研究報告 高齢者雇用管理の新たな展開:第53回労働政策フォーラム
高齢者雇用のこれから ―更なる戦力化を目指して―
(2011年6月3日)

藤本 真(JILPT副主任研究員)


藤本 真(JILPT副主任研究員)

私は2005年から高齢者雇用に関する調査研究に携わっており、アンケート調査などと並行して、先進的な取り組みをしている企業のインタビューなども実施してきました。今日は、そのインタビュー調査に基づいて、高齢者の雇用管理に関する新たな展開について報告したいと思います。

今後の継続雇用の展開

60歳以降の高齢者雇用については、2006年から雇用確保措置が義務化されましたが、これまでの一般的な継続雇用のあり方としては、以下のことが言えると思います。まず、定年は60歳のままで変更せず、65歳まで1年刻みで再雇用していく。そして、雇用契約形態は変わるものの、仕事の内容は変わらず、勤務時間もフルタイムのまま。しかし、賃金はというと、定年時の大体5割から7割(収入としてはこれに年金・公的給付が加わる)に設定される。

図 高齢者雇用管理の変化

これが今後どう展開していくかですが、次の3つの方向に進むと考えています。1つは「より長く」。つまり、法令で定める65歳を超えて、例えば70歳を超えても継続雇用するようになる。もう1つは、「より多様に」。継続雇用のメインのコースはフルタイムとするが、それ以外にも、日数を少なくする「短日勤務」や「短時間勤務」なども取り入れる。

3つめは「より変わりなく」ということで、賃金は定年前の水準に近い水準、例えば8割とか、場合によっては同じ水準に設定する。これらの動きが少しずつ広がってきているのかなと思っています()。

支給開始年齢引き上げと労働力不足が

背景としては、1つは、2013年からの、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げ。支給開始がどんどん引き上げられてくると、今までのように年金支給も考慮した賃金設定が難しくなってくる。もう1つは、労働力不足が続くことが予想されますが、そうすると、年金財政に対する懸念も続く。こうした問題に対処していくためにも、新たな継続雇用のあり方を考えていく必要がある。

製造業では体力をみて配置転換

では、今後の展開として、具体的にはどんな取り組みがあるのか。3つの方向性について順にみていくと、「より長く」としては、体力面を考慮した配置転換があげられます。

ある自動車部品メーカーの事例ですが、昼夜のシフトのうち、高齢者は昼のシフトに配置するとか、作業は、バリ取りなど仕上げや検査といった軽作業を担当させているとのことです。突然、60歳を超えたときにこうした仕事を担当させるのではなく、本人の希望も聞き、会社の希望もすり合わせて、50歳頃から徐々に仕事を転換させていくのだそうです。

もう1つの取り組みとして、きめ細かい「モニタリング」の取り組みがあげられます。これも製造業の事例ですが、50歳の時点で、本人、リーダーと本人の周囲の人などから25項目の評価をつけてもらう。56歳、58歳でも同じ評価をつけてもらい、自分にはどういう能力があるのかを発見してもらう。そして60歳以降は毎年、リーダーとヒアリングを行い、どういう仕事をしていくかを決めていく。

多様な勤務形態をとる小売業

次に、「より多様に」に対応する取り組みですが、多様な勤務形態の活用があげられます。この取り組みがもっとも行われているのは、多様な勤務形態の活用が進んでいた小売業などです。

ある小売業の企業の事例ですが、この会社では、60歳代前半で「社員」、「嘱託社員」、「定時社員」という3つの社員区分を設定しています。嘱託社員は人事異動を行わないタイプ。定時社員は、1日の労働時間が短い社員で、「9時40分~14時30分」と「14時30分~20時20分」という2つの代表的な勤務シフトがあり、本人のニーズに合うほうに配置するのだそうです。

また違う小売業の会社の事例ですが、ここでは、60歳以上の従業員を (1)全国へ異動の対象となる社員 (2)一定エリア内の事業所に限定した異動の対象となる社員 (3)居住地の近隣の事業所のみに勤務する社員――という3つの社員区分に分けて、人事管理をしている。3つの雇用区分のどれにするかについては、本人のニーズと、会社の要望をすり合わせて決めるとのことでした。当然、それぞれで賃金は異なってきます。

定年前と変わりなくの例も

最後の「より変わりなく」の取り組みですが、これを実施している企業は多くはないのですが、ある対事業所サービスの企業の事例を紹介します。

この会社では、雇用確保措置の義務化に伴い、2つ賃金水準を設定しました。1つは定年時と同額の賃金水準で、もう1つは、定年時の75%の賃金水準です。実際、運用してみると、やはり定年時と同額の賃金水準で働きたいという人が多かった。約8割が希望したそうです。しかし、問題が出てきました。会社としては、賃金と同じように仕事も定年前の100%分働いてほしいと従業員に言ったのですが、健康上の問題や、定年という区切りがついてモチベーションが上がらないなどの問題が生じ、業績が上がらない人が出てきたのだそうです。

そこでこの会社は、賃金をバンド制に変更し、現役時の80%の水準を基準に設定して、バンドの上限を103%、下限を57%としたそうです。実績に応じて、賃金はバンドのなかで上下するようにした。すると今度はこういう問題が出てきた。当初は定年時と同じ賃金水準にするということでしたので、役職者については、定年後も役職から退かせるということをしませんでした。そして、若い従業員に対する事業継承をどうするのかという問題が生じたのです。

日本ではご存じのとおり、とくに大企業では、地位が人を育てるという典型的なキャリア形成のパターンがあります。一定の地位につけないと、なかなかポジションに見合った能力やスキルが身についていかないという面があります。そこでこの会社は、継続雇用者を指導者的な役割を果たす従業員とみなし、若い社員を下につけて、担当している仕事を覚えさせるという体制をつくることで対応しました。

貢献できる仕事で見合う処遇

これら3つの「新たな展開」が意味するものですが、1つめとして、高齢者を、もっとも貢献が期待できる仕事に配置することだと思います。場合によっては、結果として、今までやってきた仕事の継続であったりするかもしれない。

2つめは、仕事や貢献に見合った処遇の実施です。現在の一般的な考え方では、賃金を5割から7割ぐらいに設定して、そこに年金や公的給付を加算することで生計費を保証する。そうではなく、仕事に見合った処遇ですから、定年時とあまり変わらなくなる。

3つめが、企業または従業員の側にとっても両方ありますが、ニーズに対応した多様な就業形態の活用です。これら3つのことが実施されるようになると、60歳以上の人のために特別なことをするという高齢者雇用管理が、消えてなくなるかもしれない。

収入面や雇用期間での課題も

最後に今後の高齢者雇用管理の課題について述べたいと思います。まず1つは、収入に年金とか公的給付をどう織り込んでいくか。高齢者が現役時代と変わらず働くのであれば、一番わかりやすいのは、単に能力や貢献に応じた賃金を支払う。年金や公的給付を考慮し、賃金をカットするようなことは一切しない。裏返しですが、現役のときと同じように働けない高齢者は、賃金が低くなるかもしれない。

もう1つの課題は、60歳を超えてからの雇用期間の定め方。これには2種類のやり方があり、1つは、短期の契約期間にしない方法があると思います。業績が上がらなかったといって、1年で契約をうち切るようなことはせず、不安なく仕事にコミットしてもらう。2つめは、そうは言っても、やる気の低下や健康上のリスクなどを考えて、その時々のコンディションを見極めながら、1年契約で65歳まで雇用するというやり方。期待する成果が上がらなかった場合には、契約の内容を見直すこともある。企業にとっては、これらのことが、今後重要な課題になってくると考えています。