国の重点対策に時間外労働の上限規制の遵守徹底や企業への再発防止指導などを盛り込む
 ――「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が閣議決定

国内トピックス

「過労死等の防止のための対策に関する大綱」の変更が8月2日、閣議決定された。新たな大綱は、国が取り組む重点対策に、時間外労働の上限規制の遵守徹底や、企業への過労死等の再発防止指導などの項目を追加した。調査・研究では、過労死等が多く発生したり、長時間労働等が指摘される業種に加え、働き方や就労環境、属性等に焦点を当てた調査を実施することを盛り込んだ。

10年の取り組み・成果を振り返り

大綱は、「過労死等防止対策推進法」(2014年法律第100号)に基づき、おおむね今後3年間における取り組みについて定めるもの。過労死等の防止のための対策を効果的に推進するため、①調査研究等②啓発③相談体制の整備等④民間団体の活動に対する支援――の4つの基本的な考え方と、それに対する国や地方公共団体、事業主、労働組合等が取り組む重点政策などを規定している。

大綱は2015年に策定されて以降、3年ごとに見直しが行われており、今回の見直しが3回目にあたる。2023年11月から、「過労死等防止対策推進協議会」(会長:中窪裕也・獨協大学法学部特任教授)で変更案について検討を行っていた。

大綱の見直しや法整備で過労死防止に一定の効果

新たな大綱でははじめに、過労死等防止対策の現状と課題を総括。これまでの大綱の見直しや、働き方改革関連法に関連する取り組みの推進等により、過労死等防止に向けた一定の効果がみられると指摘した。

一方、過労死等事案による労災請求や支給決定件数は増加傾向にあり、今までの長時間労働対策に加えて、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策、働き方の多様化によるフリーランス等の就労実態・健康確保などにも目を向ける必要があると言及。2025年には大綱策定から10年の節目を迎えることから、「この間の大綱に基づき実施してきた様々な指標の収集を含む調査研究や取組の成果を振り返り、それらを踏まえつつ、必要な統計の整備に努めることを含め、過労死等の実態をさらに明らかとする指標の検討や調査研究、各種取り組みを推進していくことが重要」だと述べた。

国が取り組む重点対策として、時間外上限規制の遵守徹底など

新たな大綱は、国が取り組む重点対策として、時間外労働の上限規制の遵守徹底や、企業への過労死等の再発防止指導、勤務間インターバル制度の導入促進などを盛り込んでいる。

時間外労働の上限規制の遵守徹底については、2024年4月から工作物の建設の事業、自動車運転の業務、医業に従事する医師等にも時間外労働の上限規制が適用されたことから、労働基準監督署において遵守徹底を図るとともに、商慣行・勤務環境等を踏まえた取り組みを推進するとしている。なお、商慣行・勤務環境等を踏まえた取り組みについては、①トラック運送業②教職員③医療従事者④情報通信業⑤建設業――の5業種について内容を更新した。

トラック運送業から具体的にみていくと、物流効率化や賃上げ原資確保のための適正な運賃導入を進める「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」が2024年4月に成立したことを受け、同法の施行に向けて政省令等の整備を進めることなどを盛り込んだ。

教職員では、2024年5月にとりまとめられた「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)」での提言を踏まえ、学校における働き方改革のさらなる加速化や教師の処遇改善、学校の指導・運営体制の充実、教師の育成支援を一体的に進めることを提示。また、各教育委員会における学校の業務の適正化を図る取り組みの推進や、勤務時間管理の徹底なども追加した。

医療従事者では、2023年10月に改定された「看護師等の確保に関する基本的な指針」などを踏まえて、看護師等に対するハラスメントの防止や夜勤負担の軽減に取り組み、働きやすい職場作りを進めることを追加している。

情報通信業では、新たに、厚生労働省委託事業の「IT業界の働き方・休み方の推進」に関するサイトで、対応策や事例集等を周知し、職場環境の改善の促進を図ることを掲げた。

最後に、建設業では、2024年に成立し、労働者の処遇改善に向けた賃金原資の確保と下請け業者までの行き渡り、資材価格転嫁の円滑化による労務費へのしわ寄せ防止、働き方改革や現場の生産性向上を図るための措置が設けられた「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」に基づく取り組みを推進することを明記した。

一定期間に複数発生なら労働局長が改善計画策定を求める

企業への過労死等の再発防止指導では、過労死等を発生させた事業場に対して、従来の監督指導・個別指導とともに、企業本社における全社的な再発防止対策の策定を求める指導を実施することを明記。また、一定期間内に複数の過労死等を発生させた企業に対して、企業の本社を管轄する都道府県労働局長から「過労死等の防止に向けた改善計画」の策定を求め、同計画に基づく取り組みを企業全体に定着させるための助言・指導(過労死等防止計画指導)を実施すると盛り込んだ。

勤務間インターバル制度の導入促進では、特に時間外労働が長い企業に対して、長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進とともに、勤務間インターバル制度の趣旨を説明し導入を促すほか、産業医等に対する勤務間インターバル制度の内容・効果の周知を図るとした。

事業場規模に着目した対策の定着を支援するツール開発も

業務やハラスメントに着目した国による調査・研究における内容の充実や、相談体制の整備もポイントとなっている。

調査・研究ではまず、自動車運転従事者や教職員などが対象となっている、過労死等が多く発生している、または長時間労働等の実態があるとの指摘がある職種・業種を指す「重点業種等」に、芸術・芸能分野を追加。そのうえで、重点業種等に加え、フリーランスや高年齢労働者など、働き方や就労環境、属性等に焦点を当てた調査を行うことや、カスタマーハラスメントによる心理的負荷に関する調査を実施することを掲げた。

また、過労死等事案の分析から得られる成果や国内外の最新知見に基づき、関係者と協働して、事業場の規模にも着目した過労死等防止対策の定着を支援するツールの開発と効果検証等を行うとしている。

そのほか、調査研究の成果や過労死等に関する国内外の最新情報については、専用ポータルサイト「健康な働き方に向けて」を通じて公表し、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」でも、「健康な働き方に向けて」を通じて公表された情報を掲載して発信することを明記。

相談体制については、「こころの耳」におけるメンタルヘルス等の相談窓口の対象者を2023年度から労災保険の特別加入者に拡大したことから、労災保険の特別加入者を含めて相談対応を行うことを追加した。

研修等を通じて過労死等の未然防止に努める

国以外も含めた関係者による取り組みについても内容を更新した。

事業主等については、会員企業等に対し過労死等防止のための必要な支援・情報提供に努めることや、管理職等の上司や若年労働者自身に対する労働関係法令に関する研修等を通じて、過労死等やハラスメントの未然防止に努めることを盛り込んでいる。

労働組合等については、組合員への労働関係法令の周知・啓発や、労働関係法令が適切に運用されているかの定期的な確認などを追加した。

また、国民についても、発注者や消費者の立場として、働く人の長時間労働やメンタルヘルス不調等による過労死等を防止することについて理解と協力に努めることを明記した。

週60時間以上の雇用者割合が高い業種には重点的に取り組み

新たな大綱は、前回定めた数値目標の一部を更新(図表)。労働時間については、旧大綱で定めた「週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」に加え、「特に、重点業種等のうち週労働時間60時間以上の雇用者の割合が高い」業種について、重点的に取り組みを推進するとした。あわせて、「2025年まで」としていた目標達成までの期間も、「2028年まで」に変更している。

図表:新旧大綱の数値目標
画像:図表
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(公表資料から編集部で作成)

(調査部)

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