女性活躍推進法の10年間延長を提言
――厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が報告書をまとめる
国内トピックス
今後の女性活躍推進の方向性やハラスメント対応の方向性について検討していた厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」(座長:佐藤博樹・東京大学名誉教授)は8月8日、報告書をとりまとめ、公表した。2025年度末までの時限法であるいわゆる「女性活躍推進法」について報告書は、女性活躍の施策の効果があらわれるまでには一定の期間が必要だとして、10年間期限を延長することが適当だと提言。認定企業数が「くるみん」に比べ半分程度にとどまる「えるぼし」について、現行の認定プロセスでは評価できない積極的な取り組みも評価できるような仕組みの検討を提案した。
<検討会設置の背景>
「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)は2015年、職業生活において女性の活躍推進の取り組みを着実に進めるため、民間事業者と国・地方公表団体などが果たすべき役割を定める法的枠組みをつくることを目的として、2025年度末までの時限立法として制定された。
2019年の法改正では、自社の⼥性の活躍に関する状況に関して、状況把握や課題分析を促す「一般事業主行動計画」の策定義務を常用雇用労働者101人以上の事業主に拡大(それまでは301人以上)。また、2022年7月には、常用労働者数が301人以上の企業について、男女賃金差異の情報公表の義務化も行った。
これらの取り組みにより女性の活躍は徐々に進みつつあるものの、女性の正規雇用比率や女性管理職比率、男女間賃金格差などにおいて課題が依然として存在することから、検討会は2024年2月から11回にわたって、女性活躍推進の方向性などについて検討を行い、このほど、報告書をとりまとめた。
なお、報告書では、月経、不妊治療、更年期などの女性特有の健康課題が女性の働き方に与える影響やカスタマーハラスメントなどが社会的関心を集めていることから、これらについての対応や対策の方向性も検討した。
<女性活躍推進法をめぐる現状>
「L字カーブ」の形状は維持されたまま
報告書はまず、女性活躍推進法をめぐる現状と同法の効果を整理した。
20年間の経年比較で女性の年齢階級別就業率をみると、M字型から台形型に移行しており、出産後の女性の継続就業率も高くなっている。一方、女性の正規雇用比率をみると、若い年代では率が高いがその後、低位に推移する、いわゆる「L字カーブ」の形状が維持されたままだと指摘した。
女性活躍推進法の主要部分が施行された2016年度と2023年度の女性活躍の状況に関する各指標を比較すると、「全体的に上向いていると言える」とし、「一定の効果があがっていると考えられる」と評価。ただ、男女間賃金差異の縮小など各種指標の上昇ペースは緩やかだと述べるとともに、これらの指標の達成水準は国際的にみても見劣りしているだけでなく、特に女性管理職比率については「政府目標の達成に関しても遅れ」が見られるなどと指摘した。
男女間賃金差異の情報公表は101人以上でも5割に到達
男女間賃金差異などの情報公表をめぐる状況については、2024年3月31日時点で、女性の活躍に関する情報の公表にあたって101人以上企業のうち50.8%の企業が女性活躍データベースを活用している(301人以上に限ると78.4%)と紹介。このほか、調査結果から、情報公表項目数が多いほど女性管理職比率が3年前と比較して高くなっている傾向がみられることなどを紹介した。
「えるぼし」は「くるみん」の半数程度の認定数
女性の活躍促進の取り組みが優良である事業所に認定される「えるぼし認定」「プラチナえるぼし認定」の状況については、それぞれの認定企業数は「右肩上がりで上昇しており、社会的な認知度が向上していることがうかがわれる」とする一方、えるぼし認定については、くるみん認定と比較すると「半数程度にとどまる」と指摘した。
<女性活躍推進法の今後の方向性>
女性活躍の施策の効果があらわれるまでには時間がかかる
こうした現状を踏まえ、報告書は、女性活躍推進法の今後の対応の方向性について、①女性活躍推進法の延長②中小企業における取り組み推進③えるぼし認定④情報公表⑤男女雇用機会均等法等の履行確保、性別役割分担意識の是正等に向けた取り組み⑥女性活躍と両立支援の一体的な取り組み――に分けて論じた。
女性活躍推進法の延長からみていくと、「例えば、採用した女性労働者に対する人材育成等の取組を通じて女性管理職が増加したり、賃金差異の原因を分析し、差異の解消のための取組による効果が実際に発揮されたりするまでには時間がかかるというように、女性活躍の施策の効果が現われるまでには、一定の期間が必要となるため、継続的に取り組んでいく必要がある」と強調。「女性活躍推進法は、未だその役割を終えたといえる状況にはなく、期限を延長した上で、引き続き企業における女性活躍の取組を継続すべきである」として、法律の延長を提言した。
