緊急コラム #032
コロナ禍3年目の雇用回復 ──されど活用労働量は元に戻らず

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主席統括研究員 中井 雅之

2023年1月31日(火曜)掲載

2023年1月31日に公表された主な雇用関係指標をみると、2022年12月の完全失業率は前月と同水準の2.5%となり、2020年11月以降3%以下の水準で推移している。2022年平均では前年より0.2%ポイント低下して2.6%となった。また、有効求人倍率[注1]は前月と同水準の1.35倍となり、2020年秋以降上昇傾向で推移している。2022年平均では前年より0.15ポイント上昇して1.28倍となった(図表1)。

このように、コロナ禍の初期に大幅に悪化した雇用情勢については、持ち直しの動きが続いている。

図表1 完全失業率、有効求人倍率の推移

図表1 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」、厚生労働省「職業安定業務統計」

2020年4月の最初の緊急事態宣言とともに激増し[注2]、5月、6月と大幅に減少した[注3]休業者については、その後は感染拡大の波[注4]により感染者が増加した後には一時的に休業者が増加する傾向にあるように見えながら、概ねコロナ前を若干上回る程度の水準で推移している(図表2)。

なお、2022年12月時点では前年同月差42万人増の232万人と3か月連続で増加しており、概ね2022年10月以降のいわゆる感染拡大の「第8波」の影響を受けた個人的な理由による休業の増加も懸念される状況にある[注5]

図表2 休業者の推移

図表2 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」

注:休業者とは、就業者のうち、調査週間中(月末1週間(12月は20~26日))に少しも仕事をしなかった者で、自営業主においては、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者。雇用者においては、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者。

また、休業者比率の推移を産業別にみると(図表3)、最初の緊急事態宣言発出時において、宿泊業,飲食サービス業、生活関連サービス業,娯楽業、教育,学習支援業といった対人接触が多い産業で休業者比率が大幅に上昇した後、一旦2019年の水準まで低下したが、2021年においては9月に最後の緊急事態宣言が終了するまでは特に宿泊業,飲食サービス業で再び上昇した。2022年12月においては、産業計で前年同月差0.6%ポイント上昇となっているが、特に、生活関連サービス業,娯楽業(同0.9%ポイントの上昇)、製造業(同0.8%ポイントの上昇)、教育,学習支援業(同0.7%ポイント上昇)などにおいて上昇幅がやや大きくなっている。

図表3 産業別休業者比率の推移

図表3 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(詳細集計)」

注:休業者比率は就業者に占める休業者の割合として計算。

休業がこのような推移となる中、2019年12月を100として就業者数と月末一週間の活用労働量(労働ニーズ)[注6]の推移をみると(図表4)、就業者数は2020年4月に98.3の水準まで低下した後、2022年12月には99.1の水準まで回復している。一方、活用労働量は、2020年4月に81.2の水準まで低下した後、2022年12月では96.0の水準に留まっている。なお、月々の変動が大きいため、移動平均でならしてみると、2021年3月の94.6を底として夏までに増加傾向で推移した後は、2022年12月まで概ね96程度の水準で横ばい傾向が続いており、就業者数の水準まで回復していない。

図表4 就業者数、活用労働量の推移(2019年12月=100)

図表4 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」より作成。

注1:就業者数は季節調整値について、20219年12月を100とした場合の推移。

注2:活用労働量は従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として、2019年12月を100とした場合の推移。

注3:活用労働量(広報12か月移動平均)は、当該月も含めた過去12か月の平均値。

活用労働量について、前年同月比を就業者数要因、休業者数要因、労働時間要因で要因分解すると(図表5)、最初の緊急事態宣言が発出されて活用労働量が大幅減少した2020年4、5月においては、休業者数と労働時間のマイナス要因が大きかった。2021年4、5月にその反動で増加した後、年後半には若干の減少傾向で推移したが、その要因は主に労働時間と就業者数要因であった。

2022年に入ると活用労働量は10月までは増加傾向で推移したが、就業者数と労働時間は全体を通じてプラスに寄与した。休業者数要因は、2022年1~3月、7~8月、11~12月とマイナスに寄与しているが、各々第6、7、8波の感染拡大期に当たり、感染拡大が労働者の休業を通じて活用労働量を押し下げる要因となっていることが示唆される。

図表5 活用労働量(労働ニーズ)の前年同月比の要因分解

図表5 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」により作成。

注1:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注2:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも仕事をした者、休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者である。このため、従業者数の増減は、就業者数と休業者数の増減によって説明できる。

注3:週間就業時間は月末一週間の就業時間であり、出勤日数や所定労働時間の増減等の影響を受ける。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

