基調講演 女性活躍と男性の家庭生活─育児からみた働き方の課題─

男女雇用機会均等法施行(1986年)から30年、育児休業法施行(1992年)から25年を経た現在、仕事と家庭の両立支援の課題について、改めて考えてみたいと思います。2016年に女性活躍推進法が施行され、女性のキャリア形成支援に大きな関心が払われています。一方、イクメンという言葉がブームになって久しいですが、男性の家庭生活の現状はどうなっているのでしょうか──。本日は、育児から見た働き方の課題について問題提起をしたいと思います。

改正育児・介護休業法が2017年に施行

直近の両立支援政策については、改正育児・介護休業法が2017年の1月と10月に施行されました。育児については1月施行の改正法により、有期契約労働者の育休取得要件の緩和や、子の看護休暇の取得単位の柔軟化などが図られました。10月には、育休期間の最長2歳までの再延長や、育児目的休暇の新設などが盛り込まれた改正法が施行されています。

未だ女性に偏る育児負担、男性の育児促進を──厚労省研究会報告書

厚生労働省はその後、『仕事と育児の両立支援に係る総合的研究会報告書』をとりまとめ、今年3月に公表しました。この研究会では、女性の就業が広がる現在もなお育児負担は女性に偏っている現状を踏まえ、男性による育児の促進を中心とした仕事と家庭の両立支援について検討してきました。

そのなかで男性の育児については、全くしていない層と多少はしている層の2段階に分け、全く育児をしていない人が多少でもするためのテコ入れが重要な課題だと指摘しています。例えば、妻の就業にかかわらず、産後8週間は母体保護のために夫が家事や育児を負担すべきという当事者意識の醸成を図っていくことなどが具体的に示されています。

育児を全くしない男性が7割

日本の男性が家事・育児をあまりしないといわれる時、総平均時間の短さが指摘されますが、図表1を見ると、育児をしている人の「行動者平均」の育児時間は2時間以上(146分)です。家事についても90分と結構長い。しかし育児を全くしていない人(非行動者)が全体の7割を占めているので(図表2)、平均すると短くなります。「育休を〇日(あるいは〇か月)取りました」というイクメンの話を見聞きする機会は増えていますが、実際は、全く育児をしていない男性がまだまだ多いというのが現状です。


妻が「フルタイム」の夫は育児関与度高い

男性の育児と妻の就業はどのような関係になっているのでしょうか。2000年代以降、共働き世帯数が増え、専業主婦世帯が減っている傾向にありますが、共働きといっても、夫がフルタイムで妻はパートタイムの世帯が増えており、夫婦ともフルタイムの世帯はあまり増えていません。

そこで、妻が非就業(専業主婦)、パートタイム、フルタイムの場合に分けて、第一子出生時の男性の育休取得期間を見ると、妻が専業主婦の場合は「5日未満」が5.0%と、パートタイム(2.2%)やフルタイム(2.5%)より相対的に高くなっており、「1か月以上」はパートタイム(2.2%)やフルタイム(2.5%)が、専業主婦(0.4%)より高くなっています(図表3)。ヨーロッパでは、妻が復職する時、男性が入れ替わりに育休を取得するのが典型です。日本でも妻がフルタイムで1か月以上の育休を取る男性はヨーロッパと同じような取り方をしていると思われます。一口に男性の育児休業といっても、その取得のしかたは女性の働き方によって多様であることが分かります。

次に、6歳未満の子(未就学児)と同居する正規雇用の男性が、平日に子ども(末子)と過ごす時間を妻の就業状況別に見ると(図表4)、「0~30分未満」は、どの就業形態でも2割前後とそれほど高くありません。「1~3時間未満」は、パートタイム(35.8%)と専業主婦(38.7%)で最も高く、それほど育児にかかわっていない男性の実態が浮かび上がってきます。「3時間以上」はフルタイムが43.1%と高く、パートタイムが34.0%、専業主婦が19.4%と低くなります。一方、専業主婦は「30分~1時間未満」が19.4%と高いです。

男性の育児へのかかわり方

では、子どもと一緒にいて何をしているのでしょうか。男性については、子育てといっても子どもと遊んでいるだけではないかという話をよく耳にします。しかし、一緒に遊んで、子どもをみていてくれるだけでも助かるという女性の声も聞きます。その一方で、妻がするような子どもの身の回りの世話をしている男性もいます。その意味でも男性の育児へのかかわり方は多様です。

