<非正規雇用>報告2 契約社員の人事管理と業実態:
第55回労働政策フォーラム

非正規雇用とワーク・ライフ・バランスのこれから
—JILPT平成22年度調査研究成果報告会—
(2011年10月3日、4日)

高橋康二(研究員)/2011/10/3,4労働政策フォーラム

高橋康二 就業環境・ワークライフバランス部門研究員 配付資料(PDF:505KB)

労働政策研究・研修機構の研究員の高橋と申します。よろしくお願いいたします。

今日は「契約社員の人事管理と就業実態」というタイトルでご報告させていただきます。具体的には今年の3月に公表いたしました「労働政策研究報告書」の130号「契約社員の人事管理と就業実態に関する研究の内容についてお話しいたします。ですので、詳しいデータや今日お話し切れなかったところなどにつきましては、ホームページからダウンロードできるようになっておりますので、そちらをご参照ください。

まず報告の内容ですが、初めにこの研究の目的、調査概要などをご説明します。そして、2番目にここで言う契約社員の方々が他の雇用形態、就業形態の方と比べて、つまり正社員ですとか、パートタイマー、派遣社員といった方々と比べて、働き方の面でどういう特徴を持っているのかを確認いたします。

そして3番目に契約社員の不安、不満の解消という話をいたします。2番目の点で具体的に契約社員の方々が3つの不安や不満を抱えておられる場合が多いというお話が出てきます。ですのでそれらの不安や不満を解消するために必要だと思われる施策を幾つか取り上げまして、実際にそういう施策を導入している企業とそうでない企業とで契約社員の意識や行動に、働きぶりにどういった違いが見られるかを分析いたします。そして、不安や不満を解消させることによってこういった効果が得られるのではないかという提言をする次第です。

そして4番目に、少し趣向を変えまして、類型ごとの課題を見ていきます。2番目と3番目のところでは契約社員といったときに、ここで定義する契約社員の方々を一括りにまとめてお話しするのですが、まず事業所の側から見た活用類型があるだろうということ。そして働く側から見てもどういう職種なのかとか、あるいは年齢、若い方なのか、年配の方なのか、あるいは家族を養う責任を持っている方なのか、そうでない方なのかといったことによって幾つかの就業類型があるだろうということ。そして、それぞれ直面している課題も異なるのではないかということ。そういう観点から類型ごとの課題ということを分析したいと思います。そして最後に政策的及び若干の実践的な含意を述べたいと考えております。

初めに研究の目的です。ここで言う契約社員とは、直接雇用のフルタイム有期契約労働者から定年後再就職者を除いた者と定義いたします。そしてその人々の人事管理と就業実態について実証的に研究することです。実証的にというのはデータに基づいて研究するということです。それを通じて彼らの処遇の改善及び雇用の安定のために求められる対策について含意を得ることを目的としております。

まずここで、直接雇用のフルタイム有期の方々に注目するということですが、なぜ注目するかといいますと、この方々は非正規雇用にかかわりまして、今現在日本で成文法として存在する改正パートタイム労働法と、労働者派遣法のどちらの対象にもならない方々です。パートタイム労働法というのは、ご承知のとおり通常の労働者よりも労働時間が短い短時間労働者を対象としたものですので、ここで言うフルタイムの有期契約の人たちは対象になりません。また、ここで言う契約社員というのは直接雇用と限定していますので、間接雇用である労働者派遣法の対象にもならないというわけです。ですので、こういった方々がどういう就業実態におかれていて、どのような課題に直面しているか、それを解決するためにどのような対策を求められるかを明らかにするのが狙いです。

そしてもう1つ、定年後再就職者を除いているということですが、この辺については詳細は割愛させていただきますが、一口で申し上げますと、定年前の方と定年後の方とでは大分働き方や意識が違うということです。ですので、同じ枠組みで議論するのは少し難しいだろうということで、直接雇用のフルタイム有期契約労働者から定年後再就職者を除いた者と限定させていただいております。

