特別講演 日仏関係における働き方改革の重要性

イノベーションで働き方が変わる

日本で行われている働き方改革の議論は、フランスにとっても重要なテーマであると同時に、非常に長い歴史を持つ日仏関係においてとても重要なテーマです。

従来、日本人がフランスに対して抱くイメージは、食、文化、または航空産業などのイメージが強かったのではないでしょうか。しかし最近では、イノベーションが進んでいる国としてのイメージが醸成されつつあり、スタートアップに関するフランスの取り組みに関心を持っている人も多くなっています。フランスには40ほどのスタートアップのインキュベーターがあり、世界的な出会いの場としても機能しています。日本企業がフランスのスタートアップやインキュベーターとコンタクトを取り始めており、これが日本における労働市場のあり方を変えていく契機の一つとなるのではないかと考えています。スタートアップというと、働き方がフレキシブルであることが特徴の一つで、それが労働市場にも影響をおよぼしてくるのではないでしょうか。AIやIoT、航空産業などの面でも交流は非常に盛んです。イノベーションがどのように働き方を変えることができるか、今後、日仏の協力が進んでいくことが期待されます。

現在、フランスで進められている"tech for good"というイニシアチブがあります。日本でも高齢化対策として技術を活用しようという動きがあると思いますが、それとは少し違い、今の働き方のなかにもっとイノベーションを取り込んでいこうというイニシアチブです。イノベーションは人の役に立つべきものであり、労働者の働き方にも良い影響を与え得るもので、ワーク・ライフ・バランスを改善するうえでも役立つ可能性があるものだ、というコンセプトです。"tech for good"はフランスが国際的に広めようとしているコンセプトですが、まだ十分には知られてはいません。

労働時間と生産性

フランスの生産性はOECD諸国の平均を大きく上回っており、日本よりもずっと高い水準ですが、近年は多少横ばいになってきています。そして、フランスの年間総労働時間はEUのなかでも非常に短く、生産性は比較的高いのですが、それが所得の向上には必ずしも結び付いていない状況にあります。1人当たりの所得を見るとフランスは比較的低く、十分に働いていないと考えることもできます。フランスも日本も、現在、成長率は鈍化しています。これは視点を変えれば、日仏の潜在成長率は長期的には上がる可能性があると言えます。潜在成長率を十分に発揮するためにも、働き方の改革が不可欠になってきます。

フランスの労働市場改革と日本の働き方改革

フランスは失業率が高く、大きな課題となっています。いま一連の改革が進行中であり、労働市場改革が非常に重要な政策課題となっています。フランスの社会的モデルを抜本的に転換させなければならないという課題です。この改革の柱の一つは労働法の抜本的な改正であり、企業にとってより柔軟性を高める方向での改革です。例えば、解雇手続きを簡素化するといったことで、これは、労使交渉のあり方にも大きく影響します。特に中小企業の労使交渉に影響を与え得るという点で、フランス社会にとってインパクトがある改革になります。マクロン大統領は、企業のあり方、働き方に全く新しい社会モデルを導入するこの改革を、新しい哲学であると言っています。長期的に見れば、経済成長につながる改革であり、GDPの成長率を1%程度押し上げることが期待されています。

日本において働き方改革は重要な政策課題となっています。今の日本のように、フランスもいずれ高齢化が進んでいきます。フランスが、日本から学べることは多いと思います。このように、日仏両国の改革について、様々な交流・協力が可能ではないでしょうか。