事例報告2:丸紅のワーク・ライフ・バランスと介護支援に関する取り組み
仕事と介護の両立支援を考える
第67回労働政策フォーラム(2013年5月31日)

事例報告2 丸紅のワーク・ライフ・バランスと介護支援に関する取り組み

許斐 理恵  丸紅人事部ダイバーシティ・マネジメントチーム・チーム長補佐

写真:許斐理恵氏

本日は、丸紅のワーク・ライフ・バランスと介護支援に関する取り組みをご紹介します。

まず、介護の話に入る前に、ワーク・ライフ・バランス全般の取り組みについて、簡単にご説明します。

2005年に育児介護休業法の改正があり、当社では、そのころから法令を上回る制度設計に取り組んでいます。2006年には会社独自の休暇制度、たとえば、ファミリーサポート休暇や特別傷病休暇の介護等への転用を可能にするなど、独自の取り組みも進めてきました。また、短時間勤務や時差勤務についても、育児と介護で足並みをそろえて整備を進めてきました。

「丸紅のワーク・ライフ・バランス」を定義

会社にとってワーク・ライフ・バランスに関する大きな転換点は、2010年でした。当社では2006年以降、ワーク・ライフ・バランスという言葉を使って推進してきました。しかし、社員の中でも、人によってワーク・ライフ・バランスの捉え方がまちまちであり、会社として改めてベクトルを合わせることが必要だと感じていました。そこで、改めて、「丸紅のワーク・ライフ・バランス」を定義し、“社員一人ひとりの「会社への貢献」の極大化”を推進目的として掲げました。中長期的な社員一人ひとりの「会社への貢献」の総和ができるだけ大きくなることをめざし、これからご紹介する介護の支援施策に関しても、この推進目的を基本理念として、制度設計や施策の運用をしています。

なお、丸紅では、ワーク・ライフ・バランスを、介護を含む「ライフイベントサポートプログラム」と、メリハリある働き方を推進する「メリハリワーク推進プログラム」の2つに分けて推進しています。

介護支援施策拡充のきっかけ

では、介護支援に関する取り組みについてご紹介します。

介護支援施策については昨年一部の拡充を図り、9月にニュースリリースしました。そこに至る経緯とともに、具体的な取り組みについてお話します。

介護支援施策の拡充に至る大きなきっかけは2つありました。ひとつは、介護予備軍増加の兆しを人事部が肌で感じたことです。具体的には、キャリアプラン申告書に設けている、会社が配慮すべきことや知っておくべきこと、たとえば健康ですとか、家族、その他個人の事情について記入する欄に、親の介護の問題や、老いてきた親が心配だとか、老齢の親がひとり暮らしをしているとか、将来の介護に対する不安を記載する社員が増えていることを感じていました。

2つ目として、介護に対する不安から、海外の人事異動に影響が出始めたという経緯もあります。介護を抱える世代は海外で主管者クラスを担って欲しい世代でもあり、まさに社員の介護の問題は経営にも直結するインパクトのある課題といえます。

介護予備軍の増加が明らかに

介護施策拡充のもうひとつのきっかけは、介護ニーズ調査です。先ほどご紹介のありました東京大学の研究会を通じて、2011年度に実施したものです。40代、50代の社員約2,000人にアンケートを配布し、4割弱から回答を得ました。結果は、人事部として肌で感じていた介護予備軍増加のきざしを数字で証明するものでした。

まず、現在介護中の社員は11%となり、内訳は男女ほぼ半々でした。年代別に見ると、40代は4%でしたが、50代になると一気に18%まで跳ね上がりました。さらに、介護中の社員のうち77%が、自分が主たる介護者であると回答しています。

また、今後5年以内に介護をする可能性については、「かなり可能性が高い」と「少しある」を合わせると、84%に達しました。これはわれわれにとって衝撃的なデータでした。さらに衝撃的だったのは、そのうち96%が将来の介護に不安を感じていると回答したことでした。また、情報が足りないことにより、漠然とした不安を持っていることが浮かび上がってきました。

2つの大きなハードルが

図表1 2012年度介護支援施策拡充のポイント

図表1:クリックで拡大表示

図表1 拡大表示

この介護ニーズ調査の結果を受けて、具体的に何をするか検討を始めました。しかし、そこには2つの大きなハードルがあると感じました(図表1)。1つは、先ほどからご指摘のあることで、育児に比べて介護はいろいろなパターンがあり、人事部として、自分たちの手でできることは限界があるのではないかと感じたことです。

2つ目は、介護保険や介護サービスの仕組みが非常に複雑でわかりにくいことです。情報を持っているかどうかが仕事と介護の両立体制整備の鍵を握るにもかかわらず、これだけ複雑では、社員が個別に情報収集しようにも、なかなか大変だな、と思いました。

