<非正規雇用>報告1 雇用ポートフォリオ・システムの実態
―非正規雇用の活用を促す仕組み―:
第55回労働政策フォーラム
非正規雇用とワーク・ライフ・バランスのこれから
—JILPT平成22年度調査研究成果報告会—
(2011年10月3日、4日)

前浦穂高(研究員)/2011/10/3,4労働政策フォーラム

前浦穂高 労使関係・労使コミュニケーション部門研究員 配付資料(PDF:343KB)

皆さん、こんにちは。労使関係労使コミュニケーション部門の前浦と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

本日皆さんにご報告するテーマは、今ご紹介いただきましたとおり、「雇用ポートフォリオ・システムの実態」。副題としまして、「非正規雇用の活用を促す仕組み」というテーマで設定させていただきました。

あらかじめお断りしておきたいのですが、本報告の副題は、「非正規雇用の活用を促す仕組み」となっています。そう言うと、非正規雇用の効率的な利用方法があるというように思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、本報告の趣旨はそういういったことではなく、本報告の目的は、なぜ非正規雇用の活用が進んだのか、その仕組みを明らかにすることにあります。その点をあらかじめご了承いただければと思います。

それから本報告に対して、もっと聞きたいということがありましたら、こちらの報告書労働政策研究報告書No.138「雇用ポートフォリオ・システムの実態に関する研究」―要員管理と総額人件費管理の観点から―に詳しく書いておりますので、こちらをお読みいただいても結構ですし、私のメールアドレスを記しておりますので、メールでお問い合わせいただいてもかまいません。

では、本報告の概要をご説明します。本報告は、5つの柱を設定しております。以下、この流れに沿って皆様にご説明していきたいと思います。

では、「1.はじめに(PDF:343KB)」です。そもそもタイトルにある「雇用ポートフォリオ・システム」って一体何だという疑問を皆様お持ちではないかと思います。これは決して一般に使われている言葉ではなくて、最近つくられた言葉です。この言葉は、仁田(2008)において、初めて使われた言葉だと思いますが、その言葉の意味は、日本の雇用システム、主に終身雇用慣行を支えるシステムです。皆さんもご存じのように、正社員は終身雇用といいますか、長期安定雇用の中にいるわけですが、常に業務変動なり、市場の環境が変わったりしますので、それらに対応するためには、正社員だけでは非効率だということで、いろいろな形で非正規雇用を活用してきたわけです。それを「ポートフォリオ・システム」と名づけているのですが、このシステムによって日本の終身雇用慣行、日本の雇用システムは支えられているということになります。

このシステムの仕組みは、2つあります。1つは人件費コストの削減で、お金の面から効率性を求めるということです。もう1つは、雇用調整のしやすい非正規雇用の活用です。これは雇用量の調整を指しますが、業務量が変動したり、何か市場の環境が変化したりする場合に、正社員のみでは、どうしても対応しづらいということで、非正規雇用を活用することで、雇用量を調整しやすくするという意味になります。

次に課題は何かということです。先ほど理事長の話の中にもありましたが、非正規雇用比率が上昇したことがあげられます。その中身を見てみますと、いろいろな雇用形態が活用されている、いわゆる雇用形態の多様化という現状です。それを前提とすると、活用する雇用形態もしくは各雇用形態別の人数がどのように決まっているのだろうか、これを明らかにしていきます。

分析方法は、非正規雇用を活用する仕組みを解明するにはどうしたらいいかということですが、先ほどご紹介した仁田氏の雇用ポートフォリオ・システムの機能に沿って考えますと、費用と雇用量の両面から攻める必要があるだろうと考えました。1つは人件費が焦点となるわけですが、ここでは非正規雇用の人件費を含めた概念で用いております。具体的には、非正規雇用を含めた人件費予算がどのように策定されているのかということです。もう1つは、要員管理です。要員管理とは必要な人員がどのぐらいで、各部署に何人ずつか配分することを通じて、業務を配分することですが、非正規雇用を含めた要員管理が一体どのように行われるのかということになります。人事管理の分野でいいますと、採用と配置になります。それがどう決まるのか。企業は最終的に働いた人に人件費を払わなければいけませんので、人件費予算と要員管理がどう帳尻を合わせるのかといったことについても考えてみたいと思います。

