コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加
――旅行業H社
企業ヒアリング
旅行業H社は、コロナ禍での経済的損失を補償するため、2020年度に副業のルールを明確化する社内ガイドラインを整備した。副業形態では雇用・非雇用いずれも認め、長時間労働を抑止するために「管理モデル」も導入。近年では、収入目的だけでなく、社外での能力発揮や、自身の活動領域を広げていく等、スキルアップ目的の副業も増加傾向にあり、制度導入のメリットを実感している。
1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況
コロナ禍の経済的損失を埋める観点から社内ガイドラインなどの副業のルールを整備
H社の業種は、旅行業を主とするサービス業。主な事業概要としては、旅行業、旅客鉄道会社およびその他の運輸機関の乗車船券類の発売に関する事業、観光地の開発ならびに旅行および観光施設に関する事業など。主な職種として、渉外営業、店頭販売、仕入造成、Webマーケティング、電話販売などがある。
H社は、副業先の形態として、雇用・非雇用いずれも許可制で認めている。ただし、コロナ禍以前は、会社として副業を禁止も推奨もしていなかった。コロナ禍による業績不振を背景として、社員の給与・ボーナスがカットされるなか、社内から副業を希望する声が多くあがったことから、2020年度に、同社は、副業のルールを明確化する社内ガイドラインを作成し、副業を行いやすくする環境を整えた。
社内ガイドライン策定に際しては、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参考にしている。特に副業に関する規定部分における禁止事項では、厚生労働省・ガイドラインで示されているモデル就業規則の①労務提供上の支障がある場合②企業秘密が漏洩する場合③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合④競業により、企業の利益を害する場合――が参考になったという。社内規程においても、これらの事項はすべて盛り込まれている。
副業許可における禁止事項としては、社業における労務提供上の支障を招くこと、社の資産や社外一般に公開されていない会社情報(機密情報)等の利用、社の信用や職務上の権限または地位を利用すること、社の利益を害する行為や社と競業する副業を行うこと。反社会的行為の禁止などが記載されている。
申請者の自己チェックに基づき、著しくガイドラインに抵触しない限り副業を許可
申請方法としては、副業を希望する者が同社のシステム上で、副業に関する宣誓書に署名したうえで申請し、会社が承認する流れ。届け出では、ガイドラインの規定にある禁止事項に抵触しないか、ガイドライン上の内容に沿った副業であるかを、申請者自身がすべて自己チェックしたうえで、ガイドラインの内容を遵守することを宣誓する誓約書をシステム経由で人事部に提出する。
申請書式では、副業先での就業形態(雇用者や非雇用、個人事業主、会社経営等など)、副業内容、副業をする期間、副業先の労働時間――などの記載欄がある。会社側としては、申請時点で著しくガイドラインに抵触していることがなければ、基本的に届け出を受理し、副業を許可している。届け出があればほとんどが許可されているが、「業務と関連性がある顧客と副業をするケース等では、個別に状況を詳しく聞いたうえで、副業として許可できないなどの判断をすることもたまにある」という。
管理モデルを導入することで、長時間労働を抑止
自社と副業先企業いずれにおいても、労務管理の負担を軽減できるよう、社内ガイドラインでは、雇用による副業の場合、「管理モデル」を導入することを社内ルールとしている。厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が示す「管理モデル」とは、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して、法定労働時間を超えた時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の事業場における労働時間の上限を設定する方式のこと。
同社では、社内ガイドラインにおいて、副業の形態(雇用/非雇用)を問わず、長時間労働にならないよう、副業の時間は1カ月35時間を上限としている。雇用による副業の場合、副業先での労働時間はこの範囲内にするよう求めている。同社では、管理モデルの導入にあたっては、副業を希望する社員から、副業先に申し出ることとしており、これまでに管理モデルの導入に関する問題が報告されたことはない。
管理モデルを導入していることに加え、誓約書の提出も受けていることから、副業の形態を問わず、副業の実施状況に対して、過度に干渉しない方針をとっており、副業の実施時間は確認していない。ただし、安全配慮の観点から、副業の時間も含めて、労働時間が長いことを把握している社員については、当該社員の上司が適宜ヒアリングを行い、健康状態を確認するようにしている。
年間で全社員の約4%が副業を経験
過去1年間(2023年度)の副業に従事する社員は全社員の4%程度。副業の例としては、旅行業、ツーリズム産業にとどまらず、学校での講師業、コンサルタント、家業の手伝い、アルバイト等、多岐にわたる。
ガイドラインを設けた当初は、経済的損失を埋める目的で副業をする社員が多かったが、調査時点では、自分の得意分野の延長や、NPOに参画して地域活性活動に従事するなど、自らのスキルやキャリアを高めることを目的に副業している社員もいるという。
同社としては、副業やボランティアなどの社外での活動を通じて、自分の好きなこと、自分の得意なことの経験を高めながら、社外でも通用する経験として自社以外における労務経験も持つことで、社員自らがバリューを発揮し、定年後も見据えた主体的なキャリア形成がなされることを期待している。
スキルアップ目的の副業が本業に生かせるメリットを評価
副業制度の影響については、導入当初は、収入増加を主な目的として始めていたが、近年では、スキルアップ目的の副業がみられる点について評価をしていた。同社は次のように語る。
「デメリットは特に認識していない。むしろ、メリットのほうが大きい。当初、コロナ禍の時は収入増加を主な目的として始めていた社員が多かったが、今は、収入増加だけでなく、社外での能力発揮や、自身の活動領域を広げていく等、スキルアップを目的としたものが結構多くなってきている。それが回り回って、本業での力の発現につながるメリットはあると考えている」
一方、副業促進策の観点について、「やはり管理モデルの部分、要は就業時間や賃金の部分は、(労働時間の通算があるため)送り出す側はよくても、受け入れる側でどう管理していくかは課題ではないか」としている。同社は次のように付け加えた。
「割増賃金の通算管理はハードルが高いと思う。労働時間の通算の見直しを検討することはよいのではないか。それが実現されれば、(副業の)促進につながっていく可能性は大きいのではないか。一方、健康管理での労働時間の通算については、どのように管理していくかは、引き続きの課題だと思う」
2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況
H社は、他社から副業者を受け入れたことはない。
(ヒアリング実施日:2025年3月11日)
2026年11月号 労働組合取材の記事一覧
- 兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用 ――輸送用機械器具製造業A社
- 「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果 ――製造業B社
- 健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握 ――食品製造業C社
- 働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果 ――金融業D社
- 副業先を非雇用に限定することで、過重労働につながる副業を抑止 ――コンビニ事業E社
- 副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化 ――小売業F社
- 店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止 ――外食産業G社
- コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加 ――旅行業H社


