「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果
――製造業B社
企業ヒアリング
製造業B社は、「ジョブ型人財マネジメント」の一環として、2024年に副業制度を本格導入。常勤者に対して非雇用型の副業を許可制で認めた。申請段階で副業の活動時間の目安を示し、上長・申請者間のコミュニケーションを通じて、過重労働にならない副業のみを許可する仕組みを構築した。副業の活動時間を勤怠管理システム上で日々登録する運用にも取り組んでいる。制度導入以降、副業を活用することで、労働者本人の育成、キャリア開発面での効果を実感している。
1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況
「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入
B社は、製造業(大企業)。主な事業概要として、IT系のシステム関係等、電力、鉄道等、産業系の様々な製品をシステムでつなぐ事業の3つの柱で幅広く事業を展開している。職種は、研究開発、設計開発、システムエンジニア(SE)、品質保証、生産技術、調達、生産管理、営業、人事、経理など様々。全従業員のうち、間接部門(オフィス系)に95%が配属され、残り5%が直接部門(製造系)に配属されている。適用労働時間制度としては、間接部門(オフィス系)のほとんどにフレックスタイム制度が適用されている。そのほか、専門型裁量労働制(研究開発(R&D)やSEの一部)、企画型裁量労働制(管理系の一部)の適用者もいる。職種によっては月単位の変形労働時間制が適用されている者もいる。
同社は、2021年には管理職を対象として、「ジョブ型人財マネジメント」の基盤となる「ジョブディスクリプション」(Job Description:職務記述書)を導入。2022年から一般社員に対象を広げている。「ジョブ型人財マネジメント」とは、職務の範囲を明確化し、その仕事に人を割り当て、仕事の内容や遂行状況に応じて待遇などを決めるもの。
B社は、ジョブ型の制度導入の一環として、社内副業制度、および社外副業制度を導入した。ジョブ型は、職務を明確にすることで、ジョブに応じた配置をすることに主眼があるが、その半面、それぞれのポジション・職務や必要なスキル・経験を明確にした後は、働く本人が、自分がやりたい仕事に向けて、自律的に能力開発をしていくことが重要となってくる。自律的なキャリア形成をするうえで、会社側がサポートする施策の一つが社外副業制度(以下、「副業制度」)ということになる。
自律的なキャリア形成を促進するため、常勤者に非雇用型の副業を許可制で認める
副業制度は、2023年10月に試行導入を開始し、2024年10月に正式導入した。副業制度の対象は全社員(休職期間中および就業制限がある者は対象外)。雇用区分によらず常勤者については、許可制で非雇用型の副業を認めた。ただし、有期契約社員等の非常勤者は、非雇用・雇用型双方を許可制で認めている。
副業制度導入のコンセプトの一つは、同社の事業領域以外での課題解決、地域・社会貢献活動等の新たな挑戦機会を広げ、自律的なキャリア形成や成長を促進するとともに、その副業で得られた成果を本業に還元してもらい、さらには、エンゲージメント向上につなげること。二つめのコンセプトとして、働き方改革の下で柔軟な働き方を推進していることから、副業を認めることで、自社(本業)・副業先いずれにおいても、自律的な働き方を促すことも目的としている。
常勤者について、雇用型の副業を認めない理由は、雇用型の場合、副業先の指揮命令下に入ることになり、副業先に拘束され、直接指示を受けることにより、過重労働となり健康面が阻害されてしまう可能性があること。また、本業で対応してもらいたいタイミングで下命ができないなど、本人にとっても、働き方が制限されるケースが想定されることも理由だ。間接部門(オフィス系)では、フレックスタイム制、裁量労働制という柔軟な働き方の適用者がいることから、同社の仕事をしていないタイミングで、自ら時間を選択できる非雇用型の副業をすることで、本業、副業いずれにおいても、自律的な働き方が可能になる仕組みだ。
一方、非常勤者には雇用型も認めている。同社で就業していない日があることから、就業日以外であれば、雇用型の副業(副業先(会社)の指揮命令下にある副業)をすることを妨げるものではないことと、同社での労働時間が限定的であり、本業への支障(特に過重労働)リスクが低いと判断されることから、非常勤者に対しては、雇用型も認める制度設計となっている。
制限事項には、競業避止義務、機密情報漏洩の禁止も盛り込む
副業の申請方法としては、社内システム上で、本人が申請書を記載したうえで、職場上長に提出・承認を得て、管理部門でチェックするフローとなっている。申請書では、B社における勤務形態、副業先の名称(会社名・団体名)、副業を行う目的・理由、副業先での勤務形態、副業先での業務(活動)内容、副業先での業務頻度(1週間あたり7~8時間の目安)、副業先での主な活動時間、副業先での契約期間などの記入欄がある。申請段階で活動内容、活動期間、活動時間を明確化するのは、上長・申請者間のコミュニケーションにより、過重労働になり得る副業を洗い出し、健康確保の観点から問題のない副業のみを承認するためだ。
