兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用
――輸送用機械器具製造業A社
企業ヒアリング
もともと兼業制度があったA社(輸送用機械器具製造業)では、兼業の活用が注目されていたことを背景として、2021年に社外兼業制度のガイドラインを作成し、従業員に兼業の活用を積極的に促している。非雇用・他社雇用(雇用型)の双方を認め、他社雇用の場合には、「管理モデル」を活用することで、兼業者の健康配慮にも取り組んでいる。ガイドラインを積極的に展開して以降、兼業申請は増加傾向にあり、自身のスキル・強みを兼業で生かせることで、従業員のモチベーション維持・アップにもつながっている。
1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況
ガイドラインを策定し、従業員に積極的に展開することで兼業を促進
A社の業種は、輸送用機械器具製造業(大企業)。主な事業概要として、①資源・エネルギー事業②社会インフラ事業③産業機械事業④航空・宇宙事業――の4つの事業領域がある。従業員は、職能資格制度上、事務・技術系列、技能系列で分かれているが、職種では、事務系で営業、調達、管理、人事財務、技術系で、研究開発、開発・設計、品質管理、生産技術、情報システムなどがある。技能系列(工場等)では、製造、検査などの職種がある。
A社は、もともと、就業規則上、本人の申請のうえで、兼業は認められていたが、積極的に兼業制度の活用を促すようなメッセージの発信はしておらず、兼業の実績も多くはなかった。近年、兼業の活用が注目されていたことを背景として、同社は、2021年1月に、多様な働き方への対応の必要性や、従業員の成長やイノベーションを後押しする効果への期待から、「自律的なキャリア形成や多様な働き方を会社として促進するため」、兼業制度の積極的活用を促す「兼業制度に関するガイドライン」を策定し、全従業員に展開している。
勤務に支障が出る可能性がある場合や、企業秘密漏洩、競業避止を制限事項に設定
兼業制度の目的は、①主に中堅・シニア層を対象としたセカンドキャリア形成②全従業員を対象とした自己啓発(社外での多様な経験)③副収入の確保――の3つ。対象者は、期間従業員・パート従業員を含む全従業員。一方、兼業先の契約形態は、他社での雇用(他社雇用)、受託業務(フリーランス)など、雇用・非雇用いずれも認められており制限はない。
兼業制度では、次のような制限事項が設けられている。

労働時間管理は、兼業先での就業形態が非雇用〈受託業務(フリーランス)等〉の場合は対象外だが、他社雇用の場合は、従業員の自己申告により、兼業先を含めた労働時間管理がなされる仕組みだ。
就業時間の考え方として、A社での所定労働時間は、社会保険・雇用保険の加入継続のため、週20時間以上とし、兼業先の就業時間帯について、制限事項に抵触しない限り、会社の定時外・休日、所定就業時間内ともに可能としている。ただし、留意点として、所定就業時間内に兼業を実施する場合、賃金・一時金において、その時間分が支給調整される。就業時間の時間外については、会社の勤務時間と兼業先の勤務時間が法定の範囲内に収まるように対応している。同社は、その管理方法として、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」で示されている「管理モデル」を活用している。管理モデルとは、自社と副業・兼業先の労働時間を通算して、法定労働時間を超えた時間数が時間外労働の上限規制である単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内において、各々の事業場における労働時間の上限を設定する方式のこと。
A社では、厚生労働省「ガイドライン」をふまえ、他社雇用の場合に限り、兼業者経由で兼業先の雇用主に「管理モデル通知文」を渡すこととしている。通知文では、A社での1カ月の時間外・休日労働の上限が記載され、その時間をふまえて、兼業先における1カ月間の労働時間の上限を通算して、時間外・休日労働の上限規制の範囲内に収めるよう求めている。具体的には、A社と兼業先を合計した時間が80時間に収まるように、兼業先に申請する形で同通知文は作成されている。また、通知文では、兼業先の上限の範囲内の労働時間は、兼業先から割増賃金が支払われることや、A社における時間外・休日労働の実績に基づき割増賃金を支払う旨も記載されている。なお、通知文は、兼業者本人が兼業先と労働時間管理の取り扱いを調整するもので、A社と兼業先との両企業間で合意書の形で文書を取り交わしてはいない。
