緊急コラム
正規・非正規雇用とコロナショック─休業が明けた非正規雇用、伸びが止まった正規雇用─

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雇用構造と政策部門 副主任研究員 高橋 康二

2020年7月1日(水曜)掲載

JILPTでは、かねてより新型コロナウイルスが雇用・就業・失業に与える影響を分析してきた[注1]。本稿では、それらに屋上屋を架す側面もあることを承知で、改めて基本的なデータである「労働力調査」の就業者数、休業者数、従業者数のデータに立ち返り、この間の「コロナショック」が正規・非正規雇用(者)にどのような影響を与えてきたのか(与えているのか)について、私見を提示する。

なお、本稿の焦点は上記の通り正規・非正規の雇用形態にあるので、敢えて産業や企業規模、あるいは男女や年齢といった他の基本的な変数を考慮していない。また、ここでの見解は現時点で得られるデータに基づくものであって、実際にはデータへの反映にタイムラグを伴いながら、事態が別の方向に向かっている可能性もあることを申し添えておく。

使用するデータは、総務省「労働力調査」の2020年1月~5月調査である[注2]。そのうち、従業上の地位・雇用形態別の「就業者数」、「休業者数」、「従業者数」の値を用いる。「労働力調査」においては、「就業者」は「休業者」と「従業者」から構成される[注3]表1はそれらの実数を、表2は前年同月差を示したものである。

表1 従業上の地位・雇用形態別にみた就業者数・休業者数・従業者数(実数、万人)

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資料出所:総務省「労働力調査(基本集計)」より。表2においても同じ。

注:「就業者」、「(就業者のうち)休業者」、「(就業者のうち)従業者」のいずれにおいても、「従業上の地位不詳」の回答者がいるため、「自営等」~「非正規」の4つの区分を合計しても「計」に一致しない。表2においても同じ。

表2 従業上の地位・雇用形態別にみた就業者数・休業者数・従業者数(前年同月差、万人)

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まず、就業者計を見ると、3月調査までは前年同月差で増加していたことが分かる(表2)。それは、特に正規雇用の拡大に牽引されていた。ちなみに正規雇用は、4月調査まで前年同月差の人数が増加し続けていた。つい忘れがちであるが、数ヶ月前まで労働市場は逼迫しており、多くの業界・企業が「人手不足」に悩んでいたのであった[注4]

そのような「日常」の中で、最初にコロナショックの影響として(統計的に)感知されたのは、就業者の中の休業者の増加であった。その人数は3月調査では250万人に迫り(前年同月差31万人)、4月調査では実に597万人に達した(前年同月差420万人)。

休業者の中心にいたのは非正規雇用者であり、4月調査の時点で非正規雇用の休業者は300万人に達していた(表1)。また、休業者の増加の陰に隠れてしまいがちであるが、同じく4月調査では前年同月差で非正規雇用の就業者が97万人減少している(表2)。多くの非正規雇用者がこの時点で仕事を離れたのである[注5]

これに対し、5月調査の時点では非正規雇用の休業者は300万人から209万人へと実数で91万人減少する。そのことに後押しされてか、決して元の水準に戻ったわけではないが、非正規雇用の従業者数は実数で117万人増加した(表1)。4月末から5月末にかけて、非正規雇用の労働需給は若干改善したように見える。

ところで、正規雇用者は無傷で済んでいるのか。たしかに4月調査までを見る限り、正規雇用は前年同月差で就業者数を増加させていた(表2)。しかし、4月調査の時点で193万人(前年同月差113万人)の休業者がいたことから、非正規雇用者ほどではないにせよ、正規雇用者も労働時間調整の対象になっていたことが分かる。

さらに5月調査において、正規雇用の就業者数が前年同月差で減少したことに注意が必要だろう(表2)。それと関連して、5月調査で完全失業率(季節調整値)が2.6%から2.9%へと上昇したことも気にかかる。その内訳を見るに、「主にしていく仕事」を探している人が増加しているからである[注6]

