パネルディスカッション

パネリスト
深町 珠由室山 晴美、菰田 孝行
指定討論者
本間 啓二 日本体育大学教授
モデレーター
安達 智子 大阪教育大学准教授
イベント名
JILPT・日本キャリア教育学会 共催シンポジウム「ツールを用いた就職支援とキャリア教育」(2018年12月7日)

安達 本日、モデレーターをさせていただきます大阪教育大学の安達智子です。どうぞよろしくお願いいたします。まず、日本体育大学の本間啓二先生から室山さんの問題提起と3人のツールに関する話題提供を踏まえ、指定討論をしていただきたいと思います。

指定討論/本間 啓二 日本体育大学教授

本間 では、私から三つの話題(GATB、職業レディネス・テスト、OHBYカード)について、質問・意見を投げかけたいと思います。

GATBに求められる理解を深める研修

まず、深町さんの発表に対してです。問題提起のなかでもあったように、検査結果がそのまま十分に活用されているのかという話がありました。学校の調査などでは、業者に回答用紙を渡して判定を送ってもらっていることがあるとのことでした。私がよく聞くのは、検査を行うと、その検査用紙が業者に渡され、1、2カ月経って判定用紙が学校に届き、期末テストの結果と一緒に生徒に配られ、「読んでおきなさい」というような形で終わってしまうケースです。このような実態のなかでは、やはり学校の先生方に理解を深めるための研修が必要ではないかと考えています。JILPTが教育委員会などと連携を取るような形で、先生に対する研修ができないものか、質問したいと思います。

また、個別実施のなかで、どこまでクライアントの理解につなげられているのだろうかという点を指摘したいと思います。GATBの場合、プロフィールはできても、それが自己理解につながっていかなければならない。職業選択のために使うものではないということは発表のなかでも触れられましたが、個人が結果を理解して、その後の選択行動のなかにいかに反映していくのかが大事であり、そのためにどのような研修、理解を深めるようなことを実施しているのか質問したいと思います。

進学レディネス・テストの開発を

室山さんに対しては、職業レディネス・テストについてです。これは職業の選択だけでなく、進学選択にも活用できるということでしたが、進学校における進学レディネスという形で、学部や学科、コースをRIASECで整理できないものでしょうか。実際にそれを行っている先生方もいると聞きますが、そのための資料などをJILPTが開発できないのか、提案したいと思います。

また、結果を面談等で使う時、特に学校ではできれば個別に生徒に返して、面談を通して指導していくことが理想ですが、面談での返し方の研修なども行うことができないものか、お聞きしたいと思います。

OHBYカードを普及させる広報を

菰田さんに対しては、OHBYカードの可能性として、使い方のバリエーションをもう少し広げられないかどうか、伺いたいと思います。カードのなかには様々な情報がたくさん含まれていますので、いろいろな使い方ができるのではないかと考えています。

もう一つ、OHBYカードはあまり知られていないのではないかと思っていまして、残念ながら、カードの基になったOHBY自身が広く普及することなく廃盤になってしまったものですから、研修等で普及させる広報ができないかを質問したいと思います。

研修にフィードバックできるようにすることを盛り込む

安達 ありがとうございます。それでは、深町さんからお願いします。

深町 結果を十分に活用できているのかという点について、活用の仕方を理解してもらうための先生方への研修が今後必要になってくるというご指摘は、まさにおっしゃるとおりだと思います。

キャリア教育が浸透してきたなかで、私たちは学校の先生方にどうやって使っていただくかというノウハウ、情報を持っており、それらを伝えられる立場である一方で、学校の先生側はむしろそういった情報を欲しいと思っておられると思います。このシンポジウムもそうした機会の一つだと思いますが、今後も、可能な範囲で上手な活用に結びつけられるようなアウトプットの機会を増やしていければと思っています。

もう一つの質問ですが、実施する側が理解不十分な状態で実施すると、結果として受検者の理解度も下がることは十分あり得ると思います。特に、キャリア支援に関する適性検査のツールでは、点数以外にも検査の背景などを細かく理解していく必要があります。例えばGATBでは、職業がどのような要素から成り立っていて、どの領域の作業が得意なのか不得意なのかという点も含め、実施者がきちんとフィードバックできるよう、研修のなかで今後取り上げていく必要があると思います。そうすれば、実施者側の理解度を上げることも可能になると思います。