兼業申請では、他社雇用の場合に労働日、労働時間を確認
兼業制度の申請手続きは、事前申請(本人→所属部門・人事部門)、内容確認(所属部門・人事部門での確認)、各種調整、兼業開始――の流れとなっている。まず、事前申請では、兼業先・業務内容、兼業先の勤務形態などの確認事項、制限事項に関する誓約書等――の項目について、所属部門・人事部門へ届け出ることになる。
次の内容確認では、所属部門・人事部門で業務内容や制限事項への抵触の可能性について、本人の申請内容を確認する。
各種調整において、必要に応じて勤務時間を確認する。A社の所定就業時間内に兼業を行う場合は、あらかじめ、短縮した所定労働時間を決定する(所定就業時間を短縮した場合は、原則として賃金・一時金の支給を調整)。他社雇用の兼業の場合は、あらかじめ、「管理モデル通知文」に沿った形で兼業先での月間の労働時間の上限を決めることになる。そして、これらの申請プロセスを経ることで、兼業が開始される。
具体的には、兼業申請では、同社のシステム上で「兼業届出書」を提出する。「兼業届出書」には、「新規・継続の別」「目的(セカンドキャリア形成、自己啓発(社外での多様な経験)、副収入の確保)」「契約形態(雇用(他社雇用)、非雇用(受託業務(フリーランス)等)」「会社名(受託先)」「所在地」「業務内容」「期間」の記載欄がある。また、雇用(他社雇用の場合)に限り、「雇用形態」「労働日(月曜~日曜)・労働時間(月あたりの時間数)」などの記載欄もある。
さらに、会社の就業時間への影響の有無として、「所定就業時間の短縮の必要(有・無)」「時間外勤務の影響(有・無)」の記載欄もあり、「有」の場合、詳細を記入する。なお、届出書には、誓約事項を遵守する旨も記載されている。例えば、「会社の就業時間中には兼業を行わず、業務をおろそかにしないこと」や「兼業により、過重業務とならないよう良好な体調を維持管理すること」「会社施設、及び会社の物品等を許可なく兼業に使用しないこと」「会社に属する情報を他に漏らさないこと」「兼業先に属する情報を会社で活用しないこと」「競業により会社の利益を害さないこと」「会社の名誉や信用を損なわないこと」「申請内容に変更が生じた場合は、速やかに会社に報告(届出)すること」――などがある。
兼業の実績は増加傾向にあり、非雇用での兼業が多い
過去1年間(2023年度)の兼業の実績は110件(システム上での申請件数の合計)。2021年にガイドラインを従業員に積極的に展開して以降、申請者は増加傾向にある。兼業申請の特徴としては、正社員が多い。兼業者の年代では、30代、40代、50代がいずれも3割弱であり、20代が1割、60代が1割弱と、年代に大きな差はみられず、年齢を問わず幅広く活用されていることがうかがえる。兼業の目的の分布では、「自己啓発(社外での多様な経験)」が6割弱と最も高い割合を占めており、「副収入の確保」は3割弱、「セカンドキャリア形成」は1割強となっている。
就いている職種は多岐にわたり、大学の非常勤講師やティーチングアシスタント、塾講師、社労士等の資格やスキルを生かしたコンサル、社会貢献活動などのケースが多い。ソフトウエア開発や翻訳、執筆活動などもみられる。大学講師など専門性を生かした兼業が多いようだ。一方、同社の場合、キャリア開発だけでなく、副収入の確保も目的に加えているが、運送や配達、販売員などの例もみられるという。雇用・非雇用の対比では、雇用は2割強であり、非雇用が8割弱で、圧倒的に非雇用が多いようだ。他社雇用の例では、塾講師やソフトウエア開発などがある。
なお、A社では、所定労働時間の下限を週20時間以上としており、フルタイムよりも少ない所定労働時間を認めているが、このような例は「多くはない」という。また、兼業先での就業時間としては、「平日の月曜日から金曜日にセカンドジョブを実施しているケースは割と少なく、休暇の時や、土曜日・日曜日(の休日)に実施しているケースが多い」との認識も示した。
非雇用、他社雇用にかかわらず、健康管理で健康診断・ストレスチェックを実施