そして具体的にどういう方が含まれるかということですが、例えば百貨店やスーパーマーケットなどでパートタイマーという人がいて、それとは別に例えば契約社員という人がいるような場合。あとは契約社員という名前で呼ばれていなくても、例えばメーカーなどで臨時工や期間工といった形で一定期間だけフルタイムで働いている方ですとか、さらには家庭を持った女性で、職場ではパートと呼ばれているけれども、実質的には例えば7時間半とか、7時間45分とか、実質的にフルタイムで働いているといった方も今日の研究対象に入ります。また若年のフリーターの方などで、アルバイトという形であるけれども、実質週40時間働いているとかいった方々も対象になってきます。そのような方々を念頭に置いていただければと思います。

調査概要ですが、企業ヒアリング調査、個人ヒアリング調査、事業所及び従業員に対するアンケート調査、さらには直接個人にお配りしたアンケート調査、これら4つの調査の結果を総合的にまとめた研究でございます。今日のご報告、スライドで示します図表は主としてこの赤い線が引いてあります事業所及び従業員アンケート調査の従業員票、こちら1万1,010票の回収があったのですが、こちらの従業員票をもとにしております。しかし一部個人ヒアリング調査ですとか、事業所票の結果なども参照いたしております。

まず契約社員の特徴を見ていきたいと思います。初めにいろいろな個人属性。性別、年齢、学歴、職種などを見てみますと、非常にたくさんの情報が得られるわけですが、極めて大まかなイメージをつかむために女性比率を見てみますと、契約社員の女性比率は71.0%、70%程度となっております。これに対しまして、正社員ですと30%程度、そしてパートタイマーですと9割前後、派遣社員では8割程度となっていますので、女性の割合が7割程度であり、正社員よりは高いが無期・有期パートや、派遣社員よりは低いということがわかります。大体どういう人たちなのかという大まかなイメージをつかんでいただきたいと思います。

ではなぜ現在の働き方を選んだのか。このあたりから興味深い事実がわかってくるのですが、まずグラフの上(PDF:505KB)のほう、点線で囲ってあるところをご覧ください。これはパートです。パートタイマーの方々の就業形態を選んだ理由ですが、これを見ますと、自分の都合のよい時間に働きたいから、勤務時間・日数が短いから、家事・育児・介護等の事情により正社員で働けないからといいました、どちらかというとポジティブな理由で就業形態を選択した人が多いということがわかります。これに対しまして、契約社員の場合はこの下から2番目のところですね。正規の職員、従業員として働く機会がなかったからという回答が40%を超えておりまして、トップに出てきます。ということで、若干ネガティブな理由で契約社員として働いている人が多いというのがまず第1の特徴です。そして2番目にそれに加えてしばらく働いていると正規の職員、従業員になれるからという後に触れます試行的雇用のような様相を呈した方も若干いらっしゃるということがわかります。

そして次にこれまでのキャリア(PDF:505KB)を見てみたいと思います。注目するのは、失業経験者の割合、過去に失業したことがありますかという質問と今の職場での平均勤続年数です。そうしますと、まず正社員で横に限定正社員と書いてあります。限定正社員というのは職種や勤務地に限定のある正社員の方々という意味ですが、その後に契約社員、無期パート、有期パート、派遣社員という順に並んでいますが、まず正社員とそれ以外、非正規雇用者のところで大きな断層があります。そして契約社員はこの非正規雇用者の中では最も安定したキャリアを歩んでいると言えます。しかし大局的に見ればなのですが、特に左側の失業経験者の割合を見ていただきたいのですが、正社員、限定正社員の失業経験者の水準に比べれば、契約社員以降の非正規雇用者の方々の失業経験者の水準はそれほど大きな違いではない。つまり大局的に見れば、契約社員と他の非正規雇用者とでキャリアの実態に大差はないのではないか、というのがここでの1つの解釈です。

そして次に、では実際に職場でどういう性質の業務を担っているか(PDF:505KB)といったことを見ていきますと、正社員や限定正社員の場合は管理や企画、意思決定、専門知識を要する仕事、指導的な仕事、そういったことを担当していることが多いのですが、非正規雇用者の場合は定型的な業務とか、他の従業員の補助的な業務を担当されている方が多くなっています。ですが、この赤い契約社員の線を見ていただきたいのですが、契約社員は非正規雇用者の中では最も正社員の側に、相対的にですけれども、近い業務を担当しています。パート、派遣社員の方に比べて、管理的な業務、企画的な業務、意思決定を要する業務、専門的な業務、部下など指導的な部分、いずれも高くなっています。こういった業務を担当しているということです。

