<ワーク・ライフ・バランス>報告2
中小・中堅企業のワーク・ライフ・バランス―その現状と課題:
第55回労働政策フォーラム
非正規雇用とワーク・ライフ・バランスのこれから
—JILPT平成22年度調査研究成果報告会—
(2011年10月3日、4日)

中村良二(主任研究員)/2011/10/3,4労働政策フォーラム

中村良二 就業環境・ワークライフバランス部門主任研究員 配付資料(PDF:362KB)

ただいま池田から、実際に働いている女性の側から、どうやって継続就業していくのかについての問題を報告しました。私は逆に企業の側から、ではワーク・ライフ・バランスを進めるときに、現状がどうなっていて、どういうところに問題点がありそうなのか、お話をさせていただきたいと思います。

今の雇用管理施策を探る

近年、企業は非常に厳しい状況に置かれ、とりわけ中小企業の置かれている現状は、どう考えても厳しいとしか言いようのない状況かと思います。そうしますと、そのなかで徹底した効率化を図っていかねばならないとともに、政府が推進しているということだけではなく、ワーク・ライフ・バランスを進めていかなくてはいけない。その対応を同時に進めていかなければならないのが、今の企業の現状かと思います。

では、中小企業が今どうなっているのかを考えたときに、全国規模で今の雇用管理施策は大体こうなっているといった現状を示す調査結果があれば、まずそれを勉強して、その次にわれわれが調査をする際のポイントがどこで、何をもう少し深掘りをしていくのがいいかといった見通しができるのですが、そういった調査はほとんどありませんでした。そういう意味では、全国の中小企業を対象にしたアンケート調査では、かなり数少ない調査結果の1つになると思います。今日の報告は非常に大まかな内容になっていますが、そういう意味で探索的な研究の一部と考えていただきたいと思います。

中小企業白書2006年版の検証も

もう1つ、中小企業に注目したのは、『中小企業白書2006年版』で中小企業のワーク・ライフ・バランスに関して、非常に特徴的というか大胆な発言がありました。「中小企業では制度はないけれど、『柔軟に対応』しているから、仕事と育児との両立に適している」といった話がかなりはっきりと書かれています。それが本当なのかも確かめなくてはいけないといった意識もあり、今回の調査を企画しています。調査方法は、従業員10~1,000人未満の企業1万社を対象に調査票を送付しました。回収率2割強で、回答企業のなかで従業員調査にも協力して下さった企業に、従業員調査を実施しました。こちらは、総配布数が1,321で有効回収数は546でした。

小規模企業ほど制度未整備

調査の主たる事実発見については、より小規模企業でどういう状況なのかを探るために、まずは規模別集計ですべての結果を検討してみました。すると、おおよそ全般的にいえそうなことは、企業規模がより小規模になるほど基本的な人事の仕組み、あるいは両立支援の仕組みは制度としてはやはり整っていない。そして、そういったなかでワーク・ライフ・バランスを支援するための仕組み、それにどういった姿勢で取り組んでいるのかもみると、それも希薄であるという、ある程度予想できた結果ではありますが、そういう事実がはっきりしてきました。

メリットは「働く上での安心感」

そして今回、企業調査と事業従業員調査を実施したわけです。それぞれに「ワーク・ライフ・バランスの施策にはどういうメリット、あるいは効果があるとお考えですか」と質問した結果、労使が唯一、「働く上での安心感」の点で一致しました。後で改めてデータを紹介しますが、ワーク・ライフ・バランス関連の取り組みを行う1つの期待として、会社側は従業員に安心して働いてもらうためだと思っていますし、働いている側も、こういった施策があることで、日常働くうえでの安心感があると回答しています。当たり前の話ではありますが、企業は安心感を得るために行くところではありませんので、「それが何だ?」と問われればそれまでですが、とはいえ、やはりこうした安心感を持って働けることも日常の業務を遂行していくうえで重要ではないか、と私自身は考えています。

未就学児を持つ女性正社員がカギ

そして、全体的にかなり多くの中小企業がワーク・ライフ・バランス施策に対して積極的ではないという結果があります。そのなかで、少数派の取り組みに積極的になっている企業とはどういったところなのかを調べてみました。結果、「こういう企業だから積極的だ」といったキーになるものは、あまり明確には出てきませんでしたが、そのなかで1つ、これは共通するのかなというのが、その企業に未就学児を持つ女性正社員がいるか否かでした。要は、いる場合に企業がワーク・ライフ・バランス施策に対して積極的になっている傾向がどうもありそうだ、というところはみえてきました。

