店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止
――外食産業G社
企業ヒアリング
外食産業G社は、正社員については、店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、副業・兼業は禁止している。外食産業は、店舗において繁閑の差が大きく、繁忙期に一定の残業も生じ、ヘルプも含めた柔軟な配置が必要な業界。副業・兼業が増えることは、人員配置の柔軟性を狭めることになる。一方で、同社は、自社単体で勤務時間を把握し、長時間労働になり得る者に対するアラート発信を行うことで、長時間労働の抑制に力を入れている。副業・兼業を許容した場合、自己申告による副業時間との通算管理では、長時間労働になり得る社員を事前に予測することができず、長時間労働者への配慮は困難になる、との認識も示している。
1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況
店舗での柔軟な人員配置が必須であることから副業・兼業は禁止
G社の業種は外食産業(大企業)で、多店舗展開している。事業所の形態は、店舗、工場、本社があるが、ほとんどの従業員が店舗で勤務している。従業員の雇用形態は正社員とパート・アルバイト等。正社員の適用労働時間制度は、1カ月単位の変形労働時間制。パート・アルバイトは時給制のシフト勤務。
G社は就業規則の服務規程で、会社の承認を得ないで、在職のまま他の会社などと雇用契約を締結することや、役員となることはしてはならないとし、または自ら事業を経営してはならないことなどと規定している。同社としては、副業・兼業を推奨しておらず、実態としても過去に、副業・兼業を認めたケースは無い(実態として、副業・兼業は禁止)。副業・兼業を推奨していない理由について、同社は次のように語る。
「(G社は店舗を多く運営しており、)ほとんどの正社員は店舗で勤務している。繁忙期や人手不足等から正社員に一定の残業が発生している中で、個々の正社員に残業の極端な業務過多が発生しないように、同エリア内の正社員が他店舗のヘルプで対応するなど、助け合いながら運営している。もし副業・兼業を積極的に推奨してしまうと、副業・兼業者に対してヘルプでの調整配置が困難になる等、現場が回らなくなる可能性があるため、推奨していない」
外食業界は、店舗において繁閑の差が大きく、繁忙期に一定の残業も生じ、ヘルプも含めた柔軟な配置が必要であることから、自社内で副業・兼業が増えること自体が、人員配置の柔軟性を狭めることにつながるため、副業・兼業は推奨していないようだ。一方、非正社員は、副業・兼業について、就業規則で定めていない。実態として、パート・アルバイトについては、副業・兼業者がいる可能性はあるが、その把握はしていない。
2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況
正社員の副業・兼業は禁止であり、採用段階で他に仕事がある者は採用対象外
採用時に他に本業を持っているかを確認することがあるかについて尋ねたところ、正社員については本業の有無を確認している、との回答だった。採用後は副業・兼業は認められないため、本業を持っている者は採用対象ではない。そのため、採用者には本業がある者はおらず、また、副業・兼業も実態として禁止されていることから、正社員として副業・兼業者を受け入れていることはない、としている。
他の仕事を持つ人をパート・アルバイトとして雇っている可能性はある
一方、非正社員の採用に際して、他に本業を持っていないかを確認しているかについては、「雇い入れ時に本業があるかどうかを確認していないのでわからない」との回答だった。ただし、パート・アルバイトで他に収入がある者(他に主たる勤務先がある者)の場合は、扶養控除(異動)申告書の税区分乙欄で申請されていることから、「乙欄で申請登録をしている非正規の方はいるので、そういう方は他で収入があるんだなっていうことは、認識している」という。
本業や他の仕事を持つ人をパート・アルバイトとして雇っていることはあり得るとしつつも、例えば他に仕事(本業等)をしているかの確認はしておらず、それゆえ、労働時間の通算や健康管理のための措置もしていない。ただし、他社で就業をしており、G社の労働時間について残業申請の自己申告があった場合は、残業代の支払いをしている。なお、実態上は、複数就業による残業申請の申し出はめったにない、という。
副業・兼業者の受け入れは、労働時間の通算管理が前提となり、副業・兼業者の採用は困難
副業・兼業者の受け入れに関する課題について尋ねたところ、労働基準法の労働時間の通算管理規定について、「全員に対して通算管理をして、自己申告をもとに払いなさいというのは現実的に難しい」と指摘した。副業・兼業者を採用すると、通算管理をする前提になるので、割増賃金を含めた給与の負担をしなくてはならないため、採用が難しくなるようだ。そのため、通算管理規定の撤廃を求めた。通算管理が撤廃されれば、「社会人の副業先として、(G社としても)採用が増えるのではないか」としている。同社は次のように語った。
「本当に通算管理は撤廃していただきたいです。それによって、今、働き方を抑制している方がいるし、(企業からみても)本当であれば採用したいところを通算管理があって、本業がある人は2割5分のプラスの賃金を払えないので採用できない、ということになる。通算管理がなくなれば今まで採用できなかった本業のある人を採用できる。(複数就業の労働時間管理は)自己責任という考えになれば、特に非正規の方に対して、副業・兼業を気にせず『社会人の方大歓迎』と言って、求人募集できる」
自己申告による残業時間の通算、健康管理面での労働時間の通算管理は困難との認識
なお、G社は、残業時間の通算だけでなく、健康管理面での労働時間の通算管理についても自己申告に基づく場合の通算の困難性をあげている。「健康管理についての労働時間の通算については、結局、自己申告に頼る以上は把握できないのではないか」との認識である。過重労働による従業員からの申し出があった場合には会社として産業医との面談など必要な措置を講ずることはできるが、自己申告による労働時間の通算をもって、長時間労働に対する配慮をすることは、困難との考えである。
同社は、正社員の労働時間管理について、健康管理の観点から60時間超、80時間超の労働時間になる社員に対してアラート発信を厳密に行っている。例えば、「今のペースで働くと、60時間超、80時間超になる」社員に対して、事前にアラート発信することで、労働時間抑制の配慮ができる仕組みだ。その意味では、同社単体では勤務時間の把握と長時間労働になり得る社員への配慮ができている。しかし、副業者の他社の分の労働時間を通算するとしても、自己申告では、労働時間を通算して事前に長時間労働を予測し、長時間労働となる社員に労働時間の配慮を行うことは難しい、との考えのようだ。
(ヒアリング実施日:2025年2月7日)
2026年11月号 労働組合取材の記事一覧
- 兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用 ――輸送用機械器具製造業A社
- 「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果 ――製造業B社
- 健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握 ――食品製造業C社
- 働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果 ――金融業D社
- 副業先を非雇用に限定することで、過重労働につながる副業を抑止 ――コンビニ事業E社
- 副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化 ――小売業F社
- 店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止 ――外食産業G社
- コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加 ――旅行業H社