そして賃金はどうか(PDF:505KB)。ちょっと似たような比較が続きますが、左側の棒グラフは所定内時給の中央値を見たものです。この種のアンケート、個人調査ですので、必ずしも正確な金額ではない可能性があります。ですので、この金額自体にはあまり気にされないでいただきたいのですが、問題となるのはその比較です。そうしますと、契約社員の賃金水準はパートタイマーよりは高いですが、派遣社員より若干低いです。ただ派遣社員の方はおそらく賞与が支給されることは少ないと思いますので、派遣社員の方と同じぐらいか、少し低いかぐらいではないかと考えられます。そして右側のほうが賃金に対する満足度なのですが、これを見ると契約社員の方が一番満足度スコアがマイナス側に大きく出ています。そして右下のほう、これは同じ仕事をしている正社員との賃金格差についてどう考えますかという質問をしているのですが、妥当だと思わないという方が契約社員において一番多くなっているということがわかります。ですので、賃金はパートより高く、派遣社員より低い。賃金に関する不満が最も強い。この部分が強調されるべきことだと思います。

そしてこれらをまとめると次のようになります(PDF:505KB)。まず、他の非正規雇用者と同程度に、これは失業経験者の割合などで見ましたが、不安定雇用の状態にあるということ。そしてパートよりは賃金が高いが、担当業務が相対的に高度であることもあってか、賃金に関する不満が最も強いということが2番目の特徴です。そして最初に見たように、正社員として働けなかったからという理由で現在の就業形態を選んでいる人が多いということから、3番目の特徴として不本意就業という問題が根底にあるのではないかとまとめることができます。

さて、これらの不安や不満を解消するために、有効な施策として考えられるものが幾つかあるわけですが、第3節ではそれらの施策を導入することが契約社員の意識や行動にどういう影響、効果を与えるかを予測する作業を行います。順番に見ていきたいと思います。

まず雇用不安に関係しますと、まず第一に契約期間(PDF:505KB)。非常に細かい契約期間よりも契約期間をもう少し長くしたほうがいいのではないかという対策が考えられるかと思います。ですので、契約期間が短い企業と長い企業とで契約社員本人の仕事に対する満足度がどう違うかを見てみますと、非常にはっきりとした相関が出ます。契約期間が長い事業所で働いている契約社員ほど満足度は高いです。またもう1つですが、契約期間と能力開発に対する積極性、本人の意識で聞いているのですが、その関係を見ますと契約期間が長い人ほど積極的に能力開発に取り組んでいるということが読み取れます。次にもう1つ雇用不安に関連しますと、次の契約が更新されるかどうかわからないという状態よりは、それがはっきりしていたほうがいいのではないのか。将来の見通しが立つのではないかということが仮説として立てられますので、契約更新の方針(PDF:505KB)がはっきりしている事業所とはっきりしていない事業所を比較しています。そしてこちら、表にありますのは、研究にお詳しい方には釈迦に説法かと存じますが、回帰分析の結果表というものでして、性別ですとか、学歴ですとか、年齢、職種、業種、企業規模といったさまざまな要因をコントロールして、コントロールしてというのは一定だと仮定してという意味ですが、コントロールした上で契約の更新方針の状態が本人の意識にどのような影響を与えているかを分析したものです。まず上のほうから読み取れるのは事業所側が更新方針を不明確にしていると雇用の安定性に対する本人の満足度が低下するということです。そして下のほう、これは同様に事業所側が更新方針を不明確にしていると、本人の離職意向が強まること、会社をやめたいと思う人が多くなるとことが読み取れます。