また、コロナ禍が始まった2020年においては、女性を始めとする非正規雇用労働者が大幅に減少したが、その後の動きをみると、2022年3月以降は女性の正規雇用を中心に再び増加に転じ、年後半からは男女の非正規雇用も増加基調となっている(図表6)。

図表6 正規・非正規別雇用者の対前年同月差の推移

図表6 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」

注:雇用者には役員も含まれるため、正規の職員・従業員と非正規の職員・従業員の対前年同月差を合計しても、雇用者の対前年同月差とは一致しない。

このような動きにより、男女、正規・非正規別の雇用者の割合がどう変化したかについて、2019年と2022年を比較すると、産業計では女性の役員・正規の割合が20.7%から22.1%に上昇した一方、男性非正規では11.5%から11.1%に、女性非正規では24.6%から23.7%に各々低下している。産業別にみても、概ね同じような傾向がみられ、生活関連サービス業,娯楽業では顕著であるが、一方で、宿泊業,飲食サービス業では男女とも非正規の割合がやや上昇している(図表7)。

図表7 産業別雇用者の男女、正規・非正規割合の変化(2019年と2022年)

図表7 グラフ

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」

新型コロナが発生して丸3年経過したこのタイミングで今回の新型コロナウイルス感染症の雇用面への影響[注7]を振り返ると、一時的な休業者の激増とその後の急減という現象が生じたり、特にコロナ禍初期において、対人業務が中心の産業で働く割合の高い、女性、非正規といった層に集中的に影響が表れてきたりしたが、経済活動の正常化に向けた動きの中で、一時的に悪化した雇用情勢は持ち直している。ただし、活用労働量ベースではコロナ前の2019年の水準に戻っておらず、回復は道半ばといえる。

加えて、前回の緊急コラムでも触れたが、2023年1月現在、第8波と言われる感染拡大の中にあり、依然としてコロナは収束していない。加えて、ウクライナ情勢や資源高、物価高などが経済に及ぼす影響も大きくなっていることから、引き続き雇用動向を注視していくことが必要である。

なお、2020年1月から2022年12月までの就業状態の前年同月との比較の表を、以下に参考図表として掲載した。

参考図表 就業状態の前年同月との比較(2020年1月~2022年12月)

参考図表の表

資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」により作成。

注1:従業者は就業者のうち調査期間中に少しでも(1時間以上)仕事をした者。

注2:休業者は就業者のうち調査期間中に少しも仕事をしなかった者。

注3:週間就業時間は、月末一週間の就業時間。就業時間の対象に休業者は含まれていない。

注4:活用労働量は、従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算。

注5:就業率は就業者数を15歳以上人口で割った比率。稼働率は従業者数を15歳以上人口で割った比率として計算。

当機構では、新型コロナウイルス感染症の雇用・就業への影響をみるため、関連する統計指標の動向をホームページに掲載しているので、そちらもご覧いただきたい(統計情報 新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響)。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 ハローワーク(公共職業安定所)で受け付けた、有効期間内(原則受け付けた月から翌々月の末日まで。有効求職者については失業給付の受給期間は有効期間に含まれるなどの例外もある)の企業からの求人と仕事を求める求職者の割合を示す指標。1倍を上回ると求人超過(人手不足)となり、下回ると求職超過となる。

注2 緊急コラム#012「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」(2020年5月29日)参照。

注3 緊急コラム#015「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後―休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き―」(2020年6月30日)参照。

注4 感染拡大の波の期間を正式に定めているものはないが、全国の感染状況を踏まえ、いわゆる「第1波」は概ね2020年3月中旬~5月中旬、「第2波」は概ね2020年7月下旬~8月下旬、「第3波」は概ね2020年11月上旬~2021年2月下旬、「第4波」は概ね2021年3月中旬~6月下旬、「第5波」は概ね2021年7月上旬~9月下旬、「第6波」は概ね2022年1月上旬~6月下旬、「第7波」は概ね2022年7月~10月中旬、「第8波」は概ね2022年10月中旬~と想定している。

注5 緊急コラム#030「新型コロナ下における休業者の動向─職場の理由による休業が減少し、個人的な理由による休業が増加─」(2023年1月6日)参照。

注6 従業者数と月末一週間の就業時間を掛け合わせた値として計算しており、必要な経済活動を行うための労働ニーズ(労働需要)が顕在化した労働量とみなすことができる。

注7 新型コロナウイルス感染症の働く方への影響については、JILPT「新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査」(2020年5月から2022年3月まで7回実施)を、また、企業経営からみた雇用面への影響については「新型コロナウイルス感染症が企業経営に及ぼす影響に関する調査」(2020年6月から2022年2月まで6回実施)を参照。