それでは、本報告のもととなった調査の概要をご説明したいと思います。本報告のもとになったのは、私が執筆した138番目の報告書ですが、全部で4つの事例を取り上げております。その内訳は、A社とB社がスーパーで、C社が百貨店で、D市役所が自治体です。これだけ見ると自治体だけ浮いて見えますが、実は明確な理由がありまして、詳しくは後で説明をしますが、自治体は皆さんが働いていらっしゃる企業で言えば、間接部門と同じ位置づけになります。そのためD市役所については、企業の間接部門と見ていただければと思います。

上記の4つの事例を取り上げているわけですが、本報告は主にスーパーA社の話を中心に進めてまいりたいと思います。なぜこの4つの事例を取り上げたかということですが、どの事例も非正規雇用比率が高いという共通項があります。したがって、非正規雇用の人事管理、それから彼らの人件費を含めたコスト管理が進んでいるだろうと考えました。これが4事例を選択した理由です。

それから調査方法ですが、私たちはインタビュー調査を実施しました。対象としては、本社人事部、それから特定の部署として、スーパーの場合、店舗を対象としました。詳しい調査の内容につきましては、別添資料の表1をご覧いただければと思います。

さて具体的な話に入ってまいりますが、その前にちょっと耳なれない用語の説明をしたいと思います。「責任センター」という用語です。これは別添資料2ページ目の表2(PDF:343KB)をご覧ください。この責任センターとは、一体何だろうということですが、その定義は、管理者がお金ではかられる業績に責任を持つ組織の単位のことです。ちょっとわかりにくいかもしれませんので、かみ砕いてご説明しますと、スーパーの場合、店舗が一体何に対して責任を持っているのかということです。その性格を分類したのが責任センターになります。そこで表2をご覧いただきたいのですが、左側に種類とありまして、収入センター、設計された費用センター、裁量的費用センター、利益センター、投資センターの5つがあります。その右側には各センターの性格を示しています。さらにその隣がセンターごとの責任を持つ財務指標の具体例です。右端は今回私たちが調査した事例と対応させているということです。今日ご報告するA社は、利益センターに該当します。企業は最終的に利益センターになりますが、百貨店C社は利益センター、売り場や店舗は収入センターとなります。したがって、企業は必ずしも利益センターで貫徹されているとは限らないということをご注意ください。ただし、A社については本社から店舗に至るまで利益センター化されておりますので、ここはあまり気にする必要はないわけですが、この利益センターという言葉がすごく重要で、利益センターの場合、利益額に責任を持たなければいけませんので、売り上げを上げる一方でコスト管理も厳しくやらなくてはなりません。このことが最終的には、総額人件費管理や要員管理に影響を及ぼしますので、ここでご紹介しておきます。

さてA社に話を移していきます。A社は大都市圏でチェーン展開している企業です。表3に人員構成の比率(PDF:343KB)を載せておりますが、スーパーですので、主な人員はパート社員、パートタイマーになります。それからA社の特徴としまして、2000年代半ばに経営改革を行っております。それによって、店舗まで利益センター化をしております。さらにA社では、パート社員の質的基幹化が進んでいるという特徴があります。質的基幹化とは学術用語ですが、パートタイマーがより重要で難易度の高い業務を担うようになって、企業にとっても欠かせない存在になったという意味で、この言葉が使われております。以後、この意味で用いますので、この定義でご理解いただければと思います。

さて、A社が行った経営改革で一体何が変わったのか。A社では2000年代半ばに初めて赤字を経験しました。そのときに、経営を大きく変えなければいけないということで、経営改革に着手したのですが、本報告に関して言えば、1.それまでA社はとにかく売り上げを上げればいいという経営スタイルから、利益を上げようということで、責任センターの性格が収入センターから利益センターに転換しました。さらに2.政策マトリックスをつくり、それに応じて人員と予算の配分を大まかに決定するようになりました。それから重要な点として、3.店舗の正社員数を減らしたことがあります。それによってパート社員比率が上昇し、パート社員の質的基幹化が進んでいったということです。これらの3つについて、それぞれ説明していきたいと思います。

表4は政策マトリックス(PDF:343KB)を示していますが、A社は面積と売り上げの規模によって店舗を9つに区分しまして、それに基づいて要員数と予算の配分を大まかに決定するようにしました。