情報提供と支援体制強化を

こうしたなか、会社として何ができるか検討を重ねました。出した結論は「情報提供」と「個別相談・支援体制の強化」です。

社員自身が将来の介護に備える支援をし、いざ介護に直面する前に両立のイメージを持てるようにすること、そして、実際に介護に直面したときや、介護の状況が変化したときにスムーズに両立体制がつくれるようにサポートすることが、会社ができる支援だと考えました。このための「情報提供」と「個別相談・支援体制の強化」を2本柱とし、いろいろな施策を考えていきました。

フェーズに合わせた制度の活用を

図表2 介護支援施策一覧

図表2:クリックで拡大表示

図表2 拡大表示

図表2は、当社の介護に関する施策の一覧です。昨年の施策拡充の際は制度面の改定はまったくしていません。ただ、介護のフェーズに合わせてどの制度が使えるのか、制度の利用についての解説をこの一覧表に加えることにしました。たとえば、当社の場合、介護休暇は要介護状態でなくても、介護準備段階から使える運用としていることを明記したり、介護休業に関しても、自分自身の手で介護するための期間ではなく、仕事と介護の両立体制を確立するための準備期間であることを明示するなど工夫をこらしました。

継続的にセミナーを開催

次に、情報提供の取り組みをご紹介します。情報提供の柱のひとつは、昨年度作成した介護支援ハンドブックです。会社の制度、仕組みはもちろんですが、複雑でわかりにくい介護保険の仕組みや認定の流れ、デイサービスなどの在宅サービスや介護施設など介護サービスの概要を紹介しています。さらに、介護期間は平均4、5年にわたること、お金はどのくらいかかるのかなど、介護の一般的な情報も盛り込んでいます。

情報提供の2つ目の柱は、2010年度から継続的に実施している介護セミナーです。東京本社で年2回、大阪支社で年1回、合計9回実施し、延べ600人弱が聴講しました。非常に人気の高いセミナーです。過去のテーマでは、介護保険の上手な使い方や介護施設の選び方などを取り上げました。今年度以降もテーマを変えながらセミナーを継続していきたいと思っています。たとえば、遠距離介護に関しても非常に関心が高いので、今年は取り上げてみたいと思います。

遠距離介護や見守りサービスの対応も

次に、個別相談と支援体制強化についてご説明します。ひとつは、NPO法人「海を越えるケアの手」との法人契約があります。このNPOは、介護支援全般に詳しいことに加えて、名前からもわかるとおり、遠距離介護支援を得意としています。

当社では、海外駐在と介護の問題が喫緊の課題でしたので、2010年に海外駐在員向けに契約をしました。そして昨年には、利用対象を全社員まで拡大しました。これにより、社員は介護の相談をいつでも無料で受けることができます。こうした相談のほかにも、離れて暮らす親を見守り、介護のケアプラン作成・実行などの個別支援を入会金なしで受けることができるようになりました。

個別相談会の開催も

加えて、介護個別相談会も始めました。会社の会議室に先ほどのNPOより専門家をお招きして、1時間ほど、社員が個別にじっくりと相談できる機会で、家族の同伴も可能としています。これも東京本社、大阪支社で定期的に開催し、今後も実施する予定です。そのほか、セコム株式会社と法人契約し、オンライン・セキュリティシステムで親を見守る「高齢者見守りサービス」も利用できるようにしています。

会社で介護の話ができる風土づくりを

介護支援施策拡充の機会を捉え、例年実施している介護セミナーとは別に、昨年は労使共催で介護講演会を開催しました。先ほど、佐藤先生より40歳のときの情報提供というお話がありましたが、特にそのぐらいの働き盛りの社員は、なかなか介護に目が向かないのが実情です。こうしたこともあり、あえてサブタイトルに、「親が65歳を過ぎたら」とつけました。狙いは的中し、介護講演会の聴講者は40代社員がボリュームゾーンとなりました。20代から50代の社員約160人が参加し、あらゆる年代の社員が介護に関する理解を深め、人ごとではないと理解してくれたようです。

そのほか、広報活動として、広報部とタイアップして、グループ広報誌、これには、紙媒体とウェブ媒体があるのですが、こちらでワーク・ライフ・バランスや仕事と介護の両立について特集したり、動画で紹介するなどの情報発信もしています。

このように、いろいろな機会を捉え、介護について情報発信を続けることが重要だと思っています。介護は決して特別ではないという雰囲気をつくり、会社で介護の話ができる風土づくりにつながればという思いで、今後も情報発信を続けていきます。