延長する期間について報告書は、延長に際しても時限立法とすることが「適当である」とし、「一般的な企業におけるキャリア形成のあり方からすると、10年程度で役職が上がっていく傾向などが見られることを踏まえると、政策の進捗や効果を評価する期間としては同程度の期間が必要と考えられる」としながら、「10年間延長することが適当」だとした。
100人以下企業の努力義務は維持するものの、自主的取り組みを促す
中小企業における取り組みの推進に向けては、現在、一般事業主行動計画の策定は常用雇用労働者100人以下の企業については努力義務とされているが、事務処理を行う体制上の課題なども考慮し、「努力義務を課した上で、情報開示等を通じて自主的な取組を促進することが効果的と考えられる」とした。その際は、中小企業等の好事例を収集し発信していくことで、中小企業の取り組みへの手応えを実感してもらうことが重要だと強調した。
「えるぼし認定」については、女性管理職登用の実績など取り組みの成果があらわれるまでに一定の期間を要することが企業のハードルになっていることを指摘し、「認定企業に対するインセンティブの周知を行うことに加え、現行のえるぼし認定では評価できない企業の積極的な取組・実績を評価できるような仕組みを視野に、必要な見直しを検討するべきである」と提言した。
101人以上300人以下にも男女間賃金格差の公表を義務化
常用雇用労働者301人以上に義務づけられている男女間賃金差異の情報公表については、女性活躍に関する調査結果などから、詳細な分析を行った企業は、社内での意識統一等が図られるなどの一定の効果があったことを踏まえ、常用雇用労働者101人以上300人以下についても「公表を義務とすることが適当」だとした。
また、公表にあたっては、「男女間賃金差異の要因やそれに対応した取組は様々であることに留意する必要がある」として、「指標の大小それ自体のみに着目するのではなく、当該指標を時系列で見て、要因の分析を行うことが重要」だと付言。そのため、「公表に際して説明欄の活用を促進していくことが重要」だと提案した。
女性管理職比率を開示必須項目に
女性管理職の登用促進では、「男女間賃金差異の是正のみならず、女性のキャリア形成やダイバーシティ推進の観点からも、取組の加速化を図る必要がある」として、女性活躍推進法の情報公表項目のうち、現在、開示項目の選択肢の一つとなっている女性管理職比率について、「企業の実態を踏まえつつ、開示必須項目とすることが適当」だとした。
また、女性管理職比率の不適切な計上を防ぐため、各企業で指標を公表するにあたっては、厚生労働省が示している「管理職」の定義に沿うものであるか自己申告する欄を設け、説明欄で管理職に計上している役職呼称名を明記するといった取り組みを検討すべきだと提言した。
「女性活躍データベース」を「見える化」のプラットフォームに
このほか、情報が集約されると求職者等の利用者に対する利便性が高まることなどを理由に、情報公表義務がある企業に「女性活躍データベース」(厚生労働省作成のウェブページで登録企業の公表データを見ることができる)における情報公表を促し、「女性活躍の見える化」のプラットフォームとして位置づける方向で「具体的な制度設計を検討すべき」だと提起した。
男女雇用機会均等法等の履行確保と性別役割分担意識の是正などに向けた取り組みでは、企業と労働者がアンコンシャス・バイアスに向き合い対応するための啓発などをすべきだと提言。女性活躍と両立支援の一体的な取り組みについては、企業で取り組み内容を検討するにあたってはセットで考えることが望ましいとして、行動計画を一体的に策定している企業の取り組みの好事例の収集、積極的な周知をすすめた。
<女性特有の健康課題>
性差に応じた健康課題に取り組むことが重要
月経、不妊治療、更年期などの健康課題への対応では、報告書は、男女の性差に応じた健康支援について言及。「健康の確保は男女にとって重要であるが、性差の特徴に応じて健康課題に取り組むことは社会的便益につながり、性別は問わず、労働者個人の生活や仕事のパフォーマンスの向上につながるという視点が重要」だと強調した。なお、健康課題に対応する施策の検討にあたっては、労働者個人のプライバシー保護の観点に特に留意する必要があるとしている。
ヘルスリテラシーの重要性も強調。女性特有の健康課題については、「職場において女性が働きやすい環境を整備することや、女性自身が知識を得て生涯にわたり健康を確保するために、男性・女性ともに知っておくことが重要」だとし、そのうえで、症状の出方や期間などに個人差があることを理解する必要があると言及した。
