健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握
――食品製造業C社
企業ヒアリング
食品製造業C社は、働き方改革の選択肢の一つとして副業制度を整備。副業制度の設計では、健康確保を重視し、自己申告により本業の時間外労働時間と副業の労働時間の合計が月45時間以内であることを確認する仕組みを取り入れた。副業促進の効果では、専門性を生かした副業や事業領域外のキャリアが出始めている点を高く評価。社内への成功事例の情報共有もしている。
1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況
働き方改革の選択肢の一つとして副業制度を整備
C社の業種は食品製造業(大企業)。事業概要は、食品・飲料等の製造販売。主な職種として、研究、生産・工場、営業、開発・マーケティング、スタッフ(財務経理、人事、広報、経営企画等)などがある。適用労働時間制度としては、フレックスタイム制度が適用されているが、製造部門やシフト制が組まれている部門では変形労働時間制が適用されている者もいる。
C社の副業制度は2019年4月に導入された。副業は許可制として認めている。就業規則等で副業を認めており、届け出があったものに対して審査をして許可を出す形だ。制度導入の経緯では、中期経営計画(2016年から3年間)の中で定義された働き方改革への取り組みが発端となっている。働き方改革では、業務効率化やワーク・ライフ・バランス推進等の取り組みがトップダウンで盛り込まれた。業務が効率化されれば、可処分時間が増加するとの観点から、従業員の意思に応じて、その時間をライフ(家族や余暇、自己研鑽等)に使えるように制度改正が検討された。その選択肢の一つとして、副業制度の整備がなされた。
同社は、副業制度の設計において、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参考にしたという。「副業に対する企業のスタンスは、どの企業も一律禁止か、曖昧だったりするなかで、(C社としても)他社の導入事例を参照することが難しかった。そういう意味では制度設計のよりどころとして、ガイドラインを参考にした」と当時を振り返る。具体的には、副業を許可制にするうえでの条件設定の検討だけでなく、「労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由である」という考え方についても、副業制度の設計の根本を考えるうえで参考になった、と語った。
同社では、制度導入に際して、ガイドラインをふまえ、現場の声を聞き、労使で検討を重ねた。そのなかでもっとも重視した点は、副業を認めることで従業員の健康維持が可能であるか、ということ。その結果、「本業と副業のトータルの時間を、従業員と会社側で把握しながら、健康で良いコンディションで双方の仕事ができるようにすること」を制度設計の前提に据えた。
健康確保の観点から、本業の時間外労働時間と副業での労働時間の合計を月45時間以内に
副業制度の対象となる従業員としては、一定の条件の下で、雇用契約、雇用形態にかかわらず全従業員に認めている。その条件とは、(1)在籍期間の条件(2)就労時間の条件――の二つ。
(1)在籍期間の条件として、調査時点において、副業の申請ができるのは、新入社員では3年目以降、中途採用の場合で入社1年目以降としている。在籍期間が当該年数に満たない場合は副業ができないことになる。これにより、入社時に副業がないことも担保される。特に新入社員については、同社でのキャリア醸成と成長を優先し、入社後3年目に満たない場合は、副業ができない。
(2)就労時間の条件としては、平均残業時間が月あたり15時間以下、年間総労働時間1,900時間未満としている。健康確保の観点からも、本業で生産性が高く働くことができる従業員層に限定する意図がある。
次に、副業の雇用形態では、雇用/非雇用いずれも認めている。例えば、自身で事業を立ち上げる場合(起業)や、アルバイト・パートでの副業も認められている。
副業先における労働時間の上限の設定では、本業(同社)の時間外労働時間と副業での労働時間の合計が月45時間以内になる範囲で仕事を行うことを要件としている。健康確保の観点から、長時間残業の健康管理基準と同水準とするため、月45時間で設定されている。
適用で必要な要件としては、職務専念義務の履行や健康配慮を定めており、秘密保持、競業避止、社内設備不使用などの禁止事項も設定している。ただし、秘密保持や競業避止の観点から、一律で同業界の副業は認めない、ということはしていない。「副業の業務内容を確認したうえで、弊社にとっての競合にあたるのかを判断している」という。その一方で、本業と副業は、明確に区別してやるべきであることから、社内設備や仕事で得た人脈の利用は禁止している。
