「精神障害」の労災支給決定件数が6年連続の増加
――厚生労働省の2024年度「過労死等の労災補償状況」
国内トピックス
厚生労働省が6月25日に公表した2024年度「過労死等の労災補償状況」によると、労災請求件数は、「脳・心臓疾患」に関する事案で対前年度比7件増の1,030件、「精神障害」に関する事案で同205件増の3,780件と、ともに増加した。「精神障害」での支給決定件数は6年連続の増加となっている。
労災請求件数は「脳・心臓疾患」と「精神障害」合わせて4,810件
厚生労働省は、2024年度に過重な仕事が原因で発症した「脳・心臓疾患」や、仕事による強いストレスが原因で発病した「精神障害」の状況について、労災請求件数や労災保険給付の支給決定件数をとりまとめた。
それによると、「脳・心臓疾患」「精神障害」を合わせた、いわゆる過労死等による労災請求件数は4,810件で、前年度に比べ212件増加している。支給決定件数は1,304件で、同196件の増加となっており、うち死亡・自殺(未遂を含む)の件数は、同21件増加の159件だった。
「運輸業、郵便業」の件数が特に多い脳・心臓疾患事案
「脳・心臓疾患」に関する事案の請求件数の詳細をみると、請求件数は1,030件で前年度(1,023件)に比べ7件増加し、うち死亡件数は255件(前年度247件)だった。支給決定件数は241件で、前年度(216件)より25件増加しており、うち死亡件数は67件(同58件)となっている。請求件数および支給決定件数は、3年連続で増加している(図表1)。
図表1:「脳・心臓疾患」の請求件数、支給決定件数の推移
(公表資料から編集部で作成)
これを業種別にみると、請求件数は「運輸業、郵便業」が213件(同244件)で最も多く、次いで「卸売業、小売業」が150件(同135件)、「建設業」が128件(同123件)、「サービス業(他に分類されないもの)」が117件(同119件)、「製造業」が100件(同89件)などとなっている。
支給決定件数では、「運輸業、郵便業」が88件(同75件)にのぼり、以下、「宿泊業、飲食サービス業」が28件(同25件)、「製造業」が24件(同16件)などと続く。
業種をさらに中分類までみると、請求件数、支給決定件数ともに、「道路貨物運送業」(請求:155件、支給決定:76件)が最も多い。
請求件数では次いで「その他の事業サービス業」(81件)、「社会保険・社会福祉・介護事業」(58件)、「総合工事業」(57件)などが多く、支給決定件数では次いで「飲食店」(19件)、「その他の事業サービス業」(12件)などが多くなった。
職種は請求件数、支給決定件数ともに「輸送・機械運転従事者」がトップ
職種別にみると、請求件数では多い順に「輸送・機械運転従事者」で177件(前年度200件)、「専門的・技術的職業従事者」で149件(同156件)、「サービス職業従事者」で136件(同135件)、「販売従事者」で117件(同92件)となり、いずれも100件を超える。
支給決定件数では「輸送・機械運転従事者」が75件(同67件)で最も多く、以下、「サービス職業従事者」が34件(同29件)、「専門的・技術的職業従事者」が32件(同22件)、「管理的職業従事者」が24件(同21件)などと続く。
職種を中分類までみると、請求件数、支給決定件数ともに、「自動車運転従事者」(請求:163件、支給決定:72件)が最多。請求件数では次いで「商品販売従事者」(66件)、「一般事務従事者」(58件)などが多く、支給決定件数では次いで「飲食物調理従事者」(15件)、「接客・給仕職業従事者」および「法人・団体管理職員」(ともに14件)などが多くなった。
さらに年齢別にみると、請求件数では多い順に「50~59歳」で411件(前年度404件)、「60歳以上」で348件(同363件)、「40~49歳」で213件(同203件)などとなっており、40歳以上が全体の9割以上を占める。支給決定件数は「50~59歳」が129件(同96件)で100件を超え、「40~49歳」が60件(同53件)、「60歳以上」が44件(同54件)などと続く。
時間外労働時間の傾向をみると、支給決定件数は「評価期間1カ月」では「100時間以上~120時間未満」が18件(同24件)で最多、「評価期間2~6カ月における1カ月平均」では「80時間以上~100時間未満」が63件(同54件)で最多となった。
