研究報告 テレワーク──JILPT調査から・在宅勤務を中心に
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- 池添 弘邦
- 労働政策研究・研修機構主任研究員
- フォーラム名
- 第98回労働政策フォーラム「働き方改革とテレワーク」(2018年9月26日)
今日は、私がこれまで携わってきたテレワーク、とりわけ在宅勤務に関する調査結果を議論の種として、紹介していきたいと思います。JILPTでは2014年に大規模アンケート調査を実施しました。調査対象は企業とその企業で働く従業員です。従業員にはテレワークをしていない人も含まれています。詳くは調査概要をご覧ください。
調査概要
- 1.調査期間
- 2014年10月中旬から11月中旬
- 2.調査方法
- 質問紙調査。郵送による配布、回収。
(1)企業調査では、テレワークを「電子メールや携帯電話などの情報通信手段が利用できる環境で仕事をすることを条件」とし、「情報通信技術を活用した、場所と時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義。その上で3つのタイプに分けて質問
- 終日在宅勤務:週に1日以上終日在宅で作業をする働き方
- 1日の一部在宅勤務:1日の勤務時間のうちの一部を在宅で作業をする働き方
- モバイルワーク:電話連絡だけではなく、会社のサーバーにアクセスできる環境で、施設に依存せずどこでも仕事が可能な働き方(営業職など)
(2)従業員調査では、テレワークを「所属している勤務先の通常の勤務場所以外で仕事(Eメールなど情報通信機器を使ったテレワーク)」をすることと定義づけて質問
- 3.調査対象
- 企業データベースから無作為抽出した1万企業およびその企業で働いているテレワーカーを含む従業員6万人
- 4.回収率、回収数
- 企業調査:16.6%・1,661票、従業員調査:9.1%・5,451票
まず、テレワークや在宅勤務がどれぐらい広がっているかですが、図表1から、日本全体ではそれほどテレワーク、在宅勤務が広がっているわけではないことがわかります。会社の制度として、就業規則に書き込むなどして制度として在宅勤務を実施している会社は1.7%。上司の裁量・習慣として行っているという会社で5.6%しかありません。
テレワークの実施目的を尋ねたところ(複数回答)、図表2の棒グラフが長くなっているところに注目して頂きたいのですが、「定型的業務の効率・生産性の向上」の割合がかなり高くなっています。また、通勤のストレスを減らすことを表す「従業員の移動時間の短縮・効率化」、「家庭生活を両立させる従業員への対応」も割合が高くなっています。この三つが主目的だと言えます。
実施目的を、①終日在宅勤務、②1日の一部在宅勤務、③モバイルワークというテレワークの類型ごとに見ると、終日在宅勤務の場合、従業員の家庭生活や健康、業務の効率・生産性の向上、移動時間の短縮が主目的として挙がっています。
在宅は研究・開発、企画でも多い
実施部門について見ていくと(複数回答)、モバイルワークはやはり「営業」の部門で多いのですが(77.2%)、一方で、終日在宅勤務も1日の一部在宅勤務も、「研究・開発・設計」(それぞれ38.6%、35.7%)や「企画・調査・広報」(それぞれ29.5%、38.1%)、「人事・労務・総務」(それぞれ27.3%、35.7%)での割合が比較的高くなっています。
具体的な対象者についてですが、調査結果を見ると、在宅勤務では、複数回答で、正社員であることを前提に、特定の職種・職務に就いている、一定年数以上の経験がある、生活上の事情がある人などで比較的多く認められています。
業務内容は定型的なデスクワークが中心
テレワークの具体的な業務内容を見ると(複数回答、図表3)、「業務上の文書作成」(47.4%)や「業務上の連絡・調整」(65.2%)、「資料や情報の収集・整理」(41.3%)といった定型的なデスクワークが比較的高い割合となっています。
就業場所別に、その場所で仕事をする頻度を尋ねた設問から、テレワークや在宅勤務を行う頻度の状況をみていくと(図表4)、「自宅」で仕事をする頻度は、「ほぼ毎日」、「週に3~4日程度」、「週に1~2日程度」の全てを足すと約25%となっています。つまり、テレワークをする人(在宅勤務、モバイルワークも含めて)の25%が週に1日以上、自宅で仕事をしていることがわかります。
ほとんどの企業が通常の労働時間
では、労働時間管理はどのようになっているのでしょうか。調査結果では、圧倒的多数の企業が通常の労働時間制度のもとで、テレワークや在宅勤務を行っていました(ほぼ7割)。管理の仕方では、「始業・終業時刻を電話やメールで伝達」が最も多くなっています(在宅勤務は45%程度)。今は、様々な通信手段を使って、上長や職場にいる同僚に連絡することができますので、まとめて業務日報などで報告する方法もありますが、一方で、常にパソコンやスマホなどを接続しておいて勤務時間を管理することも行われているのだと思います。
