事例② 個人と組織双方に利益を生むキャリアコンサルティング

私は民間企業で24年の勤務経験があり、その最後の3年間、企業内でのキャリアコンサルティングを行っていました。当時、企業内でのキャリア支援を行うなかで、単にクライアントの希望を叶えるだけではなく、個人と組織の双方にとって利益のある形に落とし込んでいくようなキャリアコンサルティングの必要性に直面して、戸惑った記憶があります。今日はそういった経験と調査を踏まえて、企業内のキャリアコンサルティングがどうあるべきなのかについてお話ししたいと思います。

企業内キャリアコンサルティングの発達段階

私は、キャリアコンサルティングやキャリア相談を制度化している大手企業10社を対象にヒアリングして、組織開発的な側面からキャリアコンサルティングの発達段階をまとめました。

それによると、第1段階は個別面談活動です。ここでの話を聞いていくと、第2段階の上司と部下の間の関係調整を行う活動が行われていることもわかってきました。さらには、職場の改善に関与した事例も見られました。例えば、「時短勤務をしている社員に責任も果たしてもらうにはどうしたらいいのか」となった時に、その人の仕事の仕方だけではやはり限界があるということで、周囲がどのようにサポートし合えるかについて職場のトップとキャリアコンサルタントとが話し合って改善につなげていった、というような職場への介入です。これが第3段階です。

そして、もっと話を聞いていくと、第4段階として、経営層への提案や具申もしていたりする。というのは、面談を行うキャリアコンサルタントには、各社員からの悩みを通じて、社内の様々な情報が入って来るからです。これらの情報は職場環境や社内制度、職場風土などに起因する問題が凝縮されて相談室に集まることになるわけです。こうしたところから、組織の問題の結構深い部分が見えてくるので、この部分を踏まえた提言を経営層へ行う可能性が生まれてくるわけです。もちろん、全ての企業が全段階に取り組んでいるわけではなく、特に4段階目を実践している企業はごく一部でした。必ずしも4段階目まで行けば良いということでもないと思いますし、組織の事情に応じてうまく組み合わせて活用することが望ましいと思います。

なお、全体を通じて「インフォーマルな関係構築機能」も感じられました。ヒアリングしたキャリアコンサルタントは、人と人とのつながりを大切にする方が非常に多く、そういった姿勢こそが、キャリアコンサルティングならではの組織への関わり方なのだと思います。

影響や成果を「見える化」する努力を

企業内にいると、クライアントとの日常的・長期的な関わりが生じます。一連の面談が終結したら終わりなのではなく、その後も社内で会う可能性があるわけです。すると、「この間、問題解決したけれど、今日は顔色があまり良くないな」などと、社内で会った時の様子が見えてくる一方で、「あのキャリアコンサルディングはあまり良くなかった」などといったクライアントからの評価も聞こえてくるかもしれません。同様に、組織からも評価され、キャリアコンサルティングという施策が組織にとってプラスになったか否かが問われることになります。企業内のキャリアコンサルタントは、こういった意味で逃げ場がなく、クライアントと組織の期待に対して成果を出していかなければいけない立場だと言えます。

ところが、組織のレベルで見ると、キャリアコンサルティングの成果は非常に見えにくいものです。だからこそ、まずは企業のなかでそれがどのような影響を及ぼしていて、どういった成果が得られているのかを数値化するなど、何らかの形で見える化する努力が必要になるとに思います。

プロフィール

高橋 浩(たかはし・ひろし)

ユースキャリア研究所代表、日本キャリア開発協会顧問

ユースキャリア研究所代表、日本キャリア開発協会顧問、法政大学/目白大学大学院講師。博士(心理学)立正大学。キャリアコンサルタント、CDA。1987年日本電気アイシーマイコンシステム株式会社に入社し、半導体設計、経営企画、キャリアアドバイザーに従事。2011年3月退職。2012年独立。キャリア相談、キャリア開発研修講師、キャリアコンサルタントの指導・育成、およびキャリア心理学の調査・研究を行う。主な著書『企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質』(JILPT)、『社会構成主義キャリア・カウンセリングの理論と実践』(福村出版)、『新時代のキャリアコンサルティング』(JILPT)。

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