事例報告2
ハラスメントのない職場を目指して―労使の取り組み―:
第60回労働政策フォーラム

職場のいじめ・嫌がらせ、パワハラ
—今、労使に何ができるのか—
(2012年5月31日)

白石 裕治

白石 裕治 全タイヨー労働組合中央執行委員長 

当社は鹿児島、宮崎を中心に92店舗を展開している生鮮食料品を中心としたスーパーマーケットです。従業員数は約8,600人で、そのうち正社員は約1,400人、フルタイム非正規が約400人、パートタイマーが約4,400人、アルバイトが2,400人です。職業柄女性の比率は約7割となっています。組合員の範囲は、正社員、非正規フルタイム、パートタイマーで、約1,700人が加入しています。上部団体はUIゼンセン同盟です。

さて、パワーハラスメントが発生する背景、原因要因として、近年、「パワハラ」という言葉が世間で認知され、一人歩きするようになったことがあると考えています。それ以外では、これまでの右肩上がりの経済から、縮小経済へと向かう中、生産性向上のために人員削減が行われたこともあげられます。以前は指導する側もされる側も温かみをもって信頼関係を築くことができました。しかし、現在は仕事に追われるなか、従業員同士がコミュニケーションをとる余裕もなくなっています。加えて、若手従業員の価値観が変化し、世代間のギャップが大きくなったように感じています。

職場での啓発活動を重視

ハラスメント対策ですが、当組合では相談による個別の事案解決よりも、職場全体に対する啓蒙活動を重視しております。そこで各店舗の食堂に「STOP パワハラ」と記載したポスターを掲示しました。

会社側からも、「ハラスメント対策は労使共同で取り組まなければならない優先課題である」との理解を得ています。会社にとっても、パワハラの発生は、職場の生産性低下や被害者のメンタルヘルス不調を引き起こすといった様々なリスクがあり、生き残っていくためには取り組むべき最重要課題だと位置付けています。

2007年には社長が「タイヨーグッドカンパニー(よか企業)宣言」として、「タイヨーはすべての従業員が自信と誇りを持って働く企業であり続けます」との見解を打ち出しました。このトップダウンの具現化こそハラスメント対策の基本だと考えています。

アンケートで実態を把握

パワハラの実態を把握するため、会社側と組合側が協議した結果、まず従業員アンケートを行うことになりました。当初は会社が行う予定でしたが、組合からアプローチしたほうが実態をつかみやすいのではないかということになり、私たちが実施することに決まりました。

図表は、従業員に配布したアンケート用紙です。設問内容は、UIゼンセン同盟が作った資料をもとに作成しました。調査対象は管理職を除く正社員、非正規フルタイム、パートさん、アルバイトさんです。約6,300枚配布し、約4,000枚回収しました。回答者の中には、「自由記述欄に書ききれないから」と手紙に書いた者もいます。この件から、私たちの取り組みに対する従業員の期待をひしひしと感じました。

図表 従業員アンケート

※図表をクリックすると拡大表示します。(拡大しない場合はもう一度クリックしてください。)

図表 従業員アンケート

アンケート調査の結果は、分析した上で、労働組合の支部長会議の場で公表し、支部長から各支部にフィードバックしてもらいました。自由記述欄へ回答する者が多い店舗には組合役員が直接出向き、事実関係を調査しました。ケースによっては、従業員に「ハラスメントは許さない」という訓示をしたり、店舗の担当者に改善要求をしたこともあります。

労使協議会の場では、会社側にも調査結果を示し、対応を協議しました。組合員の一部から、本部の営業担当の社員が店舗巡回時に挨拶しない、また、こちら側から挨拶しても無視されるといった報告があったことから、調査結果に基づいたパワハラの勉強会を労使共同で開催しました。また、人事部長と私が、各商品部の課長を個別に呼び出し、問題について説明し、その後、各部門でどのように改善するかを協議させています。

まずは仲間同士のコミュニケーションを

組合では、UIゼンセン同盟傘下の友好労組「ヨークベニマル労働組合」の活動を参考に会社側と共同で「フレンドリーサービス」というあいさつ運動にも取り組んでいます。これは「恥ずかしがらない、嫌がらない、やってみる」の3つを合い言葉に各従業員が開店前の時間を利用して、「○○さん、おはようございます。今日も1日お願いします」と挨拶しながら、店内で従業員同士が握手をするものです。その後、手鏡をもって、身だしなみのチェックを行うほか、店内用語の唱和も行っています。

