働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果
 ――金融業D社

企業ヒアリング

金融業(証券会社)D社は、2020年に「多様な働き方」の選択肢の一つとして副業制度を導入。金融機関であることから、利益相反が生じ得る業務ではないことや、副業が非雇用であること等を許可条件としている。申請段階で禁止事項に抵触しないかを確認。副業者は、副業開始前・開始以降においても研修を通じて、副業制度の概要・禁止事項を学習する仕組みとなっている。副業解禁により、社員のエンゲージメント向上効果があるとの認識も示す。

1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況

働き方改革の一環として副業制度を導入

D社の業種は金融業(証券会社、大企業)。事業概要として、部門を大別すると、リテール部門(個人向け)、ホールセール部門(法人向け)の営業部門に加え、市場部門(トレーディング等)の3つに分けられる。適用労働時間制度は、フレックスタイム制や、裁量労働制などが一部の従業員に適用されている。

副業を認めたのは2020年。副業解禁の目的について、社員のスキルアップ、キャリア開発支援等をあげている。同社では、2020年に「多様な働き方」の選択肢を提供するための施策として、①週4日勤務制度②週3日勤務制度③副業制度④チャレンジ休暇制度(入社4年目以降の社員に対して、大学院進学や海外留学等のキャリアアップを図る目的で、6カ月~最長3年の休職を認める制度)――を導入した。副業解禁は、当時、社会で副業が注目され始めていた頃であったこともあり、「多様な働き方」施策の一環として導入された面がある。

副業の形態は非雇用に限定し、利益相反が生じ得る業務ではないことも明記

副業制度では、社員は会社の許可を得たうえで、勤務時間外において、他の職務を兼ね又は自己の営業を行うことができる、とされている。D社の顧客情報、社員情報、会社のリソースを利用した副業や、同社での通常勤務に支障をきたす恐れのある副業、レピュテーションリスクがある副業は禁止されており、また勤務中やオフィス内での副業も認めていない。

副業が認められている対象は、入社4年目以上の全社員(全職系・コースで申請可能)。副業として認める形態は非雇用に限定されている。副業の業務内容については、同社が金融機関であることから、同社と利益相反が生じ得る業務ではないことを条件としている。例えば、本業(金融関係)と関係のある副業は認められない。また、危険業務も認めていない。

副業の労働時間については、安全配慮のため、副業への取り組みを月30時間以内とし、副業による深夜労働(22時から5時)は禁止されている。申請書提出時に、労働時間の規定の範囲内での業務であるかの確認をとっている。

申請段階で、副業の禁止業務や非雇用であること等を確認し、研修機会を通じ禁止事項を学習

副業の申請方法は、申請書を本人が記載したうえで、所属長に提出。所属長が申請書の記載内容を本人にヒアリングしたうえで、記載内容に相違ないか確認し、人事部に提出する流れとなっている。

申請書の記載内容としては、契約体系、業務内容、報酬の有無、決まった副業先がある場合は会社名、稼働日数(週何日程度、月何日程度等)、稼働時間(週何時間程度、月何時間程度等)などがある。書式には、確認事項として禁止事項(副業が禁止されている業務内容ではないか、他社雇用ではないか等)についてのチェック欄も設けられている。

副業開始前に研修(E-ラーニング)の受講を課している。申請前研修は、制度概要や禁止事項を学習することで、制度の理解のみならず禁止事項について認識してもらう機会となっている。また、副業開始以降も、副業の対象者には年1回、研修(E-ラーニング)の受講を課している。

副業者が副業制度の概要・禁止事項を理解していることを前提に申請を許可していることから、人事部として副業の実際の労働時間数に関して確認はしていない。基本的には自己管理の形で副業を許可している状況だという。ただし、副業開始以降は、年に1度の研修機会の際に、労働時間の上限などの制約が設けられていることを念押ししている、という。

過去1年間の副業の許可実績は100件強、スキルを生かした副業など様々

過去1年間(2023年度)の副業の許可実績は100件強。副業の内容の事例としては、これまで培ったスキルを生かしたインストラクター系や大学院・セミナー講師、ウェブサイト運営事業、家業(家族関係)の役員、制作物の販売等など様々。年齢や性別も様々で特徴といえるものはない。副業の期間も様々で、長期的に続けている者もいれば、スポットの副業で都度、申請している者もいる。なお、副業の許可基準に利益相反のある副業が禁止されていることから、本業(金融)と関係がある副業は一切認められていない。

副業が非雇用の形態でのみ許可されているため、副業者の労働時間の把握はしていない。非雇用であるため、労働時間の通算(割増賃金の調整等)も不要である。副業先(企業の場合)との労働時間関連の調整もしていない。

申請段階で所属長が副業申請者の副業内容等について把握していることから、所属長が副業申請者の管理を行うことになっている。そのため、人事部として明確に副業者に対する健康管理のための措置を講じているわけではない。

金融機関として、利益相反にあたる副業の禁止はリテラシー教育の中で社員に浸透

D社は利益相反にあたる副業を認めていない。競業他社の業務ではないことが申請時の確認項目としても入っている。D社は金融機関であるため、業種的に情報リテラシーに対する意識は非常に高く、「本業に関わるようなことを副業でやってはいけない」という点は、リテラシー教育の中で社員に浸透しており、自社と近しい業界で副業をしてはいけないという意識が根づいている。

副業制度は、社員のエンゲージメント向上に効果

副業解禁以降、100件以上の申請があがっている現状から、副業制度は、「社員のエンゲージメント向上効果がある」と高く評価している。一方、副業制度の課題としては、「副業許可後、年1回の研修を実施しているが、実際に副業者と直接、副業についてやりとりをする機会は多くない。制度利用者の声の把握は今後の課題だと考えている」という。

2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況

情報漏洩、情報管理を重視している金融機関では副業者の受け入れは困難

D社は、採用に際して、他に本業を持っているかを確認することがあるかについて、採用選考時に確認をしている。同社は金融機関であり、「二重就業を禁止している観点からも本業を持っているかどうかの確認を行い、かつ副業についての確認も必ずしている」という。例えば、採用選考時に本業を持っていた場合、「入社前に辞めてもらう」という。そのため、同社は、他社で本業を持っている者を雇用労働者として受け入れることはない。

なお、非雇用(例えば、プロジェクト立ち上げ時のコンサル等の非雇用人材)としての受け入れについては、「(必要があれば)通常の業務委託の形で対応しているので、副業で受け入れるという形はないのではないか」との回答だった。副業者の受け入れについての考えを尋ねたところ、「金融機関であるため、情報漏洩、情報管理を重視している業種で、副業を受け入れることは難しい」との回答だった。

(ヒアリング実施日:2024年11月26日)