そして次に先ほどの賃金不満(PDF:505KB)ということに関連して、格差縮小の効果を見ていきたいと思います。まず、左側のグラフで確認したいのが、特に女性の契約社員の賃金が非常に低水準であるというところですね。一番下のところです。これは後でまた振り返りますので、見ておいていただきたいと思います。そして格差縮小の効果はどうなのかといいますと、正社員と比較した賃金が高ければ高いほど、つまり格差が小さければ小さいほど、賃金に対する満足度が高いことが上の回帰分析の結果からわかっています。そして下の回帰分析の結果は同じ仕事をしている正社員と同様に賃金格差が小さいほど能力開発について積極的になると。先ほど見ましたどの程度積極的に能力開発に取り組んでいるかという質問に対する答えですが、そういった行動面でも違いが見られるということです。

そしてこれが最後になります。同じような話が続いて恐縮です。正社員導入制度の導入(PDF:505KB)です。そもそも不本意就業であると。正社員になりたいと思っている人が多いということですので、じゃあ正社員登用制度を導入すればいいのではないかと考えられます。そこでそれを導入している企業と、導入していない企業とで契約社員の意識や行動にどのような違いがあるのか見てみますと、非常に明確でして、正社員登用制度があるほうが雇用の安定性、現在の仕事全体に対する満足度が高いということ。そしてまた正社員登用制度があると仕事意欲が高まる。具体的には会社の業績向上に貢献しようとしている人ですとか、スキルを高めたいと考えている人が多いことが明らかになっています。

ここでまとめ(PDF:505KB)ますと、まず1番目に契約期間の長期化、更新方針の明確化によって、契約社員の満足度を高めることができるということです。それに加えて能力開発意欲を高めるとともに離職意向を弱めることもできるということです。2番目に賃金格差を縮小させることによって、契約社員の満足度を高めることができるとともに能力開発意欲を高めることができるということです。そして3番目に正社員登用制度を導入することによって契約社員の満足度を高めるとともに仕事意欲を高めることもできるということがわかります。ですので、総じてこれらの施策は契約社員として働く人々にメリットをもたらすとともに、ここまでですと非常に当たり前の結論なのですが、それとともに契約社員を活用する企業の側にも能力開発意欲の向上、離職率の低下、仕事意欲の向上を通じてメリットをもたらすのではないかと考える次第です。

さて、次が類型ごとの話になってきます。初めにお話ししますのは契約社員の活用類型(PDF:505KB)についてでございます。ここでは事業所が契約社員を活用する理由や目的にしたがって、契約社員の活用の4つの類型を作成しました。具体的には専門的業務に対応するためと答えた企業は専門的活用型、正社員採用に向けた見極めをするためと答えたところは試行的雇用型、正社員をより重要な業務に特化させるためと答えたところは中間的、ないしは補助的活用型、そして労働コスト節減のためと答えたところはコスト節減型と命名しております。なお、これらは重複がありますのでご注意ください。

そして今日ここでは一番上の専門的活用型と一番下のコスト節減型(PDF:505KB)のコントラストを見てみたいと思います。まず左上にありますのがそれぞれの活用類型の事業所で働く契約社員の所定内時給の平均値です。これを見ると専門的活用型が一番高くて、コスト節減型の事業所で働く契約社員はやはり事業所の側がコスト節減を目的としていると言っているだけのことがあって、実際にも低いということがわかります。そして単に絶対水準が低いだけではなく、同じ仕事をしている正社員との賃金格差を見ましても正社員を100としたとき、専門的活用型の企業では87.8であるのに対し、コスト節減型では80.5であるというように差が大きい。そして事業所側から見た問題点を見ましても、特に定着率が悪いですとか、仕事に対する責任感や向上意欲が弱いといったところでコスト節減型の事業所のほうがやはり問題があると事業所側の方々も認識しているということです。当然のことながら、なぜそのようなことになるのか、1つにはやはり意識の問題があるだろうということで、現在の仕事全体に対する満足度を見てみますと、やはり専門的活用型の事業所で働く契約社員は満足度が高い、コスト節減型は満足度が低いという結果が得られています。ですので、事業所の側から見て専門的活用型は高賃金であるかわりに働きぶりがよい。コスト節減型は低賃金であるかわりに働きぶりに問題があるという状況であることがわかります。

