副業推奨の社会的時流に対応し、パートタイムでの副業の許可申請を制度化
 ――小売業F社

企業ヒアリング

パートタイムにもともと副業を認めていたF社(小売業)では、副業促進を求める社会的な時流に合わせる形で、2016年にパートタイムの就業規則に副業に関わる規程を追加し、副業の許可申請を制度化した。副業で生じる事務処理の複雑化にも対応できるよう労務担当者への研修を実施している。

1.自社が副業・兼業者を送り出す場合の状況

2016年にパートタイムの就業規則に副業に関わる規程を追加し、副業の許可申請を制度化

F社の業種は小売業(大企業)。小売店舗をチェーン展開している。従業員のほとんどが店舗で勤務している。従業員の雇用形態はフルタイム正社員(週40時間勤務)とパートタイム(週40時間未満)で分かれている。正社員の一部(管理職以上)に年俸制正社員がいる。

パートタイムは、週20時間以上勤務できることが採用条件となっている。平均的には週30時間前後の勤務の者が多い。本社は通常の勤務時間管理だが、店舗はシフト制(完全週休2日制)となっている。

F社は、フルタイム正社員(週40時間勤務)については副業を原則禁止にしている。一方、パートタイム(週40時間未満)については、もともと副業を認めていたが、2016年にパートタイムの就業規則に副業に関わる規程を追加している。改定した理由は、「(社会的に、)副業がトピックとして話題になってきたため」。社会的な時流に合わせる形で、就業規則に規定した形だ。

禁止事項として、労務提供上の支障があるときや競業他社の副業禁止を明記

パートタイムの就業規則では、「兼業・副業時には申告するものとし、F社以外での勤務時間を申告するものとします。労務提供上の支障があるとき、就業により、F社の正当な利益を害する場合には、兼業・副業禁止、または制限する可能性があります」などと記載されている。禁止規定として、企業秘密保持や競業避止についても規定がある。そのため、同社では、「競合他社」での副業を禁じている。

禁止事項として、副業先として「競合他社以外」としていることから、競合他社にあたるような小売業での副業は禁止である。競合他社を禁止している理由は、秘密保持の観点があるため。副業先の就業形態について特段に定めはない。副業先における労働時間の上限を設けているかについても、特に定めはない。F社のシフト管理・勤務スケジュールの下で、それ以外の時間帯について副業で働くことを認めている形だ。

副業に当たっての申請については、「兼業・副業に関する届け出 兼 誓約書」(以下、「申請書」という)を設けている。申請書には、副業先の社名、住所、従事する内容、職務内容の記載欄がある。

副業先は外食産業の店舗店員や飲食店(自営)の家族従業員など様々

過去1年間(2023年度)の副業の件数は45件。これは、複数の会社で社会保険に加入する場合に要する「健康保険・厚生年金保険被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」の手続きで把握できた件数だ。副業者が申請書をすべて提出しているわけではないことから、実際は他にもいるかもしれない、との認識だった。

副業先としては、外食産業の店舗店員や飲食店(自営)の家族従業員、倉庫内のピッキング作業、塾の先生など様々。

パートタイムの採用時に自社をメインとして働いてもらう旨を確認し、副業での注意喚起も

F社は、パートタイムの雇用では、主として同社で働いてもらうこと(週20時間以上勤務)を前提としている。繁忙期であれば週35~36時間、閑散期であれば週25~26時間働くイメージだ。その半面、副業先で何時間働いているかまでは把握していない。副業先(企業の場合)との労働時間関連の調整もしていない。

パートタイムの採用時には、応募者に対して、F社をメインとして働いてもらう旨を必ず説明しているという。同社は採用時の求職者に対する説明プロセスを次のように語る。

「パートタイムの方を雇用するときには、『兼業・副業もちろん大丈夫です』と伝える。ただし、小売業で完全シフト制で動くので、必ず(F社を)メインとして働いてほしい、(副業先では)それ以外の時間で働いていただきたい(と、求職者に伝える)」

また、同社は、採用時には、他社での副業が想定される場合(F社が本業の場合)、副業先において、労働基準法上、労働時間を通算して週40時間超では残業が発生することについて、応募者に必ず説明する、という。とはいえ、応募者は、副業先において通算で残業が生じ得ることを理解していない者が多い、との所感も示した。そのため、副業先で残業代が生じ得ることだけでなく、健康管理面においても、各自の自己責任において、労働時間の把握をするように伝えている、と語った。

健康診断を実施することで、副業者の健康管理を実施し、要検査者に対する受診勧奨も

副業者の健康管理のための措置については、副業者に限ったことではないが、パートタイムを含め全従業員に対して、毎年1回健康診断を実施している。深夜勤務者に対しては、年に2回目の健康診断も実施している。これにより健康管理の把握はできている。診断結果により要再検査になった者に対しては、病院の受診も勧めている。

副業推奨の政策が進むなか、副業で生じる事務処理に対応できるよう労務担当者への研修を実施

副業を認めることの課題について尋ねたところ、「国の政策においてダブルワークが推奨されているが、社会保険の手続きが煩雑にならないようにしてほしい」との意見があった。副業している従業員に対する事務処理を適切に行う必要性が増していることから、給与担当者、社会保険料の労務担当者に対しては、F社として、年1回のオンライン研修を実施している。手続き上の事務処理の負担が増えているため、副業を認めることのメリットについては感じられない、と語った。

2.他社から副業・兼業を受け入れる場合の状況

パートについては他社で働いている副業者が店舗にいる可能性はあるとの認識

正社員採用時に、他に本業を持っているかを確認することがあるかを尋ねたところ、正社員、パートタイムいずれも、本業の有無を確認している、と回答した。

正社員の場合、仮に、面接時に本業を持っていることがわかれば、「他社で働いている方を雇用することはできないとはっきり説明する」という。そのため、正社員については、採用時に本業の有無を確認しており、他にメインの仕事を持っている者(他社で正社員で働いている者)はいない。

また、パートタイムについても、同社をメインとして働いてもらうこと、シフトが組めることが前提となっており、「例えば、相手先企業(副業先)の勤務が『木、金、土なんで、ここは働けません』みたいな方がいる場合には、採用は控え、不採用とすることもある」という。F社は、小売業であるため、シフト管理や勤務スケジュールが必須の要件であり、それに対応できる人材を確保する観点から、採用時に他に雇用されているかを確認し、F社で働くことを本業(メイン)にできる者のみを採用しているようだ。また、副業者の許可基準に「競合他社以外」とあることから、把握されている範囲において、競合他社(小売業他社)で働いている者は採用対象ではない。

非正社員として副業・兼業者を受け入れていることがあるか尋ねたところ、パートタイムについては、F社をメインとして働ける者が採用されていることを前提として、他社で非正社員で働いている副業者が店舗にいる可能性はあるとの認識である。ただし、副業者の許可基準に「競合他社以外」があり、競合他社は採用対象ではないことから、把握されている範囲において、競合他社(小売業他社)からの副業者はいない。なお、これまでに副業者から労働時間通算で、F社に対して残業代の請求を求められたことは1度もない、としている。

副業者の受け入れの課題について尋ねたところ、F社では、採用面接時、パートタイムに対しては、シフト管理や勤務スケジュールにおいて、柔軟な働き方に対応できる者のみを採用しているため、副業者であったとしても、特段の問題はない、との回答だった。一方、労基法の労働時間の通算規定については、「国が兼業・副業を推奨するようになっているが、(副業先も含めた労働時間を)どうやって把握をするのか」と指摘。副業を含めた労働時間を自己申告で把握することについても困難との認識も示した。

(ヒアリング実施日:2025年2月20日)