研究報告 地域雇用の現状と課題─若者の定着・UIJターン促進のために

現在、地方活性化の政策が進められておりますが、重要な課題の一つは、若者のUIJターン促進と支援です。そして、若者が地域に定着・還流するためには、就業機会が大きな問題であるため、雇用の視点も忘れてはならないと考えています。

本日は、ヒアリング調査、アンケート調査の結果から、地方の若者流出やUIJターンに関わる現状・課題、地域の取り組みについて報告します。ヒアリング調査は、3大都市圏以外の、いわゆる地方圏における雇用機会や若者流出の実態、取り組みについて、市町村レベルの自治体、ハローワーク、地域振興や移住促進のNPOなどを訪問・調査し、現在も継続して行っています。アンケート調査は今年1月に、個人を対象に若年期の地域移動の状況について調査したものです。

調査の実施

ヒアリング調査(2014年8月~2016年1月実施)

  • 調査目的:地方における雇用機会と若年者流出の実態、取組みの状況把握
  • 調査対象:地方圏の自治体(主に市町村レベル)の産業雇用担当・移住定住担当部局、ハローワーク・労働局、地域振興・移住促進の核となっているNPO等
  • 調査項目:地域の雇用情勢、出身者の地域移動、雇用創出・地域活性化の取組み、移住定住促進の取組みなど

アンケート調査(ウェブモニター調査、2016年1月実施)

  • 調査目的:若年期の地域移動(出身地からの転出とUIJターン)の実態把握
  • 調査対象:①現在25~39歳の地方出身者(出身県Uターン者、出身県外居住者等)、②現在25~44歳の東京圏・近畿圏出身で地方移住者(※①②とも就業者のみ)
  • 調査項目:地域移動経験(タイミング・移動先・理由等)、居住地域の特徴、仕事、生活、意識など

本報告でとりあげるヒアリング調査地域

  1. 山形県鶴岡市
  2. 福井県大野市
  3. 長野県岡谷市
  4. 徳島県美波町
  5. 高知県嶺北地域(本山町・土佐町他)
  6. 長崎県小値賀町

調査地域を表した日本地図

六つの自治体の事例─ヒアリング調査から

まず、ヒアリング調査を行った地域の中から、①山形県鶴岡市、②福井県大野市、③長野県岡谷市、④徳島県美波町、⑤高知県嶺北地域、⑥長崎県小値賀町(離島)の事例をご紹介したいと思います。

地方都市

まず、地方都市として、上記①山形県鶴岡市と③長野県岡谷市の例を取り上げます。鶴岡市は人口13万人を擁し、農業のほか、自動車部品などの製造業が盛んな地方都市です。一方の岡谷市も製造業中心の都市で、以前は「東洋のスイス」と言われ、時計やカメラなどの精密機械工業が盛んでしたが、現在は、中小の部品加工メーカーが集積する地域となっています。

両者に共通した地域の課題としては、地元企業が地域の若者や親によく知られていないために、就職活動の選択肢になりにくく、就職で地元になかなか戻ってこないことが挙げられます。また、地域間の賃金格差などを背景に、若者の就職希望条件と合わず、戻りにくいという課題が聞かれました。

農村地域

都市部から離れた、いわゆる農村地域の課題は、少し異なります。上記⑥長崎県小値賀町は、佐世保からフェリーで2時間半かかる離島です。もう一つの⑤高知県嶺北地域は、高知市内から車で1時間程度かかる山間部です。両者に共通するのは、若者の雇用の受け皿が、役場、福祉関係、建設、農林漁業関係ぐらいしかなく、ほとんどの者は高校卒業後に地域を離れ、なかなか帰ってこないということです。「ここには何もない」などという地元の意識も、若者の流出を加速させている要因であると聞かれました。

都市部への通勤者が多い地域

もう一つの類型である②福井県大野市と④徳島県美波町は、若者の雇用の受け皿となる産業集積に乏しい点で、先に述べた農村地域と共通しますが、都市部(それぞれ福井市、阿南市)への通勤者が多いという特徴も持つ地域です。かといって「ベッドタウン」として生き残れるほど都市部にアクセスが良いわけではなく、若者が都市部に移り住んでしまうという問題が聞かれました。