そして企業の側から見た活用類型の話、もっとご興味がおありの方がいらっしゃるかもしれませんが、もう1つ今日は就業類型(PDF:505KB)の話をいたしたいと思います。契約社員といいましてもさまざまなタイプの方々がいらっしゃいます。ここでは専門職型、若年型、家計補助型、生計維持型という4種類に分けています。この4種類に分ける分け方はこちらに書いてあるとおりです。まず専門的、技術的な仕事にかかわっている人は専門職型、それ以外の人の中で34歳以下の人は若年型、それ以外の人の中で主たる生計の担い手でない方は家計補助型、主たる生計の担い手である方は生計維持型となっています。そしてこれがどこからこの類型化が出てきたかですが、実は20人の契約社員の方にインタビュー調査をいたしました。いろいろな年齢の方、男性も女性もいろいろな職種の方が混ざり合うようにして、お話を聞かせていただいたのですが、そこからこの人は専門職として働いているんだな、この人はやはりまだ若い方でこれから将来のことを考えているんだなと非常に明確な仮説が浮かんできます。それをアンケート調査の設問を使ってこのようにカテゴリー化して、その違いを見ていこうという手続を踏んだものです。

そしてまず専門職型(PDF:505KB)の特徴です。これは少し複雑な回帰式の結果を出しておりますが、ここの表から読み取れることが2つございます。一般的に契約社員は正社員と比べて賃金が低く、また現在の仕事全体に対する満足度も低いのですが、専門職の契約社員の場合は正社員との間でのその差が小さいと。専門職の方であっても正社員より賃金や満足度が低いことは確かなんですけれども、その差は比較的小さいということがわかります。ですので4つの類型の中で、非常に大ざっぱに整理をするならば、一番問題が少ない類型であるというのがこの専門職型です。

対して若年型(PDF:505KB)の人たちの特徴がはっきり出てくるのが、正社員転換希望が強いことです。正規の職員、従業員に変わりたいという希望を持っている方。また、現在の会社で正規の職員、従業員に変わりたいという希望を持っている方。どちらを見ましても4つの類型の中で若年型の契約社員が一番意識が強いという結果が出てきます。そして右側のグラフは実際に正社員登用制度や慣行がない事業所とある事業所とでそれぞれの類型の契約社員の方の雇用の安定性に対する満足度がどのぐらい違うかを見てみますと、この若年型の人たちがこの正社員登用制度の有無によって大きく満足度が違うのです。ですので、実際に正社員転換制度があることによって、満足度が大きく向上している。つまり口先だけで正社員になりたいと言っているのではないということが読み取れます。

そして3番目の類型で、家計補助型(PDF:505KB)に対して言いますと、先ほどの図表で説明省略いたしましたが、この方々の9割は女性です。その方々がどういう状況にあるかといいますと、まず賃金水準が他の3類型と比べて最も低いという特徴があります。そして同じ仕事をしている正社員との賃金格差もご本人にどのぐらい、何割ぐらいの格差がありますかと聞いたものですが、やはり一番賃金格差が大きいと答える傾向にあります。家計補助型の契約社員は賃金水準が最も低く、同じ仕事をしている正社員との賃金格差は最も大きいということで、この類型についてはやはり賃金の問題がクリアしなければならない課題なのではないかという話です。

そして最後に生計維持型(PDF:505KB)の契約社員の特徴。これがまずはっきり出ているのが左側のグラフです。アンケート調査で仕事の内容と雇用の安定、どちらがあなたにとって重要ですかと聞きますと、生計維持型の方は雇用の安定が重要だと答える人が圧倒的に多いのです。あともう1つ、あなたは会社をやめたいと思うことがどのぐらいありますかと聞くと、まったくないとか、あまりないと答える人がわずかな差ではありますが、やめたくないと思っている人が多いということです。そして、不安定な契約社員の状態でいて、雇用の安定が大事だと思っている。それなのになぜ転職しようと思わないのかというところを見ますと、これがZEさん、XAさんというヒアリング調査をした人の言葉から出てきますが、なかなか今から新しい仕事を身につけるのは難しいという深刻な状況が浮かび上がってきます。ですので、雇用の安定を切望しているが、今から正社員の仕事は難しいということで今の会社にとどまりたいと思っているという意識構造がはっきりと出てまいります。以上が分析結果です。