申請書では、競業避止義務、秘密保持義務等の誓約事項も記載
副業にあたっての申請・承認の方法としては、本人が「申請書兼誓約書」(「申請書」)に副業の内容等を記載したものを上長に申請し、上長がそれを判断したうえで承認されたものが、人事部に提出され、人事部で内容を精査したうえで、人事部長の承認をもって許可という流れとなっている。
申請書には、副業の内容、副業の雇用形態、副業の勤務時間(例えば、週何日程度、月何日程度等の目安の時間)の記載欄がある。勤務時間については、定期的な副業だけでなく、スポットの副業も多いことから、申請書では「目安の時間」の記入となっている。また、申請書では、競業避止義務、秘密保持義務等の誓約事項も記載されている。
副業実績は年40件程度で安定的に推移
副業の稼動状況は、過去1年間(2023年度)の実績で42件。主な副業先としては、資格・スキル等を生かしたコンサルティングや講師、趣味を生かした教室の先生(例:手芸教室等)、飲食店等のパート・アルバイトがある。副業での仕事や形態で、特徴といえるものは特になく、「それぞれの価値観や、それぞれの強みに応じて副業をしている印象」だという。
2019年の制度導入以降の許可件数の推移では、例年、副業者が40件程度(おおよそ新規30件+継続10件)であり、大きな増減はなく安定的に推移しているイメージだ。同社では、在籍要件や就労要件、禁止事項の誓約をふまえたうえで、副業申請が出されていることから、申請されたものはほとんど許可されている。
雇用・非雇用の比率についても、副業先と雇用契約を結んだ副業者の比率は20%弱ぐらいだという。雇用の割合が比較的低いことについては、「やはりフルタイムで、(同社で)働いている人が、他の雇用契約をするくらいの時間・負荷で働くことは、なかなか難しいのではないか。非雇用だと、時間の使い方、裁量がすごく高いと思うので、やりやすい面あるのではないか」との回答だった。
自己申告で本業の時間外労働時間と副業の労働時間の合計が月45時間以内であることを確認
C社では、副業制度を利用するための条件として、平均残業時間が月あたり15時間以下、年間総労働時間1,900時間未満の就労時間基準が設けられている。就労時間の条件を年間の実績で満たした者が申請可能な仕組みであり、残業時間が比較的少ない層が副業をしていることになる。また、月単位で副業時間の実績も自己申告することとなっており、同社の時間外労働時間と副業での労働時間の合計で45時間以内となることも確認されている。労働時間の実績は上長にも報告されているため、上長は、本業(同社)の労働時間・業務負荷と、副業の労働時間の程度を把握できる。
具体的な労働時間の管理方法としては、本業(同社)の就業時間が月単位で締まった時に、翌月の月初に、前の月の副業の時間を自己申告してもらう(副業時間の実績は、上長、人事部双方に提出)。本業の就業時間については勤怠管理システム上の打刻(PCのログイン・ログオフ)をベースに記録されている。副業の労働時間の記録については、所定の書式に、同社の月単位の時間外労働時間と、自己申告による副業の労働時間が記載される。適用要件において、本業(同社)の時間外労働時間と副業での労働時間の合計が月45時間以内になる範囲となるよう定められていることから、この段階で、上限45時間に収まっているかが確認される。
割増賃金の計算、副業者の賃金の決定等の状況については、副業制度利用の在籍要件により入社後年数が経ってから副業が認められることから、同社が先の契約者になっているため、副業の労働時間を考慮した割増賃金の管理はしていない。
副業での競業避止義務は個別判断で、競業避止に抵触して不許可となる例はまれ
C社では、副業での競業避止義務を定めているが、一律的に、例えば、食品業界を禁止する等の定めは設けられていない。申請書で上がってくる副業の内容をヒアリングして、同社にとって競合になり得るのかを個別に判断しているが、副業の許可申請上、競業避止に抵触して不許可にした事例は「ほとんどない」という。
副業の成功事例を社内で情報共有することで、社員に「良い刺激」を与える
副業を認めることの効果・影響については、「やはり(副業者)本人が持っている専門性を生かせることや、(同社では)なし得ないキャリアが出てきている、というメリットはあるのではないか」という。同社では、副業者本人の意思確認をしたうえで、副業事例を同社内で情報共有している。副業事例を社内で共有することで、「良い刺激」になっているのではないか、と語った。
デメリットについては、「今のところは、あまり感じていない。(副業の適用要件では)比較的広く、制限なく広げているが、皆さん紳士的にというか、ちゃんと制度の趣旨に沿ってやっていただいているので、今のところ、いわゆる企業リスクはあまり高くないとは思う」という。
