみることにしました。また、従業員と意見交換できる場をできるだけ多く、かつ定期的に設けました。

教育記録を新入社員と教育担当者、課長で共有するという取り組みは、実は導入当時はなかったんです。社員との意見交換のなかで、「当然、こうすべきだ」という意見があり、総務も納得して制度に落とし込むことにしました。

藤本 教育記録は、どのぐらいの頻度でつけるのですか。

二宮 原則として週に1回はやってくださいと言ってますので、月4回くらいです。毎回、新入社員がコメントを書いて、それに対して教育担当者が意見を聞くという流れです。

学術的な言葉で要件や定義を決定

藤本 三幸製菓の柴田さんのご報告では、採用担当者の仕事や自社に必要な人材を考え直すなど、根源的な検討をしたことが印象的でした。この検討はどういうプロセスで進めたのですか。また、従来のやり方をしてきた採用担当者からの反発などはなかったのですか。

柴田 反発の方からお答えしますと、2019年入社者の採用では、応募者から必要な情報だけを集めようということで学歴の収集をやめることにしました。最終面接は役員がするのですが、「学歴情報がないなかでどうやって判断するんだ」と言われました。やはり仕事というのは合理的な部分と感情的な部分があるので、理解はするけれど納得はできないという場合が非常に多い。その時は「人事のほうでは学歴を把握していますから、最終面接は学歴など関係のない情報を知らない状態で臨み、役員の皆さんで合否を決定した後に学歴はお伝えします」と説明して納得してもらいました。結局、後になっても誰一人、学歴を聞いて来る役員はいませんでした。

プロセスについては、採用学の研究所の方々に協力してもらい、まず、自社で活躍している人材を明確にしていきました。具体的には、社内の人間を調査して活躍している高評価な人材を割り出し、その人間の適性検査やインタビューから三幸製菓で活躍している人材要件や適性を明確にしていきました。人材要件のよくあるパターンで「挑戦する人材」とか言う場合がありますが、挑戦といっても、採用担当の思う挑戦と、役員の思う挑戦、また、面接官の挑戦、応募者の挑戦はどれも違うかもしれません。ですので、曖昧な言葉でごまかさないように、学術的な言葉で要件や定義を突き詰めていきました。

論点3/取り組みの手応えを感じた場面

未経験者には抵抗のないマルチタスク

藤本 三つ目の論点に移りたいと思います。取り組みがうまくいっているという手ごたえを感じた場面や出来事、また、それを感じるまでにどのぐらい時間がかかったかなどについて教えてください。

山口 改革に着手してから1年半ぐらいでしょうか。ただ、マルチタスクについては、年配の職員もいるので、社員全員が全ての業務をマルチでできるということではありません。年齢の関係でできない人もいますが、それはしょうがない。

さきほど触れました食器洗浄や客室清掃という業務は、実は全て外注委託していました。2017年から、労働時間1時間あたりの粗利を定期的に数値化しており(「人時生産性」)、賞与を決める際の一つの尺度にしています。外注業務を内製化するという案を出してきたのは社員です。食器洗浄業務については、レストランの社員から、例えば年間1千万円かかっているものを自分たちで整流化した場合には、人時生産性がものすごく高まるとの提案があり、内製化したわけです。その効果の反映分として、今年、臨時賞与を出しました。

マルチタスクは昔から勤務している社員に急にやるのは大変なのですが、旅館未経験者にはあまり抵抗がありません。2018年にインターンシップに来られた学生に感想を聞くと、「いろんな仕事を覚えることによってスキルアップになりますね」「旅館の業務全体を俯瞰的に見ることができますね」という声がありました。やはり制度としては間違っていないなと思いました。ちなみに、今までは採用が0人の年も結構ありましたが、インターンシップの効果か、2017年は調理部で3人、サービス部で6人の計9人の新入社員を迎えることができました。ちなみにその9人もまだ1人も辞めていません。

子育て社員への態度の変化が

松村 当初、育児休業制度を使って職員たちが休むと、年配の、もう子育てが終わっている職員たちからは、休んでいる職員に対して非常にきつい意見が出ました。「私たちの頃は子どもを産んで10日目には仕事をしていたよ」と。

しかし、毎月の各施設の全体会議には出産した女性職員も出席させるようにしていたので、そういった職員も赤ちゃんを抱いて出席していました。2、3カ月経つと、苦情を言った職員たちの態度が変わってきました。やはり赤ちゃんを見ると「かわいい」と言って、逆に子育てをしている職員に対して優しい言葉をかけて、「がんばりなよ」という態度に変わってきたのです。

メンター制度でプレッシャーを共有

藤本 大起産業の二宮さんにお聞きしますが、メンター制度によって、新入社員が感じていたという航空機をつくることのプレッシャーはうまく取り除くことができたのですか。また、新入社員や教育担当以外の社員からはどのような反応や評価が見られますか。

二宮 社員からはアンケートを取っています。当事者も含めて、様々な意見が上がりました。例えば、教育担当者に対して今、メンターとしての手当として月1,000円支給しているのですが、少ないという意見が多い。また、「新入社員と飲み屋に行きたい」などという意見もよく出ます(それを会社が出すのはなかなか難しいのですが)。ただ、全体的にはやはり好意的に捉えているコメントが多い。