活用事例を手引きに入れてノウハウを提供

安達 続いて室山さんお願いいたします。

室山 一つ目のご質問は、進学率の高い学校の進学指導において、職業レディネス・テストを具体的に活用することができないかということでした。高校受験の学科選択、高校生に関しては大学の学部や学科を選択するときに、テストで得られるRIASECの特徴を指導に使えないかということなのかなと思います。

今回の改訂作業に当たり、私たちは集められた多くのデータを使って、高校の専門学科の特徴をRIASECとの関連で分析してみました。そのなかでわかったのは、例えば工業高校の生徒は、RIASECで言うR領域、これは現実的領域と言いますが、物をつくったり、運転操作、機械を扱うなどの興味・関心が非常に高い。商業高校の生徒の場合は、慣習的領域、つまりC領域ですが、定型的にきちんと正確に処理していくような領域への関心が高いという結果が得られ、専門学科とRIASECの特徴には、ある程度納得できる関連が見られました。

このような結果を見ると、職業興味の特徴は進学先を選ぶときのヒントになるとは思います。ただ、受験は興味だけではうまくいかない部分もあると思いますので、コース選択の際に結果を直接的に結びつけることについては、少し難しいのではないかという印象を持っています。

二つ目のご質問についてですが、JILPTでは厚生労働省の職員に対する研修業務があり、幾つかのコースで適性検査やガイダンスツールの使い方に関する研修を行っています。ただ、学校の先生方や一般の職業相談に携わる方々に対する検査やツールの直接的な研修は、現在のところ実施していません。これまでには、JILPT主催の労働政策フォーラムの後にツール講習会を企画し、一般の参加者の方にツールの利用と解釈を体験していただくような機会を設けたりしたこともありますが、一般の方を対象とした研修の企画はなかなか難しいので、そのかわり研究の一環として検査やツールの活用事例を集め、手引きのなかに活用事例を入れていくなどの形でノウハウを提供していきたいと考えています。

キャリアコンサルタントの更新研修等で広げる工夫を

安達 では、菰田さんお願いいたします。

菰田 発表のなかで私が説明したのは標準手続きであり、利用者がニーズに対応して独自に工夫できるような開発コンセプトとつくり方になっています。OHBYカードは一応、若年層が対象で、OHBYを開発する際の調査では中学生、高校生の職業認知から始めていますが、実はいろいろな方に使っていただけるツールです。

OHBYカードがあまり知られていないのではないかという指摘については、私も薄々感じているところです。使い方の提案なども含め、例えばキャリアコンサルタントの更新研修などの機会で、広げていける工夫ができればいいかなと思っています。

各検査・ツールを実施するタイミング・状況

安達 ありがとうございました。それでは、私からも幾つか論点を挙げたいと思います。一つは、実施のタイミングについてです。それぞれの検査の対象や目的、どんなことがわかるのかなどについて説明していただいたのですが、もう少し具体的に、「こんなタイミングで実施したらいい」とか「こういった状況で使うとよい」といったことについて教えてください。まずは室山さんから、お答えください。

室山 レディネス・テストは、中学生、高校生を主な対象者としており、高学年よりは1年生の後半や2年生の前半くらいまでの早い時期にやっていただいて、その結果を見ていろいろなことを考えていく時間を持ちたいという面がありますので、進路選択のぎりぎりよりは早目に実施することをお勧めします。

この間、見学に行った高校では、キャリア教育の取り組みの一環として職業レディネス・テストを実施していました。夏休みの職業調べの課題を出す前とか、職場体験学習の前などにこういった検査を実施して、自分の職業の興味がどんな方向にあるのかという理解を事前に深めるのがいいと思います。

菰田 繰り返しになりますが、もともとOHBYカードの開発コンセプトが、多様なキャリアニーズに対応することです。なので、いつでも大丈夫ではないかというのが、私のOHBYカードに対する意見です。OHBYカードが質的なツールであるということが基本的なポイントですので、量的なツールがいくつかあるなか、必要に応じて実施のタイミングがはかれることが特徴だと思っています。