また、申請書には、副業を行うにあたっての確認・誓約事項のチェック欄も設けられている。具体的には、①副業の活動目的・内容等について、事前に上長とコミュニケーションを行い、上長の理解を得ていること②B社における職務専念義務を果たすこと③副業の活動時間は、日々、勤怠管理システムで申請・登録すること④副業先・内容は同業他社や取引先にあたらず、競業避止の観点から問題がないこと⑤B社の名誉、信用を毀損する活動は行わないこと⑥「機密情報管理規則」を遵守し、B社の機密情報および副業先で得た機密情報を漏洩しないこと⑦B社の会社資産(会社備品、技術、ノウハウ、情報、従業員であることの身分、等)を流用しないこと⑧健康確保・本業への支障・競業避止・機密情報管理の観点から問題があると上長や管理部門が判断した場合、副業を中止すること⑨休職または就業制限の状態になった場合、副業を中止すること――の9項目。
副業の活動時間は、勤怠管理システム上で日々登録する運用
勤怠管理システムでは、副業の活動時間の項目が設けられており、副業の活動時間を自己管理するためにも、日々登録する運用となっている。同システム上の副業の活動時間は上長も閲覧可能であるため、本業の労働時間と副業の活動時間の合計が長時間になった場合は、本人の申し出に基づき長時間残業健診として産業医面談の案内をするなどの運用もしている。
副業の活動時間、健康管理は、労働組合との協議のなかで、過重労働にならないための措置として、適切に履行するよう要望があった事項でもある。これにより、導入時の制度設計においても、副業の活動時間の目安を定め、ガイドラインを策定することや、勤怠管理システムを改修することで副業の活動時間を本人が自己申告できること等の仕組みが整備された。
副業制度導入以降、副業申請は増加傾向
副業の承認状況(2023年10月導入時点~2024年3月まで実績)は115件。制度導入以降、申請は増加傾向にある。最近では月20件ほど新規で申請があるイメージ。副業者の年代では、30代が3割強、50代が3割弱、40代が2割弱の順で割合が高く、60代が1割強、20代が1割弱となっており、年齢を問わず幅広く活用されていることがうかがえる。
主な副業先は、民間企業が半数弱(例:コンサル業や企画業等の業務委託を請け負っているケース)、非営利団体等が2割弱(例:講師等)、大学等(講師、研究開発等)が1割強、官公庁等(防災・地域支援等)が1割弱あり、個人(個人事業主等)も2割弱ある。業務委託内容としては、コンサルや研究開発(R&D)が多いという。
雇用型副業も認めている非常勤者の副業の実績は1人。副業先(業務内容)は、非営利団体の事務。B社では週3日勤務、副業先では週2日であり、双方合わせるとフルタイムの日数になるイメージだ。B社では、申請段階で、非常勤者の副業(雇用型)申請者に対して、労働時間の通算で割増賃金が生じること等の法的ルールを伝えている。そのうえで、本業と副業を合計してフルタイムの労働時間に収まるように、本人を通じて、副業先との間で労働時間の契約調整をするよう促している。実際の労働時間についても、本業の労働時間、副業の労働時間の通算について、本人が自己管理し、割増賃金が生じた場合には、本人がB社、副業先等の残業発生先に申請する形だ。
副業の活動時間で週7~8時間の目安を示すことで、副業者の意識が向上
労働時間面では、過去1年間の実績でみて、副業先の活動時間は35時間以下がほとんどを占め、申請段階で示している週7~8時間目安の枠内に収まっている。B社の時間外労働(健康管理時間)と副業の活動時間との通算でみても、45時間未満が8割弱を占め、45~80時間未満が2割となっており、80時間以上はほとんどいない。
本業・副業を含めても長時間労働者がいないことについて尋ねたところ、勤怠管理システムで、副業の活動時間を自己申告する仕組みにより、副業者が労働時間の上限を意識して働いていること、もともと申請段階で、週7~8時間目安に基づいて申請・承認しているため、過重労働になるような副業が承認されていないことがあげられる、という。
また、B社では、健康管理の措置として、単月総計で80時間を超える層に対して、産業医面談などの健康確保措置をとっている。本業の労働時間と副業の活動時間の通算で80時間超になった場合も、健康指導の対象である。ただし、単月総計で80時間を超えるケースはほとんどない。
制限事項にある競業避止義務を確認
副業制度では、競業避止義務が定められており、申請書(宣誓事項)においても重要な要件となっている。非雇用型(業務委託等)の副業では、コンサルや研究開発(R&D)関連の業務が多いが、利益相反にあたる一定の危険・リスクがあるケースについては、申請段階で副業が許可されないこともある。B社は事業領域が広く、副業の業務内容が競業に当たる場合があり得る。そのため、申請段階で、競合の危険性がある副業についてチェックし、その危険性が高いと副業の許可申請が承認されることはない。
自律的に働き、成果を出すことで本業にもメリット