次のスライドが具体的な政策マトリックスの説明になりますが、これによって人員の効率化が図られました。小型店と大型店の比較をすれば、小型店の販売計画や商品構成は本社が策定することになりました。それまでは個店ごとの特性を生かすために、店舗が上記のものを策定していたのですが、要員の効率化を図るようになり、さすがに業務量も減らさなければいけないということで、本社が店舗の運営について決定するようになったのです。それに応じて、小型店は規模が狭く、売り上げも低いということで、商品の数と種類、いわゆる品ぞろえを限定するようになりました。これに対して、大型店は、小型店より利益が見込まれるということで、店舗に裁量が残されました。それによって大型店は、小型店にくらべて、人員数と予算は多く配分されて、商品の種類や品揃えは豊富になりました。

次に正社員数をどのように削減したかということですが、別添資料3ページ目(PDF:343KB)の図1をご覧ください。図1にはA店からI店まで9つの店舗が示されていますが、各店舗にチーフがおります。チーフは店舗の正社員ですが、各店舗に1名ずつチーフがいると仮定しますと、図1の段階で店舗の正社員は9人ということになります。その下の図2(PDF:343KB)をご覧ください。図2はFMとエリアチーフが設置されたときのA社の組織図ですが、FMはフィールド・マンの略で、本社の正社員です。彼らは本社が決めた販売計画や商品構成を、本社の指示どおりにできているかどうかを巡回する役割を担っております。したがってFMは本社の正社員ですが、大型店はチーフを残したままFMの管理下で事業展開するということになりました。それから小型店はどうなったかと申しますと、FMの下にエリアチーフが設置されました。このエリアチーフはどこかの店舗に籍を置くということになっておりましたので、店舗の正社員と位置づけられます。ただしD店からI店にいたチーフがいなくなりましたので、D店からI店に関して言えば、正社員数はエリアチーフの2人になります。A店からC店までチーフが1名ずつおりますので、図2の段階で店舗の正社員数は5人になります。

もう1枚めくっていただきまして、図3をご覧ください(PDF:343KB)。図3はエリアチーフを廃止したときの組織図ですが、A店からC店まではチーフ1人ずつなので変化はありません。何が変わったかといいますと、小型店のエリアチーフがいなくなりましたので、D店からI店に関しては店舗の正社員数はゼロということになります。したがって、図3の店舗の正社員数はA店からC店までのチーフの合計3人になります。

整理をすると、図1の段階で9人いた店舗の正社員数は図2の段階で5人、それから図3の段階で3人ということで、最終的には店舗の正社員数は6人削減されたことになります。 こういった形で、A社は本社の管理の程度を強めながら、徐々に店舗の正社員数を削減していったことがわかります。正社員を減らした分の業務をだれが担うかというと、A社では、パート社員数の質を高めてパート社員が担うようになっていったのです。

では、「2.人件費予算の策定」についてお話を進めていきたいと思います。図4のA社の組織図(PDF:343KB)をご覧いただければと思います。真ん中あたりの左側に経営企画室という組織がございます。ここが人件費予算を策定する部署になります。この経営企画室は、主に前年度の実績をもとに人件費予算案である「たたき台」を策定します。その数値はどう決めるかですが、最初にA社が目標とする営業利益を決めていきます。通常、営業利益は売り上げがあって、粗利が出て、コストを差し引いてという形で決まっていきますが、A社は、その順序とは逆に、最初に営業利益をこれだけ確保したいということで目標を設定し、その営業利益を確保するためには粗利が幾ら、売上高が幾ら、人件費はこれぐらい必要だという形で決めていきます。これが決まりますと、もう1度図4の組織図をご覧いただきたいのですが、組織図の下にある第1販売本部、第2販売本部がありまして、その右隣に第1から第5販売部、第6から第10販売部があります。この販売部に部長さんがいらっしゃるのですが、部長さんのところに「たたき台」をおろしていくわけです。部長さんは店舗を管理していますので、自分の管轄である店舗の店長さんとの間で、「本当にこれでいいのか」ということで、「たたき台」について議論をします。そのなかで、「ここは修正が必要だ」ということであれば修正を加えます。その修正案は、再び経営企画室に戻されて、最終的に人件費予算が確定するというプロセスで決まります。

ただしご注意いただきたいのは、基本的に経営企画室が策定する「たたき台」は動かせないそうです。なぜかと申しますと、予算を増やしてしまうと目標値である営業利益額も上乗せされてしまうことになるからです。そのため予算を増やすと、店長さんは自分の首を絞めることになりますので、なかなか動かすことは難しくなります。ただしそうは言っても、先ほどご説明したとおり、人件費予算は前年度実績に基づいて決められますので、業績のあまりよくない店舗は本当に必要な人員もしくは予算を削られてしまう可能性が常にあります。

