研究報告:仕事と介護の両立支援の新たな課題
仕事と介護の両立支援を考える
第67回労働政策フォーラム (2013年5月31日)

研究報告 仕事と介護の両立支援の新たな課題

池田 心豪  労働政策研究・研修機構副主任研究員

写真:池田心豪氏

これまでの報告で、仕事と介護の両立支援で何をしたらいいのか具体的にわかってきたかと思います。

私の報告では、仕事と介護の両立支援でまだ明らかになっていない新たな課題について分析した、当機構の研究成果をご紹介します。

勤務時間外の介護疲労が仕事に影響

図表1 仕事と介護の両立相関図

図表1:クリックで拡大表示

図表1 拡大表示

昨年度行いましたヒアリング調査から、まず勤務時間外の介護疲労による仕事の能率低下が軽視できない問題であることがわかりました。

図表1の仕事と介護の両立相関図をご覧ください。従来の両立支援は、たとえば、親が倒れたときの緊急対応やその後の介護生活の態勢づくりであるとか、通院の付添い、あるいは在宅サービスの利用時間が短いといったことから、勤務時間を調整するものが中心でした。介護の用事が発生したとき、仕事を休まざるを得ないとか、勤務時間を変更せざるを得ないとか、そういう物理的な時間のやりくりが難しい状況に直面したときに、休業や休暇が必要になりますよ。短時間も必要かもしれませんねと、そういう発想でやってきました。私たちの調査結果からも、そうした時間的な面の支援は重要だと言えます。

しかしそれだけでなく、勤務時間と介護時間のバッティングはなくても両立が難しいと思われる事例もありました。

それは、勤務時間外の介護の疲労が蓄積しているケースです。深夜介護はその典型です。介護者は日中、出勤して仕事をこなし、夕方には帰宅します。その後は、要介護者の人が深夜まで寝ずに起きていて、自分も寝られない。そうした睡眠不足の中で翌朝、出勤して仕事をします。こうしたことが続くうちに、体調が悪化します。

こうなったとき、つらくなって仕事を辞めてしまう人もいますが、仕事を休まずに出勤している人も少なくありません。本人としては一生懸命頑張っているけれども、やはり仕事の能率は低下しています。睡眠不足で仕事中に居眠りをしてしまう人もいます。あるいは、介護者も持病を抱えていて、疲労の蓄積に伴い、痛風の発作が起きたという事例もありました。

このように、本人は頑張って仕事と介護の両立を図っているけれども、疲労の蓄積によって体調が悪化し、そのことが仕事に好ましくない影響を及ぼしているという面があります。

自身の体調悪化も年休の取得要因に

詳しい分析結果を示す前にポイントを、先にお話します。

まず、私たちの調査からも、物理的な時間調整のために仕事を休む必要性は高いといえます。従来から言われているように、連続した期間の介護休業をとる人は少ないのですが、通院の付き添いや、介護サービスの利用手続、あるいは介護事業所との打ち合わせなど、細々とした用事で一日ないしは時間単位で仕事を休んでいる人は多いです。日中に介護の用事が入るために、勤務時間を調整する必要が生じるということです。

しかし、そういうこととは別に、たとえば認知症を持っているご家族の場合ですと、要介護者が昼夜逆転してしまい、夜に寝てくれないということが起きます。介護者は疲れとストレスがたまり、睡眠不足になります。疲労は蓄積するけれども、次の日は頑張って普段どおり出勤します。しかし、睡眠不足で仕事に集中できない、そういう問題がみえてきました。

そういう人が、職場でどうしているかというと、やはり、体調を崩して仕事を休むことになります。他方、先ほどから申し上げているように、物理的な用事のために仕事を休む場合は、用事が済んだら仕事に戻り、遅れを取り戻すため、効率的に働くことができます。けれども、慢性的に体調が悪い場合、その悪い体調を引きずった状態で仕事をしていますから、仕事の能率が低下しています。

そして、勤務時間の調整を必要とする日中の介護だけでなく、自身の体調悪化がある場合にも年休取得率は高くなることが明らかになりました。

このようなことがわかりました、ヒアリング調査とアンケート調査の結果をこれから報告していきます。

緊急対応と態勢づくりのための介護休業取得

私たちは昨年、男性正社員の介護者10人にヒアリングをしました。その中で、介護休業を取得している人は3人でした。うち2人は、法律が想定するように、緊急対応や態勢づくりのために休業を取得しています。

まず、緊急対応のケースです。要介護者が手術をした後に1カ月、その後、デイサービス利用中に要介護者が交通事故にあって2週間の介護休業を取得しました。先ほどからの報告にありましたが、休業や休暇は長ければいいわけではなく、分割できたほうが便利な面もあることが、われわれの調査結果からもみてとれます。

次は、要介護者に認知症があったケースです。認知症の場合ですと、先ほどの手術のような緊急対応があるわけではありませんが、先々を見通し、認知症の父親が入所する介護施設を探す目的で介護休業を取得しています。会社の人事ローテーションが1年単位なので、それにあわせて介護休業も1年とりました。