私どもでは、従業員の幸せを第一に考えており、そのために、きちんと挨拶し、コミュニケーションをとることで、職場環境をよくすることを重視しています。働く仲間が幸せを感じることができなければ、お客さまに対して心からの笑顔を見せることもできません。ですから、「まずは仲間同士でコミュニケーションをとりましょう」というスタンスでやっています。

月に一度開催する支部長会議の場を利用して、年数回パワハラの勉強会を開催しています。勉強会では市販の啓発用DVDやUIゼンセン同盟が作成しているハラスメント対策のハンドブックを活用しています。さらにコミュニケーションの活性化を目的に約60分から90分のグループディスカッションも取り入れています。

また、会社側にお願いして、主任会議の中で時間をもらい、私が、実際に相談のあった事案を報告した上で、職場内におけるハラスメントの状況や同僚とのコミュニケーションの取り方について啓発しています。

労使共同の相談窓口も設置

ハラスメント対策の一環として、労使共同で、総合的な相談窓口「タイヨーホットライン」と「全タイヨー労働組合ハートフルネット」を設立しました。ホットライン、ハートフルネットの電話番号は、労使で発行したポスターやアルバイトを含む全従業員に配布しているコンプライアンスカードに掲載しています。

ハラスメントによるメンタルヘルスの不調を防止するため、外部の産業メンタルヘルスサポート機関「メルス」と契約しています。メルスは病院と提携しており、従業員は、メンタルヘルスはもちろん、ハラスメントに関する外部相談窓口を利用できるようになっています。ハラスメントに関する相談について、相談者本人の承諾が得られるものは、メルスと情報を共有し、対策を検討することもあります。また、ケースによっては、相談者と人事課長が一緒になって、メルスと相談を受けることもあります。相談窓口の電話番号は、「メルスカード」という名刺大のカードに掲載し、全従業員に携帯させています。

職場では年に一回、職業性ストレス調査を行い、従業員ごとの結果と部門ごとの結果をそれぞれ集計しています。部門毎の集計については、各課の課長が対策を行う際の参考としています。

今後の取り組みにおける課題についてご説明します。当社は、土地柄、体育会系の風土があり、これをすぐに変えることは難しいですが、地道に取り組んでいくしかないと考えています。

従業員から持ち上がった事案がハラスメントと判断した場合は、行為者が管理者の場合は、就業規則に基づく措置をとるのはもちろん、管理職にまた復帰してもらうために、6カ月間マネジメント業務に関する様々な項目を勉強させるプログラムを作成しています。

正規・非正規間のハラスメントにも対応

メンタルヘルス対策の一環で、上司と部下の面談の機会を設けたところ、非常に有効だったことから、ハラスメント対策にも利用することにしました。

最近では、管理職から従業員へのハラスメントよりも、正社員からパートさん、あるいは、キャリアの長いパートさんから新人のパートさんへのハラスメントが増加しています。労使とも問題が潜在化することを懸念しており、早期発見に努めているところです。

従業員から労働組合へ寄せられる相談内容もハラスメントに関するものが増えていますが、その要因のひとつはコミュニケーション不足だと考えています。現在、現場の状況を把握するため、労使共同で店舗を巡回し、従業員の生の声を聞いています。食堂にパートさんやアルバイトさんに集まってもらい、対話集会を開催しています。店長に対する苦情などを労使共同で聴取することで、従業員との信頼関係構築をめざしています。

コミュニケーションを第一に考えた場合、昨今、思いやりや感謝の気持ちが大事ではないかと労使で考えたことから、「ありがとうキャンペーン」にも取り組んでいます。これは「ありがとう」の言葉を声に出すことで、コミュニケーションを改善し、働きやすい職場を作ることがねらいです。組合では啓発用ポスターを作成し、店内に掲示しています。

働きやすい職場は、雰囲気がよく、従業員がお互いに協力しあう体制ができています。職場全体をすぐに変えることは難しいかもしれませんが、個々の職場や店舗であればすぐにでも改善できると思っています。まずは、従業員一人ひとりが動きだしてみる必要があるのではないでしょうか。

最後になりましたが、パワハラとコミュニケーションは切っても切れない関係にあると思っています。雇う側、雇われる側の関係ではなく、お互いが手伝ってもらっている、助けてもらっている感覚を養っていくことが必要だと思います。

挨拶も同様で、人間関係においては、役職関係なく、人と接することだと考えています。部長だから、店長だからということではなく、一人ひとりの人間として尊重することが大切です。「ありがとう」と声をかけることは美しい花の種をまくようなものです。口にすればするほど、自分が幸せになり、周囲も明るくなっていきます。ありがとうの言葉を習慣にできたら最高だと思っています。