これらを踏まえまして、政策的及び実践的な含意ということでまとめさせていただきたいと思います。まず、少し字が多いスライドで恐縮ですが、雇用不安に対しては契約期間が長いほど、契約社員は仕事意欲が高まり、積極的に能力開発に取り組むようになるとわかりました。同じく、それと関連して、雇用契約の更新方針(PDF:505KB)を明確にしたほうがいいのではないかという仮説で分析しましたところ、やはり方針が不明確な事業所では、契約社員の不安が高まり、離職意向が強まるとわかりました。ですので、ここに小さい字で書いてあることですが、労働契約法第17条に必要以上に短い期間を定めることがないように配慮しなければいけないという規定があるのですが、その運用を確実にすること。そして一番下のところですが、いわゆる雇いどめ基準と呼ばれる2003年に出されたものですけれども、どのような形にするか別にして、やはりこれをより一層現場に根づかせることなどが、契約社員として働く人々にも企業の側にもメリットをもたらすのではないかと考えます。

そして2番目がこれはほとんどお決まりの話ですが、均衡・均等待遇(PDF:505KB)です。契約社員の賃金は正社員に比べて入職時の水準が低く、また年齢が上昇するとさらに正社員との差が大きくなることがグラフでわかりました。そして特に問題が大きい可能性があるのは、女性もしくは家計補助型の契約社員の賃金です。これも確認したかと思います。ところで、同じ仕事をしている正社員との賃金格差が小さいほど契約社員の満足度は高まりますし、またそれだけでなく、本人みずから積極的に能力開発に取り組むようになるという、企業にとってのメリットもあるということで、改正パート労働法で均衡・均等待遇の原則が通常の労働者よりも労働時間が短い労働者に対して定められている、適用されているのですが、それをここで言う契約社員の方々にも適用することを検討してもいいのではないかということ。そして実際に運用に移す際には、女性もしくは家計補助型の働き方をしている方々が著しく低い待遇を受けていないか検証する必要があるのではないかと提言させていただきます。

そして3番目が正社員登用制度(PDF:505KB)です。これはもう見てきましたとおり正社員登用制度があると契約社員の雇用の安定性や仕事に対する満足度が高まる。そして仕事意欲も高まるということ。そして中でも特に若年型の契約社員に対しては登用制度がもたらすプラスの効果が大きいということが分析からわかりました。ですので、改正パートタイム労働法で、やはりパートタイム労働者については正社員転換のための措置義務が規定されているのですが、これをフルタイムの方についても適用するといったことが検討されていいのではないかと考えます。そしてその際、特に若年の契約社員については企業に正社員登用に対するインセンティブを付与するなどして一層それを促進する対策がとられてよいのではないかと考えます。

ところで生計維持型の契約社員という方がいらっしゃいました。この方々は若年者以上に雇用の安定を切望していらっしゃいます。しかし、いわゆる日本企業で年功的な賃金制度が存在することを考えますと、現実的に考えてすぐこの方々が正社員に登用されたり、正社員の仕事を新たに見つけられる可能性はやはり低いのではないかと考えられます。そうしますと壮年の契約社員につきましては、契約期間の長期化ですとか、あるいは現行の賃金水準のままでの無期雇用化(PDF:505KB)といった対策を、これは行政としてやるというよりは企業の側にそういった取り組みをお薦めするといったことなのですが、そういった策が有効だと考えます。その上で、2段階方式で、既に存在する正社員等との間での均衡・均等待遇の問題について時間をかけて取り組んでいくのが適切な策ではないかなと考えております。

そして最後にこれは主として実践的含意といいますか、企業の人事担当者の方に提言したいことなのですが、コスト節減を目的とした契約社員活用(PDF:505KB)が一定程度行われているわけですけれども、これがほんとうに合理的なものなのか、会社の役に立っているのかを今一度検証してみる余地があるのではないかと考えます。といいますのは、先ほども言いましたように、このような事業所では契約社員として働く人々の不満が非常に強いです。また、事業所の側も人材活用上の問題を認識している場合が多いです。ですので、コスト節減を目的としながら有期雇用にするというちょっとねじれた形をとっている戦略になるわけですので、ほんとうにその形態が適切なのかということを再検討する必要があるのではないかと考えます。

以上、行き届かない点もあったかと思いますが、私からのご報告を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。

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