また、一言でヘルスリテラシーと言っても、内容は多岐にわたり、特に中小企業等では職場内での周知を図ることは難しい場合もあることから、「国において重要なコンテンツを作成、周知することが望ましい」とした。さらに、2024年度中に開設予定の「女性の健康ナショナルセンター(仮称)」が有する専門的知識などを「働く女性の心とからだの応援サイト」の情報発信で活用するなど、連携していくことが重要だとした。
女性健康課題への取り組みの要素を事業主行動計画に盛り込む
このほか、企業の取り組みを加速化させるため、女性特有の健康課題への認識が低いなどの課題について、企業に対して集中的な取り組みを促す女性活躍推進法の枠組みの中で、検討していくことが適当だと述べ、女性特有の健康課題への取り組みの要素を、女性活躍推進法の事業主行動計画に盛り込むことを検討すべきだと主張。また、事業主行動計画策定指針に、健康支援やヘルスリテラシー向上の意義や、プライバシーへの配慮の必要性などを明記することも提案した。
ヘルスリテラシーの向上や休暇制度に取り組む企業が評価されるよう、えるぼし認定制度の見直しをすることもすすめた。
<職場におけるハラスメント対策>
職場におけるハラスメントは許されるものではないと定める
職場におけるハラスメント対策については、事業主の雇用管理上の措置義務が法律上定められている「セクシュアルハラスメント」「妊娠・出産等に関するハラスメント」「育児休業等に関するハラスメント」「パワーハラスメント」という4種類のハラスメントとは別に、「一般に職場のハラスメントは許されるものではないという趣旨を法律で明確にすること」を提言。
そのうえで、企業や労働者に広く理解を求め、対策を促していくことが非常に重要だとし、国が効果的な支援策に取り組む必要があると主張した。
企業横断的なカスタマーハラスメントの対策強化が必要
カスタマーハラスメント対策については、「労働者を守るという観点のみならず、個別企業における働きやすい環境を整備することにより、労働者の確保・定着に資するとともに、業種、業界のイメージアップ、さらには顧客等の利益につながるもの」という見解を示し、個々の企業だけではなく、企業横断的にカスタマーハラスメント対策への取り組みが進むよう対策を強化することが必要だと強調。
具体的に対策を進めていくうえでは、労働者保護の観点から事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当だとするとともに、措置義務のあり方として、従前の4種類のハラスメントにかかる措置義務の内容を参考としつつ、検討していくことが適切だと述べた。
カスタマーハラスメントの定義については、社会全体で幅広く受け入れられるものを検討していくことが適当だとし、3つの要素(①顧客、取引先、施設利用者その他の利害関係者が行うこと②社会通念上相当な範囲を超えた言動であること③労働者の就業環境が害されること)を示しながら、いずれの要素も満たすものとして検討すべきだとした。
就活等セクシュアルハラスメントは雇用管理の延長として措置を
就活等セクシュアルハラスメントについても言及し、就活生へのハラスメントが発生した場合は、企業が社会的信用を失うことから、職場における雇用管理の延長と捉え、事業主に義務づけられる雇用管理上の措置が講じられるようにしていくことが適当だとの見解を示した。
就職活動中の学生は、企業の労働者ではないため、配慮の措置は労働者に対するものと異なるものとし、具体的には、面談のルールをあらかじめ定めておくことや、相談に応じられる体制を整備して周知することなどを提案した。
(調査部)
2024年10月号 国内トピックスの記事一覧
- 「当事者の意思の尊重と参加」を大事にした「こころの健康」に向けた対策を ――厚生労働省が2024年版厚生労働白書を公表
- 国の重点対策に時間外労働の上限規制の遵守徹底や企業への再発防止指導などを盛り込む ――「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が閣議決定
- 仕事上のストレスで、割合が最も上昇したのは「顧客、取引先等からのクレーム」 ――厚生労働省「2023年労働安全衛生調査(実態調査)」結果
- 女性活躍推進法の10年間延長を提言 ――厚生労働省の「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」が報告書をまとめる
- 男性の育児休業取得者の割合が前年度から13ポイント上昇して3割台に ――厚生労働省が2023年度「雇用均等基本調査」結果を公表
- 若年層の87.7%が育児休業の取得を希望、男性だけでみても8割を超える ――厚生労働省「イクメンプロジェクト」が若年層の育児休業取得に関する意識を調査
- 多様な個人の労働参加の促進と経済成長のための労働生産性の向上を ――厚生労働省の雇用政策研究会が報告書をとりまとめ
- 昨年の労働争議の「総争議件数」は292件に増加 ――厚生労働省の2023年「労働争議統計調査」結果