基調講演 労働組織と労働者の脆弱性──OECD成人スキル調査から

労働の質の重要性

私からは、労働者の脆弱性について報告します。現在、労働の質ということが、ますます重視される傾向にあります。フランスでは2013年に産業間共通の協定が署名され、欧州レベルにおいても、この労働の質といったものが非常に重視されています。人口が高齢化している状況のなか、労働の場におけるイノベーションを考えるうえでも重要です。国際的には、OECDが「労働の質」、「well-being」、「生産性向上」いう三つのテーマの関連プロジェクトを立ち上げています。

労働の質の議論のなかで、私は雇用関係の質と業務関係の質の問題を分けて考えるべきだと思っています。雇用関係は労使間で交渉され、契約で決まり、法で規制されます。大半の場合は団体交渉によって決まる賃金、労働時間、雇用保障といったようなもので、労働市場のメカニズムでつくられると言えます。他方、業務関係は労働契約では想定されていない、もしくは労働契約が不完全だったときに問題が起きます。労働契約が結ばれていたとしても、雇用主と従業員の間で決められていない部分の調整が必要であり、この二つを区別することが重要です。

労働条件による脆弱性

次に、雇用と業務のなかで生じる二つの種類の脆弱性について述べたいと思います。図1は、労働条件による脆弱性をEU加盟15カ国で比較したものです。リスクの要因は、単純な労働であること、非典型で不規則な労働時間、労働環境、業務密度の濃さ、会社風土、雰囲気の悪さ(職場で差別が感じられるといったこと等を含む)等です。例えば、フランスとデンマークの2カ国を比較すると、フランスはほぼ0.5、つまり、50%の労働者が労働条件による脆弱性にさらされています。対して、デンマークはこれよりかなり低く、フランスより労働条件による脆弱性にさらされている労働者が少なくなっています。

働き方のタイプによる脆弱性

次に働き方のタイプによる脆弱性についてです。図2は国別に働き方のタイプを比較したものです。OECD加盟国で国際成人力調査(PIAAC)に参加した国をリストアップしてあります。これを見ると、日本とフランスはかなり近い位置にあり、両国ともテイラーイズムの割合が多く、自立タイプも結構多いことがわかります。相違点としては、日本の方が、強制学習タイプが多くなっています。

働き方のタイプと脆弱性の関係を見ると、任意か強制かにかかわらず学習部分が大きい働き方をしている人たちの方が脆弱性が低いという結果が出ています。特に任意学習タイプの脆弱性が低く、自分の仕事を自分で計画したり、時間の使い方も自分で計画できるため、そのようなケースが最も脆弱性が低いという結論になっています。つまり、働き方は脆弱性に非常に大きい影響を与え得ることがわかります。これは、政府が政策を実施する場合に、働き方のいかんを考慮する必要があることを示唆しています。働き方が脆弱性におよぼす影響を政策によって調整することが可能だからです。

以上のことから、労働の質が非常に重要なことは明白です。労働の質は、働く人々の健康、幸福、またアクティブエイジングにとって重要な指標となり、労働市場のパフォーマンスや創造性、革新性、生産性に影響をおよぼします。労働の質に関する国際比較を見ると、官民双方でまだ対策を行う余地が残されているようです。官も民も、労働の質に関する行動や政策はまだ少なく、政府が政策を策定する、もしくは意思決定するために必要なツールがまだ完全ではない状態と言えます。今後、労働の質を測定するツール、またそれをモニタリングするツールが開発され、この分野の研究が進展することが期待されます。

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