資料シリーズNo.252
ミドルエイジ層の転職と能力開発・キャリア形成
―ミドルエイジ層の転職に関わる人々のインタビュー調査記録―

2022年3月31日

概要

研究の目的

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2019」では、「全世代型社会保障」に向けた改革の一環として、中途採用・経験者採用の促進が謳われた。実態としてもフルタイム労働者の転職が増加傾向にあり、大企業への転職や、若年層・シニア層に比べて定着的とみられてきた「ミドルエイジ」層の転職が増加している。

ミドルエイジ層の転職の増加は、日本企業におけるいわゆる「長期安定雇用」の体制や対象に少しずつ変化が生じつつあることを示唆している可能性がある。今後の雇用体制のあり方を展望する上でも、また「骨太の方針」で掲げられた中途採用・経験者採用の促進を図っていく上でも、ミドルエイジ層の転職に関する実態把握が必要であると考え、調査研究を企画・実施した。本書は、アンケート調査では把握できない点をインタビュー調査によって捉え、ミドルエイジ層の転職に関する理解をより深めようと試みたものである。

研究の方法

インタビュー調査

※ミドルエイジ層(35~54歳)の転職経験者、企業の中途採用担当者、人材サービス企業のマッチング業務担当者・計47人を対象としている。

主な事実発見

  1. 未経験でも処遇が低下しない、あるいは一定量の雇用機会があるというのは30歳台前半までであり、35歳以上の転職では、プロジェクトなどを推進した経験や管理職・事業経営の経験、特定領域における一定程度以上の経験や専門性などがないと、仕事内容の面で満足できる雇用機会を得ることや処遇の維持を図ることは難しい。こうした状況は転職経験者のインタビュー調査からも、企業の中途採用担当者・人材サービス企業のマッチング担当者のインタビュー調査からもうかがうことができる。
  2. ただし、プロジェクトなどを推進した経験や、管理職・事業経営の経験、特定領域における一定程度以上の経験や専門性があれば、ICT(情報通信技術)の普及・発展により、そうした経験や専門性を求める企業を見つけることが容易になったため、35歳を超えていても、1か月程度以内の短期間で、転職者自身のニーズや経験に合った転職先が見つかり、内定を得ることができる可能性が高い。
  3. 直近転職の理由について、インタビュー調査の対象とした転職経験者の多くが、前職において、自分が望む働き方ができなくなったことや、キャリアの見通しが描けなくなったことを挙げている。こうした状況の要因としては、① 勤務していた組織・職場の雰囲気・慣行と自身の考え方や働き方に関する希望とのミスマッチ、② 勤務していた組織において、業績悪化や経営再編などによる人員削減が行われたこと、③ 勤務していた組織の方針変化による自身の所属部署や仕事の位置づけの変化、④ 意欲的に取り組んできた仕事からの異動、⑤ これまで従事してきた仕事の担当期間が長く、成長を実感できなくなったこと、などが指摘されている。
  4. また直近転職の理由としては、長時間労働や職場での人間関係による心身のコンディション悪化や、仕事と家庭生活との調整・両立も挙げられている。
  5. 男女の転職経験者共に勤務先の業種が変わったという人は半数を超えているが、仕事の内容が変わったという人は少数にとどまる。仕事が変わったというケースも、転職前までに担当していた仕事に新しい仕事が加わったか、逆に担当する仕事の範囲が狭まったというケースがほとんどであり、ミドルエイジ層の転職においては、仕事内容における継続性が高いことがうかがえる。
  6. ミドルエイジ層が対象となる企業側の求人は、さほど細かく定められていないことがしばしばあり、そうした場合は、企業の人材ニーズと、採用候補者の経験やキャリアとの相互作用により、採用後に担当する業務や役割が決まる。ただ、こうしたケースでは、担当する業務や役割の内容が、転職者が求人を目にした際に想定していたものとは異なり、入社した後に、これまで蓄積してきた経験やキャリアが活かせないと転職者が感じてしまうこともある。
  7. ほとんどのケースで、ミドルエイジ層の転職者は、前職と同レベル以上の処遇を望んでいる。ただ、そうした場合でも、前職勤務先と転職先の賃金水準の違いや、転職先における転職者の位置づけ(同年齢層・同レベルの役職の既存従業員との比較による位置づけなど)が影響して、前職よりも賃金が下がることも珍しくない。

政策的インプリケーション

  1. スキルや経験の十分な発揮が難しくなった時に、ミドルエイジ層が培ってきたスキル・経験を改めて活かすことができる転職先を見つけるうえで有効な転職プロセス・転職ルートについての検討と、そうしたプロセス・ルートの実現を容易にするための支援が求められる。
  2. 転職後の処遇や役割は、転職先の受け入れ態勢によるところが大きい。ミドルエイジ層のスキル・経験の活性化につながる受け入れのあり方やオンボーディング施策(新しく入った従業員の組織適応を促進する企業の取組)について検討するとともに、新しく受け入れたミドルエイジ層のスキル・経験の活性化を図る企業に対する支援の内容を考察する必要がある。

図表1 ミドルエイジ層転職経験者インタビュー調査対象者の概要:男性転職経験者

図表1画像

図表2 ミドルエイジ層転職経験者インタビュー調査対象者の概要:女性転職経験者

図表2画像

政策への貢献

能力開発およびキャリア形成の支援に資する政策を検討するための基礎資料として用いられる。

本文

研究の区分

プロジェクト研究「多様なニーズに対応した職業能力開発に関する研究」
サブテーマ「職業能力開発インフラと生産性向上に向けた人材の育成に関する研究」

研究期間

令和3年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構 主任研究員

関連の研究成果

入手方法等

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