精神障害事案で請求件数・支給決定件数が最も多い業種は「医療、福祉」
「精神障害」に関する事案の請求件数を詳細にみると、請求件数は3,780件で前年度(3,575件)より205件増加し、うち未遂を含む自殺の件数は202件(前年度212件)だった。
支給決定件数は1,055件で、前年度(883件)から172件増加して1,000件台にのぼっており、うち未遂を含む自殺の件数は88件(同79件)だった。請求件数は4年連続、支給決定件数は6年連続で増加している(図表2)。
図表2:「精神障害」の請求件数、支給決定件数の推移
(公表資料から編集部で作成)
これを業種別にみると、請求件数は、「医療、福祉」が983件(同887件)で最も多く、次いで「製造業」が583件(同499件)、「卸売業、小売業」が545件(同491件)などとなっている。支給決定件数でも「医療、福祉」が270件(同219件)で突出して高くなっており、以下、「製造業」が161件(同121件)、「卸売業、小売業」が120件(同103件)、「運輸業、郵便業」が110件(同101件)などと続く。
業種を中分類までみると、請求件数、支給決定件数のどちらも、「社会保険・社会福祉・介護事業」(請求:589件、支給決定:152件)が最多で、「医療業」(請求:389件、支給決定:118件)が2番目に多く、「道路貨物運送業」(請求:145件、支給決定:69件)が3番目に多くなっている。
職種では請求件数・支給決定件数ともに専門的・技術的職業従事者が最多
職種別にみると、請求件数は「専門的・技術的職業従事者」が1,030件(前年度990件)で最も多く、次いで「事務従事者」が796件(同782件)、「サービス職業従事者」が556件(同579件)、「販売従事者」が453件(同352件)などとなっている。
支給決定件数は「専門的・技術的職業従事者」が300件(同259件)で最も多く、以下、「サービス職業従事者」が182件(同126件)、「事務従事者」が160件(同154件)などと続く。
職種を中分類まで詳しくみると、請求件数、支給決定件数のどちらも、「一般事務従事者」(請求:577件、支給決定:97件)が最多で、「保健師、助産師、看護師」(請求:242件、支給決定:70件)が2番目に多い。
さらに年齢別にみると、請求件数では多い順に「40~49歳」で1,041件(前年度953件)、「30~39歳」で889件(同847件)、「50~59歳」で870件(同795件)、「20~29歳」で733件(同779件)となり、いずれも700件を上回り、20~50歳代で全体の9割以上を占めている。
支給決定件数も同様に20~50歳代で全体の9割以上にのぼっており、多い順に「40~49歳」が283件(同239件)、「30~39歳」が245件(同203件)、「20~29歳」が243件(同206件)、「50~59歳」が225件(同190件)となっている。
時間外労働時間別(1カ月平均)の傾向をみると、支給決定件数は「100時間以上~120時間未満」の74件(同55件)が最多で、「40時間以上~60時間未満」の70件(同35件)が次いで多い。
支給決定件数の内訳を、発病に関与した事象別に類型化すると、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が224件(同157件)と最も多く、以下、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」が119件(同100件)、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」が108件(同52件)、「セクシュアルハラスメントを受けた」が105件(同103件)などと続く。
裁量労働制対象者の「精神障害」の支給決定件数は4件
2024年度の裁量労働制対象者にかかる支給決定件数は、「脳・心臓疾患」が4件(同3件)、「精神障害」が4件(同6件)だった。それぞれ内訳をみると、「脳・心臓疾患」は専門業務型裁量労働制対象者が3件、企画業務型裁量労働制対象者が1件となっており、「精神障害」はいずれも専門業務型裁量労働制が対象者だった。
また、複数業務要因災害にかかる支給決定件数は、「脳・心臓疾患」が6件(同5件)、「精神障害」が2件(同4件)だった。
(調査部)
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