そうした場合への対応ですが、4つの方法があります。1つは、販売部長の裁量を発揮することです。これはどういうことかと申しますと、販売部長さんは独自にパートタイマーの人件費予算を持っています。この店舗はパートさんをつけてあげるほうがいいという判断したら、販売部長は自分の裁量でその店舗につけることができます。2つ目は、店舗内のほかの事業費を何とか削って人件費に回すという方法です。3つ目は、販売部長さんの判断になると思いますが、販売部長さんは幾つか店舗を管理していますから、自分の販売部全体の営業利益を上げればいいわけです。したがって収益性の高い店舗の目標値を上げて、そこの店の人件費を上乗せしてもらい、その一部を収益性の低い、苦戦している店舗に回してあげるという方法です。つまり同一販売部内で店舗間調整をするという方法です。それから4つ目は、店舗の実情を伝えるという方法です。これは例えば、道路のアクセスがあまりよくないとか、最近競合店が近くにできて苦戦しているとか、なかなか店舗の努力では克服できないような実情を本社なり販売部長さんに訴えて、何とかしてもらうという方法です。この4つの方法で対応しているそうです。

では「3.要員管理」に話を移していきます。最初に正社員の採用者数ですが、どう決定されているかと申しますと、退職者、離職者の動向ももちろん考慮されますが、一番重要なのは出店計画です。スーパーでは、新規開店すると、そこに張りつく人員が必要となりますので、出店計画は重要となります。ただしA社については、調査当時、新規開店がないということなので、毎年同じぐらいの人数を採用しているということでした。次に人員配置はどうなっているのかということですが、別添資料の表5(PDF:343KB)をご覧ください。表5は鮮魚部門の人時基準を示しております。最初に結論から申しますと、この人時基準によって、正社員数とパート社員数が自動的に決まるということです。どう決まるかというと、一番上のゼロからと書いてあるところをご覧ください。平均日商が1,000円単位になっていますので、万単位に直しますと、平均日商が25万円未満の鮮魚部門ということになります。人時のところに18.5時間、さらに右隣に正社員数で1という数字が入ります。正社員の労働時間はそのさらに右隣にありますけれども、6.2時間となります。この最初に見た18.5時間というのは、当該鮮魚部門の正社員とパート社員数の総労働時間になります。正社員は1人の労働時間は6.2時間ですので、18.5時間から6.2時間を差し引いた12.3時間がパート社員の労働時間数ということになります。その分の人件費が与えられているということになるわけですが、この12.3時間をどう使うかは店長さんの裁量です。全部使ってもいいのですが、12時間に削減しても、それで業務が回るのでしたらそれでも許されます。それをどう使うかですが、1人に12時間、3人で4時間ずつ、2人で6時間ずつのいずれも可能ですが、重要なのは正社員数1と書いてありますとおり、正社員1人がもう既に自動的に割り当てられるということです。つまり店舗にとっては、正社員数は所与のものとなりますので、店舗は正社員数を動かせないということです。その上で残った労働時間数をパートに配分するということになりますので、与えられた予算の残りのなかで非正規雇用の活用が決まります。当然その時間に応じてシフトが組まれるということになります。

少し趣が変わりますが、パート社員の戦力化をお話ししたいと思います。先ほど経営改革のなかで店舗の正社員数を減らしたとお話ししましたが、当然その裏では正社員数が減った分、パート社員数が担うということになりましたので、パートを育成しなければいけません。そういったことで、A社では平成4年にパート社員の資格制度を導入しました。これが平成12年、15年、18年、20年の4度の改定を行って今に至っているわけですが、その全部はなかなか時間の制限がありますのでご紹介できませんが、主な内容として列記させていただきました。最初にランクの圧縮とあります。これは別添資料の表6(PDF:343KB)をご覧ください。これは平成15年の制度改定の内容を示したものですが、平成15年の制度改定の前の段階は左端になります。平成15年当時、FP、FPシニア、LP、CPと4つのランクがありました。FPはフレッシュパートの略で、単純提携業務を担うパートさんでした。その上がフレッシュパートシニアで、フレッシュパートさんの中でも熟練した人で、部門担当者のアシスタント業務を担う人です。次のLPはリーダーパートの略で社員代行業務を期待されていました。その上がCPで、これはキャリアパートの略で、サブチーフ業務を担っていました。それでは平成15年の制度改定でどう変わったかが右側になるわけですが、まずFP、FPシニアが統合されて、FPということになりました。変更というところは、主な変更点を示していますが、それまで単純提携業務を担っていたFPがFPシニアの役割であった部門担当者のアシスタント業務を共通して求められるようになりました。つまりFPに統合することによって、パートタイマーの底上げが行われたわけです。そしてFPは最大で社員代行業務まで拡大したということで、それまでLPが担っていた業務も担い得ることになりました。その上のLPですが、制度改定を経て、主な役割は社員代行業務ということで変わらないのですが、最大でサブチーフまでやることになったということで、CPの仕事も求められるようになりました。それから一番上のCPですが、サブチーフ業務を担うことが期待されていますが、最大でチーフ業務ということで、今まで以上の役割を期待されるようになりました。