テスト・バッテリーの可能性

安達 量的検査とのコンビネーションの話が出ましたので、ぜひ聞いておきたいことがあります。それは、テスト・バッテリーについてです。人を理解するときに、一つの指標を用いるのではなく、多側面的にバッテリーを組み合わせることで個人を理解するのがテスト・バッテリーなのですが、GATB、職業レディネス・テスト、OHBYカードのコンビネーションでも構いませんし、それ以外でも結構ですので、「この検査は、こういった検査や指標と組み合わせると、よりよく個人理解が進む」などといったことはあるのでしょうか。

深町 三つのツールはそれぞれ持ち味が異なりますが、組み合わせて同じ日に実施するのは、現実的には無理があると思います。ただし、もし複数のツールや検査を受けてみたいという要望があれば、それぞれのツールは領域的には重ならないので、テスト・バッテリーとして理論上は問題ないと思います。

ただ、GATBの場合は、制限時間のなかで多く問題を解くという、かなり負荷の高い検査になりますので、例えば職業能力に関しては、キャリア・インサイトの能力評価で代替するなどの方法もあると思います。

少ない方がいい負荷の高いテスト

室山 深町さんの意見に賛成ですが、個人的にはテストは少ない方がいいと思っています。テストを受けてもらうことはやはり受検者の負担になるので、実際には現場で同じ人に三つ実施することはないと思います。

深町 負荷が高いだけでなく、それぞれ集中力をもって取り組む必要がありますので、やはり現場の状況を見ながら判断してもらうのが一番良いと思います。

安達 例えば心理の知能検査では、心理的負荷が大きいときには回数を分けて実施することも可能だったと思います。分けて実施することは考えられますか。

室山 レディネス・テストの場合は、基本的に1回で実施していただくように作られています。

菰田 OHBYカードは48枚ありますので、やってみて、どうも受検者の気分が乗ってこないなどの場合は、カードを分けただけで終わらせたり、セッションを途中で切り上げることも可能かと思います。OHBYカードは割と自由度が高いと思います。

深町 GATBに関しては、手続きが厳密に標準化されていますので、原則として実施1回で全て最後までやりきるべきです。ただし、紙筆検査の途中で集中力がなくなりそうな人がいた場合には、途中のどこか大問単位をやりきった段階でストップし、残りの部分は少し休憩をはさんでからやることは実際には可能だと思います。

職業を知ることに使えるVRTカード

安達 もう一つお尋ねしたいのが、潜在的な活用機会というものです。標準的な使い方のほかに、こんな使い方をするとこんなことがわかるなどということはありますか。

本間 今日の発表には含まれなかったのですが、レディネス・テストから作られたVRTカードという、職業の解説文の裏面に職業名が書いてあるカードがあります。レディネス・テストと同じような使い方をするものですが、小学校などのキャリア教育に使うことが可能です。文章で紹介文を読み、その仕事がどの職業なのかを当てるといった「職業当てクイズ」の使い方です。また、RIASECの分類を使って、文章を見てRなら同じRの仕事を選ぶ「職業神経衰弱」をすることもできます。こうした使い方をすると、テストという使い方ではなく、職業情報のガイダンス・ツールとして職業を知ることに使えます。

VRTもGATBも、職業を探す検査だと誤解をされてしまうことが、よくあります。もともと、自己理解を深める検査ですから、家業を継ぐ場合や職業が決まっているような人でも、自己理解を深めるために受検してよい訳です。それは職業ではなく、その職務やタスクとの相性を見ることができるからです。勤めた時には、苦手だとか、これはちょっと好きじゃないなというような仕事でも、やはりやらなければいけません。そうなった時に、相性などについて自分をわかっていれば、うまくできない分野の仕事が与えられた場合にも、仕方がないので人一倍頑張ろうとします。ですが、自分がわかっていないと、一生懸命やるのにうまくできないので、面白くないし、不安になって不適応を起こします。ですから、レディネス・テストを大学生にやっても職業とのマッチングではあまり役に立たないかもしれませんが、タスクに置きかえて考えていくと、自分の得意な働き方や働く分野の職業ではなく、職務などの具体的な働き方に近づいていくことができると思います。