地元を離れるキッカケ─アンケートから

ここで、アンケート調査の結果から、若い人がどういうタイミング・理由で地元を離れ、どういう時にUターンするのかを見てみましょう。まず、地方出身者に地元を離れたキッカケを尋ねたところ、「大学・大学院進学」が約半数を占め、「就職」(約15%)、「専門学校進学」(約10%)の順となっています。地元を離れた理由は、「地元には進学を希望する学校がなかった」など進学先が限られる側面と、「親元を離れて暮らしたかった」「都会で生活してみたかった」といった生活環境面の選択が重なり合っています。

Uターンする理由、しない理由

では、どういう人がどういう時に地元に戻るのでしょうか。大卒者のうち、Uターン就職した人と県外で就職した人とで、就職地域の希望理由を比較したところ、Uターン者では「実家から通えるため」が最も多い一方、県外就職者は「在学中の居住地を離れたくなかったため」「大都市で働きたかったから」が多くなっています。また、Uターンするタイミングは、「就職」(22歳時)が最多ですが、「離職・転職」を機としたUターンも30歳頃まで比較的多くあります。

なお、出身県を離れて暮らしている人でも、地元に戻りたい希望が一定程度みられます。出身市町村へのUターン希望について、14.5%が「戻りたい」、30.6%が「やや戻りたい」と回答しており、年齢別では若いほど多くなっています。また、Uターンするために希望する行政支援を尋ねたところ、「仕事情報の提供」や「転居費用の支援」、「無料職業紹介」などが挙がっており、Uターンを考える者において、地元の仕事情報に関するニーズが大きいことがわかりました。

では、どういう人が出身市町村へのUターン希望を多く持っているのでしょうか。まず、Uターン希望には、地元への愛着がどのくらいあるかとの関連が非常に強くあります。加えて興味深い発見は、高校時代までに地元企業をどの程度知っていたかによってUターン希望に差があることです。つまり、高校時代までに地元企業を「よく知っていた」人は、「戻りたい」「やや戻りたい」を合わせた割合が6割を超えますが、地元企業を「全く知らなかった」人は、3割程度と少なくなっています()。このように、出身地を離れるまでに地元企業を知るチャンスがあると、その後Uターンを希望しやすいということが見て取れます。この背景の一つには、地元企業を知っていると、地元に帰ってからの働き方をイメージしやすく、それがUターン希望を後押ししていることが考えられます。

図 出身市町村へのUターン希望―高校時代までの地元企業の認知程度別―【出身県外居住者】

グラフ

参考:配布資料16ページ(PDF:1.77MB)

Uターンの受け皿を創るためには

それでは、どのようにUIJターンの雇用の受け皿を創っていくべきでしょうか。私は、やはり企業誘致が重要な方策の一つだと考えています。地域雇用創出の研究では、企業誘致の評価は難しく、良い面と悪い面があると言われます。メリットは、短期間で大規模な雇用創出が期待できる点です。デメリットは、地元に利益が落ちにくいことや、撤退のリスクです。

企業誘致以外の雇用創出の方法としては、地場の中小製造業の振興があります。例えば、長野県岡谷市は、地元に立地する中小製造業の振興に力を注いでおり、役所の人員面も含めてかなり手厚い支援体制をとっています。さらには、山形県鶴岡市のように、将来的な雇用創出に期待して、起業支援に積極的に取り組んでいる事例もあります。

一方、山間部や離島など、地元企業が乏しいことに加え、地理的不利から企業誘致が困難な地域はどうしたらよいでしょうか。こうしたところでは、農水産物など地域の資源を活かして雇用を創出していく以外にあまり方策がありません。例えば、長崎県の離島である小値賀町は、地元産落花生を使った加工品の開発や販売で雇用を創ろうと取り組んでいます。さらなる雇用創出のため、島内に加工場を建設する計画もあると聞きました。また、徳島県美波町では、サテライトオフィスの誘致を積極的に進め、IT企業を中心に進出があり、本社を移転した企業も出ているそうです。