A社では、兼業が非雇用の場合は、労働時間管理の対象外だが、他社雇用の場合には、管理モデルを活用し、法定労働時間を超える労働時間は80時間上限の枠内に収まるよう、事前に、兼業者本人を通じて、兼業先に労働時間を通知している。他社雇用の場合、兼業開始以降については、兼業者本人と上長のコミュニケーションを通じて、本人が兼業の時間数(「兼業時間」)を上長に自己申告する。具体的には、勤怠管理システムの中に、上長が閲覧できる残業管理画面があり、その画面において自己申告された「兼業時間」を記入する欄が設けられている。
また、A社の法定労働時間外の労働時間と兼業先の労働時間の通算が80時間を超える場合には、アラートが出される。さらに、非雇用、他社雇用にかかわらず、健康管理において、健康診断・ストレスチェックも実施している。
制限事項にある秘密保持や競業他社が関わっていないかを確認
A社では、兼業での競業避止義務を申請時の制限事項として定めている。同社の事業は多岐にわたることから、ガイドラインでは特定の職種、特定の会社などについて制限を設けず、所属部門・人事部門において競業避止義務に抵触していないかを確認している。
制限事項にある秘密保持や競業他社が関わっていないかは、継続で、申請更新した場合も、状況に変化がないかを確認している。「競合他社が関わってないか、制約事項を毎年申請者に伝えて、誓約をしてもらっている」という。
兼業のメリットではモチベーション維持・アップ
兼業制度のメリットを尋ねたところ、「本人自身がA社にこだわらず、兼業先でも様々なスキル能力を発揮できること、兼業先で得た知見をA社(本業)に生かせていると感じていること」をあげた。また、自身のスキル・強みを生かせることで、「モチベーション維持・アップにもつながっている例が多い」との認識も示した。同社としては、「社外兼業は人材育成の一つの制度として展開しているので、今後も従業員自身がスキル・強みを生かせる機会として継続して提供していきたい」という。
一方、課題としては、「(自社の)ガイドライン上、兼業先を含む労働時間管理は本人の申告に基づき、上長に委ねられているので、労働時間管理に関する課題はあるかもしれない」という。現状では、この点で見直しの動きはないが、「徐々に制度が広まるにつれて、社外兼業に取り組む従業員が多いという雰囲気が広まれば、上長も目を向けて、部下の労務管理をしなければならない雰囲気になるのではないか」と語った。
2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況
他社から副業・兼業者を受け入れることがあるか尋ねたところ、A社は、他社から、兼業者を受け入れたことはない、との回答だった。プロジェクト等で非雇用(例えば、コンサル等)の委任契約の形で受け入れたことがあるかについても、「ケースとしてはない。特に受け入れてほしいといったような希望も受けていない」としている。
(ヒアリング実施日:2024年11月28日)
(8社のヒアリングはすべて、奥田栄二、奥村澪、郡司正人が担当した)
2026年11月号 労働組合取材の記事一覧
- 兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用 ――輸送用機械器具製造業A社
- 「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果 ――製造業B社
- 健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握 ――食品製造業C社
- 働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果 ――金融業D社
- 副業先を非雇用に限定することで、過重労働につながる副業を抑止 ――コンビニ事業E社
- 副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化 ――小売業F社
- 店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止 ――外食産業G社
- コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加 ――旅行業H社