テレワークで働く人たちはどれぐらいの時間働いているかを見ると、1カ月で「160時間以上180時間未満」(29.8%)が最も多く、180時間未満の人全体でほぼ5割となっています。現在、9割の企業は週休2日制を導入していて、1日の法定労働時間が8時間ですから、月20日働くとすると160時間になります。1日に1、2時間残業しても、180時間に収まるわけで、テレワークをしている人たちは普通の労働時間で働いていると言えます。
実際にテレワークをする時間帯は、われわれの調査では、だいたい朝から夜のやや遅目の時間帯に収まっています。特に、昼~夕方(12~16時)までの時間帯が最も割合が高くなっています(53.3%)。
企業、従業員ともに効率アップなどの効果を実感
実施の効果については、「定型的業務の効率・生産性の向上」、「従業員の移動時間の短縮・効率化」、「家庭生活を両立させる従業員への対応」の回答割合が高くなっており、テレワーク・在宅勤務を実施する所与の目的はほぼ達成されているであろうと思われます(図表5)。
メリットを従業員の調査結果から見ても同様に、「仕事の生産性・効率性が向上する」が54.4%で最も割合が高くなっています(複数回答)。これは、自宅あるいは職場外で仕事をすれば、何にも邪魔されずに集中して取り組めるという意味も含まれているのかもしれません。
こうした効果のことをまとめると、在宅勤務を含むテレワークによって業務を効率的に推進できるようになり、仕事の生産性が高まるということ。また、従業員の福祉面、つまりワーク・ライフ・バランスや通勤・移動のストレスを軽減することができるということになります。
課題はセキュリティや時間管理など
では、課題はないのかというと、もちろんあります。一番は「情報セキュリティ」です。次に労働時間の管理が難しいこと。三つ目に進捗状況などの管理が難しいという回答も割合が高くなっています。従業員の方が考えるデメリットとしては、特に在宅勤務でのことを指していると思われますが、「仕事と仕事以外の切り分けが難しい」(38.3%、複数回答)、です。仕事をするのはプライベートな自宅スペースですので、何かあったらプライベートのことに手がかかってしまうということがあるのでしょう。
一方、実施していない企業に実施していない理由を尋ねたところ、「適した職種がない」、「情報セキュリティの確保に不安がある」などが高い割合となっています(図表6)。従業員に聞いても、「自分の職種や業務に合わない」という人がかなりの割合でいました(50.2%、複数回答)。しかしながら、調査結果から紹介したように、導入できている企業もあるのですから、もしかしたらこの差は、未導入・未実施企業の「食わず嫌い」なのかもしれません。
性善説を基本に導入を
最後に、簡単にヒアリング調査の結果も紹介したいと思います。当時、先進的な事例として取り上げられていた企業を対象に行いました。実施時期は、今から少し遡って、2007年~2008年です。
全体的な傾向ですが、うまくいっている企業の特徴としては、まず、社員の満足度を第一に考えて在宅勤務を導入し、運用していました。次に、トップダウンできちんとした制度やポリシーを立てて運用していました。三つ目に、利用の際のハードルを下げた仕組みを設けていました。つまり、利用要件を緩めたり、手続を簡易にするなどです。そして四つ目に、実際の運用は各部門に委ねていました。
また、実は次のことが個人的には導入にあたっての肝なのではないかとは思っていますが、在宅勤務・テレワークを利用する人は、普段から職場でのコミュニケーションが良好な方々です。すると、人が見ていないところでもきちんと仕事をするという信頼関係が形成されているのであろうと思います。
ヒアリング調査結果からの含意として、週1日、2日の在宅勤務であれば、何ら問題は生じないだろうと言えます。それから、事前の説明・周知・啓発によって実施が可能になります。さらに、在宅勤務は、ワークバランス等の必要から本人がやりたいということを申し出てやっている場合が多いので、そういう点から考えると、性善説に基づいて実施していくのがよいのではないかと考えます。
普及度が低いのは、やはり企業が、法令遵守の面やセキュリティなどのリスクを気にし過ぎるからではないかと思います。一方で、国や行政は、企業が抱えるリスクなどを払拭する有益なガイダンスを設けるべきではないかと思います。今後、働き方改革が進められていくなかで、こうした点もインプルーブされていくことで、在宅勤務などテレワークは普及していくのではないかと思っています。