今まではこういった制度がなかったので、新入社員の考えていることがなかなか見えない、何を考えているかわからないみたいな話が現場ではよく出ていました。それがメンター制度を行うことによって、教育記録を共有し、管理職も今、新入社員が何を考えているのか理解できるようになった。今度はその管理職がほかの社員にそれを波及させることができる。例えば「こういう問題を抱えていそうだよ」とか、「だからちょっとケアしてやってくれ」など。全員が新入社員のことを早く理解して、状況に対応した動きを皆で取れるようになったということで非常に好意的に捉えられています。

航空機製作に対するプレッシャーについては、先輩社員もずっと経験していることなので、これをどう社員間で共有するかが鍵なのです。メンター制度によってプレッシャーを共有できたという意見もあります。

応募者との合意形成に注力できるように

藤本 三幸製菓では、離職率や内定辞退などの課題は解決しつつあるのですか。

柴田 離職率や辞退率の面で言うと、今も試行錯誤している最中で数字の変化はほとんどありません。ただ、採用担当の負担に関しては、生産的な負担になったというのが実感です。例えば、2012年までは1万人分のエントリーシートを2人で分担して一生懸命見て、よくわからないけれど合否を判定していたのですが、その作業がほとんどなくなり、今は、より応募者との合意形成に力を注ぐことができるようになりました。応募者との合意形成とは、具体的に言うと合宿選考です。合宿することで、日常生活レベルで採用の基準に達するかどうかを見ることができる。これは応募者が1万人いたら実施することは不可能です。応募者の数が減れば減るほど、1人当たりに割けるコミュニケーションの時間が増えるので、いろいろなものが見えてくる。

論点4/今後の取り組み

いかに早く技能やスキルを習得してもらうか

藤本 では、最後の論点として、それぞれの会社での取り組みにおける今後の課題について述べていただこうと思います。

山口 マルチタスク制度でやっている以上、いかに早く技能やスキルを習得してもらうかが課題です。特に高齢者です。旅館業の場合、バックヤードでは体力を使う仕事もある。また、高齢者では接客においても難しい部分が出てくる。70歳ぐらいまで仕事ができるような仕組みをいかに整えていくかが、我が社の課題かなと思います。

育児中に仕事をしてもらえるかに焦点

松村 介護事業も営利事業であり、きちんとした経営をして、きちんと利益を上げ、職員たちの待遇を向上していかないとやっていけません。今は、事業を拡大するより、自分たちの会社をいかに順調に回していくか、そして、女性職員の割合が高いので、子育てをしている間にいかに多くの時間、仕事をしてもらえるか、そこへ焦点を当てていかなければいけないと思っています。

価値観に共有部分をつくる

二宮 当社では、これから風土改革も進めようとしています。当社は事業所が6カ所ありますが、各事業所から1人ずつ自薦他薦で選出し、月に1回、三重県の工場に集まってもらって、会社が目指すゴール、目指すべき姿、現状について勉強会の形で話し合っています。それによって、変革に対する強い意識を持ってもらい価値観も共有しています。価値観の共有というのは、皆が同じ考えにするということではなく、共有する部分をつくるというイメージです。話し合った内容は経営幹部が出席する一番レベルの高い会議に持ち込み、「こういう意見が出ていますがどうしますか」とその場で議論しアクションを決めています。そしてこれらの活動を社内報で全社員に知らせる。ただし風土改革といっても、メンバー以外は結構冷ややかに見ている面もあるので、実際にトップにアクションを求め、全社員に活動を知らせる事が重要だと考えています。中途社員もそういった場で意見を出し、それが実際に話し合われて問題が解決していけば、中途採用者の定着対策にもつながるのではないかと思っています。

辞めるときの感情に注目

柴田 人材活用が、採用、定着、育成、退職までのフローだと考えると、採用は育成の前工程でしかなく、極論を言ってしまうと採用を早くやめたい。今いる人が辞めなければ極論、人は採用しなくてもいいですから。では、育成はどういうポイントで見ているかというと、やはり製造業ですので、技術継承や暗黙知的な部分がまだまだ多いので、定着に主眼を置いています。今取り組んでいる真っ最中なので、これから試行錯誤していくことになるでしょう。

個人的には、会社の風土や考え方を変えていきたい。採用・育成の成果はよく離職率で測られますが、当社でも離職率に対してマイナス、ネガティブなイメージを持つ社員が多い。しかし、「離職率の高さ=不人気」という価値観を変えていきたいと思っています。離職しても三幸製菓のおせんべいは買い続けるよという人がいてもいいし、当社は復職制度もあるのですが、3年後でも5年後でも10年後でも戻ってくる人がいてもよい。注目すべきは離職率の高さではなく、辞めるときの感情だと思うので、人と人とのつながりを大事にする部分を少し変えていきたいなと思っています。

藤本 私は、今日の各社のご講演や、パネルディスカッションでのお話を聞いて、自分の会社を冷静に見つめる、いろいろな思い込みは捨てるということが重要だと感じました。グランディア芳泉さんの例では、「宿泊業・ホテル業はこういうことをやるのが当たり前だよね」といった思い込みをもう一回問い直している。三幸製菓さんのように、他の会社がやっているような新卒採用の活動は自社にとって意味があるのかと冷静に考えてみる。

そしていろいろな取り組みを進めてみて、成果が出なかったら柔軟に変えてみるということも会社の規模に関係なく必要なのではないかと改めて思いました。今日は貴重なお話を長時間にわたり披露していただき、ありがとうございました。