GATBの結果もVRTの結果も、ナラティブ・アプローチとして使うことができます。検査では、どうしても数量的な結果だけを使おうとします。しかし、仮にRが高いとなった時に、自分の過去を振り返って、Rが高いことが実証できるような経験などを探って、今までの人生でどういうものが好きだったか、どういうものが得意だったのかということを振り返って自己理解を深めていく使い方ができるわけです。

実施者に望ましくない結果の伝え方

安達 では最後に、少しネガティブなことについてもお伺いしたいと思います。実施者から見て、あまり望ましくない結果が出ることもあろうかと思います。そういった時に、本人にどう伝えていくのか。どういうふうに伝えるとうまく活用していけるのかということについて伺いたいと思います。深町さんからお願いします。

深町 GATBは様々な領域に関する能力検査なので、全領域にわたって高い結果が出ることはほとんどないだろうと思います。一部の領域だけが高く、他が低いという結果が出るのが普通だと思います。よく質問を受けるのですが、フィードバックが難しいのは全体的に低くなったケースです。その場合、なぜそのような検査結果に至ったのかというプロセスや実施状況を、受検者側の立場に立って、冷静に検証していただきたいと思います。

プロセスの振り返りと回答状況の確認を

集団で検査を実施する場合は個人の細かい動きまで見られないかもしれませんが、できれば、その受検者がどのような様子で受検していたか、また、回答用紙にどう回答していたかについてきちんと確認することが必要です。なかには、とても丁寧な字で回答したために、スピードが遅くなる場合もあります。GATBでは、ゆっくり丁寧に書かなければいけないという指示はありませんので、これはある意味、実施者側のミスに当たるわけです。

本人が一生懸命やったのに低い結果になってしまった場合ですが、その時もぜひ回答状況を確認してください。例えば、問題を一つ飛ばしにやってしまうとか、あるページだけ抜けてしまうとか、大きなミスがあったかもしれないからです。そういう場合は、注意力、集中力、指示を理解する力などに問題があるのかもしれません。そういった面も含めて丁寧にフィードバックすることで、自己理解を深めてもらうことができます。

事前に説明して了解を得る

室山 レディネス・テストではないのですが、キャリア・インサイトというコンピューターを使ったキャリア・ガイダンスシステムを開発していたときに、結果説明に関して問題となる話を聞きました。キャリア・インサイトでは、適性に合致した職業リストが表示されるのですが、そのリストが、利用者の経歴ではとても就くのが難しく、現実には就職できないような職業ばかりになってしまった。そのような結果が示された時、相談担当者が利用者に対して「こんな職業は無理ですよね」とか「ちょっと結果がおかしいので、あまり当てにしないでください」というような意味のことを言ってしまった。このようなことを言われれば、検査を受けた方は「なぜそんな当てにならないものを、私に受けさせたのですか」となってしまいます。

相談担当者が結果を返すときに、検査そのものを否定的な言葉で伝えてしまうと、利用者が認識する結果そのものの信頼性が崩れます。「結果として示される職業リストはこういう考え方で作成されています」ということをあらかじめ説明し、了解を得たうえでツールを使ってもらえば、利用後にどのような職業リストが得られたとしても「これは違うんだ」というようなことにはならないのではないかと思います。

本間 テストをやるときには、やはり説明と了解が必要です。受検者がやりたいという気持ちにならないのに実施してしまうと、結果がひずんでしまう。レディネス・テストも、自分で集計すると、内容や構造が理解できる。ですから、できればコンピューターの判定ではなく、自分で集計をしていく作業を通して、テストそのものの理解を深めて欲しい。

結果がとても低く出た場合ですが、GATBでは平均が100で、50に届かない場合もたまにあります。そういう場合は、検査がちゃんとできているかどうかを確認する必要があります。一つひとつの問題用紙を見て、どこで間違えたのか、どこを飛ばしたのかを確認する。そのうえで面談を進めていくと、その人の弱点がわかるようになります。

安達 最近、コンピューターを活用した検査も増えてきましたが、フェース・トゥ・フェースで行うからこそわかることがある。特に望ましくない結果、あるいは困難なケースなどの場合は、なるべくフェース・トゥ・フェースで行う方が望ましいのかもしれません。今日はJILPTで開発をしているツールを中心に深掘りした議論をして、大変刺激を受けた機会になりました。どうもありがとうございました。