事例報告 多様な働き方で人材確保・定着

当社は長野県の飯田市に位置し、2002年9月から介護事業を行っています。もともとは、建設業の子会社で出発しました。中央自動車道の飯田インターから3~5分のところに、デイサービスからショートステイ、老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、グループホームを持っています。

現在、職員は98人おり、内訳は男性が27人、女性が71人と、圧倒的に女性の多い職場です。年齢構成は、20代が15人、30代が24人、40代が18人、50代が21人、60代が20人となっています。勤続年数の構成については、会社は16年目(報告時)に入りましたが、2年未満が18人、2~5年未満が26人、5~8年未満が27人、8年以上が27人という状況です。

3通りの働き方を選択可能に

当社の従業員には女性が多いので、個人の結婚、出産、育児、子育て、介護にかかわる環境や年齢に応じて、正規社員、短時間正社員、パートなどの非正規社員という三つの働き方の形態を選択できるようにしています(シート1)。ですから、正社員で入社しても、結婚・出産時や育児休業が終わって復職した時には、短時間正社員か非正規社員になることを本人が選択できる。そして、子どもの幼稚園の時期が終わり、小学校へ入学した時に、正社員に戻る人もいれば、パートを続ける人もいます。

多様な働き方を整備した背景ですが、2002年に会社ができ、3年目、4年目くらいから、結婚、出産する職員が増えてきたことから、2007年にやむを得ず託児所をつくりました。託児所をつくった理由は、出産した職員から退職願が出てくるようになり、職員に「どうしたら仕事を続けてやっていけるか」を尋ねたところ、当時は保育園で3歳未満の子どもをなかなか預かってもらえず、3歳になるまでは一旦職を離れなければならないという話を聞いたからです。

職を離れてしまえば3年ぐらいのブランクがあいてしまう。すると復職することは難しい。どうしたら離職せずに継続して仕事ができるかを職員に聞くと、「託児所があれば、育児休業が終わった後も会社へ子どもを連れてきて仕事ができます」というので、託児所をつくろうとなったわけです。ちょうどそのころ有料老人ホームをつくる計画があったので、その施設の一画に託児所をつくりました(2007年開設)。

育児短時間、看護・介護休暇も用意

子どもが小学校へ上がった社員からも、「やっぱり1日8時間勤務はまだ無理です」との声が上がったので、子どもが小学校に上がった社員向けに「育児短時間正社員制度」を創設しました(2010年)。短時間正社員になると基本給が勤務時間に応じて少なくなりますが、それ以外の資格手当、住宅手当、家族手当は通常の正社員と変わらないので、パートとして働くよりはいい給料を確保できます。

子どもが病気にかかり、病院に行かなければならないケースもよくあったので、看護休暇を1人の子どもに対して年間7日間、有給休暇とは別に取得できるようにしました(2010年)。なお、子どもが2人いる場合には、年間12日とることができます。同じように、介護が必要な職員向けに、年間7日の介護休暇制度をつくりました。2人介護をする人がいれば12日取得可能です(2010年)。

3歳までの保育料も全額補助

看護・介護休暇制度、育児短時間制度と整備してきましたが、「子どもが小学校に上がっても、まだ子どもは早く帰ってくるからとても8時間勤務は無理です」という社員が大半でした。ですので、育児短時間正社員制度が終わった社員は、今度は、短時間正社員制度を使ってもらうようにしました(2015年)。短時間正社員制度の適用は、小学校、中学校、高校の子どもがいるまで可能です。

3歳までの保育園料を全額補助することも行っています。託児所に連れてくるより、自宅の近くの保育園に連れていけば、帰りはおじいちゃんやおばあちゃんが迎えにいってくれる。そのほうが便利だという職員がいるからです。

こうした取り組みの結果、長く勤めてくれる社員が増えてきました。そこで、その長いスパンの勤務を奨励するために、勤続5年目には5日間の休暇と5万円の一時金、10年目には10日間の休暇と10万円の一時金を支給することにしました。そして、まだ実績はありませんが、20年目、30年目、40年目も同じように10日間の休暇と10万円の一時金を支給することにしています。

また、スキルアップ、キャリアアップ支援として、初任者研修、介護福祉士の資格にかかる費用は全額、会社が負担しています。准看護師の資格を持っている社員が看護師資格をとりたいという場合は、2年間通信教育を受けて国家資格の試験を受けることになるのですが、そういう場合も、会社が半額を負担しています。

毎年5人の職員が新たな子を持つ

成果ですが、5年勤続の制度を使った職員が66人、10年勤続の制度を使った職員が23人おり、現在、短時間正社員となっているのが3人、育児短時間正社員となっている職員が4人います(シート2)。正社員から短時間正社員や非正規社員に勤務変更をしている職員が11人います。これまで出産をした女性職員数は18人、配偶者が出産したという男性職員は8人、生まれた子どもの数が計44人ですので、毎年、5人ほどの赤ちゃんがうちの会社の職員で生まれていることになります。入社後、スキルアップの制度を使って介護福祉士の資格を取った者は39人です。

有能な職員の確保が課題

今後に向けた課題は、どうやって有能な職員を確保していくか。それから、女性の場合、出産、育児、子育てを終えて、もう一度、正社員に戻るのに18年間という年数がかかります。非常に長い年数であり、女性は柔軟な働き方をしていかなければ介護職にずっと従事していくことができません。

現在、社員のなかで、早番、遅番、夜勤など、変則的な勤務をしている職員を男性、女性別に見ると、男性は20代、30代、40代が夜勤をやっています。50代、60代は、夕方4時~朝9時まで17時間ぶっ続けの仕事は嫌がる人が多く、50代が1人いるだけです。それに対して、女性を見ると、夜勤をしているのは20代、30代は2人だけで、子育ての終わった40代後半から50代、60代が大半を占めます。女性は強くて感心しますし、びっくりしているところです。

年齢構成や男女のバランスが今のようにとれないと介護事業はやっていけません。また、女性のみならず、男性職員も子どもを持つという意欲を持ってもらわないといけない。ですから、私たちは、子どもを産み、生活をしていくための職場があり、子どもを育て上げていける収入が得られるような社会を実現していくことが、この先大事だと考えています。

厚生労働省のユースエール認定(若者雇用促進法に基づく認定)制度があります。この制度の認定をもらうには、非常に厳しい数値基準をクリアしないといけません(正社員の月残業時間の平均が20時間以内でありかつ、60時間以上の者が1人もいないこと、など)。しかし、当社は2017年11月に認定をもらいました。長野県では5社目です。

医療、福祉の分野では、離職率が14.7%と言われていますが、おかげさまで当社の離職率は、ここ2~3年は6~7%で推移しています。今日ご紹介した制度を設けたことが、とてもプラスに作用している気がしています。

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