労使、官民の「中間」組織としての役割に期待

社会経済生産性本部 事務局次長 北浦正行

「労使関係」や「労働問題」という用語が、一般の眼に触れる機会が少なくなっていることは残念である。「社会政策」も、司法試験の科目から削られて久しいし、大学でも看板どおりの授業になっていないことも少なくない。しかし、いまの世の中はどうだろうか。フリーターやニートの増大、団塊の世代の定年到達、経済格差の拡大、長時間残業や過労死問題、仕事と子育て等生活との調和、非正社員の均衡処遇など、いまのわが国を悩ます問題はすべて「労働」の世界のオンパレードだ。加えて、労働法制の改正ラッシュである。とりわけ、成立した労働契約法は新しい労使関係のありようを提示するだろう。

JILPTは、こうした労働問題のウオッチャーとして、これまでにも多くの良質な調査研究や情報提供に取り組んできており、労使をはじめ、多くの「労働」関係者の頼りとなってきた。ここで忘れてならないのは、これらの労働に関わる諸問題は、労使関係という枠組みの中で発生するものが多く、労使の利害に結びつきやすい点にあることだ。そこで、そのいずれの立場に偏することのない「中立的」な立場での運営ができるかどうかが極めて重要な点となる。

そのために、JILPTの源流である「日本労働協会」は、基金を設けその運用によるなど、中立的な立場から事業を進めることを特徴としていた。もちろん、時代変化の中で、「公」の形も変わってくるが、その精神は受け継がれていくべきだろう。今後とも、より民間に開かれた機関となるとともに、官民の中間的な立場であることを活かした運営が望まれるところだ。

その意味で、民間研究の基盤となるようなベーシックな領域やテーマには、もっと力点を置いてほしい。証言や記録の収集や編纂といったことも、地味ではあるが他ではなかなかできない。もうひとつの源流である職業研究所の流れを引いて、職業ハンドブックや職業適性検査のような優れたツールの開発も数多く提供してきたことも忘れてはならない。要は、労働に関するデータベースとしての蓄積とその広範な提供に努めることによって、教育機関や民間研究機関はもとより、わが国の労使の共有財産を整備していく役割を担っていくことが重要ではないか。

もうひとつ忘れてならないのは、労働大学校の存在である。これが、この法人を単なる研究機関とは一味違うものにしている。行政職員に対する研修がその基本的な役割であるが、これからの時代には、政策は国だけの独占物ではない。自治体はもとより、各種の公共団体やNPO、更には民間企業にとっても、公共政策に関する最高水準の知識の提供は有益のはずだ。一般の高等教育機関などとの連携も必要だろう。

いずれにしても、労使あるいは官民の「中間」という独自性を十分に活かしつつ、IIRA(国際労使関係協会)に加盟する日本を代表する研究機関として、新しいコンセプトへの取り組みも含め、時代の要請に対する役割を果たしていくことを期待したい。

(平成19年12月5日 掲載)