勤務時間を調整しているケースは多い

一方、介護休業はとらないけれども、勤務時間を調整しているケースもあります。

その最たる理由は、在宅介護サービスの利用時間が合わないことです。要介護者である父親がデイサービスに通う日は送り出しのため、出勤時刻を遅らせた事例があります。

また、一度退職した人で、そういうことが一般的なのかどうかわかりませんが、ホームヘルパーの訪問時刻を利用者が指定できず、時間の融通がきかないため、正社員での就業は難しいという声もありました。

ほかにもいろいろなケースがありますが、10人中7人が、1日単位もしくは時間単位で休暇を取得し、勤務時間を調整していました。

残りの3人は、比較的時間の融通のきく働き方で、平日に休みがあり、その代わりに週末に働くとか、そういうやり方で対応していました。こういうケースも含めると、仕事時間と介護時間の調整は、多くの人に起きている問題といえます。

勤務時間外の介護負担の影響

しかし、仕事時間と介護時間が重ならない、勤務時間外の介護負担が仕事に影響をおよぼしている事例もあります。

1つ目は、外食産業の店長をしている事例です。外食産業ですから仕事の終わる時間が遅く、その後、別居している母親のところに通って介護して、翌日出勤していました。深夜介護をして翌朝、出勤する生活を繰り返していたところ、仕事と介護のストレスから痛風の発作が起きました。しかし、それでも休まないで、痛い足を引きずって、仕事に出ました。介護をしながら仕事も一生懸命頑張っているのですが、痛い足を引きずっているのですから、仕事にいい影響は出ていないと思います。

もう1つは、認知症で要介護者が昼夜逆転している事例です。要介護者が深夜まで起きていて、なかなか寝てくれません。こういう状態が続くと慢性的な睡眠不足になり、仕事中に居眠りをしたり、ぼーっとしてしまいます。認知症介護でよく聞くケースです。

継続的な介護にはゆとりが大事

次にご紹介するのは極端なケースなのですが、同じ問題は多くの人が指摘しています。その意味で参考になる事例です。

この人は、父親の介護のために介護休業をとっています。ほかにも、短時間勤務や介護休暇など、両立支援制度をフル活用しています。会社が両立支援に前向きなこともあり、仕事を休めるときは、なるべく休みました。

もちろん仕事もきちんとしています。ただし、勤務時間と介護時間をぎりぎりのところで調整するのではなく、少しゆとりを持たせていました。そうしないと、自分が倒れてしまうからです。継続的に介護を続けるには、ゆとりが大事だと言っていました。

先ほども言いましたように、この事例は極端ですが、休めないと言っている方も、少し休んでいる方も、どんな方でも自分の健康状態は気にしています。仕事が忙しくて疲れているときは、介護を休むことで、体力の回復を図るという方もいました。そういう意味で、介護者の健康管理は、軽視できない問題だと思います。

両立支援の新たな課題

図表2 介護による体調悪化がある割合(注1)─深夜介護の有無別(注2)

図表2 グラフ:クリックで拡大表示

(注1) 調査票の「介護が原因で、自分の体調が悪くなる」に「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した割合。

(注2) 月曜から日曜の各曜日について、午後10時から翌朝5時までに介護をする日が1日でもある割合。

図表2 拡大表示

以上のヒアリング調査を通じて、どういうことがみえてきたのでしょうか。

従来の両立支援は、勤務時間内に発生する介護にどう対応するかを問題にしていました。しかし、新たな課題としてもう1つ、勤務時間外の介護負担による疲労の蓄積、これが仕事に影響をおよぼしていることがわかりました。

たとえば、居眠りとか、持病の発作などです。そうなると、家族としても心配だから、仕事は続けられないとなり、退職してしまうケースもあります。

また、仕事を休んでいるけれども、そこに介護の用事だけでなく、自分自身の健康管理も含まれるというケースもありました。もし慢性的に体調が悪いのであれば、休む・休まないということの先にある問題をどう考えるかというところにも、目線を向けていく必要があると思います。

図表3 介護による体調悪化がある割合─要介護者の認知症の程度別(注)

図表3 グラフ:クリックで拡大表示

(注) 調査時点の状態として「徘徊」「意思疎通の困難」「不潔行為や異食行動」「暴言暴力」のいずれかが「いつもある」場合に「重度」、それ以外で認知症が「ある」場合は「軽度」としている。「重度」は常時見張りの必要がある状態に相当。

図表3 拡大表示

4割近くが介護で体調悪化

今まで申し上げたお話が、データではどうなっているかをご紹介します。

要介護者と同居している30―59歳の男女を対象に、2006年に行ったアンケート調査の結果です。調査対象には非正社員も含まれていますが、フルタイム就業の両立困難という側面に焦点を当てるため、ここでは分析対象を正社員に限定しています。

まず、どのくらいの人に介護による体調悪化があるかをみましょう(図表2)。4割近くが介護による体調悪化があると回答しています。どういう人に顕著かといいますと、先ほどの事例でもみた、深夜介護している人です。