もっとも、現時点で断定的に言えるのは5月になって正規雇用の増加が止まったというだけであって、コロナショックが正規雇用に大打撃を与えたという段階には至っていない。とはいえ、完全失業率の動向やその内訳の変化から推論するに、コロナショックの正規雇用への影響が少し遅れてやってきている可能性はあるだろう。

まとめると、次のようになる。第1に、非正規雇用について言うならば、コロナ禍の比較的早い時期に労働時間調整、人数調整がなされ、5月調査の時点では調整が一巡していたと見ることもできる。第2に、他方で、正規雇用については、5月調査においてようやく前年同月差の就業者数の減少が確認されたが、実数ベースでの減少幅は(4~5月にかけて)29万人と比較的小さく、大半の正規雇用者の雇用は守られていると言える。第3に、しかし、完全失業率の動向やその内訳の変化から推論するに、コロナショックの正規雇用への影響が少し遅れてやってきている可能性はある。第4に、それに加えて、5月調査の時点ではすでに緊急事態宣言が全国から解除されていたことを踏まえるならば、この時期における正規雇用者数の減少には、企業が雇用負担に持ちこたえられなくなったという側面だけでなく、業界・企業が「アフターコロナ」ないし「ポストコロナ」的な経営・営業体制に移行する中で生じているという側面もなくはないだろう。

冒頭に述べた通り、本稿は、限られたデータに基づいて、特定の論点に限定して執筆されたレポートである。単月の調査結果に一喜一憂するのが禁物であることも言うまでもない。とはいえ、今後日本の経済・社会が「新しい日常」にソフトランディングしていく中で、正規雇用の水準がどの程度で保たれるのかを注視していくことは、労働研究者に課せられた重要な役割だと言えよう。

(注)本稿の主内容や意見は、執筆者個人の責任で発表するものであり、機構としての見解を示すものではありません。

脚注

注1 本稿に関連の深いレポートとして、天瀬光二・下島敦・中井雅之(2020)「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた日本と各国の雇用動向と雇用・労働対策(PDF:975KB)」、中井雅之(2020a)「新型コロナの労働市場インパクト─失業者は微増だが休業者は激増し、活用労働量は1割の減少─」、中井雅之(2020b)「新型コロナの影響を受けて増加した休業者のその後─休業者から従業者に移る動きと、非労働力から失業(職探し)に移る動き─」、高橋康二(2020)「労働時間の減少と賃金への影響──新型コロナ「第一波」を振り返って」がある。

注2 同調査では、毎月月末一週間の状態についてたずねている。それゆえ、本稿において「○月調査」と言う時には、○月の最終週の状態をあらわしている。

注3 「休業者」は、「仕事を持ちながら、調査週間中に少しも仕事をしなかった者のうち、(1)雇用者で、給料・賃金の支払を受けている者又は受けることになっている者、(2)自営業主で、自分の経営する事業を持ったままで、その仕事を休み始めてから30日にならない者」を指している。本稿の表では、5月調査「追加参考表(PDF)新しいウィンドウ」の「休業者」および各月基本集計の第Ⅱ-4表で「月末1週間の就業日数」が0日の者の人数を用いた。「従業者」は「調査週間中に賃金、給料、諸手当、内職収入などの収入を伴う仕事を1時間以上した者」を指している。

注4 厚生労働省「労働経済動向調査」の雇用人員判断D.I.(全産業)は、2019年3月に-35、6月に-32、9月に-32、12月に-31で、2020年3月でも-28を維持していた。

注5 高橋(2020)でも、4月1日から5月中下旬にかけて、パートタイマー・アルバイト、派遣労働者が、正社員に比べて勤め先を離職しやすい傾向にあったことを示している。

注6 完全失業者のうち、「かたわらにしていく仕事」を探している人は4月調査から5月調査にかけて35万人から34万人に減少しているのに対し、「主にしていく仕事」を探している人は145万人から154万人に増加しており、正規雇用を希望する失業者の増加を示唆する。ただし、4月調査から5月調査にかけての失業者の増加については、「活動を自粛していた離職者などが求職活動を始める動きがみられてきた」(中井 2020b)というように、別の説明も可能である。

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