整備状況は規模間で大きな差異

では、大まかな企業規模間の差異を念頭に置きながら、得られた結果の幾つかをご報告したいと思います。まずは、ワーク・ライフ・バランス施策について、どういった仕組みがどの程度、少なくとも現状で備えられているのかを考えるために、関連諸制度の整備状況を尋ねました(図1)。はっきりしているのは、緑の30人未満の一番小さな規模の企業で、どの施策も一番整備率が低い。四角で囲まれた数値が全体の結果で、緑が小規模企業比率、そして、比較対象の意味も込めて500人以上の数字も示してみました。規模間の差異が大きいことが、制度の整備状況からもみえてきます。

図1 企業側から見た現状
両立支援制度の整備状況;規模間の差異が大きい

図1 企業側から見た現状/

3/4がWLBに消極的

図2 WLB 施策への積極性
約3/4 は「消極的」と自己評価

図2 WLB 施策への積極性 約3/4 は「消極的」と自己評価/

図2は、ワーク・ライフ・バランス施策に対する積極性について、企業側に4段階で聞いたものです。これを尋ねるのは、この施策をどういうふうに認識しているのかと、例えば、他の制度の整備状況、実際に行っている人事管理の仕組みがどう関係してくるのかの1つの軸になる質問になるからです。 「積極的」との回答は約2割で、全体の約4分の3が「消極的」と自己評価しているのが全体の結果です。そして、「積極的」と答える比率は、規模が小さくなるほどやはり少ない。30人未満の84.5%は「うちは消極的だ」と答えているわけです。

全体からすれば2割程の「積極的」な企業だと回答している企業に対して、「では、どういう取り組みの効果を期待していらっしゃいますか」と続けて質問した結果が図3です。すると、「女性社員の定着率を高める」あるいは「社員が働くうえでの安心感を高める」、そして、「女性社員のモティベーションを高める」などが非常に高い数値(「そういう効果があった」と「ある程度あった」の合計)になっています。加えて、「出産前後の女性社員の退職が減る、なくなる」「育児期の女子社員の退職が減る、なくなる」も割と高い数値になっています。ただし、これは、あくまで全体の2割ぐらいの少数派の意見です。

図3 『積極的』企業が期待するWLB施策取り組みの効果
 「安心感」、「定着率」、「モティベーション」

図3 『積極的』企業が期待するWLB施策取り組みの効果 「安心感」、「定着率」、「モティベーション」/

子育て期の社員の不在が

反対に全体の約4分の3を占める「うちは消極的だ」と答えた企業に対し、「積極的に取り組まないのは、どういう理由からですか」と尋ねた結果が図4です。

図4 『消極的』企業がWLB 施策に取り組まない理由
「法律の範囲内以上は困難」、「子育て期社員なし」

図4 『消極的』企業がWLB 施策に取り組まない理由 「法律の範囲内以上は困難」、「子育て期社員なし」/

図1と同じように四角で囲った数値が全体の合計の数字、単純集計の数字です。それを色分けして、規模別に示していますが、もっとも高い答えは、「いや、法律の範囲内でやっているから、もうそれ以上は無理だよ。だから、うちは消極的といっている」というものでした。続いて、「人手が不足して手が回らない」との回答が高かったのですが、もう1つ注目したのは、「子育て期の社員がいない」が26%で3番目に多かったことです。「法律の範囲内で制度を設けているから」との回答の傾向は、どちらかというと大規模企業で回答率が高く、規模が小さくなるほど回答率が低くなるパターンです。しかし、「子育て期の社員がいない」に関しては、より小規模企業の方が回答率が高くなっていました。つまり、より小規模企業で制度が進まない原因の1つとして、子育て期の社員がいないことがわずかながらみえてきます。

なお、両立支援の定着や利用率増加への取り組みについても、いろいろ選択肢を設けて聞いてみましたが、多数回答になった項目はなく、「特にそういうのは何もしていない」が全体の半数を占めました。

約8割が「働いて安心感がある」

もう1つ、仕事と育児の両立を詳しく見る前に、全体の結果としてご覧いただきたいのが図5の従業員調査の従業員からみた両立支援策に関する質問です。これをみると、「育児休業制度などの仕事と育児の両立支援制度が整備されていると、働いていて安心感がある」が「とてもそう思う」「ややそう思う」を合わせて78.8%と、全体として一番大きい。そして、「職場で誰かが育児休業を取ると、それをきっかけに、仕事や職務の見直しにつながる」が2番目でした。やっぱり、こういう仕組みがあるから、何かがあったときにこの会社は応援してくれると思って安心感を持って働ける。それは非常にいいことだと思います。

図5 従業員からみた両立支援策
「安心感」、「仕事の見直しにつながる」、でも「大変」。
「融通が効く」のは女性?