改善点については、副業制度申請の要件基準となる年間総労働時間1,900時間が適切かについての議論はあるという。同社の全体の総労働時間は、平均で1,900時間を割っているため、過半数は、副業制度の利用可能状態にある。しかし、「業務特性上、どうしても1,900時間を満たせない方も一定数いる。一方、月45時間で収めていく制度枠組みで考えると、1,900時間は高いのではないか、との議論もあることから、そのあたりはチャンスを広げるフォローをしてもよいのでは」との意見があるという。
2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況
単発プロジェクトでは業務委託(非雇用)で副業者の受け入れの可能性
C社では、雇用での他社からの副業者の受け入れはない。副業制度の在籍要件により、入社時点では副業者ではないこと(他に本業がないこと)も担保されている。
一方、非雇用については、各事業部門のプロジェクト案件などで、他社から業務請負として受け入れるケースがあることから、業務請負で受け入れた者のなかには副業者がいる可能性がある、との認識を示した。ただし、業務請負で受け入れた者が、副業者であるかについては確認をしていない。
業務委託の内容としては、例えば、単発のプロジェクト案件等で、「ウェブデザイナーにホームページのデザインを委託することや、コンサルティングみたいなことは、小さい単位でいくつかあるのではないか」という。
業務請負をしている者に対する労働時間管理については、「基本的に業務委託契約になるので、指揮監督するものではない。成果物が達成されれば、(労働時間やリモートワーク等で)何か制約を求めるものではない。基本的には、その成果物に対する契約を結んでいる、との理解だ」という。したがって、労働時間の把握はしておらず、契約で定めた成果報酬を支払っている形だ。健康管理面での措置を講じているかについては、いわゆるフリーランス新法が制定・改定されたこともあり、同法で定められている健康管理面での法対応および、周知は行っている、という。
非雇用形態の業務委託をしている者(ただし、副業者であるか確認されているわけではない)を受け入れることについては、各事業部門で必要に応じて実施されているものなのでメリットはある、という。単発プロジェクトでは業務委託はどうしても必要だという。恒常的に必要な人材であれば、業務委託ではなく雇用として採用しているが、単発プロジェクトでは必要な人材を確保するうえで業務委託という形態が適しているようだ。
フルタイム労働者が多い職場ではパート等の副業者を受け入れるニーズは低い
なお、雇用による副業者の受け入れを促進する方法について尋ねたところ、「時間外労働の通算は大きなネックになる」と答えた。自社が副業先になると、本業と副業の労働時間の通算をする必要があることがネックだという。また、同社の場合、フルタイムで働く者がほとんど(製造部門もフルタイムのシフト制がメイン)であることも、雇用による副業者の受け入れを難しくしている要素だと付け加えた。パートの短時間勤務のシフトの場合、副業者を受け入れる必要があるかもしれないが、フルタイム勤務者しかいない職場では、その勤務時間帯に働ける者を採用するニーズがあるため、パート等の短時間の副業者を受け入れるニーズが低いようだ。
(ヒアリング実施日:2025年2月3日)
2026年11月号 労働組合取材の記事一覧
- 兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用 ――輸送用機械器具製造業A社
- 「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果 ――製造業B社
- 健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握 ――食品製造業C社
- 働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果 ――金融業D社
- 副業先を非雇用に限定することで、過重労働につながる副業を抑止 ――コンビニ事業E社
- 副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化 ――小売業F社
- 店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止 ――外食産業G社
- コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加 ――旅行業H社