副業制度の効果として、B社は、社会イノベーション事業で新しい価値を提供する人材を求めているなかで、事業領域以外(社会貢献を含む)においても、自律的に働き、成果を出すことで本業に生かせるメリットがあると考えている。また、労働者本人の育成、キャリア開発という観点からも大きなメリットがある、という。
一方、デメリットとしては、副業が増えていく過程で、事業領域がバッティングすることで、競業避止、利益相反のチェック案件が多くなる可能性をあげている。
また、労務管理面では、業務委託型といえども、健康管理の確保について課題があることも付け加えた。そもそも、B社が雇用型ではなく非雇用型を選択した理由は、自社の社員が副業先(雇用型)の指揮命令下に入ると、その分、労務管理がより難しくなる、という点にある。非雇用型で自律的に働けているのであれば、自己管理もでき、B社の勤怠管理システムに副業の活動時間を登録してもらうことで、B社としても、健康管理面の危険について一定の判断・対処ができる。しかし、雇用型であれば、副業先に対して指示は出せないため、労務管理面では、雇用型のほうが難しくなる。
労基法の通算規定と雇用型との関係では、雇用型を対象から除いている理由のメインは、副業先の指揮命令下に入ることによる労務管理の難しさにあるとしつつも、通算規定も労務管理を難しくしている、との認識も示した。「(現行の)通算管理は、包括的な管理であれば、非雇用型だとできるが、雇用型だとやはり1分単位で把握しなくてはならない。ある意味、本人の実績申告に委ねるしかないのだが、そこの管理は難しくなってくる、と思う」という。
2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況
企業間提携による相互副業を実施し、非雇用(業務委託)による副業者を受け入れ
B社は、企業間提携による相互副業として、他社から非雇用(業務請負契約)での副業者を受け入れたことがある。B社とZ社(製造業)との間で、2024年に、相互に社員の副業を受け入れた。新規事業創出や研究開発の分野を対象として、プロジェクトを実施している。副業の実施期間は3カ月間(本調査時点でいずれも終了)。社外での成長機会を会社が提供することによる社員のエンゲージメント・キャリアオーナーシップの向上や、会社と社員の持続的な成長につながる新たな副業のあり方の検証目的に、先行的に取り組んだ形だ。
案件ごとに、B社がZ社に送り出す場合もあれば、Z社からB社に受け入れる場合もある。いずれも非雇用(個人の業務委託)である。実施前に、B社、Z社の企業間で、業務の範囲や競業避止、秘密保持、セキュリティ等で詳細な企業間契約を締結している。契約書については、研究開発の知財部門も交えチェックを加え、両企業間で調整もしている。当該プロジェクトの人選については、B社送り出しの場合、プロジェクト案件を対象部門内での公募にかけ、応募者の中からZ社の副業先が対象者を選定している。
報酬については、副業先から副業者へ直接支給。活動時間は、通常の副業と同様、1週間で7、8時間(目安)としている。非雇用であることから、労働時間の通算や割増賃金は発生しない。B社では、通常の副業と同様、副業の活動時間は勤怠管理システム上で、日々、自己申告で記録されている。また、本業の労働時間と副業の活動時間の通算で80時間超になった場合は、産業医面談を受けることができるが、単月総計で80時間を超えるケースはない。
非雇用の副業者の受け入れは、専門領域や企業文化が異なる視点が得られて有益
副業者を受け入れたメリットについては、受け入れた職場の担当者からも、「非常に有意義だった」との高い評価を得ているという。専門領域や企業文化が異なる視点から得られる提案・知見・アイデアは有益、との評価だったようだ。
課題としては、技術上、他社社員の受け入れ困難な部分(技術情報の流出、セキュリティ管理等)について、事前に企業間の契約書で調整したうえで実施しているが、これはB社、Z社が同じ製造業であっても、事業領域が異なる部分があったために履行できた面が大きいという。これが同業種で競業の部分が多い場合、副業者の受け入れは困難だろうとの認識も示した。
(ヒアリング実施日:2024年11月26日)
2026年11月号 労働組合取材の記事一覧
- 兼業先で他社雇用も認め、労働時間管理では管理モデルを活用 ――輸送用機械器具製造業A社
- 「ジョブ型人財マネジメント」の一環として副業制度を導入し、自律的なキャリア形成に成果 ――製造業B社
- 健康確保の観点から自己申告により月単位で副業時間を把握 ――食品製造業C社
- 働き方改革の一環として副業制度を導入、社員のエンゲージメント向上に効果 ――金融業D社
- 副業先を非雇用に限定することで、過重労働につながる副業を抑止 ――コンビニ事業E社
- 副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化 ――小売業F社
- 店舗での人員配置の柔軟性を確保する観点から、正社員の副業・兼業を禁止 ――外食産業G社
- コロナ禍を背景に収入補償のため副業のルールを明確化。近年、スキルアップ目的の副業も増加 ――旅行業H社