図5 従業員からみた両立支援策  「安心感」、「仕事の見直しにつながる」、でも「大変」。「融通が効く」のは女性?/

それから、自分ではなく、その職場で誰かが育児休業を取ることは、端的に人員が減るので、その抜けた人が担当していた職務をどう他の人たちで分担・カバーするのかを考えなくてはなりません。すると、当然のことながら、自分の仕事をやりながら、その抜けた方の担当していた職務を皆でどう補い合うのかが非常に大事になります。それは、もうやらざるを得ないこと、そういうことを強くではないけれど、思っているという結果でした。もう1つ、過半数に達した項目としては、「職場で誰かが育児休業を取ると、他の人の仕事の分担が増えるので大変だ」がありました。これについては、安心感を持って働けるのはいい。そして、そうなったときには分担を考えて、いろいろもう1度見直さなくてはいけない。でも、やはりそれは一面では非常に大変だという、ある意味正直な回答が出ていると思います。全体としては、「職場の融通がききやすいので、子育てしやすい」との回答は、それほど高くありませんが、 これを男女別にみると、女性の方が男性より高い比率になっていました。以上が、大まかな全体の特徴的なデータです。

育休前に相当数が退職

次に、育児との両立で気になった点をデータとして抜き出してきました。育児休業に関して育児休業取得率を考えるのは非常に大事なことですが、実はその前に結婚や出産で相当の年齢層の女性が退職されていた場合は、その方々の人数は育児休業率に関わってきません。そこで、そうした方々がどれぐらいいるのかを調べてみた結果です(図6)。全体でみると、出産者を1としたときに、結婚退職、妊娠・出産退職が、それぞれその4割、2割ぐらいいる結果になっています。特に30人未満のデータをみると、出産者を1にしたときに結婚退職者も1です。これは、小規模企業では、同じ数だけ結婚を機に辞めていることを意味します。育児休業取得率には関わってこない方々が、実はかなりいたという結果が1つ出てきたわけです。

図6 「育児休業」取得率と結婚、出産退職者の比率
(出産者数を1とした時の比率。カッコ内は、出産者数)

図6 「育児休業」取得率と結婚、出産退職者の比率 (出産者数を1とした時の比率。カッコ内は、出産者数)/

規定がある方が取得につながる

そういった前提があるにしても、いま育休取得率は大体どの程度なのかを計算しましたところ、全体では約8割ですが、企業規模別にみると一番小さい30人未満規模で5割を超える程度で、規模によってかなり違うことがわかります(図7)。

図7 育児休業取得率
(出産時に在籍の女性正社員がどれくらい休業を取ったのか)
→育児休業規定 「あり」のほうが、取得促進につながる。

図7 育児休業取得率(出産時に在籍の女性正社員がどれくらい休業を取ったのか)→育児休業規定 「あり」のほうが、取得促進につながる。/

さらに、それぞれの規模で、育児休業規定の有無でわけたのが、水色と黄色の棒グラフです。すると、全体としてはとても低い数値になっている小規模企業も、育児休業規定がある場合には、他の大きな規模と遜色ない取得率になっていました。小規模企業の場合でも、育児休業規定があるほうが育児休業の取得につながる可能性があるといえると思います。

運用でカバーする企業は少ない

それから冒頭、お話しました『中小企業白書2006年版』に「中小企業は、制度はないけれど運用でカバーしているのでうまくいっている。小規模企業は育児との両立に適している」と書かれてあった点について、実際問題、制度はないが運用で何とかしているという比率がどれぐらいなのかを幾つかの項目で調べてみました。

制度はないが運用でやっているとの回答は、図8の斜線部分になります。当初、この「運用あり」の部分が非常に大きくて、制度「あり」「なし」の部分が非常に少ないとのイメージを頭に浮かべておりました。しかし、「いや、そうではないんだ」となったのが一連の結果で、これがその代表です。ただ、どちらかといえばやはり少数派といえると思いますし、未就学児がいるより小さい規模の企業で、何とかしなくてはいけないとなって運用が出てくることは図8からもご覧いただけると思います。

図8 「運用でカバー」する企業の比率
(短時間勤務制度の場合)

図8 「運用でカバー」する企業の比率(短時間勤務制度の場合)/

基本的経営戦略での取り組みも弱い

全体としてはそれほど多くないと考えられる「運用企業」の特徴点をみたのが図9です。コンプライアンスの強化とか均等・均衡処遇といった、基本的な課題で制度がある企業、ない企業、運用で何とかやっている企業、それぞれの比率がどうなのかを調べました。これで「運用あり」をみると、確かに「制度なし」より比率は高いですが、「制度あり」と比較すると、おしなべて回答率が低い。つまり、基本的な経営戦略を運用でカバーしている企業が非常に前向きかといえば、決してそうはいえないのではないか、という傾向がみえてきました。