図表4 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~仕事の能率低下~

家族的責任による仕事の能率低下を感じている割合(注)─介護による体調悪化の有無別─

図表4 グラフ:クリックで拡大表示

(注) 「家事・育児・介護のために仕事での責任を果たせていないと感じる」に「あてはまる」「ややあてはまる」と回答した割合。

図表4 拡大表示

もう1つ、この深夜介護と関連しているのが認知症です。特に、重度認知症の場合には、やはり体調悪化の割合が高くなります(図表3)。

体調悪化でも仕事は辞めない

では、体調悪化はどういう形で仕事に影響をおよぼすのでしょうか。

介護で体調悪化がある方に、自分は仕事の責任をきちんと果たせていないと感じるかを尋ねました(図表4)。やはり体調が悪い人は、仕事の責任を果せていないと感じる割合が高くなっています。仕事の能率を客観的にどのようにはかるかという問題は残りますが、自己評価としては仕事の能率が低下していることを示唆する結果だといえます。

図表5 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~勤務時間の短縮(?)~

現在の勤務時間短縮割合と短縮希望ありの割合(注)─介護による体調悪化の有無別─

図表5 グラフ:クリックで拡大表示

(注) 調査票の「1日の労働時間の短縮」「週の労働日数の短縮」「残業や休日労働をしない」のいずれかに「現在している」と回答した場合に勤務時間短縮「あり」とし、「今後したい」と回答した場合に短縮希望「あり」としている。

図表5 拡大表示

では、仕事の責任が果たせていないと感じるから、辞めてしまうかというと、必ずしもそうではないようです。ここで分析している人は、今まさに介護している最中の人なので、「辞めない」というよりも、「まだ辞めてない」とみたほうがいいかもしれません。いずれにしろ、退職はしていないものの両立困難な状態であることには変わりません。

勤務時間短縮の希望には差がない

体調が悪いから、仕事を少しセーブしたらどうかという考え方もあります。そこで、1日の所定労働時間を減らしたり、週の労働日数を減らしたり、あるいは残業や休日労働をしないといった、勤務時間の短縮についても聞きました(図表5)。法定の短時間勤務を利用できる期間は短いので、「今後したい」と回答した短縮希望の回答にも着目しました。

図表6 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~休暇取得~

介護のための年休取得割合(注)─介護による体調悪化の有無別─

図表6 グラフ:クリックで拡大表示

(注) 1日以上の取得割合

図表6 拡大表示

その結果、6割ぐらいの人が勤務時間の短縮を希望しています。しかし、体調悪化の有無による差はありません。体調が悪いという理由では、仕事をセーブしようとは思わないということです。疲労が蓄積した状態でもがんばって仕事をしている人は少なくないようです。

体調不良で休暇を取得

しかし、体調が悪い人ほど仕事を休んでいるようです(図表6)。

介護のために年休をとる人は多くいます。その理由として従来は、介護施設に行くためであったり、通院に付き添うためであったり、そういう目線でとらえることが多かったと思います。しかし、調査結果をみますと、介護の用事ではなく、本人の体調不良で休んでいるケースも混在していることがわかります(図表7)。

図表7 介護による体調悪化が仕事に及ぼす影響~年休取得と仕事の能率低下の関係~

家族的責任による仕事の能率低下を感じている割合─介護による体調悪化の有無・介護のための年休取得の有無別─

図表7 グラフ:クリックで拡大表示

図表7 拡大表示

休んでいても、体調が悪くなければ、用事を済ませた後、仕事に戻って高い密度で効率的に仕事をして、遅れを取り戻すことも可能です。

しかし逆に、体調が悪い状態を引きずりながら、無理して出勤していると、仕事中に居眠りをしたり、ぼーっとしてしまいます。こういうことで、自分はきちんと仕事ができていないと感じる。そういう労働者の人が少なからずいることがみえてきました。

介護の特徴を踏まえた支援を

ここまでの結果から、今後、仕事と介護の両立支援を効果的に進めるには、従来からある勤務時間内の介護の事情に対応するための物理的な時間のやりくりに加え、勤務時間外の介護疲労の蓄積の問題にも目を向けていく必要があるといえます。

物理的な時間のやりくりは、ワーク・ライフ・バランス一般として、休みやすい職場づくり、長時間労働の是正、働き方の柔軟化などで対応できます。企業のなかには、育児支援のノウハウを蓄積しているところも少なからずあります。育児支援のやり方をそのまま介護に当てはめることはできませんが、適切に応用すればうまく回っていく部分もあります。

しかし、育児支援の発想をいくら延長してもみえてこない、介護に特有の課題もあります。先ほどの報告にもあった、事前の備えや情報提供もその1つです。われわれの調査からは、勤務時間外の介護疲労の蓄積の問題を指摘できます。その観点から、介護者の健康管理も大事ではないかという問題提起をしました。

その手がかりとして、介護者が休暇をとったとき、それは介護をするためなのか、それとも、体調が悪いからなのか、そういったところに注意を向けていただければ、両立支援を効果的に進める1つのきっかけになるのではないかと思います。