地元愛の醸成を

では、受け皿としての雇用の場を創ればそれで良いのでしょうか。UIJターンを呼び込むには、その受け皿を用意するだけではやや不十分です。この点、各地をまわる中で、地元愛の重要性について多く聞きました。なかなか掴みどころのない話ですが、行政が中心となり地元愛を醸成していく取り組みも見られます。

福井県大野市は、若い人のUターンを促すために、地元の良さを再認識し、誇りを醸成することに取り組んでいます。同市には「清水(しょうず)」と呼ばれる湧水地が町のいたるところにあります。そこで、この恵まれた水資源に着目した事業を立ち上げました。そして、途上国への支援を行うなど、地元の水資源のブランド化、情報発信を行っています。このプロジェクトの目的は、地域の外から注目されることで、地元の人に地元の良さを再認識してもらい、地元愛や誇りを育んでいくことにあります。このほか、同市では、高校生による地元企業や商店のポスター展を開催するなど、地元企業を知るとともに、地元愛を深める多方面の取り組みをしています。

早くからの意識付けという意味では、長野県岡谷市の取り組みも注目に値します。岡谷市の場合、地元の雇用機会は製造業が中心ですので、大学文系に進学すると、戻った時の就職先が乏しい面があります。そこで同市では、地元企業が中学校に出張講義をしたり、小学生から高校生まで見学・参加する「ものづくりフェア」を開催するなど、将来のUターンにつなげるために早い段階から意識付けを行っています。

UIJターン支援の公的機関の役割大きい

実際にUIJターンした人に対しては、どのような支援が求められるのでしょうか。アンケート調査で、Uターン時の仕事面の気がかりを尋ねたところ、特に女性では「求人が少ない」、「希望にかなう仕事が見つからない」が多く、地方に移住(Iターン)した人でも、約2割の女性が「仕事がなかなか見つからなかった」と答えています。背景には、女性では平日の日中勤務やオフィスワークを希望する人が多く、求人とのミスマッチが大きいことが考えられます。

なお、同じ調査の中で、UIJターン時に利用した就業支援については、「ハローワークの相談窓口」と「ハローワークのインターネット求人情報」の利用が比較的多く、公的機関の役割が大きいこともわかりました。実際、各地のハローワークの聞き取りでも、ミスマッチを解消するために、求人と就業希望の条件との地道なすり合わせを行っている様子がうかがえました。

UIJターンが地域活性化の起爆剤に

最後に、なぜ、UIJターンを促進・支援すべきかと言うと、UIJターン者は地域活性化の起爆剤ともなり得るからです。先ほどご紹介した長崎県小値賀町では、古民家などの地域資源を活かした体験型観光の取り組みが行われ、交流人口と雇用の受け皿が増えています。これは、Iターン者が地域の隠れた魅力を発見したことが出発点になっており、観光事業もIターン者が主体となって行っています。メディアなど外からの注目を浴びる中、地元の意識が変わり、Uターンの動きも刺激するという好循環が生まれた事例です。

このような事例を増やしていくためには、UIJターンの土壌をつくる必要があります。土壌というのは、潜在的な地域資源や魅力、それから雇用の場・活躍の受け皿です。そうしたものがあるからこそUIJターンが進み、外の視点で地域が活性化・魅力化されることで、それが更なるUIJターン人材を呼び込むという好循環へとつながっていきます。UIJターンの促進・支援は、地域の好循環を支えるという意味で、非常に重要だということを申し上げ、本日のご報告とさせていただきます。

プロフィール

高見 具広(たかみ・ともひろ)

JILPT研究員

東京大学大学院人文社会系研究科を経て、2013年JILPT入職。産業・労働社会学を専門とし、地域雇用、労働時間、ワーク・ライフ・バランスなどを研究している。最近の主な研究成果として、『地域における雇用機会と就業行動』JILPT資料シリーズNo.151(2015年)、『UIJターンの促進・支援と地方の活性化―若年期の地域移動に関する調査結果―』JILPT調査シリーズNo.152(2016年)がある。

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