図9 「運用」企業の状況 
「コンプライアンスの強化」など、基本的な経営戦略でも取り組みが弱い。
(「積極的に取り組んでいる」という回答比率)

図9 「運用」企業の状況 「コンプライアンスの強化」など、基本的な経営戦略でも取り組みが弱い。
(「積極的に取り組んでいる」という回答比率)/

さらに、従業員側からはどのようにみえているのかについても確認しておきます(図10)。企業調査と少し傾向が違う部分もありますが、やはり制度がある企業に比べて、運用でカバーしている企業に勤める従業員の満足度は、相対的に低くなっていて、さほど高くはありません。企業調査同様、運用でやっているからといって、満足度が高いとはいえないだろうというデータが出ました。

図10 従業員から見た「WLB の満足度」
(短時間勤務制度の有無別);「運用」企業はそう高くはない

図10 従業員から見た「WLB の満足度」(短時間勤務制度の有無別);「運用」企業はそう高くはない/

育休積極企業は介護にも目配り

仕事と介護の両立についても、少しお話します。これも基本的には非常に探索的で、とにかく状況がわからないところで大まかにどうなっているのかを調べた結果ですので、概略としてざっと聞いていただければと思います。

まずは、介護休業の仕組みを有する企業がどれぐらいあるのかです(図11)。全体でみると6割弱です。そして、企業規模が小さいほど整備率は低い傾向があり、この辺は育児関連の制度と似ています。そのうえで、より小規模企業でも育休制度を持っている積極的企業は、実は介護にも目配りをしている傾向がでています。整備率が全体で低いなかにあって、育児休業に目配りしている企業は介護休業も考えているところが結構多いというデータです。

図11 介護休業制度の整備率
小規模で低いが、WLB に積極的企業(育休整備済み)は、介護にも目配りしている。

図11 介護休業制度の整備率
小規模で低いが、WLB に積極的企業(育休整備済み)は、介護にも目配りしている。/

介護休業制度の整備率に関しては、従業員の平均年齢が高いほど仕組みが備わっていなかったことも特徴の1つです。具体的には、平均年齢が50歳以上では、男女ともに整備率が低くなります。さらにもう1つ、企業規模別の正社員の平均年齢をみると、企業規模が小さくなるほど正社員の従業員平均年齢が高くなる傾向にあります。ダイレクトにこの2つのデータが繋がる話ではありませんが、2つのデータを重ね合わせると、より平均年齢が高いということは、介護をより近い未来に考えなくてはいけないといった企業は、どちらかと言えば、より小規模企業に多いのではないかということが予想されるデータです。

介護休業取得は極めて稀

そして、介護休業の取得率です。いま現在の取得率を計算したところ、0.04%と極めて稀で、公表されているマクロ統計の傾向と同じでした。そこで実際問題として、家族に介護が必要になった場合にどうするのかを尋ねた結果が図12です。ここでみていただきたいのは、仮に家族に介護が必要になったとしても、仕事を辞めるのは容易ではないので、男性の大多数、約3分の2が「今のまま、働き続ける」と答えています。一方、女性は、「仕事を続ける」回答は半数にも届いておらず、「両立しやすい仕事に変える」あるいは「仕事をやめて介護に専念する」との回答が、それぞれ2割、1割弱ありました。これは、女性に介護の比重がかかったり、仕事をしながら介護をするためのいろいろな変化が女性に中心的にあらわれてくることが予想されるデータでした。

図12 介護となった時の就業継続
女性は、「仕事を変える」、「介護に専念」も選択肢に。

図12 介護となった時の就業継続 女性は、「仕事を変える」、「介護に専念」も選択肢に。/

運用は「必要に迫られて」

最後に、簡単なまとめをします。育児との両立では、やはりより小規模企業で結婚や妊娠に伴う退職が非常に多かったというデータをみてきました。育児休業などの制度化が、そういった理由での退職を少なくすることに結びつく可能性があるのではないかと思っています。

『中小企業白書』の「より小規模企業では、制度はないけれど運用でうまくいっている」ことに関しては、少なくともそこまでいいきれるようなデータはなかったし、どちらかといえば事実に反することだと思います。それは、「運用」しているのが少数派で、どちらかといえば必要に迫られて行っていることであり、非常にうまくいっていることとは違うということです。

それから、コンプライアンスなどの基本的な企業経営の戦略面でも、うまくいっているというよりは、やや取り組みが弱い傾向がみえます。そして、そうした企業に勤める従業員側からも、結局、「制度がある」企業の方が満足度が高いという結果が出ました。

介護との両立に関しては、今回は非常に概括的なデータではあるけれど、現時点でよりリスクの高い中小企業、従業員の平均年齢が高い小規模企業で、特に制度整備が遅れているというところは今後の非常に大きな課題の1つになるだろうと考えています。

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