こういったことでパート社員のランクが圧縮されたことによって、パート社員による正社員の代替化が進んだわけです。では本当にパート社員の戦力化が進んだかどうかを確認していきたいと思います。別添資料の図5(PDF:343KB)をご覧ください。図5はA社の正社員数とパート社員数の数値を示したものです。右側の2005年をご覧いただきたいのですが、2005年度時点でパート社員の総数は9,950人です。パート社員の総数は年々減っております。

次にスライドの図6(PDF:343KB)をご覧ください。これはパート社員の構成比率を示したものですが、パート社員数で一番多いのは当然フレッシュパートになるわけですが、フレッシュパートの比率を見ると年々減少しております。そのかわりに増えているのがLPとCPで、なかでもLPの数が増えています。CPはわずかに増えているという状況ですが、パート社員の総数が減っているなかで、少しでも割合が増えているということは、パート社員の戦力化がより進んだと考えていいのではないかと思います。

それからパート社員のランクの圧縮に伴いまして、もう1つ変化が生じました。それは非正規雇用に適用される人事制度が整備されたということです。スライドの表7、8(PDF:343KB)を見ていただきたいのですが、表7はパート社員の賃金制度を示しております。当然ですが、役割はFPよりもLP、LPよりもCPのほうが高いわけですから、賃金はFPよりもLPが高く、LPもCPよりは劣る、つまりCPが一番高いことになります。表8(PDF:343KB)の年収で比較してみてもそのとおりですが、キャリアパートになりますと、2005年の実績で390万円ぐらいの年収になります。その右隣の正社員と比較すると、5等級の正社員は入社2年目から4年目の正社員ですから、キャリアパートの年収は、20代半ばの正社員より高いことがわかります。賃金の制度を比較してみても、FPからLP、LPからCPになっていくにつれて、年収が上がっていきます。このように処遇が改善されるということは、パート社員の戦力化を求めていることがおわかりいただけるのではないかと思います。

ここでパートの戦力化の話は終わりまして、次にもう1つこういった一連の流れのなかで起きた変化についてご説明したいと思います。それがパート社員の職域の拡大です。先ほども触れましたとおり、A社は要員数の効率化を求めましたが、その結果として、店舗によって人員不足の時間帯が発生し、パート社員の職域の拡大が発生しました。その具体例を挙げれば、鮮魚のパート社員がレジ打ちをする事態が起こったということがあります。今回調査に協力いただいて初めて私は知ったのですが、スーパーの従業員のキャリアは特定の部門に収まることが一般的だそうで、鮮魚のパートさんだったら、ずっと鮮魚部門に配置されて部門内の仕事をするわけです。したがって、鮮魚部門のパート社員はレジ打ちを期待されていないのですが、人員が足りないので、そうせざるを得なかったということです。そういう状況が生じたため、「うちは鮮魚のパートさんにレジ打ちをさせているんだ」と。「だけれども、今の制度でやるとレジ打ちしてもらっているパートさんに何の見返りもないのか」という不満が現場から人事に寄せられるようになりました。A社のパート社員の資格制度は、単一の部門を念頭に置いた設計をされていましたので、部門横断的な作業に対応していなかったということです。したがって、そういった現場の状況に合わせる形で、パート社員の資格制度が部門横断的なものに対応できるように改訂されていったのです。先ほど申しましたとおり、パートの戦力化はA社の方針としてありましたが、一方こちらのほうは人事の方は想定されていなかったと思うので、意図せざる結果として、こういった事態もあったということです。