そこで子ども(末子)の育児について、1週間のうち何日くらい「子どもと遊ぶ」かを見てみると、「週7日」と回答した割合は、専業主婦が12.9%、パートタイムが20.4%、フルタイムが27.5%となっています。遊ぶということだけでも妻の就業による差が見られます。さらに「身の回りの世話」について見ると、妻がフルタイムの場合は「週7日」が35.3%と高く、週5日以上になると49.0%と約半数を占めています(図表5)。つまり、妻がフルタイムで働いている家庭では、夫が毎日子どもの身の回りの世話をするという、均等に近い夫婦のありようが見られます。

男性の週労働時間を50時間以下に

次に男性自身の働き方との関係を見たいと思います。改めていうまでもありませんが、日本の場合、男性の長時間労働が家庭生活に割く時間を少なくしています。男性の週実労働時間と子ども(末子)と平日過ごす時間との関係を見ると、週50時間くらいが分かれ目ではないかと思われます。つまり週50時間を超えると、「3時間以上」子どもと過ごす割合が約2割に減り、週60時間を超えると「0~30分未満」が4割以上に増えるなど、子どもと過ごす時間があまり取れない状況になっています(図表6)。

重要なのは定時退勤できる日数

週50時間といえば、法定労働時間を除く10時間くらいが残業時間になろうかと思います。週5日働く場合は1日平均2時間ですが、家庭生活においては、毎日2時間残業するよりも、2日置きに4時間残業したほうが好ましい。逆にいうと、定時退勤日を週3日くらい作り、早く帰宅できる日は積極的に育児をするのが望ましいということです。

1日2時間の残業と聞けば、比較的早く帰れているという印象を持つかもしれません。ですが、例えば夫婦交代で保育園の迎えに行くなら、担当日は定時に退社しなければなりません。ですので残業する日と定時退勤の日のメリハリをつけることが、仕事と家庭の両立では大切なポイントになってきます。

仕事における男性役割の見直しが男性の育児を促進

しかし、残業を減らして子どもと過ごす時間が増えても、子どもと遊んでいるだけで、身の回りの世話までしているとは限りません。そこには男女の役割が関係しています。

その観点から、仕事における男女の役割、つまり職場での男女の職域統合と、夫婦の家事・育児の分担との関係について見てみます。

調査では、自分が勤めている職場で、男性と女性の職務に違いがあるかどうかを尋ねており、男女の職域が「まったく違う」あるいは職場にいるのは「同性(男性)のみ」、「一部違う」、「違いはない」の回答別に、男性の育児頻度を見たものが図表7になります。「子どもと遊ぶ」頻度に違いは見られませんが、「身の回りの世話」については、男女の職域に「違いはない」という場合に、「身の回りの世話」をする頻度が高いという傾向が見られました。

次に、夫婦の経済的役割との関係について見てみます。前出のデータと同じ調査で、理想とする夫婦の経済的な役割分担について尋ねたところ、「夫の収入だけで生活費をまかなう」(43%)と「夫の収入を主とするが妻の収入も生活費にあてる」(44%)が同程度となり、「夫婦の収入を同等に生活費にあてる」(7%)や「妻の収入だけで生活費をまかなう」(1%)の割合は低いです。その上で、育児について見てみると、「夫の収入だけで生活費をまかなう」よりも「夫の収入を主とするが妻の収入も生活費にあてる」ほうが、子ども(末子)の「身の回りの世話」をする頻度が高く、夫婦同等とまではいかないまでも、共働きを志向する男性のほうが育児をしている傾向が見えてきました(図表8)。


最後にまとめですが、女性がキャリアを継続し、仕事で活躍するためには、男性の働き方を見直すことが重要です。男性が平日に子どもと過ごす時間を持てるよう、労働時間については総残業時間を減らすとともに、残業日数を週2日以内(定時退勤を3日以上)にすることが望ましいです。さらに、男性がより深く育児にかかわるためには、男性の職域や男性が家計を支えるという稼ぎ手役割意識など、仕事の面についても男女の役割を見直すことが重要だといえます。

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