では、「4.結論(PDF:343KB)」ですが、4点ございます。1点目は、雇用ポートフォリオは事後的に決まるということです。 実際企業で働いている皆さんからすると当たり前のことかもしれませんが、雇用ポートフォリオに関するいろいろな理論は、技能などを重視した戦略によって、雇用ポートフォリオが決定されると強調します。しかし今回の調査によって、正社員だけで追いつかない業務は、非正規雇用の活用で埋め合わされるわけですが、その範囲は、財務指標を重視して要員数と人件費予算が決定される過程で、現場の判断で決定されるということです。つまり実態としての雇用ポートフォリオは、戦略を重視する研究の主張とは全く逆に、結果として決定されるということです。

それから2点目は、非正規雇用の質的基幹化がなぜもたらされたのかという背景ははっきりわからなかったのですが、今までの人員削減、要員の効率化のなかで、当然のことながら、正社員数が減らされるなかで、店舗ではパート社員の戦力化が求められ、質的基幹化が促進されたということです。

3点目は、その質的基幹化に伴いまして、非正規雇用の人事制度が整備されたということです。これは、よりランクの高い資格になると処遇が上がるといったこともそうですし、自然発生的に職域が拡大したことにより、 パート社員の担う業務が部門横断的になったときに、現場の実態に合うように、制度を改定して欲しいという要望が現場から人事に出されたことからも明らかです。重要なことは、企業が求める役割に応じて、非正規雇用の処遇を常に見直す、改善していく必要があるということです。

4点目は、非正規雇用の活用を促す仕組みです。別添資料の図7(PDF:343KB)をご覧ください。これが今回私が一番お伝えしたかったことですが、責任センターの種類によって、組織がどういう数値に責任を持たなければならないかが決まります。その数値が決まりますと、その数値に基づいて要員管理、人件費管理が行われます。その結果として、ポートフォリオや非正規雇用比率が決定され、現場では非正規雇用の質的基幹化、職域の拡大が発生するという順序になります。そうしたサイクルがうまく回ると、それが繰り返されることが考えられるわけですが、その通りになるのならば、今後非正規雇用比率は高まらざるを得ないということになります。

最後に「5.政策提言(PDF:343KB)」です。1つは非正規雇用比率を抑制する方法を考えてみました。本日は取り上げませんでしたが、D市役所では雇用形態別の役割をきちんと決めており、それを労使交渉のなかで、実際どこにどういった雇用形態を配置するかを決めております。そういったことで役割を明確にして、組合が規制をかけることで、非正規雇用が正規職員を代替することを抑制しています。ただしこの方法は、D市役所と同じ裁量的費用センターである企業の間接部門のみで有効だと考えます。

それからこれは多くの企業でとり得る対応策ではないかと思いますが、新しい正社員をつくってみたらどうかということです。この新しい正社員というのは、最初から正社員として採用されたいわゆる従来型の正社員ではなくて、非正規雇用から正社員に登用された正社員を念頭に置いて書いております。当然のことながら、最初から正社員で採用された正社員よりも処遇は下がってもいいのですが、新しい正社員は、今の労働条件と雇用を保証するということです。そういった対応をすれば、正社員になったからといって、人件費が急に増加することもありませんし、労働者個人にとっても、不利益になることもありませんので、現実的な対応ではないかと考えました。

2つ目は非正規雇用の労働条件の改善に関することです。非正規雇用の労働条件は、質的基幹化が契機になって整備されました。そのため、非正規雇用が働く実態や求められる役割に応じて常に労働条件は見直さなくてはならないということです。それから、非正規雇用は不満や要望を発言する機会を与えられていない人が多いわけですから、そういった機会を与える必要があるということです。

3つ目は、非正規雇用間の格差拡大の可能性です。質的基幹化する非正規雇用は選抜された方ということになりますので、当然のことながら、選抜されなかった人より少ないわけです。つまり選抜されなかった人のほうが多いわけですから、非正規雇用全体を見た場合、モチベーションやモラールを考えると、やはり選抜されなかった人への配慮といいますか、対応が求められるだろうということです。

最後、参考文献(PDF:343KB)としてこれらが参考になるだろうということで挙げさせていただきました。ご興味があればご覧いただければと思います。報告は以上となります。ご清聴、どうもありがとうございました。

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